Prog. Med. 35(suppl. 1):401〜403, 2015 シンポジウム Ⅱ <アミオダロン注:毒薬指定から劇薬指定に変更となり何が変わったのか?> ICUにおけるアミオダロンの使用方法 岡島 正樹* 大半はICU入院時すでにアミオダロンを導入してい はじめに たが,27例はICUにて急変した際にアミオダロンを開 当院では2006年以降,集中治療部と救急部を兼務し 始した. ており,集中治療部では緊急時のみの対応の,主治医 中断例はQT延長 1 例,低血圧 2 例のみである.植 主体のいわゆる "オー プンフ ォ ー マ ッ ト" の集中治療 込み型除細動器 (ICD),両室ペーシング機能付植込み 室 (ICU) であった.しかし, 2009年に集中治療部と救急 型除細動器 (CRT─D) 植込み例を含め,53例が退院し, 部がぞれぞれ別部門となる二体制に変更となり,集中 22例が死亡した.残り 1 例は移植手術を施行した. 治療部専門の医師が主体となり,主治医と密に連絡を 心肺停止後に低酸素脳症を起こしてICUで低体温療 とりながら治療するいわゆる "セミクローズドフォー 法を行う症例があり,当ICUではこれまでに17例経験 マット" となった. している.その際にしばしばアミオダロンを使用し, 2011年には,病院の経営方針の変化に伴い,これま QTが著明に延長することが問題となることがある. であった高度集中治療室 (HCU) を廃してICU内に組込 以下で実例を紹介する. み,その結果,ICUは 8 床から22床まで増設された. この頃から, 当院のICU入院患者数が増加している. も 症例提示 ともとHCUにいた術後患者に加え,特に心臓血管外 症 例:51歳,女性.看護師. 科,循環器内科の術後患者をより積極的に受け入れる 主 訴:心肺蘇生後. ようになったためである.とりわけ,相対的に心臓血 家族歴:父親,父方叔父が心肥大を指摘されていた. 管外科入院患者が多い.当然のことながら,心臓専門 突然死の家族歴なし. 医,循環器専門医をICUスタッフに追加増員・配置し, 現病歴:2001年頃から肥大型心筋症, 脂質異常症, 高 ICU開設当初の倍以上の規模にまでなった. 血圧症を指摘され,近医に通院していた.2011年 5 月 勤務中,院内にて突然意識を消失し,周囲の看護師に 当院ICUにおけるアミオダロンの使用状況 より心肺停止が確認され,すぐさま心肺蘇生法が施行 2007年 7 月から2014年 6 月までのICUでのアミオダ された (bystanderCPR) .AED (自動体外式除細動器) ロン使用状況を調査したところ, 7 年間で76例にアミ にて 2 回除細動後,自己心拍再開し (約10分) ,当院搬 オダロンを投与していた. 送となった. 対象不整脈の内訳は心室頻拍/細動 (VT/VF) 67例, 身体所見:血圧109/65 mmHg,脈拍80回/分・整. 心房頻拍/発作性心房細動 (AT/PAF) 12例であった. SpO2100%,呼吸数40回/分.四肢冷感あり.低酸素脳 基礎疾患は,虚血 (37%) が最も多く,次いで心筋症 症を認めた. (21%) が多かった. 入院時血液検査所見:詳細を表 1 に示す.虚脱後の ため,CK195 IU/L,AST46 IU/L,ALT55 IU/Lと * M.Okajima:金沢大学附属病院集中治療部 増加していた. ──69(401)── Progress in Medicine Vol. 35 suppl. 1 2015 WBC 12,030/µL AST 46lU/L TG 259mg/dL Neu 45.9% ALT 55IU/L HDL─C 36mg/dL Eos 4.9% LDH 297IU/L LDL─C 137mg/dL Bas 0.7% Glucose 254mg/dL 43.8% ALP γGTP 351IU/L Lym 32IU/L HbA1c 5.9% 195IU/L Mon 4.7% CK BNP 688pg/mL RBC 503×104/µL Hb Ht 14.9g/dL 46.4% CK─MB 10.8% 1.1mg/dL T─Bil FT4 TSH 1.33ng/mL 2.06µlU/mL TP 7.1g/dL TroponinT <0.03ng/mL Platelet 25.6×104/µL Alb 4.6g/dL BUN 15mg/dL 心拍数 (回/分) 0.9mg/dL CRP 0.1mg/dL Na 144mEq/L pH 7.42 PT活性 88% K 3.6mEq/L PCO2 49.1mmHg (FiO20.4) HBs抗原 (−) Cl 101mEq/L PO2 132mmHg HCV抗体 (−) Mg 2.2mg/dL HCO3− 30.6mmol/L 650 600 550 500 450 400 350 300 体温(℃) Cr 60 40 6 QTc 581 577 457 403 3.8 K 4.2 64 4.6 4.1 心拍数 34 5月10日 5 4.5 3.5 46 アミオダロン 25 mg/時 38 36 34 体温 32 11時 14時 18時 20時 23時 7時 14時 18時 21時 23時 6時 5月9日 5.5 4 62 55 アミオダロン 急速投与 +50 mg/時 4.7 3.9 4.0 3.7 3.7 55 474 K(mEq/L) QTc(ms) 表 1 入院時検査所見 アミオダロン 25 mg/時 7時 10時 13時 5月11日 図 1 ICU入院後経過 画像所見:12誘導心電図;洞調律でQT時間延長は 改善したことから退院となった. 