TN447 電気化学的水素透過法による金属腐食反応中の水素

Technical News
●電気化学的水素透過法による金属腐食反応中の
水素モニタリング技術
TN447
Corrosion Monitoring of Metals by Electrochemical Hydrogen Permeation Measurements
[概要]
近年、地球温暖化防止の取り組みとして、製造業においては、鋼材の軽量化、高強度化が求められていま
す。鋼材を高強度化すると水素脆化感受性が高まるため、水素脆性を抑えた材料開発が必要とされています。
水素脆化を引き起こさないためには、材料内部に水素侵入しない材料が求められます。水素は高圧水素タン
クなどの水素環境以外に、通常の腐食反応でも容易に金属材料内に侵入し、それらが長年蓄積され、応力下
で欠陥生成を促し、水素脆化を引き起こします。ここで紹介する水素侵入を電気的に計測する水素透過電流
測定法は、in situ で鋼材への水素侵入を把握できるため、鋼材の耐水素脆性を評価できる有効な手法です。
[測定方法]
装置の模式図を図 1 に示します。試料は水素侵入側の電気化学セルと水素引出側の電気化学セルで挟みま
す。ここでは水素侵入側の電気化学セルには、腐食溶液を入れ、腐食反応で試料内に水素を侵入させます。
水素侵入側の電気化学セルでは、腐食時の試料の表面電位をポテンショスタット1で計測します。水素引出
側の電気化学セルには水酸化ナトリウム溶液(NaOH)を入れ、ポテンショスタット2で試料電位を一定電位
に制御し、透過した水素原子を酸化し(H →H++e-)
、水素イオンを水素透過電流として計測します。
参照極
ポテンショスタット1
腐食溶液
寒天
ポテンショスタット2
水素侵入側
水素引出側
試料(金属)
NaOH
参照極
対極
飽和 KCL
図1
装置の模式図
[測定事例]
鋼材の腐食溶液中での変化を捉えた事例を次に示します。
電流が安定した 20 時間後に、腐食溶液として 1 % NaCl 水溶液を滴下し、腐食の様子を上方よりカメラで撮
影すると共に、試料の表面電位の変化と水素透過電流の変化を計測し、図 2、図 3 に示しました。
腐食反応がはじまると同時に水素透過電流が増加していく傾向が見られ、水素透過電流は約 100 時間で最
大となり、その後低下しました。又、表面電位は約 105~110 時間で最小となり、その後増加しました。
腐食電位の低下はアノード溶解(Fe2+の増加)に起因していると考えられます。試料表面では、アノード溶
解に伴って、錆内部で水素イオンが以下の式 1 の反応で生じ、pH が低下すると考えられております 1)。 この
pH の低下は、水素侵入を促進すると考えられており 2)、水素透過電流を増加させている因子と捉える事が出
来ます。
この事例のように、本技術は、腐食に伴う表面電位の変化と水素浸入に伴う水素透過電流の変化を、経時
的かつ同時に追跡できる有効な手法であります。
Fe2+ + 2H2O → Fe(OH)2 + 2H+
2Fe2+ + 1/2O2 + 3H2O → 2FeOOH + 4H+
44 時間
21 時間
図2
(式 1)
100 時間
140 時間
鋼板を 1 % NaCl 水溶液に浸漬したときの腐食変化(水素侵入側より撮影)
図3
鋼板を 1 % NaCl 水溶液に浸漬したときの水素透過電流と表面電位
[参考文献]
1)T.Tsuru, Y.Huang, M.R. Ali and A.Nishikata: Corros. Sci., 47(2005), 2431.
2) 李 松杰, 秋山 英二, 篠原 正, 松岡 和巳, 押川 渡: Tetsu-to-Hagane, 99 (2013), 651.
作成:千葉事業所 (RO1501)4-SO-(49)
当社ホームページはこちらから:
http://www.scas.co.jp/
その他技術資料も用意致しております: http://www.scas.co.jp/analysis/