平成 27 年度全国障害学生支援セミナー専門テーマ別セミナー【1】 障害者差別解消法施行後の発達障害学生への支援を考える (筑波大学人間系/日本学生支援機構・名川 勝) 「大学等における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」を JASSO で行ないました。 各学校の方々に大変なご苦労をしていただき、提出していただいています。 平成 17 年から始めさせていただき、私は途中から参加しています。 今後についても、これを継続することについて、確認できることも多いと思いますので、 どうぞよろしくお願いいたします。 この調査については、各大学、短大、高等専門学校を対象としています。 障害者手帳、健康診断によって障害が明らかな学生を主たる対象としています。 発達障害については平成 20 年度より、 「診断無・配慮有」の区分を置くことで各大学等で ニーズがある学生を対象とすることができました。 平成 17~25 年の取りまとめについては、整理をした上ですでにホームページに載せていま す。 平成 27 年度の調査については、少しやり方の修正をしております。 まず 1 つ、授業支援と授業以外の支援と、発達障害が疑われる学生の支援について、より 詳しく聞けるようにしています。 これまで若干調査内容がずれていて、うまく聞き取れなかった部分があり、そこをカバー できるようにしました。 発達障害区分では現行の流れに合わせて、SLD、ADHD、ASD、発達障害の重複と区分を 変更しました。 平成 17 年~25 年まで、これまでにもホームページには載っていますが、それをさらに整理 し直した部分があります。 一部はこれまでにもご紹介していますが、その他については今回初めてご紹介する部分が 多いと思います。 発達障害学生の在籍率からみると、児童生徒に比べて、高機能自閉症というこれまでのカ テゴリーの学生が多い、というのが大学の特徴になっています。 今度新しいカテゴリーでは ASD 等で大きく出てくると思います。 大学等で発達障害をどれだけ認識しているか、また、どれだけ支援並びに関わりを持って いると認識しているかをみてみると、短期大学ではあまり多くはデータとして上がってい ませんが、高等専門学校では在籍率が非常に多く、大学等では 6 割くらいです。 又、学校の規模別でみると、発達障害については、障害全体に比べて必ずしも大学規模に 1 対する差はあまり大きくついていません。 学部別に見てみると、人文系、理学系、芸術系などは発達障害の学生が多く在籍している ように見受けられるのですが、保健や医療、教育はあまり在籍していないようです。 一部の大学では、実習の関係で入学が難しいこともあるように伺っています。 これについては、今後さらに調査を重ねていって、どのような課題があるかハッキリさせ ていく必要があると思います。 授業支援と授業支援以外を経年的に見てみると、授業支援をしている学校は 650 校を超え ていますが、授業以外の支援をしている学校も増加しており、平成 24 年度でその数が逆転 しました。 しかしながら、発達障害の場合は、まだ授業内での支援が十分ではないところがある。 それについてもどうやっていくかが課題だと思っています。 授業支援実施校数の推移を障害種別にみてみると、一番多いのが肢体不自由、そして聴覚・ 言語障害で、次は発達障害ですが、急激に増えています。 「その他」のカテゴリーも急激に増えています。 「その他」は今年度より、 「その他」に含まれる精神障害・精神疾患を抜き出し、調査内容 としては新たに設定した精神障害のカテゴリーに移ることになっています。 授業以外の支援では、公表を始めた平成 21 年度からかなり発達障害が多く、次は肢体不自 由、 「その他」と続き、急追しています。 他の障害、病弱・虚弱や聴覚・言語障害等、他の障害領域も増加しています。 逆にそれは授業内での支援がどうかというところに繋がっていると思います。 具体的に中身を確認すると、授業支援としては、文書伝達や休憩室確保、実技・実習配慮 等があります。 他の授業支援については、調査項目から収集できなかったので、今年度に改めて項目化し てお伺いしたところです。 今回の結果についてもういちど来年の春あたりに見ていただけますと、実際にはどうなっ ているか、もっとハッキリしてくると思います。 授業以外の支援は、保護者との連携、学習指導、カウンセリング、進路、就職指導などが 多いです。 まだ学外との連携は多くないようです。 大学の規模別でみると規模の大きい大学での支援実施率が高くなっています。 2 授業支援もそれ以外も規模の大きい大学ほど実施率が高いようです。 入試における支援実施についてはどうかというと、診断書ありで受験をされる学生が、近 年、増えています。今後、この上昇傾向がどうなるかは、確認していかなければならない と思います。 次に、卒業・進路についてです。 障害学生全体では卒業率は 75.8%ぐらい、 「その他」というのは、58.4%。多くが精神障害 者です。病弱・虚弱等も並びます。 他のカテゴリーと比べるとそう低いわけではありませんが、若干低いです。 そのうち、半数が就職というデータです。 卒業生全体を見ると、かなりの方が就職・進学です。 障害学生全体のデータを見ると、進学が若干多いですが、就職者については、かなり低い、 50.0%ですね。 強調したいのは、卒業した発達障害学生の進路比較です。 進学は 11.5%、そして、就職は、23.1%、4 分の 1 以下に下がっています。 