MGSSI Japan Economic Quarterly October 2015 (株)三井物産戦略研究所 国際情報部 実質国内総生産 マイナス成長に沈む 2005年価格、年率、兆円 550 4-6 月の実質 GDP は前期比 0.3%(年 率 1.2%)の減少となった。3 四半期ぶりのマ イナス成長に沈んだ主因は、輸出と個人消 費の不振だ。 財貨・サービスの輸出 1は前期比 4.4% の大幅減少となり、実質 GDP 成長率を同 0.8%pt(年 率 3.3%pt)押し下げた。特に、 財貨の輸出は前期比 5.0%の減少と、世界 金融危機後の 2009 年 1-3 月以来の減少幅 となった。輸 出 数 量 指 数によれば、地 域 別 では ASEAN 向けや NIEs 向けが、品目別 では電気機器や産業機械が大きく減少した。 個人消費は前期比 0.7%の減少となり、 実質 GDP 成長率を同 0.4%pt(年率 1.6% pt ) 押 し 下 げ た 。 消 費 税 率 引 き 上 げ 後 の 2014 年 4-6 月に前期比 5.0%と大幅に減少 した後、2015 年 1-3 月まで 3 四半期持続し た回復が途切れた。財とサービスに分けると、 財の減 少 幅が前期比 1.4%と、サービスの 同 0.2%を大きく上回った。エアコンディショ ナ等の家庭用電気器具、携帯電話、さらに 1 525 500 475 450 00010203040506070809101112131415 出所: 内閣府 衣類等が減少に寄与したと見られる。 民間企業設備投資は前期比 0.9%の減 少だった。日本企業の多くが決算期末を迎 える 1-3 月が膨らんだ反動と見られる。もっと も、設備投資の水準は、2015 年 1-3 月及び 2014 年 1-3 月に次ぎ 2009 年以降で 3 番目 の高さとなった。2015 年度の企業の投資計 画を調べた日本銀行の 集計結果(9 月時点)が 前年度比 8.4%の増加 となったこと等を勘案す ると、先行き設備投資 は 緩 やか な増 加 と な る と期待される。 住宅投資は前期比 1.9%の増 加 となった。 1-3 月の前期比 1.7% 増に続き 2 四半期連続 で増加した。すでに 2014 年 4 月の消費税 以下、GDP 需要項目の記述は特記のないかぎり全て実質。 1 率引き上げの影響は一巡している。住宅着 工 戸 数 は、相 続 税 対 策 を狙 った貸 家 の建 築が下支えとなり、4-6 月は分譲マンション の着工が伸びて 3 四半期連続の増加となっ た。ただし、その水準はすでに年率 95 万戸 を超えており、一段の高い伸びは期待しにく いが、2017 年 4 月の消費税率引き上げを控 えた着 工 が徐 々に始 まることも先 行 きの下 支えとなろう。 公共投資は前期比 2.1%の増加だった。 国の 2015 年度予算では投資関連経費が前 年度に比べ減少したが、発注の動向を示す 公共工事請負金額は都道府県や市区町村 が牽 引 役 となり増 加 している。国 土 交 通 省 が試算した建設業者の手持ち工事高も 6 月 まで増 加を続 けており、当 面 のあいだ公 共 投資は高水準を続けると見られる。 なお 、 財 貨 ・サ ービ スの 輸 入 は 前 期 比 2.6%の減少となった。自動車、ノートパソコ ン、携帯電話といった主要機械類や天然ガ スの輸 入 数 量が減少した。また、貿易収 支 は 7,693 億円の赤字と、1-3 月の 9,251 億円 から一 段 と縮 小 した。天然ガスの輸入価格 が前期に比べ 3 割程度の大幅下落となった こと等が寄与した。 の輸出の割合が低下している。米国の場合、 2012 年 1-3 月の 9.1%から 2015 年 4-6 月 は 8.0%に、EU の場合、2011 年 7-9 月の 4.5%から 2015 年 4-6 月は 3.6%に低下し た。 一 方で、新 興 諸 国では、景 気 の先 行 き に懸念が高まっている。試しに、OECD の景 気先行指 数を見ると、インドネシアは 2013 年 3 月から、中国も 2014 年 6 月から成長鈍 化を示唆する水準にある。中国、インドネシ ア、さらにタイの輸入数量は、最近でこそ反 発の兆しがあるものの、未だ低迷から脱し切 れていない。ちなみに、日本の 2014 年の輸 出額のうち、アジア向けが 54%と過半を占 め、うち中国向けは 18%だった。日本の輸 出の見通しは楽観できない。 貿易の不振は世界的現象 貿易の不振は、日本だけでなく、世界的 な現 象 となっている。世 界 貿 易 数 量 は、世 界金融危機が起きるまで年率 7%を上回る 速度で拡大したが、その後、2011 年以降は 同 2%程度の伸びまで鈍化した。2014 年下 期に一時回復の兆しがあったが、2015 年上 期になるとふたたび 2 四半期連続で減少し た。 この背景に、世界経済の成長鈍化があ ることは間 違 いない。もっとも、先 進 諸 国 で は、緩 やかながら経 済 成 長 が続 くにつれ、 輸入数量も持ち直しつつあるようだ。ただし、 米国や EU の輸入数量に占める、日本から 消費支出の所得に対する割合が低下 個人消費は 4-6 月に可処分所得の増加 にもかかわらず減少した。勤労者世帯(単身 世帯を除く)の収支の実態を調べる家計調 査によれば、4-6 月の名目消費支出は 1 カ 2 が価格の上昇で膨らんだように見える。