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『占領期生活世相誌資料』全三巻の刊行を終えて
監修者 山本武利
メリーランド大学は二〇世紀から二一世紀に変わるころにプランゲ文庫の雑誌、新聞のマイクロ化を完成させ、合
わせてそれぞれの目録を刊行した。雑誌目録では各誌は内容別に分類され、それぞれのタイトル、出版地、出版者な
どの情報が掲載されている。しかし、各誌、各号の掲載記事タイトル、筆者名が掲載されていない。ある程度は雑誌
タイトルで類推して目的の記事なり、筆者名なりにアプローチすることができる。だが雑誌タイトルがその内容をス
トレートに示すことは稀といってよい。また意外なところに意外な筆者が寄稿することも少なくない。目標とする記
街頭のメディア』(吉川弘文館)なる本を出した。その執筆時に手にできた雑誌目録
事や筆者にたどり着くには、時間、根気、さらには幸運が必要である。
―
私は二〇〇〇年に『紙芝居
には『紙芝居』という雑誌が載せられている。しかしタイトルから判明するこの雑誌は紙芝居専門誌であるため、紙
芝居関連文献に必ず登場する雑誌である。私は自分なりのカンをはたらかせて類似雑誌に当たったが、骨折り損だっ
た。通説を覆す紙芝居の記事をプランゲ文庫から発見することができなかった。
そこで私は、長年鍛えたカンはアナログ時代のものであることを痛感した。ビッグデータに向かうにはデジタルの
カンといったものが不可欠と思った。そこでプランゲ文庫のデータベース作成を思い立った。友人たちの協力を得て
作った占領期新聞雑誌記事情報データベース化プロジェクト委員会は、二〇〇〇年度から日本学術振興会科学研究費
(研 究 成 果 公 開 促 進 費 ) を 受 け て、 プ ラ ン ゲ 文 庫 所 蔵 雑 誌 の デ ー タ ベ ー ス 化 を 進 め、 二 〇 〇 四 年 に 完 成 し た。 そ の
データベースを検索すれば、「紙芝居」のキーワードでなんと八一四件の記事がヒットする。私が執筆時に最もほし
3 『占領期生活世相誌資料』全三巻の刊行を終えて
かった「街頭紙芝居」をタイトルに掲げた記事は一八件ある。そのほとんどを手にすることなしに、私は本を執筆せ
ねばならなかった。
データベースで関連文献の掲載誌や執筆者は瞬時に捉えられるようになった。占領期新聞雑誌記事情報データベー
スはプランゲ文庫所蔵の占領期雑誌を見るための便利な道具であると自負している。しかし本データベースは記事の
索引であって、肝心の本文がない。雑誌の本文を見るにはそれを所蔵しているアメリカ・メリーランド大学か、その
マイクロフィッシュを所蔵する機関を訪ねる、次のステップが必要である。
さらに膨大な本文に目を通すことは容易ではない。原文そのものの印刷状態はよくない。そのマイクロフィルムと
なるともっと読みにくい。したがって紙芝居に限定したところで、八一四件の記事全体をくまなく読破するのは容易
ではない。やはり専門家がまず判読し、解説した資料から取りかかる方が効率的であろう。そのために本書のような
資料集の刊行の意義がある。この『占領期生活世相誌資料Ⅲ』には資料価値の高いと判断された「紙芝居」記事九件
が収録されている。本書からプランゲ文庫にある紙芝居記事の全体像が把握可能となろう。
マイクロフィルムをフルセットで所蔵する機関は現在、日本では五箇所ある。部分的に所蔵する機関は三〇ほどあ
る。このなかで公開性、複写サービスなどの点でもっとも利用者に便利な機関は、国立国会図書館憲政資料室であ
る。同室では、同館へ行き難い方にもコピー郵送の便宜を図ってくれているので、ここで同館の案内をそのまま転載
する。
国立国会図書館の複写案内
から申
プランゲ文庫資料(雑誌)の複写は、登録利用者の方 登
・ 録機関(公共図書館など)は、 NDL-OPAC
し込むことができます。登録利用者でない方は公共図書館などからお申し込みください。申し込みの際には、所
」をご参照ください。
蔵情報(所蔵巻号、欠など)をご確認のうえ、巻・号、発行年月日、記事名、掲載ページなどを入力してくださ
い。申し込み方法に関する詳細については、当館の「遠隔複写サービス
4
占領期新聞雑誌記事情報データベースは、現在NPO法人インテリジェンス研究所が運営している。
