日銀マイナス金利導入とその影響について

Market Report
2016年2月1日
日銀マイナス金利導入とその影響について
2016年1月29日、日銀が金融政策決定会合において、物価目標2%の早期実現のため、従来の量的・質的金融緩和に加
えて金融機関が日銀に預ける当座預金の一部にマイナス金利を適用することを発表しました。マイナス金利の導入について
は、賛成5人、反対4人と意見が割れる中での決定となりました。
<「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の内容>
・日銀当座預金に▲0.1%のマイナス金利を適用。今後、必要な場合は更に金利を引き下げる。
・当座預金を「基礎残高」、「マクロ加算残高」、「政策金利残高」*の3段階に分割し、それぞれプラス0.1%、0%、マイ
ナス0.1%の金利を適用する。
全国消費者物価指数「生鮮食品を除く総合指数」の推移
全国消費者物価指数「生鮮食品を除く総合指数」の推移
マイナス金利付き量的・質的金融緩和
マイナス金利付き量的・質的金融緩和
(%)
4
2013年1月~2016年1月、月次
2014年10月
追加策導入決定
3
マイナス金利→
物価目標 2%
2
1
2015年12月
補完策導入決定
▲0.1%
政策金利残高
マクロ加算残高
0%
基礎残高
+0.1%
2015年12月 0.1%
0
‐1
2013年1月
<日銀当座預金残高>
2016年1月
マイナス金利導入
決定
2013年4月
量的緩和導入決定
2014年1月
2015年1月
2016年1月
出所:ブルームバーグ
出所:日本銀行
<マイナス金利適用の背景と意味合い>
日銀が追加金融緩和を迫られた大きな背景には「インフレ期待の後退」、具体的には「足元での円高基調」と「賃金交渉に
おける賃上げムードの停滞」があったと推察されます。特に、足元での円高は、昨年12月にECB(欧州中央銀行)が追加緩和
で預金金利のマイナス幅を拡大したほか、この1月中には更なる追加緩和を示唆したことから、マイナス金利を導入していな
い日本と既に導入済みの欧州で短期金利差が拡大、年明け以降はグローバルな金融市場において、円独歩高の様相を示
していました。今回のマイナス金利適用は、日欧金融緩和姿勢の格差から生じる「円高圧力」を低下させる意味合いがあった
ものと考えています。
日銀がマイナス金利を導入したことにより、銀行が超過準備を積み上げることで得ていた利益は、今後減少することになり
ます。但し、▲0.1%の付利の適用は、今後積み上げる超過準備に対してであり、過去に積み上げた超過準備分には今まで通
り0.1%の付利が適用される上、マイナス金利の適用による債券価格の上昇が銀行収益にプラスの影響を与える部分もあるこ
とから、一部市場参加者の間で意識されていた「マイナス金利の導入により銀行収益が大幅に悪化する」との懸念への一定
の配慮はなされています。
*基礎残高:各金融機関が積み上げたこれまでの残高(2015年1月~12月積み期間(基準期間)における平均残高)
マクロ加算残高:「当座預金の所要準備額」+「貸出支援基金や被災地金融機関支援オペで資金供給を受けた残高に対応する金
額」+「基礎残高に掛け目を掛けて算出するマクロ加算額」
政策金利残高:各金融機関の当座預金残高のうち、基礎残高とマクロ加算残高を上回る部分
■当資料は、情報提供を目的として東京海上アセットマネジメントが作成したものであり、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。■当
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作成日時点のものであり、将来変更される可能性があります。また、市場動向や個別銘柄の将来の動向を保証するものではありません。
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2016年2月1日
<日本経済への影響>
日本経済への影響に関しては、「円高リスクを限定した」ことにより、日銀が懸念した「デフレ・マインドの再燃」や「企業収益
への悪影響」「株安による家計及び企業心理の委縮」を止めるなど、ポジティブな影響が及ぶことが考えられます。特に、日
銀がデフレ脱却に向けて断固たる姿勢を示したことは、グローバル投資家に強い印象を与えたものと推察されます。
但し、金融市場不安定化の主因として意識されている「FRB(米連邦準備制度理事会)の金融引締めスタンス」や「中国経
済を巡る不透明感」は残存しており、今次マイナス金利の導入が、すぐさま企業の明確な「賃上げ」や「設備投資増」には繋
がり難く、現状はあくまでも「円高リスクを限定する」ことで、「日本経済の下振れリスクを抑制した」「政府・企業が行動するま
での時間を買った」という状況です。従って、一旦稼いだ時間の中で、政府・企業が行動を起こすことが、今後の日本経済に
とって極めて重要になると考えられます。
<日本株式への影響>
先行してマイナス金利を導入した欧州では、マイナス金利導入後にユーロ安が進みました。この事例と同様に、足元で、利
上げ後の米国経済に対する不透明感や中国経済の減速懸念などの外部要因により進行していた円高ドル安について、マイ
ナス金利導入によって一方的な円高の進行が食い止められると考えます。日本の上場企業全体で見れば輸出企業や海外
に展開している企業の割合が高いため、円安は企業業績にプラスに働くと見ています。今回のマイナス金利導入は、為替を
通じて企業業績を下支えし、株価の底上げ要因になると考えます。また、これまで一部に日銀の金融緩和の限界を指摘する
声も上がっていましたが、今後はマイナス金利を拡大させる政策が可能になったため、日銀による追加緩和期待が持続する
ことになった点も株価にポジティブであると考えます。さらに、マイナス金利が今後の企業マインドを変化させ、余剰キャッシュ
活用を促進し、投資の回復や株主還元強化などへと向かう可能性も期待できると考えています。
