■ハイドン/交響曲第 104 番ニ⻑調 Hob.Ⅰ:104「ロンドン」 ハイドンとモーツァルトの円熟期は、ヨーロッパ世界における激動の時代だった。イギリ スでは産業革命が漸次的に進められて資本主義が興隆し、バスティーユ襲撃に始まったフ ランス革命とその後のナポレオン戦争は貴族社会の没落と市⺠階級の台頭を導く。こうし た社会の激変は音楽家の暮らしばかりでなく、音楽のスタイルにも影響をもたらす。 ハイドンはコンサートの前に置かれる導入としての役割を担っていた交響曲というジャ ンルを⾃⽴した芸術作品に育て上げ、いわゆる「交響曲様式」を完成した。第 104 番は最 後の交響曲であり、ハイドンが到達した終着点と呼ぶにふさわしい成熟した作品である。 4 楽章からなる 30 分ほどのこの交響曲は、簡潔なまとまりよりも、⾃由な個性が際⽴っ ていて、ハイドン風の書法が凝らされている。第1楽章冒頭からニ⻑調ではなくてニ短調の 序奏ではじまり、重々しい風格を感じさせる。そのままアレグロの主部となり、ソナタ形式 でハイドン流の主題提⽰がなされる。第 2 楽章アンダンテは 3 部形式。親しみやすい表情 をもったト⻑調の主部のメロディが反復されたのち、中間部ではト短調の楽想が響く。こう した形の調性の構造は晩年のハイドンが好んで⽤いたものだ。第 3 楽章はメヌエットで、 木管楽器が美しい音色を聴かせてくれる。第 4 楽章はソナタ形式のフィナーレ。ていねい に主題労作がなされ、規模も大きく、快活さと精緻な構造を兼ね備えた楽しい音楽だ。 白石美雪 ※掲載された曲目解説の無断転載、転写、複写を禁じます。
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