7 中学校 社会科 (合理的な意思決定能力)

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中学校
社会科
(合理的な意思決定能力)
社会科における合理的な意思決定能力育成の現状と課題
平成16年3月に実施された県立高校後期試験の結果を分析した資料(県学校教育課)には,学習指導方
法改善の方向として,統計資料を活用した討論学習などを取り入れ,生徒の思考・判断力や表現力の育
成を図る必要があると提言されている。これは,知識・理解を中心とした講義形式の授業展開がまだ多
く,資料活用能力や思考・判断力など,公民的資質の基礎につながる基礎学力の育成が十分ではないと
いう現状を示すものと思われる。様々な課題を抱える21世紀を主権者としてよりよく生きていくために
は,情報を適切に選択する能力やそれらを基に的確な判断を下す能力がこれまで以上に必要とされる。
中学校社会科の目標には「諸資料に基づいて多面的・多角的に考察し」と記されており,授業における
その具体的な実践が必要であると思われる。
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指導方法等の改善の視点と工夫
合理的な意思決定能力の育成を目標にした学習指導方法を取り入れることで,知識面だけではなく,
能力面や学習に取り組もうとする態度面も含めた基礎学力を,総合的に身に付けさせることができると
思われる。小原友行は,合理的な意思決定能力を「問題場面での自己の行為を科学的な事実認識と反省
的に吟味された価値的判断に基づいて合理的に選択・決定するために必要な能力」と定義している。こ
の合理的な意思決定能力を効果的に育成するための方法として,多面的・多角的な考察は有効であり,
その効果として次の3点を期待することができる。1点目は,生徒の考察する視点が広がることである。
2点目は,経験やイメージなど主観的な根拠からデータに基づく客観的な根拠へと,根拠の質が高まる
ことである。3点目は,価値的判断に加えて実行可能な提案や代替案の作成など,実践的判断へと判断
の質がより深まることである。実際の授業では,考察の場が個から小集団,そして,全体へと段階的に
拡大するように構成し,多面的・多角的に考察させることで,合理的な意思決定能力を高められると思
われる。社会にとって利益となる解決策を選択できる能力を育成することにより,民主的な社会を形成
していこうとする態度,つまり公民的資質の基礎へとつなげることが可能になると考える。以下に,3
つの具体的な手立てを提案する。
ア
相互交流
学習課題に対して,各生徒が最初にもった考えを,まず二人組で意見交換させる。級友の考えを知
ることで,自分との共通点や相違点に気付かせる。特に,自分とは違う意見を大切にさせ,自分の考
えの吟味・修正を行わせる。さらに,視点の広がりをもたせるために,班での意見交換を行わせる。
その際,必ず1回目の意思決定ができるように机間指導を行い,助言を与える。
イ
一覧表(マトリックス)の活用
学習課題にかかわる3つ又は4つの立場からの根拠を,考察する視点ごとに整理した一覧表にまと
める。合理的な意思決定を行うということは,データに基づいた複数の根拠を比較・検討し,課題解
決のための判断を行うことである。一覧表を活用すると,すべての立場から出た根拠を一目で把握で
き,視点ごとの比較・検討が容易にできる。一覧表を作成する際は,まず学習課題にかかわりのある
立場を教師が設定し,生徒に自分の立場を決めさせた上で,それぞれの立場から学習課題に対してア
プローチさせる。その際,データを基に根拠を導き出すようにさせる。これらの活動を行う過程で,
資料収集・選択・活用能力の育成を図ることができる。
ウ
立場討論
学習課題について,各立場からの主張とそれに対する反論を相互に行わせる。討論をしている生徒
だけでなく,フロアーの生徒にも主張の根拠を吟味させることで,根拠を相対化していく。学習過程
の最終の段階であり,より多面的・多角的に考察させることで,合理的な意思決定能力を高めたい。
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