第3章 美術館における幼児期の鑑賞体験の意義と 望ましい援助 概 要 本章では、研究の総括として、第2章での事例研究をもとに、美術館における幼児期の鑑 賞体験の意義と、幼児が美術館で鑑賞する際の望ましい援助について、総合的に考察する。 第1節では、美術館における幼児期の鑑賞体験の意義について論述する。美術館には、建 築物として固有の要素がある。それらは、保育施設や家庭で創出できるものではなく、幼児 は美術館固有の雰囲気の中で独自のものを学ぶ。美術館固有の要素には、キュレーションが 含まれる。キュレーションは、展示を構成するために必要なものだが、他者の意図でもある。 自己の経験と想像により物事を理解する幼児は、他者の意図に関わらず鑑賞することができ、 幼児期に鑑賞する意義がある。また、美術館には原作品が展示されている。原作品には、原 作品にしか持ち得ない要素があり、それらに幼児期に触れることも意義がある。 第2節では、幼児が美術館で鑑賞する際の望ましい援助について考察する。幼児対象プロ グラムを、[1]相互の応答、[2]思考、[3]想像、[4]体を使う、[5]友達との共有・協力、の観 点から再度確認する。その結果、援助は[1]幼児が美術作品や美術館と、遊びににより多様な 仕方で応答し合えるもの。その応答の中で[2]思考を巡らすことができるもの[3]想像力を発 揮できるもの[4]体を使うもの[5]友達と共有・協力できるものが望ましいことが分かる。具 体的方法としては、言語表現、造形表現、身体表現などへの幼児による他表現形態への転換 と、直接体験的及び想像体験的な演出による体感が有効である。 第3節では、美術館における幼児期の鑑賞の普及と研究の今後の課題について論述する。 普及のために、保育者養成段階において幼児の美術館利用と鑑賞の意義を理解し、望ましい 援助方法を知ること、美術館職員が同じく意義と援助方法を知ることを提案する。今後の課 題として、幼児の発達と鑑賞の援助の関連についてより詳細な研究をすることなどを挙げる。
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