東京都日野市日野本町五 ―一九 ―一一
―
本部
:
E-mail [email protected]
東京都新宿区西早稲田一 ―六 ―一 早稲田大学土屋礼子研究室気付
早稲田事務局 ―
らも、たくましく生きた日本人の「生活世相」の諸局面をリアルに振り返られる読み物が満載されている。読者はこ
このように本書の研究上の利用価値、利用方法を縷々述べてきた。しかし本資料集には、敗戦で打ちひしがれなが
:
E-mail [email protected]
:
URU http://www.npointelligence.com/
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の七〇年間の戦後、とくに占領期の秘話に接しながら、自身や家族、祖先などの激動の自分史の原点をたしかめるこ
とができるだろう。
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占領期生活世相誌資料Ⅲ メディア新生活 ── 目次
『占領期生活世相誌資料』全三巻の刊行を終えて
他巻の内容
土屋礼子 山本武利
土屋礼子
17
凡例 Ⅲ巻巻頭解説 第一章 メディアの民主化
放送時刻表 座談会 細胞新聞を語る 新定型詩と壁新聞詩 新聞による教育 壁新聞の作り方と報道文の研究 子供壁新聞 壁新聞を作ろう 村新聞の作り方 学校新聞の編集と発行 壁新聞の作り方 3
13
21
14
22
94 90 89 88 78 70 65 63 57 55
章解説 街頭録音と女性 漫画社会探訪 NHKの街頭録音随行 記 漫画街頭録音 大衆に生きる〝街頭録音〟 マイク街をゆく 街頭録音思い出話 街のマイクの表裏 街頭録音こぼれ話し 街頭録音 農村から都会へ、都会から 農村へ 何を望むか 銀座街頭録音放送見学記 29
31
43 39 38 36 34
45
52
第二章 英語メディアと流行歌の奔流
章解説 東京のアメリカ軍放送 WVTRのぞ記 WVTR 第三放送を聴くには WVTR五分間誌上見学 WVTRスクラップ WVTR放送雑話 私と英語 リーダース・ダイジェストについて 日本出版界に大問題を与えた雑誌 リー ダーズ・ダイジェスト 〝星の流れに〟のメモ リンゴの唄楽屋話 「異国の丘」を偲びて 歌は世につれ 世は歌につれ アッハッハ流行歌(賛歌) 替歌 御好みトッポケソング集 音楽と民主々義の話 新しいアメリカ流行歌 呂律のおもしろさ 貸本屋開業の記 山形文化聯盟 読書相談所から 望ましいブツククラブの発達 土屋礼子
吉田則昭
市川孝一
97
土屋礼子
鈴木常勝 167
98
168
ヒットソング漫談 第三章 活字と娯楽に飢えて
章解説 小資本でもやれる商売
月遅れ雑誌販売 小資本でやれる 商売の色々 165 163 159 158 155 154 152 149 143
187 185 183
125 124 119 116 114 112 109
130
141 139
182 180 179
村の公民館 加世田町柿本部落訪問記 読書会の運営 私の村の読書会 農村読書会の現状を視る 青年団における読書会の運営 新聞記者が紙芝居屋になれなかつた話 紙芝居と戦犯 この一年 子供・紙芝居・先生 街頭紙芝居をよくする運動 こどもの文化展望 紙芝居 コドモの眼はオソロシイ 紙芝居やさん 紙芝居のおつさん 竹内幸絵
225
文化運動と読書会 読書会を提唱する 街の広告塔 広告塔 広告塔論 広告界展望 広告塔(詩) 広告塔(詩) 商売に効く広告の実際 飛ぶように売れる 新商品の仕入れ方法
宣伝は解放されたり
226
子供読書会 楽しい読書会 第四章 広告新時代
章解説 ポスターをはる人 街頭広告は喚びかける! 広告媒体雑感 看板・ポスターの恐ろしさ 親しさ 街の美学 街を歩いて 広告談義 通俗美学
ノンコさん ポスターの巻 広告塔 (『電波科学』表紙) 時代の脚光を浴びる女性職業 広告塔 アナウンサー
223 219 217 216 215 213 212 212 210
257 257 254 253 252 250 249 248 248
208 205 203 201 197 193 191 190 188
