慶應義塾大学

2016 増田塾
入試解答速報
慶應義塾大学(2/13) 経済学部
― 慶應義塾大学 ―
2 月 13 日
経済学部
小論文
解 答
【解答例】
【設問 A】
リベラルな自由とは個人がそれぞれの価値観や目的を自ら選ぶ能力にあり、それにおいて
国家は国民に中立的な権利の枠組みを保証するのみに留まる。一方で共和主義的政治理論に
おける自由とは自己統治の分かち合いに基づく。このような政治参加は個人的目的の追求と
して行われるため、その意味ではリベラルな自由と共通する。だがこの自己統治には国民全
体に一定の市民道徳、すなわち共通善が必要であり、その獲得には全体への関心や帰属意識、
またコミュニティとの道徳的なつながりなどに基づく連帯感や市民参加の感覚が不可欠と
なる。そのため共和主義的な自由は国民に対し政治が主導的な役割を担うことを要求するも
のとなる。(291 字)
【設問 B】
次世代のためのコストは自由とは矛盾しない。まずコストを忌避することには利己的な、
いわゆるリベラルな自由の理解が前提にある。
対して課題文では経済政策の議論は共和主義的な、自由に基づく自己統治に必要な市民道
徳という論点も含むべきだとされている。
道徳心から生まれるのは社会全体の相互扶助という意識であり、これはあらゆる世代の経
済活動を相互に補佐することでもある。この意識が根付いた社会が払う次世代へのコストは
帰属するコミュニティ全体にとっての利益創出へと繋がり、それは当然コストを払った側に
も還元される。つまりコストは一種の設備投資と呼べるものであり、それは自由な経済活動
とも矛盾せず成立するのではないか。(300 字)
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解 説
【設問 A】
今年度は「公共哲学(共和主義/リベラル)」が経済政策の在り方とどのように関連してい
るかがテーマ。設問 A は例年通り課題文の要約問題。さらに「自由」という概念を二つの公
共哲学(政治思想)から対比的に説明する、という「対比」を意識した要約が求められるのも
典型的なもの。今年度は設問要求を掴むこと自体はさほど難しくはなかった。
内容面では対比を意識するのはもちろんだが、ここで課題文 2 段落冒頭にある二つの公
共哲学の「共通点」には注意したい。どちらの公共哲学でも「個人的価値観・目的の自由意
思による選択・追求」は重視されているため、この部分を「どちらか一方にしかないもの」
としてしまうと評価が下がる。これらを踏まえ、課題文を参考にしながら
「リベラルな自由」
・個人がそれぞれの価値観や目的を自ら選ぶ能力にある
→国家は国民に中立的な権利の枠組みを保証する
「共和主義的な自由」
・自己統治の分かち合いに基づく
→自己統治には国民全体に一定の市民道徳、すなわち共通善が必要
→共通善の獲得には連帯感や市民参加の感覚が不可欠
→国家(政治)が国民に対し主導的な役割を担うことを要求する
以上の要素がピックアップできれば充分な解答となる。
※傍線部は課題文に直接記されてはいないが、経済学部では時折「課題文から導き出せる妥
当な帰結」を追加するよう求めてくる場合がある。その際はある程度解答者独自の表現も必
要となるので注意。
【設問 B】
自論展開は「賛成/反対」で論じていくのが基本パターン。今回で言うと「次世代のため
にコストを払うことは自由と矛盾しないか」という課題に対して「賛成/反対」どちらかの
立場を表明していくことになる。その上でまず「賛成/反対どちらの立場で論じていくべき
か」を考えるのが戦略的な論述の第一歩。設問に「課題文の考え方を参考にして」とあるが、
これはもちろん「課題文に賛同し、意見内容を参考にする」という意味。しかし「課題文中
の問題点を指摘し、反論する」という解釈も可能であり、そのように捉えても構わない。そ
して重要なのは課題文に賛同・反論することと、本来の設問要求「次世代のためにコストを
払うことは自由と矛盾しないか」への意見をしっかり紐付けること。ここで課題文において
「自由」の意味は「共和主義の自由/リベラルの自由」の二種類存在する点に注目したい。
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リベラルの自由は個人の利益創出を最優先に捉えるため、そのような自由の理解では次世代
(他者)のためにかかるコストは敬遠しがちになる。一方で共和主義の自由は市民道徳(共通
善)に基づくものであるため、次世代のコストは社会全体の利益に繋がり、歓迎されるもの
となる。これらをまとめると、意見の方向性によってどのように議論を展開していけばよい
かが見えてくる。例えば「リベラルの自由」を支持したい場合はまず課題文の意見内容に対
し反論し、そこから「次世代のためにコストを払うことは自由と矛盾しないか」については
「矛盾する」と続ければ良い。また「共和主義の自由」を支持する場合は課題文に賛同し、
そこから「コストと自由は矛盾しない」とまとめれば良い。
短時間で評価の上がる解答を作成するには、何より「充分な要約・設問の観察」を心掛け
ること。充分な要約からは意見論述の材料が確保できる。設問から「何を答えてほしいのか」
を掴めば論の展開が見えてくる。小論文は「意見の独自性」をアピールすることにどうして
も意識が向きがちだが、無理なく安定して評価を得る解答を作るには「充分な要約・設問の
観察」を最優先にして問題に取り組んでいくと良い。
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