すなわち、発達障害については、卒業率は若干落ちる程度ですが、就職は低い数字である、 これが現状です。 参考までに、精神障害その他のカテゴリーですが、これらは卒業そのものの率が高くない という状況にあり、これは今年度改めて、または、今後、課題になってくると考えられま す。 発達障害学生について進路状況をカテゴリー別に出してみると、統計的にどれだけ意味が あるかはわかりませんが、就職者の ADHD と高機能自閉の割合を他と比べると、若干、 ADHD が多いのかなと思います。すなわち、就職については割と頑張れるのかなという感 じでしょうか。 私どもの経験でも、ADHD だと就職できるのではと思うので今後の参考として見ていただ ければと思います。 発達障害学生、障害学生全体での卒業率の推移を見てみると、卒業率はさほど変わりませ ん。 気になるのが、今回、最高年次障害学生、卒業以外の、いわゆる滞留もしくはその他の事 情というのでしょうか、上の年次になったが卒業していない学生にも注目すべきかと思い ます。 そうすると、発達障害のほうが、相対的に増えている感じがします。 今後、課題になってくると思われますので、注目すべきところかもしれません。 若干、卒業率が下がってきているのは、入学者そのものが増えていることも関係している 3 かなと思います。 今後、もう少しこの辺については、検討すべきかも知れません。 滞留等も含めて、今後考えるべきは、なかなかデータになりにくいのですが、休学や退学 の学生に関するフォローもしくはメンタルヘルスについてが課題かと思います。 これは数字として挙げられません、伺っても、本学もそうですが、何名いるということは 障害の有無と重ねあわせるかたちでは把握しきれていないので、逆にそれは潜在化してい る、分からないうちにあの学生、いなくなったね、となっているのかもしれません。 今後の課題として見えませんが、ちょっと気にしておいていただければと思います。 別の角度から見た時、出てくるのが就職でも進学でもない進路になっている学生です。 これが発達障害の学生では、急激に増えています。 他も増えていますが、他の障害と比べると、伸びが著しい。 つまり、進学でも就職でもなく「その他」になってしまう、よくわからないね、となって いる学生さんが増えていることだと思います。 次は、このような調査で統計をとったものではなく、「支援・配慮事例調査」からみた発達 障害、ということで、少しだけ情報を紹介します。 これは昨年やらせていただいたもので、ご協力いただき、たいへんありがとうございまし た。 半分以上の学校からデータをいただきまして、ありがとうございました。 これらについては、一部について整理をしてホームページにアップしてご覧いただけるよ うになっています。 既にご紹介しているところに書いてありますが、これは決して合理的配慮の事例というわ けではありません。 というのは、昨年お伺いした時点で各校に「合理的配慮をやっておられますか?」と伺う のは、まだそのような考え方がじゅうぶんに周知される以前でしたので、そのように質問 することはたいへん困難でした。 また本事例集は、必ずしも良い事例ばかりを載せているわけでもありません。 どうしてかというと、合理的配慮はその中で重要なことは、学生の窓口組織がどうなって いるか、対応はどうなっているか、あるいは本人への確認ができているかどうか等のプロ セスがどのように確保されているかが重要になるからです。そのため、それらの配慮の有 無については伺うことができると考え、これを質問として項目化しました。 そのため、これと同じことを自校でもやれば良いと考えていただくのではなく、例えば、 学校規模や種別、いろいろな組織体制についてもプロフィールとしては事例には載せてい ますので、それを参照いただき、うちと類似のプロフィールの学校だとこういう支援があ るのか、それならうちの学生についてはどうしようなどと参照していただけると大変あり 4 がたい。 それにより、各校において、より個別対応に取り組みやすくなると思います。 ホームページには個別事例として掲載していますが、これから目指すのは今年度整理して いる各事例について、もっと数字的な整理をするとか、どんなパターンがあるかを分析し ているところです。 若干途中経過を紹介します。 支援と配慮の申請者が誰かということです。 発達障害のカテゴリーでは、本人以外からの申請が多いことが調査の中でもハッキリして います。 これは各校の皆様方も同じだと思っていただけるかと思います。 本人以外について中身はどんな人が申請しているかをみてみると、ほとんどの障害で保護 者からの申請が多いようです。 では申請を受けた部署の確認ですが、病弱・虚弱、発達障害等では、保健センターが受け ているようです。 これは各校の体制如何によって変わってくると思います。 それぞれの学校の体制で、そのような支援組織の組み方が適切なのかは今後の課題です。 また、私どもとしてもある程度、それについて調査を進めていきたいと思っていますが、 今のところ、押し並べて見るとこのような結果になっています。 やはり入り口、あるいは修学支援、学習支援に入る前、もしくはそれ以外の時のトラブル に関する申し出、対応もかなり多く発生することも関係しているかもしれません。 この結果は同時に、大学内での他部局間の連携が非常に重要であるということを示してい ると、読み過ぎではあるかもしれませんが、思っているところです。 5
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