246 245 243 241 238 237 236 235
247
宣伝人と自主的精神 素人に簡単に出来る 看板・店頭装飾
ポスターの作り方 テレヴイジヨンと広告革命 商業人の見た 東京人と大阪人 ニツサン石鹸 ニ
・ ツサンマーガリン 広告写真懸賞募集中 今日のアメリカ広告の行き方 編集者が個人資金で復刊した広告業界誌 英文広告 a・la・carte
ポスターと人生 宣伝覚書 雜誌と都市に就て 早くも広告にあらはれたアメリカ商品 井川充雄
近代の宣伝と広告 抜け目ないアメリカ の広告 アメリカ商売教室 日本貿易博覧会見学記 貿易博覧会の見学 貿易博覧会見学 不幸な母と子等の為に 博覧会余録から 平和博覧会に就て 長野市民に望む 昔の共進会と 今度の平和博覧会 博覧会勤務の一日 博覧会狂燥曲物語 ステートフェア 学童綴方教室 日本ステートフエア見物 287
商業写真はむづかしいか 広告と陳列の泉 おしやれのみせ 第五章 博覧会と近未来
章解説 講座 テレビジョン
テレビジョン科学の進歩 博覧会はどうあるべきか 『博覧会ニュース』編集後記 日本貿易博覧会夢モノ語り 博覧会とその文化性 日本貿易博覧会の意義と使命 日本貿易博会場 そぞろある記 日本貿易博覧会てんやわんや 貿易博覧会見て歩る記 288
278 277 276 275 274 272
279
282
342 340 336 334 330 330 328 328 326 324
259
260
263 260
265
271 268
322 320 315 314 312 310 309 306 300 295
雑誌・新聞索引 事項索引 人名索引 ―
装幀
346
難波園子
353 350
他巻の内容
Ⅰ巻 敗戦と暮らし
永井良和 編
永井良和
渡辺拓也
永井良和・松田さおり 編
加藤敬子
加藤敬子
中嶋晋平・大橋庸子
大空襲に遭い、原爆を投下され、多くの人々が死傷し、焼け跡をさまよった。
食糧難、住宅難の多難な時代を生き抜いた人々の記録を採録した。
第一章 記憶の抑圧──爆弾が落とされた街 第二章 焼け跡ぐらし 第三章 復員と傷痍軍人/進駐軍 第四章 食と住まいの変遷/住宅難 第五章 新生活/生活改善 Ⅱ巻 風俗と流行
松田さおり
永井良和
加藤敬子
岩本茂樹・松永寛明
パンパン、鳩の街、男娼、アプレゲール、そしてアメリカン・モード……、
混乱する価値観のなかをたくましく生きた人々の姿が浮かび上がる。
第一章 性風俗 第二章 アプレゲールと不良 第三章 生活のアメリカ化 第四章 地方の風俗 凡 例
本資料集は、米メリーランド大学図書館のゴードン・W・プランゲ文庫に所蔵されている雑誌の記事を、精
•
選し配列したものである。
巻を構成する各章はテーマ別に資料を編成した。
•
記事については翻刻を行なったが、写真や漫画など一部の図版は版面をそのまま収録した。翻刻にあたって
•
は、プランゲ文庫のマイクロフィッシュ版(国立国会図書館、早稲田大学中央図書館、国際日本文化研究セ
つの がき
ンター所蔵)を底本とし、版面の収録に際しては、原則としてプランゲ文庫に所蔵されている雑誌の複製を
使用した。
収録した各資料の標題は見出しをもとに編者が付した。その際、
「特集」などの内容にかかわりのない角書、
•
および連載記事のシリーズ名などについては、適宜、省略あるいは記載の位置を移動した。
本文の作成について
旧字体は新字体にあらためた。ただし、常用漢字・人名用漢字以外のものが用いられている場合は、原文の
•
まま表記した。
仮名遣い、送り仮名は、原文のままとした。
•
振り仮名・傍点・傍線・太字などは可能なかぎり原文通りに示した。ただし、総ルビや、それに近いものに
•
ついては適宜省略した。
原文が横書きで掲載されている記事については縦書きで収録し、その旨を記事本文末尾に注記した。その際、
•
横書き原文記事中にあるアラビア数字は漢数字に置き換えた。なお、原文で「十」の表記が用いられている
箇所はそのままとし、あえて統一は図らなかった。
部分的に省略を行なった場合は、その箇所に〔略〕として示した。
•
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漫画や記事に添えられた挿絵・写真は原則としてそれ白体を個別の資料として扱い、文章を中心にした記事
