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要旨
本研究では、国際貿易を通じた環境負荷の指標化に向けた検討に資するため、候補と
なる各指標の意義や推計手法を整理・提案した上で、実際にいくつかの種類の環境負荷
について、指標の例示的な推計・分析を行った。
具体的には、第1に、貿易や消費に体化(embodied)した環境負荷を測る指標の例
をいくつか提示した上で、これと密接に関連した概念として消費ベース指標と生産ベー
ス指標の定義付けを行うとともに、これらを峻別して考えることの意義や含意について
総論的な検討を行った。第2に、貿易や消費に体化した環境負荷を測る指標の推計手法
について、先行研究を整理しながらいくつかの選択肢を示した上で、特に、国や産業の
レベルで国際貿易に体化した環境負荷を評価するのに適した手法として、多地域間産業
連関モデル(MRIO)について詳細な検討を行った。また、消費ベース指標や生産ベー
ス指標だけでは把握できない個別国どうしの環境負荷を巡る相互関係を評価する手法
を提示した。第3に、GTAP(国際貿易分析プロジェクト)のデータベース等を用いて、
実際に MRIO モデルを構築し、水資源、土地、CO2 排出量についての例示的な指標の
推計と分析を行った。
推計の結果、例えば以下の事項が明らかになった。
a)水資源

生産ベース水利用量の上位国では、食用穀物(小麦、米)の生産のため
の水利用のほか、牧草地でのグリーン・ウォーター利用、油糧種子や飼
料用の大豆栽培、アブラヤシやカカオ豆や天然ゴムなど作物要水量
(CWR)が大きな商品作物のための水利用が大きい。

生産ベース水利用量(一人あたり)は、水賦存量や気候条件などの物理
的条件の違いも反映して国・地域間のばらつきが大きくなるが、バーチ
ャル・ウォーター(VW)貿易の結果、消費ベース水利用量は世界全体で
平準化されている。

日本は、自らの消費のために、自国での水利用量の 10 倍以上の水を国外
に依存している。これは人口 2,000 万人以上の国では群を抜いて大きく、
その結果、日本は世界最大の VW 赤字国となっている。

日本は、自国での水利用量の 96.8%を自国の消費のために使う一方で、
自国の消費に体化した外国での水利用は、アメリカ、中国、カナダ、オ
ーストラリアなどの国に分散している。

インドと中国は、現在のところ、8割〜9割の水を自らまかなっている
が、両国の水ストレスは、気候変動や人口・消費の増加とともに急速に
悪化することが予想され、今後の動向を注視する必要がある。
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b)土地

生産ベース土地利用面積の上位国は、インドとロシアとナイジェリアを
除き、土地利用に占める牧草地の割合が 7 割を超えており、牧草による
畜産が巨大な土地利用面積の原因となっている。

生産ベース土地利用面積(一人あたり)は、国土面積や気候条件などの
物理的条件の違いも反映して国・地域間のばらつきが大きくなるが、バ
ーチャル・ランド(VL)貿易の結果、消費ベース土地利用面積は世界全
体で平準化されている。

日本は、自らの消費のために自国での土地利用面積の 27 倍以上の土地を
国外で使っている。これは人口 2,000 万人以上の国では群を抜いて大き
く、その結果、日本は世界最大の VL 赤字国となっている。

日本は自国での土地利用面積の 96.8%を自国の消費のために使っている
が、自国の消費に体化した土地利用面積の半分以上をオーストラリアに
依存している。
c) CO2 排出量

中国は、
“世界の工場”としての位置付けを反映して、消費に体化したエ
ンボディド・カーボン(EC)の最大の純輸出国になっている。

附属書Ⅰ国に属する国々は、世界の生産ベース排出量の約 50.5%を占め
ているが、消費ベースで換算すると 55.9%に増加する。これは、附属書
Ⅰ国から非附属書Ⅰ国に対して、世界の排出量の約 5.5%にあたる量が、
EC として純輸出されていることを示している。

個別国で見ると、アメリカの構成比は世界の 21.4%から 23.4%に、EU
の構成比は世界の 13.1%から 16.9%に、日本の構成比は 4.6%から 4.9%
に増加する。それに対して、中国の構成比率は 21.4%から 16.8%に、イ
ンドの構成比率は 5.3%から 5.1%に下落する。

したがって、2020 年以降の新枠組において、各国の排出削減目標を京都
議定書と同じく生産ベースで捉えるのか、あるいは消費ベースで捉える
のかによって、先進国・途上国の負担の比率は大きく変わってくる。
最後に、推計に関する今後の課題として、1)データベースの選択の問題、2)原単
位の改善方法、3)指標への地域性の反映方法について論じた。
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