■ベートーヴェン/交響曲第 7 番イ⻑調 Op.92 のちに広く親しまれるようになった曲でも、初演から成功を収めるものは決して多くな い。しかし、ベートーヴェンの交響曲第 7 番は、1813 年、作曲家⾃⾝の指揮による公開初 演で喝采をあびた。アンコールに応えて、第 2 楽章アレグレットが再度、演奏されたとい う。ヴァイオリンにシュポア、打楽器にフンメルとマイアベーア、シンバルにモシュレスと、 素晴らしいメンバーを含むオーケストラが、様々な体の動きを駆使して強弱の指示を与え るベートーヴェンの指揮のもとで闊達な演奏を繰り広げたのだろう。彼らの演奏は人々が 朗らかに踊り、⾃由を満喫している祭りのイメージをかきたてたにちがいない。 よく知られているように、ワーグナーはこの交響曲を「舞踏の聖化」と呼んだ。その⾔葉 通り、リズムを統⼀原理とするベートーヴェンの新しい様式を象徴する作品である。とくに 両端楽章におけるリズムの活⽤には目を⾒張る。モチーフを徹底的に操作する「運命」交響 曲の書法を、その後のカンタービレ様式と結び合わせ、全体をリズム・モチーフでまとめた のである。 第1楽章ではヴィヴァーチェの主部が始まるとフルートとオーボエが付点音符を含むリ ズム・モチーフを刻み始め、ほとんど絶え間なく、この刻みが続く。第2楽章アレグレット は変奏技法を応⽤したロンド形式。低弦でとつとつと奏でられる主部の主題のリズムがず っと反復される。20 世紀初頭までの指揮者は第2楽章を伝統的な緩徐楽章と解釈して、メ トロノームの指定より遅く演奏する習慣があったが、1930 年代にトスカニーニが指定どお りの速度で演奏し、衝撃を与えたという。第 3 楽章はプレストによる野原を駆け巡るよう な主部と、古い巡礼歌に由来するメロディが響く中間部からなるスケルツォ。第4楽章は舞 曲のように奔放なリズムの饗宴。弱音にアクセントのついた楽想をきいて、クララ・シュー マンの父ヴィークは「酔っぱらいながら書いたのではないか」と⾔ったらしい。アイルラン ド⺠謡やゴセックの⾰命音楽に類似した部分もあって、多彩な内容をリズムでまとめあげ たフィナーレだ。 白石美雪 ※掲載された曲目解説の無断転載、転写、複写を禁じます。
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