57 【研究ノーート】 中国の人is都市化と人口移動(1) 國 南 石 1. 人ue都市化の趨勢 中国では産業構造の高度化がいまだ充分に進まず,農業の割合が産業の大部分を占め,都市的 な第3次産業の発達もかなり遅れている。これは一方では都市化がそれだけ遅れていることの証 左でもある。しかしこの様相も変わり,4人組追放以来の自由化路線とともに,中国の人口は堰 を切ったような急速な都市化過程に入ってきている。本稿ではこの都市化の実態を明らかにする とともに産業構造の高度化との関連を究明していきたい。 第1図は中国の都市と農村の人口趨勢を示したものである。これによると,新政府が樹立した ユ949年から10年間は都市人濁が増大し,都市化が進んだことが認められる。つまりユ949年当時は 農村人口が中国人口の89.39%,4億8,402万人を占め,都市人口は総人口の10.64%,5,765万人 しか占めていなかった。この図によると,最初のピークに当るユ960年には農村人口が増加し5億 3,134万に達している。都市人口はこれには当然及ぼないが,1949年の人口を倍加した1億3,073 万人に増大し,一挙にユ9。75%の都市化率で増大している。 そして,大躍進政策への住民の巻き込みと農作物不作の頃を底辺とした農村人口の落ち込みに 対応するかのように,都市人口は上昇してひとつのピークに達する。その後,1962年の早婚反 対・家族計画普及運動に始まる第2次人口抑制期と文化大革命に入って,都市化は緩慢な上昇を 続ける。第2図にみられるように,1962年までは都市の出生率と自然増加率が農村のそれらを上 回わっていたが,それ以後は逆転する。農村の出生率および自然増加率が1965年以降今日まで絶 えず都市のそれらを上回わっている。そしてその結果農村人口は1965年以降1975年まで逓増し, それ以後緩慢に上昇するが1982年をピークに急低下する。この急低下は1981年以降の出生率低下 と死亡率上昇につながるものである。 このことは第3図の合計特殊出生率の動きからも読みとれることがらである。緩慢な上昇をた どった都市人口は1980年頃からふたたび急上昇し,1984年には3億3,006万人に達する。実に 31。9%の都市化率を占めるにいたる。これも第2図に認められるように,農村以上に都市におけ る自然増加率の急上昇によるものである。この都市の自然増加率の上昇は当然のように都市の死 亡率水準の相対的低下に由来している。農村人口は1982年のピーク時には8億0,387万人に達し, 58 中国の人口都市化と人口移動(1} 第琶図 中国の都市・農村別人口趨勢 (億人) 9.21 儂 村) 9.00 ew実数値 8.00 ・tm・U・m・・・…Nmo・・ @予測値 7.00 Pn Pn=:45,023,3十1024.43t 6.00 5.00 4.84 (億人) 3,30 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990(年」 (都 市) 3.oo 2.eo Pu P.= 5,144.94十472.042t 1.00 O.57 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990(年) 門人) 5.41 (都 市) 5.00 4.00 3.00 P.= 6,253.32 (o.0469264)t 2.00 1,00 0.57 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990(年) (資料) 中国国家統計局編r中国統計年鑑』中国統計出版社,1985年 59 中国の人口都市化と人口移動(1) 第2図 中国の都市・農村別人口動態率 %4。3。2・m・%2。 全 国 (出生串) N. 姻国嚇卿一 o一 者侭 市 N.、,,,、,・,、 農村 x ’N N. kex,,. \こ誉__ノミ 1949 1952 1957 1%2 1ca5 1970 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 lgg3 19M (死亡率) 15 胸 魎噛恥恥恥 10 ee taeim,,:vaimtztatata{L l: N 50% x 幅___〆♂《・ 6呼召頭画話 調ρ N。,、、im。e、、M、、P,。。ePt鞠・晦_.㎡・f”pm 1949 1952 1957 1sc2 lss5 1970 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1gg3 19ew \ (自然増加率) N .,,,, 30 グ\\x 20 \ト7一㍉ 10 ’Vef 0 1949 1952 1957 1ee2 1ss5 1970 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 (資料:第1図と同じ) 87654321 第3図 中国の都市・農村別合計特殊出生率の変動 撫 %》闘脚m三 智 ブ!