平成二十六年度 国立大学法人岩手大学大学院 修了式 式辞

平成二十六年度 国立大学法人岩手大学 修了式 式辞
春の足音が間近に聞こえる本日、多数のご来賓の皆様、保護者の皆様のご臨席の下、平成二十
六年度岩手大学大学院の修了式を挙行できますことは、本学にとりまして大きな喜びであります。
修士、博士の学位を授与された修了生の皆さん、おめでとうございます。本年度は、本学の五
つの研究科から二十一名の課程博士、七名の論文博士、二百四十三名の修士、合わせて二百七十
一名の優れた人材を、社会に送り出すことができました。
修了生の皆さんの脳裏には、四年が経過した今でも、東日本大震災の経験が強く刻まれている
ことと思います。研究室等での日々の生活、研究の進展、将来への夢と不安など、様々な思い出
が行き来していることでしょう。私の経験からも、修士論文あるいは博士論文を書いたときが人
生で最も集中した時間ではなかったかと思います。
また二十三名の外国人留学生の皆さん、十三名の社会人学生の皆さんの努力は、他の一般学生
の模範となり、特筆すべきものでありました。皆さんのこれまでの真摯な努力を讃え、教職員共々
喜びたいと思います。
そして修了生のこれまでの学業を温かく見守ってこられた御家族の皆様には、その喜びもひと
しおかとお察しいたします。長年の御労苦に対し心から敬意を表し、お祝いを申し上げます。
さらに連合大学院を構成し、本日も学長先生をはじめ各位に御臨席を賜っている帯広畜産大学、
弘前大学、山形大学、及び、本学各研究科の教職員の皆様、ご支援を頂いた地域の皆様にも厚く
御礼を申し上げます。
さて、地方創生が叫ばれる今日、少子高齢化やグローバル化といった課題を抱える我が国にお
いては、イノベーションの創出が強く求められております。そこで、科学技術のあり方、イノベ
ーションについて述べてみたいと思います。被災地の復興にはイノベーションが必要であるとよ
く言われますし、私もそう考えています。しかしイノベーションを単に技術革新といっては意味
が不正確です。先端的な技術を用いて付加価値をつけ、経済活動として社会に貢献することこそ
がイノベーションです。その結果として文化、人間の生き方、価値観にも影響を与えるものと思
います。スマートフォンを発明したスティーブ・ジョブズは、イノベーターとして新たなシステ
ムを作り上げた点に偉大さがありました。これは技術を俯瞰できる能力にたけていたからこそと
言えます。また、昨年、赤崎・天野・中村の三人の先生が青色発光ダイオードの発見・発明でノ
ーベル物理学賞を受賞されましたことは、日本にとって本当に明るい話題でした。これはまさに
日本のイノベーションと言えます。
一方で、開発した製品のメリットとデメリットを考えることが必要です。スマートフォンを例
にとれば、多くの人がその便利さを活用しておりますが、逆にそれに支配されている、とも思い
ます。アンケート結果では、高校生は一日平均五時間、多い人で十五時間スマートフォンに支配
されているという報告がありました。情報の豊富さに感嘆する一方で、情報の恐怖さにさらされ
ていることもあるのです。
科学技術は百%受け入れられるものではありません。社会が成熟した日本において、どのよう
な科学技術が求められているかに敏感でなければいけません。二十世紀とは異なった多様化した
価値観を満足する、二十一世紀型の科学技術が、復興のプロセスの中から求められると思います。
自然科学だけではなく、社会科学や人文科学が融合した新たな科学技術のコンセプトを作り上げ
てほしいと思います。これが皆さんに課せられた科学技術のイノベーション創出なのだと思いま
す。すなわち、新たな価値観をもって社会をつくっていってほしい、貢献してほしいと切に思い
ます。
今後も岩手大学で学んだことを誇りとして、多様な社会の中で大いに貢献することを期待し、
学長としてのはなむけの言葉といたします。
平成二十七年三月二十三日
国立大学法人 岩手大学長
岩渕 明