2014 年 4 月の消費税率引き上げ後、10-12 月ま で食料の価格に大きな変化はなかったが、 2015 年 1-3 月は前期比 1.2%、4-6 月も同 1.4%の上昇となった。パン、パスタ、インスタ ントコーヒー、カレー、トマトケチャップ、食用 油など、多くの商品で値上げの報道が相次 ぎ、また天候不順が響き野菜の高値が続い た。スーパーマーケットの販売情報システム を使 い集 計 する東 大 日 次 物 価 指 数 でも上 昇率が高まっている。食料向け支出は名目 消費支出の 2 割程度を占めるうえ、日常生 活 で欠 かせない基 礎 的 な商 品 が多 い。家 計が生活防衛の意識を強め消費支出に慎 重になったと考えても、あながち間違いでな いだろう。 家計が直面する物価の上昇は、しばらく 続きそうだ。たとえば、飲食料品製造業の場 合、原材料等の投入物価が 2012 年 10 月 から 2013 年 5 月の 7 カ月間に 5.9%上昇し たが、産出物価は 2015 年 8 月までの 2 年 10 カ月間で 1.6%上昇したにとどまる。2015 年になると上昇率が年率 2%近くに加速して いるが、まだコスト上昇の転嫁は十分に進ん でおらず企業は引き続き値上げに取り組む 月あたり 31.8 万円で前期比 0.8%の減少と なった。一 方 、可 処 分 所 得 (収 入 から税 金 や社会保険料等を除いたもの)は 1 カ月あ たり 43.1 万円で前期比 0.5%の増加だった。 このため、可処分所得に対する消費支出の 割 合 ( 消 費 性 向 ) は 73.8 % と 前 期 に 比 べ 1.0%pt 低下した。 一 般 に、なんらかの理 由で消費 意欲が 減退すると、可処分所得に対する消費支出 の割合(消費性向)が低下する。もっとも、消 費者意識を尋ねる代表的な調査を見るかぎ り、心理が大きく悪化した様子はない。日経 平均株価は 4 月下旬に節目となる 20,000 円を回復した後、8 月下旬に上海市場を発 端とする世界的な株価の調整が起きるまで 高 値 圏 にあった。失 業 率 や有 効 求 人 倍 率 は雇用市場が引き続き引き締まった状態に あることを示している。 一方で、収入や可処分所得の伸びの加 速感は乏しい。全国約 3 万事業所を対象に 給与水準を尋ねる調査では、4-6 月は前期 比 0.1%の増加となった。消費者物価は前 期比 0.4%の上昇となっており、給与の伸び が物価の上昇に追いついていない。 家計調査によれば、特に食料向け支出 改善 消費者心理 50 前年同日比 改善 東大日次物価指数 2.0% 130 1.5% 1.0% 0.5% 40 0.0% 140 -0.5% -1.0% -1.5% 消費者態度指数(左目盛) 30 悪化 生活不安度指数(右目盛) -2.0% 150 悪化 -2.5% 2010 2011 2012 2013 20142015 注: 生活不安度指数は隔月調査のため、補間のうえ季節調 整を実施 出所: 内閣府、日本リサーチ総合研究所、戦略研 2010 2011 2012 2013 2014 2015 注: 税抜価格。過去1週間の平均 出所: 東大日次物価指数プロジェクト 3 ことになるだろう。 もっとも、先行きも個人消費の減少が続 くとは考えにくい。収入や可処分所得、ある いは給与の伸びは期待外れとなっているが、 決して減っている訳ではない。一方で、2014 年 下 期 に原 油 価 格 が下 落 した恩 恵 が、遅 れて波 及してきた。家計のエネルギー関連 の支 出 は、1 月 の 31,808 円 から 7 月 は 20,532 円となり、季節性があるとはいえ、ほ ぼ 3 年ぶりの水準に低下した。また、日経平 均株価が 2014 年は平均で 15,460 円だった ことを鑑 みれば、引 き続 き相 応 に株 高の水 準にあることに変わりはない。そもそも、たと え価格が上昇したとしても、食料といった日 常生活に欠かせない品の買い控えを続ける ことは難 しい。高 い伸 びとはならないかもし れないが、個人消費は緩やかに増加すると 期待していいだろう。 分(調査時点は 8 月末)の集計で前年度比 1.1%となり、7 月公表分の同 1.7%から大き く低下した。もっとも、7-9 月以降の予測を四 半期ごとに見ると、年率で 1.7%程度の成長 に回帰するとの見方となっている。従来と大 きく変わらず、すなわち、エコノミストの多くは、 4-6 月の落ち込みを一時的なものと看做した ことになる。 輸出の予測は平均で前期比 1.3%(年 率 5.5%)程度、個人消費も同 0.4%(年率 1.8%)程 度 の伸 びを見 込 んでいる。だが、 共に楽 観 的 な印 象 は否めない。たとえば、 先行き輸出が横ばいとなった場合、2015 年 度の実質 GDP 成長率は前年度比 0.8%程 度となる。また、やや厳しめの想定となるが、 個人消費が先行き横ばいとなった場合の実 質 GDP 成長率は同 0.7%程度となると試算 される。まだ 2015 年度に日本がマイナス成 長に陥る可能性は低いものの、現時点の見 通しから一 段と低 い成長となる可 能性には 留意する必要がありそうだ。 2015 年度はプラス成長となる見込みだが 民間エコノミストの予測を集計する ESP フォーキャスト調査によれば、2015 年度の実 質 GDP 成長率の予測の平均は、9 月公表 (主任研究員 鈴木雄介) 4
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