•
においては、特にことわることなくそれらを省略した。
検閲によって何らかの手が加えられた部分はアミをかけて示した。また、検閲事由が示されている場合、必
•
要に応じて解説で触れた。
記事中には、今日では不適切と思われる表現が見られる場合があるが、資料の歴史性を尊重し、原文のまま
•
とした。
翻刻の方針について
句読点は、各記事の方針を尊重しつつ、明らかに脱落と思われる箇所は適宜補った。ただし、一つの記事中
•
で句読点の付し方に一貫性がみられない場合は、そのままとした。
改行の際に行頭が下がっていない場合でも、読みやすさを考えて一文字分の空白を補った。
•
明らかな誤字・脱字・衍字以外は当時の表記法を尊重し、今日では通用しないと思われる表記もそのままと
•
した。ただし、誤字であるかどうか判断できない場合は、今日一般的と思われる文字が指定できるものにつ
いては〔 カ〕の形で注記し、それ以外については「ママ」とルビを付した。また、人名、団体名の誤りは
訂正したが、映画のタイトルなどの作品名については、当時の表記を尊重し、原文のままとした。
印刷の汚れや破損などで判読できなかった文字は文字数分の□(白四角)を入れた。判読不能部分が長文に
•
わたる場合は「
〔〇字分不明〕
」とした。文脈上明らかだと推定される字句を補った箇所がある。
引用者による注記を示す〔 〕と区別するため、原文中に〔 〕が使用されている場合は[ ]にあらため
•
た。
各記事の後には、雑誌名、巻号、発行者名(所在県市名)
、刊行年月日、マイクロフィッシュの請求番号、な
•
どを記した。なお、請求番号はメリーランド大学と国立国会図書館とで作成したものである。
雑誌名、巻号、発行者名(所在県市名)
、刊行年月日は原則として奥付の表示に従った。ただし奥付がない場
•
合は、表紙、裏表紙の表示に従った。
15 凡 例
Ⅲ巻巻頭解説
土屋礼子
この『占領期生活世相誌資料』の最後となる第Ⅲ巻を編集している現在は西暦では二〇一五年、和暦では平成二七
年だが、昭和の元号を延長して考えれば昭和九〇年という計算になる。昭和一〇〇年まであと一〇年という年はまた
戦後七〇年でもあり、六四年まで続いた昭和のなかで、戦争に続く占領期の足かけ八年という期間は短い。しかし、
占領期は特殊で希有な時代だった。テロと戦争に塗りつぶされていった昭和初期の二〇年間を経た後、帝国としての
植民地をすべて失い、日本史上初めて外国の軍隊に支配され、明日の衣食にも事欠くような物資不足に苦しみながら
も、明治維新以来の国家と社会のしくみ、そして価値観を変革した約七年間は、短いが昭和の前期と後期をはっきり
分ける大転換の時代であった。その転換の延長上に、戦後日本は築かれているものの、この時代の全体像を理解する
のは容易ではない。ポツダム宣言受諾、財閥解体、農地改革、公職追放、極東軍事裁判、日本国憲法公布、教育基本
法、朝鮮戦争、レッド・パージといった歴史教科書で語られている事項を把握するだけでも大変だが、占領期を生き
た人々を父母や祖父母に持つ世代であっても、その経験を理解し感得するのは難しい。戦前戦中期の教育による価値
観が全面的に覆された衝撃が占領期には亀裂となって走っており、それ以後の価値観をあたりまえにして育ってきた
者には理解しがたいほど深く大きいと思われるからだ。
本書に所収されたプランゲ文庫所蔵の新聞雑誌記事は、そうした占領期の複雑な世相を知る手がかりを与えてくれ
る。占領軍は軍国主義、封建主義を日本人の頭からぬぐい去り、平和と民主主義を根づかせるべく、さまざまに言論
活動を縛っていた規制を廃した一方で、日本人の反応や考え方を探り、指導し、占領統治を成功させるため検閲を行
17 Ⅲ巻巻頭解説
なった。そのために集められた膨大な出版物の一部を保管したプランゲ文庫には、国立国会図書館にも収められてい
ない占領期の新聞雑誌がガリ版刷りの同人誌に至るまで数多く含まれており、そこには知識人だけでなく多くの庶民
の声が含まれている。本巻にはそのなかから、占領期のメディアについて、当時の庶民の生活や目線に添って語られ
ていると思われる記事を集めた。
本巻の標題を「メディア新生活」としたのは、「メディアの変化によって新しくなった生活」という意味と、「メ
