20 世紀初頭の英米大銀行におけるコルレスネットワーク拡充と外国為替

<第一報告>
20 世紀初頭の英米大銀行におけるコルレスネットワーク拡充と外国為替業務
山口大学 古賀大介
この報告の目的は、第一に、第一次大戦前、つまりポンドが基軸通貨であった時代のロ
ンドン・クリアリングバンクにおける外国為替業務を検討することであり、第二に、同時
期、すなわちドルが基軸通貨となる以前のニューヨークにおける国際銀行間ネットワーク
の形成について検証することである。また合わせて、その歴史的意義を考察したい。
この報告ではとりわけ 20 世紀初頭のイギリス・ミッドランド銀行とアメリカ・シティ
バンクの「外国部」の活動に注目する。19 世紀末から 20 世紀初頭に英米の銀行が「外国
部」を設けたこと、イギリスの銀行の一部が外国為替業務を始めたことは研究史でも知ら
れているが、
その詳細を銀行内部史料から検討したものはない。ここで注目する両銀行は、
それぞれイギリス・アメリカ最大の銀行であり、ほぼ同時期に「外国部」を設置し、また、
両銀行の頭取が国際業務に熱心であったという共通点を持つ。この報告では、主に両銀行
の内部史料を活用しつつ、上記の課題に取り組むこととする。
本報告では検証の結果として次のような史実を新たに紹介する。ミッドランド銀行に関
しては、ポンドが基軸通貨として全盛期であった時期に、同行が外貨建手形の発行を手が
け、海外コルレス先 150 行余りに外貨建て預金をもち、外国為替業務の展開を図っていた
ことである。これらはいずれも、これまでの研究において実証的に確認されていないか、
基軸通貨国の金融機関であるクリアリングバンクが原則取り扱わないものとされてきたこ
とである。こうした例はミッドランド銀行のみならず、
「外国部」を設けた他のクリアリン
グバンクでも確認される。続いて、同じ時期、すなわち非基軸通貨国時代のアメリカのシ
ティバンクが、大々的なキャンペーンを行い、数多くの外国銀行に対してニューヨークに
ドル建てコルレス口座を開設するように求め、これに成功し、世界的なコルレスネットワ
ークの充実を図っていることを紹介する。この結果、1905-1914 年のわずか 10 年弱の間
に同行のニューヨークにおける外国銀行保有のドル建て預金が約 4 倍となっていることも
紹介する。
新たに発見されたこれらの史実は、第一次大戦前、すなわちポンドが基軸通貨であった
時代=ドルがまだ非基軸通貨であった時代から、ロンドン・ニューヨークの大銀行を中心
に世界的な銀行間ネットワークが形成され、また国際的なドル取引拡大に向けた準備的な
動きと英系商業銀行による欧米を中心とした地理的に広範囲な外国為替取引が始まってい
ることを示唆するものである。第一次大戦前に始まるこうした現象は、第一次大戦以降に
ロンドン・ニューヨークの両貨幣市場(短期金融市場・外国為替市場)が長きに渡り補完的に
機能する上での基盤となっていると、報告者は主張したい。