Market Flash 押し付けすぎた通貨高の痛み 2016年2月19日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 【海外経済指標他】~2月ISM:好転は期待しにくい~ ・2月フィラデルフィア連銀製造業景況指数は▲2.8と市場予想に概ね一致して1月(▲3.5)から僅かに改 善。ただし、ISM換算では45.9と約3年半ぶりの低水準に落ち込んでおり内容は悪い。出荷(+9.6→+ 2.5)、新規受注(▲1.4→▲5.3)、雇用(▲1.9→▲5.0)という重要項目が軒並み悪化。ISMベースの ヘッドライン構成項目以外では週平均労働時間(▲2.2→▲12.9)、受注残(▲8.8→▲12.7)が弱く、6 ヶ月先の期待項目も業況、雇用、設備投資が揃って悪化した。NY連銀指数と当指数をISM換算したう えで合成した指数は46.6と1月から改善したものの、このデータからの回帰分析で得られた数値は48.2と 1月から横ばい。ISMの改善は期待しにくい。 ・新規失業保険申請件数は26.2万件と前週から0.7万件減少。4週移動平均は27.3万件と10-12月平均の水準 に戻った。12月までの暖冬など例年と異なる季節パターンが影響している可能性はあるが、心強いデータ だ。企業収益の落ち込みにもかかわらず、労働市場は予想外に底堅さを維持している。 ・1月CB景気先行指数は前月比▲0.2%と過去6ヶ月で3度目のマイナス。6ヶ月前比年率では+0.7%ま でモメンタムが鈍化しており、昨今のリセッション懸念の裏付けデータとなっている。 40 フィラデルフィア連銀指数 フィリー指数 30 20 70 60 5 0 10 0 50 -10 -30 CB景気先行指数(6ヶ月前比年率) 10 ISM(右) -20 (%) 15 -5 -10 -15 40 フィリー指数 (ISM換算、右) -20 30 -30 -40 07 08 09 10 11 12 13 (備考)Thomson Reutersにより作成 14 15 16 -25 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 12 13 14 15 16 【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】 ・前日の米国株は反落。NYダウは3営業日で800㌦近く上昇した反動で利益確定売り優勢。米指標の予想比 上振れも追い風となった。欧州株も同様に利益確定売りが優勢。WTI原油は30.77㌦(+0.11㌦)で引け。 イランの増産凍結報道が好感された一方、米原油在庫の積み上がりが嫌気された。 ・前日のG10 通貨はJPYの強さが目立った一方、NOK、CAD、AUDなど資源国通貨が軟調。原油価格の上昇一服 を受けて資源国通貨に売りが膨らんだ一方、低金利通貨に買い戻しが入った。USD/JPYは113前半、EUR/USD は1.11付近までUSD売りが進んだ。 ・前日の米10年金利は1.740%(▲7.9bp)で引け。アジア時間は動意に乏しい展開となっていたが、米原油 在庫が急増すると米債は買い優勢に。欧州債市場は総じて堅調。独10年金利が0.218%(▲5.1bp)で引け、 イタリア(1.554%、▲4.8bp)、スペイン(1.702%、▲3.5bp)、ポルトガル(3.403%、▲7.3bp)も金 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 利低下。GIPS金利の対独スプレッドはタイトニング。 【国内株式市場・経済指標・その他】 ・日本株は米株安に追随して安寄り後、USD/JPY下落を受けて下落幅拡大。 ・昨日発表の1月中国CPIは前年比+1.8%と12月から加速。同時発表の1月PPIは前年比▲5.3%と12 月から0.6%pt下落幅が縮小したものの、引き続き大幅なマイナス圏にある。これは過去の過剰投資による 需給の緩みという半ば構造的な問題だが、人民元安やPBOCの追加緩和を正当化する一つの材料となる だろう。 ・昨日発表の1月豪雇用統計によると雇用者数は▲0.79万人と市場予想(+1.30万人)を下回り、失業率は 6.0%へと0.2%pt上昇した。もっとも、これらは異例の強さを記録した過去数ヶ月の反動が含まれている 可能性が濃厚。基調的な変化ではないだろう。 ・2月ロイター短観によると製造業DIは+7と1月から1pt改善。もっとも先行きは+4へと悪化が見込 まれており、状況は芳しくない。非製造業DIも+21と1月から6pt悪化しており、1月の上昇を帳消し にした。エネルギーコストの削減が緩衝材になった一方、年明け以降の円高・株安が逆風になった模様。 ロイター短観 40 (前年比、%) 中国 物価統計 10 非製造業 30 CPI 20 5 10 0 -10 0 製造業 -20 -5 PPI -30 -10 -40 10 11 12 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 直近は先行き 16 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 12 13 14 15 16 【注目点】 ・FEDの緩和サイクルが2012年のQE3発動でピークアウトすると、その後は米経済が1人勝ちの様相を 呈するなか、USDが最強通貨となった。だが、最近はそうした潮目が変わりつつある。USDの名目実 効レート上昇は、製造業やエネルギーセクターを中心に企業収益を圧迫し、米経済回復シナリオを崩す要 因となった。ドル高が引き起こす原油安と相俟って、2014年後半以降は製造業、エネルギーセクターに悪 影響が及んだ。ISM製造業景況指数が2014年10月をピークに下落しているのは、原油安・ドル高が彼ら の体力を削いだからだろう。S&P500採用銘柄の企業収益は2010年以降ではじめて2四半期連続の(前年 比)減益となり、先行きもアナリストの予想EPSが下向きのカーブを描いているとおり冴えない状況が 続く見通しだ。これまで通貨高の痛みを米国が一手に引き受けてきた格好だが、足もとのドル安はそうし た構図が修正を迫られていることを物語っている。 ・もっとも、筆者は一時的なドル安を受け入れる方が、その後の最悪シナリオ、すなわち米経済リセッショ ンとそれを反映する強烈な円高・株安を防ぐという意味で良い選択肢と考えている。このままドル高が米 経済を蝕み、リセッションへ突入するような事態に発展してしまうと、市場では利下げ、QE4、マイナ ス金利導入といった観測が生まれ易い。また、ドル高が一服すればコモディティ価格が下支えされるため、 資源国(企業)の苦境が和らぎ、最近の投資家の不安を煽っているハイ・イールド債下落にも歯止めがか かると期待される。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 130 ISM製造業景況指数 USD名目実効レート 65 60 120 55 110 50 100 45 90 40 80 35 70 30 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 (備考)Thomson Reutersにより作成 <主要株価指数> 日経平均※ NYダウ DAX(独) FTSE100(英) CAC40(仏) <外国為替>※ USD/JPY EUR/USD <長期金利>※ 日本 米国 英国 ドイツ フランス イタリア スペイン <商品> NY原油 NY金 終値 15836.23 16,413.43 9,463.64 5,971.95 4,239.76 112.95 1.1122 0.007 1.740 1.445 0.218 0.581 1.554 1.702 (円) 16300 16200 16100 16000 15900 15800 15700 前日比 -360.57 -40.40 86.43 -58.37 6.29 (㌦) 16500 -0.29 0.00 % % % % % % % 30.77 ㌦ 1226.10 ㌦ -0.013 -0.079 -0.036 -0.051 -0.063 -0.048 -0.035 % % % % % % % 0.11 ㌦ 15.00 ㌦ ※は右上記載時刻における直近値。図中の点線は前日終値。 日経平均株価 12:08 現在 NYダウ平均株価 16400 16300 USD/JPY 114.5 113.5 112.5 (出所)Bloomberg 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3
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