第1章 本研究の趣旨 - 経済社会総合研究所

第1章
本研究の趣旨
1 .1 本 研究の目的
経済社会の発展度合いを測る指標として、これまで国内外において、GDP を補完す
る新たな指標の開発に向けた試みがなされてきた。我が国では、平成 23 年 12 月に内
閣府に設置された「幸福度に関する研究会」が、今後の議論・検討の出発点として、
「幸
福度に関する研究会報告―幸福度指標試案―」を取りまとめた。同試案では、主観的幸
福感を上位概念として、「経済社会状況」
、
「心身の健康」
、
「関係性」を3本柱とすると
ともに、別途、「持続可能性」の項目を立て、将来世代の幸福感にも配慮した指標の方
向性が打ち出された。
これを踏まえ、本学では、昨年度、内閣府経済社会総合研究所から「幸福度指標の持
続可能性面での指標の在り方に関する調査研究」を受託し、幸福度指標群における持続
可能性面を測る指標についての検討を行った。同調査では、統合指標と個別指標群のそ
れぞれの形式に沿って、考え得る具体的な指標の選択肢を提示するとともに、今後の課
題として、国際貿易の存在を前提として日本社会が地球規模の持続可能性に与える影響
を測る指標の検討を掲げた。
ところで、生産過程が網の目のように地球全体に張り巡らされた現代世界において、
人々は自国にいながらも、地球の裏側の水や土や森の恩恵を受けて暮らしている。こう
した国境を越えた資源利用やそれに伴う環境への負荷を、我々はどのように捉え、どの
ように測定するべきなのだろうか。温室効果ガスの排出を例にとれば、国外に輸出され
る財の生産のために国内でガスが排出されることもあれば、逆に国内で消費される財の
生産のために、輸出元の国でガスが排出されることもある。また、我々が消費する財は、
国内の資源や海外から直接運んできた資源だけでなく、他国にある資源を現地で利用し
て生産されており、それが生態系の破壊や劣化を引き起こしている場合もある。各国が
地球規模ないし他国の持続可能性に与える影響を評価するに当たっては、こうした国際
貿易を通じた環境負荷をめぐる国家間の相互関係を勘案することが必要である。
近年、国際貿易に体化(embodied)した環境負荷を評価し、地球規模での資源利用
の効率性や公平性、汚染の責任のあり方などを問い直す動きが広まっている。また、そ
のために、バーチャル・カーボンやバーチャル・ウォーターなどの新たな指標を構築し、
持続可能性の評価に活用する取り組みも増えてきている。
そこで、本調査研究では、国際貿易の影響を勘案した持続可能性指標の在り方につい
て、最新の動向を把握・整理するとともに、それらを検討・吟味した上で、我が国の幸
福度指標群や持続可能性指標群の一部として採用すべき具体的な指標の推計手法を提
案する。また、実際にいくつかの種類の環境負荷について例示的な推計・分析を行う。
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1 .2 報 告書の構成
以降、本報告書は3つの部分から構成する。次章では、貿易や消費に体化した環境負
荷を測る指標の例をいくつか提示した上で、これと密接に関連した概念として消費ベー
ス指標と生産ベース指標の定義付けを行うとともに、消費ベースと生産ベースを峻別し
て考えることの意義や含意について述べる。第3章では、貿易や消費に体化した環境負
荷を測る指標の推計手法について、先行研究を整理しながらいくつかの選択肢を示した
上で、特に、国や産業のレベルでの環境負荷を評価するのに適した手法として、多地域
間産業連関モデル(multi-regional input output model: MRIO model)について詳細
に論じる。第4章では、国際貿易分析プロジェクト(Global Trade Analysis Project:
GTAP)のデータベース等を用いて、実際に MRIO モデルを構築し、水資源、土地、
CO2 排出量についての指標の推計を行い、推計結果を分析する。第5章では、推計の過
程で浮かび上がった課題について論じる。
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