魎、!kl f NX 晦紛團魅 v ユ950 ユ955 1960 1965 1970 1975 1980 ユ982(年) (出所) Coale, A. J,, Rapid Population Change in China 1952− 1982, National Academy Press, Washington, D. C. 1984. 60 中国の人口都市化と人口移動(1) 都市化率を20。83%に抑えていたが,1984年には7億0,469万人,68。10%の農村人口率に落ち込 み,反面都市化率を高める結果となる。 これは,1970年野末から1980年代にかけて農村において農i業生産責任制が導入され,農家に家 族単位で農業を経営することが認められるようになって,労働生産性の上昇にともなう農業労 働力の余剰の発生とこれが都市人ロへの流入増加につながっていったとみられているものであ る(1)。この都市化の傾向は中国において今後とも進むと予想されるが,第1図に試算された単純 指数回帰曲線によれば,世紀末には5億4,100万人の規模に都市人口が増大し,45%の都市化率 を占めるであろうことが予想される。 第4図は,1982年人口調査による市・縣・鎮別人ロピラミッドを示したものである。市に加え 第4図 中国の市・縣・鎮別人ロピラミッド(1982年) 市 男 gg ± ,, 琴9 : 9き ζ9=瀦 99=§巷 葦9=28 含9=巷3 塁9=瀦 女 釜9=整 19二ら4 0−4 75 50 25 50 O (× 100)O 25 75 1,000人 90 十 男縣 85 一 89 80 一 84 75 一 79 70 一 74 65 一 69 60 一 64 55 一 59 50 一 54 45 一 49 40 一 44 35 一 39 30 一 34 25 一 29 20 一 24 15 一 19 10 一 14 5−9 1−4 0 25 50 0 0 50 25 (×1000)1,000人 鎮 90 十 女 男 85 一 89 80 一 84 75 一 79 70 一 74 65 一 69 60 一一 64 55 一 59 50 一 54 45 一 49 40 一 44 35 一 39 30 一 34 25 一 29 20 一 24 15 一 19 10 一 14 5−9 0−4 40 30 20 10 0 O 10 (×100)1,000人 20 30 40 (資料) 中国国務院人口普査弁公室,国家統計局統計司編r中国1982 年人口普査10%三巴資料』1983年11月。 中国の人口都市化と人口移動(1) 61 て町に相当する鎮からなる都市部と縣の大部分からなる郡部の人口構造の特質を読みとることが できる。市部と鎮部では35r》49歳および24〈・24歳の層に欠損が共通に認められるが,前者は1933 年から1947年までの戦前の状況を反映したものであり,後者は1958年から1962年に相当し大躍進 政策と農作物不作の時期に当っており,縣部を含めて全国的な現象といえる。もうひとつ特徴的 なのは,市部と鎮部では共通して14歳以下の層から人置ピラミッドがくつぼ型〉に転じている が,縣部ではタイム・ラグをおいて9歳以下の層からくつぼ型〉に転じている。しかも縣部では この転換が都市部に比べて急激に起こっている。1975年以降の都市化の急激な進展は,農村部よ り緩慢な出生率の逓減傾向(第2図および第3図)によるものとみることができる。この傾向は 第5図 中国の地域別老・少年人口比(1982年) (loolo) 4.68 (1−14歳) 4.oo 3.00 2.00 1,81 国 全1.2.3.4.5.6.7.8.9。10.11.12.13.14.15.16、17.18.19.20.21.22.23,2荏.25.26、27.28,29, (o/o) 7.43 7.00 6,00 5.00 4.00 3,00 2.69 全1.2.3.4,5.6.7.8.9.IO,ll.12.13,14.15.16.17.18.19.20,21.22,23.24.25.26.27.28.29. 上北天江河漸総山四湖由陳広湖吉河黒西内橿安甘広江新雲貴準急 国 龍 蒙 海京津蘇北江寧東川北西西東南林南江藏古建徴齋西西彊南州海夏 (資料)第1図と同じ。 62 中国の人ロ都市化と人口移動(1> 1983年および1984年においてもなお強く現れ(第1図),都市化率は今後一層の上昇が見込まれ る。 このような都市化の一方で,都市部で幼少二人口の割合が小さく,農村部で老年人口の割合が 相対的に大きく現れているのをみることができる。第5図は,省・市・自治区別に老・幼少詞人 Pの割合を示したものである。人口密集地域の黄河下工区(第1表)では65歳以上の人口が大き な割合を,そして1 r’14歳の幼少年人口が小さな割合(第5図)を占めており,これに反してそ 第1表 中国の地域別人口の変動(1933∼1983年) 省・市・ 全 1953年 (百万人) (百万人) 1982年 1933rw 1953N 53年年平 82年年平 (二人)均 1983年 │勒翻率 口 自治区別 1933年 前後 人 こ口密度 国1463・・4・159…75・,・3・・881・・2・巨・931…42・・95(莇人)1・・・… 1← − a7⋮& G1 Qン O 0 1 9自 00 ゾ 0 ーム 9臼 OJ 4 門D ρ0 7 ︵ 1 1← 1 11 1よ 一⊥ 京津北東南 寧林江 西西粛夏 海蘇徽西北南 江建湾東西 龍 北天河山河 遼吉黒 山陳甘寧 上江安江湖湖 漸福台広広 −← ワ臼 ∩Q ﹂4 ド0 2. 