一方で、これまでの量的緩和とマイナス金利が異なる点は、メリット・デメリット業種がより明確になった点です。マイナス金
利は、不動産など借入金利低下の恩恵を受けるセクターがある一方、階層的なマイナス金利の導入で業績への配慮はされ
たものの銀行など金利に収益が依存する業種の業績下押し圧力が懸念されます。金利が0%を下回らないという想定のもと
では影響は限定的でしたが、今後マイナス金利が拡大される可能性も出てきており、メリット・デメリット業種ともに業績や株
価に対する影響を慎重に見極める必要があると考えます。
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2016年2月1日
<日本債券への影響>
日銀は、マイナス金利とマネタリーベースの拡大という、二兎を追う金融政策に踏み切りました。日銀としては、“マイナス金
利分だけ国債買入れ価格が上昇することで釣り合うので長期国債買入れは可能”と考えています。確かにマイナス金利政策
導入後も、日銀当座預金残高全体の利回りは、低下するとはいえ当面プラスの領域にあるなかで、この2つの政策は短期的
には両立するものと思われます。また日銀の立場から見れば、マイナス金利という新たな金融政策ツールにより、今後も追
加緩和政策の可能性を保持し続けることができるというメリットがあるものと思われます。
一方、金融機関にとっては、国債売却により得られるキャピタルゲインにより当該年度決算上はマイナス金利政策に伴うコ
ストを相殺できたように見えても、それは満期まで国債を保有していた場合の資金収益を先食いすることにつながり、翌年度
以降の資金収益は低下すること、マイナス金利政策の効果により時間経過と伴に日銀当座預金の利回りは低下に向かうこ
とを考慮すると、徐々に日銀国債買切りオペを通じた国債売却インセンティブは低下し、マネタリーベース積み上げはいずれ
困難となる可能性もあります。このような環境下、金融機関にとっては、日銀当座預金積み上げを極力避け、利回りがプラス
領域にある国債、クレジットリスクのある非国債セクター、外貨建債券、貸出などへ資金シフトすることが合理的な選択となり
ます。ただし、今回のマイナス金利政策により時間経過とともに金融機関の利ザヤは縮小に向かいリスク許容度も低下する
ことが想定されるなか、投資リスクの積み上げには限界があることや市場規模の制約などを考慮すると大規模な資金シフト
は難しいものと考えられます。
なお、今回のマイナス金利政策導入により為替ベーシス市場における円調達コスト低下、ドル調達コスト上昇という傾向は
今後も維持され、円調達コスト低下の優位性を活かした外国人投資家の国内債券投資(中短期債中心)は、今後も継続する
ものと思われます。
マイナス金利政策がイールドカーブに及ぼす効果については、金融政策の効果が及びやすい短中期債の利回りは恒常的
にマイナス領域に留まり、長期債、超長期債セクターにはプラスの利回りを求める資金が流入することで金利低下圧力がか
かりやすく、イールドカーブはブルフラット化する可能性が高いものと思われます。ただし、長期、超長期債に関しては、ファン
ダメンタルズや短期的な需給関係の変化に左右される度合いが大きく、当該ゾーンのボラティリティは高まりやすいことには
留意が必要です。投資リスクに見合わない水準までイールドカーブのフラット化が進んだ場合は、市場の流動性が低下して
いることもあり想定以上の金利上昇が示現する可能性もあります。
<J-REITへの影響>
J-REIT市場にとって、日本銀行のマイナス金利導入に関して以下の3つの大きなプラスの影響があると考えられます。
1番目の影響は、更なる長期金利の低下によって、高い分配金利回りを持つJ-REIT市場への資金流入の増加が見込まれ
ます。特に、有価証券投資において日本国債中心の運用を行っていた商業銀行(地銀など)などは、運用収益維持のために
日本国債から株式やJ-REITに関連する私募投信などへの投資が拡大していくものと考えられ、相対的に高利回りが維持さ
れているJ-REIT市場への投資を加速させる可能性が高まっていると思われます。
2番目の影響は、J-REIT各社の借入金利がさらに低下することによって金利費用の一層の削減が見込めることにより、JREITの分配金を増加させる効果が期待されます。
3番目の影響は、不動産取得のための借入コスト削減や借入期間の長期化がさらに容易となることで不動産投資が今後活
発化することが見込まれ、結果的にJ-REIT各社が保有する不動産の評価額上昇(含み益増加)をもたらすことが考えられま
す。但し、今回の日本銀行のマイナス金利導入は、J-REIT市場にとってプラス効果が大きい一方で、今後不動産投資が過
熱化し不動産バブルをもたらす可能性など、長期的なリスク要因の増加にも注意する必要があると考えます。
<為替への影響>
年初から中国経済の減速懸念等の外部環境から円高傾向となり、ドル円は1月中旬に一時116円を割り込む水準にまで円
高が進行しました。政府関係者からの為替水準に対する発言等で一時的に安定はしましたが、120円超が定着するには至り
ませんでした。しかし、今回の日銀によるマイナス金利導入により、円高圧力は軽減したと考えます。今後は、ベースシナリ
オとして、日銀の金融緩和姿勢継続、米国の相対的な高成長とFRBによる利上げ見通しから、金融政策の方向性の違いに
より緩やかな円安方向で推移するものと想定します。
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投資信託に係るリスクについて
投資信託は、主に国内外の株式や公社債等値動きのある証券に投資をしますので、これら組み入れ資産の価格下
落等や外国証券に投資する場合には為替の変動により基準価額が下落し、損失を被ることがあります。
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