ディアによって、あるいはメディアの中に、夢見られた新しい生活」という意味の二つを込めている。すなわち、敗
戦後、時代の刷新を告げ、いち早く内容を変化させたのは新聞やラジオといったメディアであった。天気予報が復活
し、進駐軍の上陸を伝え、平和国家を唱え、復員を報ずるニュースによって、あるいはラジオから流れるジャズや英
語の響きによって、人々はもんぺや軍服といった姿や食糧の乏しい暮らしぶりがたいして変わらないままでも、新し
い時代の到来を知った。そしておずおずと、戦時中には読めなかったような本や雑誌を手に取り、ラジオの新しい番
組に耳を傾けた。また、メディアのなかでは、敗戦した日本の惨めな現在の姿を慰める言葉だけでなく、解放された
言論の自由を喜び、明るい未来を探り、新しい日本を建設しようとする希望がさまざまに語られ、人々は熱心にそれ
らをむさぼり読み、かつ聞いた。そうした占領期のメディアの変貌の一面を、庶民の生活に身近なところから切り
取ってみたのが、本巻の各章のテーマである。
第一章では、「メディアの民主化」と題して、人気を博した日本で最初のラジオ公開録音番組「街頭録音」と、職
場から小学校まであらゆる場所で当時つくられた壁新聞に関する記事を取り上げた。この二つは、誰もが自由に発言
し、思ったこと考えたことを身近な場所から発信していくという、言論の民主化を代表する現象だった。確かにそれ
は一面では占領軍により〝配給された民主主義〟であったかもしれないが、それでも民主主義とは私たち自身の生活
のなかにあるべきなのだと受け止め、解放されたメディアに対して希望と好奇心を抱き、貧しいながらも活気に満ち
た人々のひたむきさが感じられる記事には、まぶしささえ覚える。
第二章では、「英語メディアと流行歌の奔流」と題して、米軍放送、『リーダーズ・ダイジェスト』
、および流行歌
18
に関する記事を取り上げた。米軍が持ち込んだ英語メディアは、映画、放送、音楽、漫画、雑誌、図書などあらゆる
面で大きな影響を与えたが、日本のメディア史ではエピソード的にしか語られない部分である。本巻には、当時の
人々が米軍放送や『リーダーズ・ダイジェスト』に代表される英語雑誌にどのように関心を寄せ接していたのかが直
截に述べられている。
一方、流行歌は当時は、主に映画とラジオを媒介にして、レコードで販売され、ヒット曲は何十万枚と売れた。そ
のなかの有名な「リンゴの唄」や「星の流れに」といった曲は、時代を象徴するものとなっているが、本巻に掲載し
たのは、そうした流行歌の裏にある証言や、あるいは流行歌をもとにした替え歌の記事である。流行歌は背後の物語
をもって広がり、また歌詞を作り替えることによってさらに庶民自身の文化となっていったのである。
第三章では、「活字と娯楽に飢えて」と題して、貸本屋と読書会、紙芝居に関する記事を取り上げた。占領期は紙
不足で用紙統制下にあったにもかかわらず、戦時中に縛られていた知識欲が解放され、かつてないほどの読書熱が
人々に広がっていた。学生や知識人層だけでなく、労働者や農民などあらゆる階層で、活字を読むことが、単なる娯
楽としてではなく、新しい時代に遅れず、新日本の担い手に必要な教養や思想を手に入れる手段だと考えられ、肯定
された。まだ図書館が充分に整備されていなかった当時、特に地方の農村地域では、発行量が少なくて高価な書籍
を、貸本屋や読書会で手に入れ、回して読んだ若い庶民たちの息吹が感じられる。
一方、占領期の娯楽といえば映画が王者であったが、映画館に行く余裕のない人々、特に貧しい子供たちにとって
は、町角の紙芝居が最大の娯楽であった。紙芝居自体は戦前から続いてきたものだが、占領期にはあふれた失業者が
多く紙芝居屋となり、その隆盛ぶりに占領軍も注目し、紙芝居を対象にした検閲も行なわれたほどであった。本巻に
収録した記事にはその生き生きとした様子が描かれている。
第四章は、「広告新時代」と題し、焼け跡から急速に成長した占領期の広告に関する記事を集めた。当時の街やバ
ラックを雑多に彩った看板、ポスター、広告塔に関する描写、また米軍の持ち込んだアメリカ製の商品やその広告の
デザイン、広告と宣伝のあり方に関する議論など、戦時の国策に協力した過去を持ちつつ消費社会と広告宣伝の時代
19 Ⅲ巻巻頭解説