認めないが,ST低下,左軸変位を呈していた. 胸部X線;軽度の肺動脈拡張/うっ血を認めた.左室 上室性不整脈に対する治療の実際 駆出率45%.びまん性壁運動低下を認めた. 当施設では上室性不整脈 (AT/PAFなど) に対して 以上から,肥大型心筋症による無脈性VT/VFと診断 は,手軽に静脈内投与が可能な,超短時間作用型β遮 し,アミオダロン静注,大動脈内バルーンパンピング 断薬ランジオロールを選択する傾向にある. 法を施行した.低酸素脳症に対しては,低体温療法を 特に2011年以降,ICU入室患者の12%以上でランジ 施行した. オロールが使用され,外科系の医師で選択する傾向に ICU入院後経過 (図 1 ) :低体温療法 (34℃) を施行後, あった.救急医は,速やかに治療を開始し,患者の容態 QT時間が延長,徐脈となり,アミオダロンを中止し が速やかに回復するように努めるため,速効性の高い た.復温後,ICD植込み術を施行し,神経学的所見が ランジオロールを選択する傾向にあるのかもしれない. ──70(402)── 第19回アミオダロン研究会講演集 その有効性についてはYoshidaらが報告している1). 表 2 区分指定変更前後のアミオダロン使用状況 実際われわれも,敗血症患者に合併した上室性頻脈性 2007.7 不整脈に対してランジオロールを投与すると収縮期血 圧,cardiacindexに影響を与えることなく,短時間で 症例数 区分指定変更前後における アミオダロン使用状況の変化 61 15 VT/VF 55 (90.1) 12 (80.0) AT/PAF 9(14.7) 3(20.0) 虚血性心疾患 31 (50.8) 6(40.0) 心筋症 18 (29.5) 3(20.0) 感染症 3(4.9) 2(13.3) 基礎疾患 アミオダロンは2013年 6 月より毒薬から劇薬に区分 指定が変更になったが,それにあわせて当ICUでの使 用状況はどのように変化しただろうか. 2007年 5 月から2013年 5 月まで,および2013年 6 月 から2014年 6 月までの使用状況を比較したところ,一 月のアミオダロン使用頻度はともに約 1 人であり,変 化なかった.投与対象も,VT/VF例は変更前90.1% (55 例/61例) であ っ たのに対し,変更後80.0% (12例/15 例) ,またAT/PAF例は変更前14.7% ( 9 例/61例) ,変 更後20.0% ( 3 例/15例) とほぼ変化なかった.対象の基 弁膜症 2(3.2) 2(13.3) 血管疾患 3(4.9) 0(0.0) 早期再分極異常 0(0.0) 2(13.3) 先天性疾患 1(1.6) 0( 0 ) 電解質異常 1(1.6) 0( 0 ) その他 2(3.2) 0( 0 ) 不 明 2(3.2) 0( 0 ) ICUでの開始 20 (32.7) 7(46.6) 低体温療法 14 (22.9) 3(20.0) 中 断 礎疾患の内訳でも差は認めなかった. また,ICUでアミオダロン投与を開始した症例は変 更前32.7% (20例/61例) であったのに対し,変更後46.6 % ( 7 例/15例) と,若干増加傾向を示したが,その他, QT延長 1(1.6) 0(0.0) 低血圧 2(3.2) 0(0.0) 生存退院 43 (70.4) 10 (66.6) ICD/CRT─D植込み 9(14.7) 2(13.3) 死 亡 12 (19.6) 5(33.3) 移 植 1(1.6) 0(0.0) 誤投薬,過量投与 0(0.0) 0(0.0) 転 帰 変更前後であまり変化なかった (表 2 ) . 〜2014.6 対象不整脈 心拍数が低下することを確認している. 2013.6 〜2013.5 アミオダロン保管・管理の実際 実際の臨床現場では,区分指定変更の実感があまり ない.ICU常駐の薬剤師によれば,保管・管理方法が ほとんど変わっていないとのことである. 当然のことながら,毒薬指定の薬剤は施錠して管理 することが義務づけられている.通常,アミオダロン おわりに を保管している冷蔵庫には鍵がかけられ,ICU内で厳 上述のとおり,アミオダロンの区分指定が変更され 重に管理される.しかし,ICUは閉鎖空間で,スタッ ても,ICUにおける保管・管理方法に変更がないため, フ常駐,救急科と連動した24時間体制が求められると 医療従事者の意識もあまり変化なく,ICUにおけるア いった特殊な事情から,変更前から,法律で許容され ミオダロンの使用状況に大きな影響はないことが示唆 る範囲内で,施錠なしの管理となっていた.そのため, された. 区分指定変更後に鍵なしの冷蔵庫に移動しても,これ までと同様,あまり違和感なく使用することができ, 実感が伴わなかったのだと推察される. このようにICUならではの,緊急性を伴う現場では, 文 献 1) YoshidaY,TerajimaK,SatoC,etal:Clinicalroleand efficacyoflandiololintheintensivecareunit.JAnesth 2008;22:64─69. 保管・管理方法を,状況にあわせて工夫することが求 められているのかもしれない. ──71(403)──
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