06 4. 14 9. 23 3. 53 2. 80 1, 50 2. 69 7. 76 2. 95 3. 73 7. 89 黄河下遊区 25. 00 36. 14 53. 00 1. 84 1. 31 54. 20 222. 98 37. 53 48. 88 74. 41 1. 32 1. 45 75. 64 32. 67 44. 21 74. 42 1. 51 1. 81 75. 91 16. 46 20. 56 35. 72 1. 12 1. 93 36. 29 遼吉黒区 8, OO 11. 29 22. 56 1. 73 2, 42 22. 70 92, 05 4. 66 11. 90 32. 66 4. 79 3. 55 33. 06 11. 56 14. 31 25. 29 1. 08 1. 99 25. 72 10. 63 15. 88 28. 90 2. 01 2. 09 29. 31 (1平方キロ当) 9. 34 5. 62 11. 59 19. 57 3. 68 1. 83 19, 88 0. 40 1. 94 3. 90 8. 21 2. 44 3. 98 416 8, 83 114 7. 56 89 25. 04 321 17. 46 259 162, 96 144 3. 14 12 O. 56 3 晋陳甘寧区 78. 89 /號 8. 50 11. 86 2. 69 3. 02 11. 94 38. 40 60. 50 1. 24 1. 57 61. 35 22. 43 30. 66 49. 67 1. 59 1. 68 50. 56 17. 56 16. 77 33. 19 −O. 20 2. 38 33, 84 26. 55 27. 79 47. 80 0. 24 1. 89 48. 35 30. 23 33. 23 54. 01 0. 48 1. 70 55. 09 20. 54 22. 87 38. 89 O. 54 1. 85 39. 63 14. 32 13. 14 25. 93 一 O. 43 2. 37 26. 40 東南沿海区 5. 00 7. 59 18. 27 2. ll 3. 08 18. 00 182. 11 33. 70 36. 74 59. 30 O. 43 1. 66 60. 75 11. 70 17. 59 36. 42 2. 01 2. 54 37. 33 24.四 川 52. 54 65, 68 99. 71 1. 12 1. 45 100. 76 川驕漢区 25.貴州 11. 29 15. 04 28. 55 1. 44 2. 24 29. 01 162. 96 26.雲 南 11. 79 17. 47 32. 55 1. 98 2. 16 33. 19 27.内蒙口 4. 50 7. 33 19. 27 2. 47 3. 39 19. 55 28.新 彊 2. 57 4. 87 13. 08 3. 23 3. 47 13. 18 29.青海 1. 31 1. 68 3. 90 1. 24 2. 94 3. 93 30.西 蔵 0. 80 1. 27 1. 89 2. 35 1. 38 1. 93 ︸ ︸ 5. 00 30. 00 ーム 9白 9屠 9臼 9倫 21. 38 飛騨区: 32. 73 区86 青 藏5 (資料) 胡燥庸r中国八大区人口増長,経済発展的過去及未来』華東師範大学出版社,1986年8月。 中園の人口都市化と人口移動1(1) 63 の他の人口密度の高くない地域や人口希薄な地域においては幼少年人口がその割合を大きくし, 老年人口がその割合を小さくしている。 注(1) 岡崎陽一著,「中国の人ローその出生率と都市化一」r人口問題研究』第174号,厚生省人口問題 研究所,1985年,lt’18ページ。 2.人ew都市化と人圓分布 つぎに,中国の地域別人口分布の状況は,第1表にみられるように,中国8大地区のうち,長 江中下遊区が6億6, 113万人,黄河下遊区が2億2,298万人,それぞれ総数の25.04%,21.38%を 占め,さらに前者が1平方キロ当たり321人,後者が416人の人口密度水準にあって後者の北京を 含む黄河下遊区が中国のなかでもっとも高い人口集積地域となっている。都市としては上海市の 人口が1982年の時点で1,186万人の大台に達し,北京市の人口が923万人を数えこれに迫ってる。 そして天津市が776万人の人口を擁し,世界的な大規模都市へと発展している。天津市は1953∼ 82年の30年間に平均3.73%,上海市は3.02%そして北京市は2.80%の年率で伸びてきている。巨 大人口国でこの規模の都市が生まれても不思議ではないが,これまでみてきたように国全体とし てはまだ農業人口が大部分を占め都市化の進展はかなり遅れているのをみてきた。このことを考 えるとき,このような一部に極度に偏した都市化は,発展途上国のつねとして当然今後大きな問 題を内包したまま進展していくであろうことが予想される。
© Copyright 2024 ExpyDoc