「所得税法等一部改正案」に対する討論

「所得税法等一部改正案」に対する討論
平成 27 年 3 月 31
民主党・新緑風会
礒﨑 哲史
民主党・新緑風会の礒﨑哲史です。
会派を代表し、ただいま議題となりました政府提出の「所得税法等の一部を改正する法律
案」に反対の立場から討論を行います。
我が国は、少子高齢化、巨額の財政赤字という難問を抱えています。これらを解決するに
は、与野党の垣根を越え、国家、国民のために知恵を結集しなければならない、何としても
持続可能な社会保障制度の確立と、それを支える財源を確保する「社会保障と税の一体改革」
を成し遂げなければならない、という共通の認識が、3 党協議を支えてきたのだと理解して
います。
しかし、安倍政権は、こうした高い志しを引き継いだにもかかわらず、消費税率引上げの
延期について、3 党での協議の場に報告することすらせず、対応は極めて不誠実でした。
更に、一体改革に際し国民と約束した議員定数削減は 2 年たった今も前に進んでいません。
国民に消費税増税という負担をお願いする代わりに、政治家も痛みを伴う改革を実行すると
の約束は果たされないばかりか、今国会は前回に引き続き、政治と金の問題を取り上げざる
を得なくなりました。政権与党、ましてや補助金交付に影響を及ぼす閣僚が補助金交付先か
ら資金を得たのでは、政策決定や予算執行に疑念を持たれるのは当然です。既に七名もの大
臣が政治と金の問題で辞任している安倍政権だからこそ、事の重大性を深く認識し、過去に
問題となった事案の当事者に対しても、真相究明、説明責任を果たすことを強く求めます。
それでは以下、本法律案に反対する理由を具体的に申し述べます。
第一に、消費税引上げの際の景気判断条項を削除することです。
安倍総理は、「消費税率引き上げを確実に実施するための経済状況をつくり出す」決意だ
と答弁されました。しかしその一方で「経済は生き物だ」とおっしゃる。さらにリーマンシ
ョックなど大きな経済的事情があれば別との見解を示されています。景気判断条項を削除す
ると言いながら、先送りについての可能性を否定しないという、明らかに矛盾する総理の発
言は、国際社会や市場の信頼に結びつくとは到底思えません。
決意だけで変更できてしまうほど、法改正や政治判断は軽いものなのでしょうか?
第二に、逆進性対策の問題です。
1
消費税引上げに伴って、所得の少ない家計ほど消費税負担率が高くなるという逆進性につ
いては、今回の法案でも方向性すら示されておりません。
複数税率については、購買力の高い高額所得者の方が、負担軽減額が大きくなるという問
題があります。食料品を対象とするだけでも、3 兆円もの財源が必要となり、財源確保のた
めにはさらなる増税が必要、対象品目の選定が利権に結びつきやすい、事業者の事務負担が
大幅に増えるといった問題も避けられません。
必要な世帯にだけ消費税の負担を払い戻す、給付付き税額控除の方が逆進性対策として優
れているということは、多くの専門家が指摘するところです。
民主党は、税制抜本改革法 7 条の規定に基づき、給付付き税額控除について政府部内で検
討した会議の資料を財務省に請求しました。出てきた資料は、昨年 6 月の政府税制調査会の
議事録だけです。その中においても、給付付き税額控除が逆進性対策として有効と指摘され
ています。税制抜本改革法 7 条の規定通り、複数税率とともに、給付付き税額控除について
も適切に検討を行うことが、政府・与党の責任です。
第三に、成長戦略に反する法人実効税率引下げです。
企業の国際競争力や産業の空洞化防止などのため、その必要性を否定するものではありま
せんが、大企業は各種措置などにより、実質的な法人税負担率が低くなっている中で、一律
に法人税の引き下げ等を行うことは、疑問と言わざるを得ません。
今般、野党6会派共同にて「法人税法の一部を改正する法律案」を提出した理由は、大企
業の納税実態を明らかにし、法人税に関する議論を活発化させるためであり、当然の対応で
あると考えます。
また、今回の政府改正案には、成長戦略に反する不適切な代替財源の確保が含まれていま
す。研究開発税制の圧縮や受取配当の益金不算入割合の縮小は、国内産業の成長に悪影響を
与えます。何よりもマイナスなのは、外形標準課税の付加価値割に対する税率引上げです。
付加価値割の大半は賃金であり、付加価値割の税率を重くするということは、すなわち雇用
を抱えた企業への増税を意味します。とりわけ中小企業への影響は甚大であり、企業の収益
増を賃金上昇に繋げる経済の好循環という、政権の掲げる目標と矛盾いたします。
第四に、自動車関係諸税の問題です。
言うまでも無く、自動車は特に地方において生活の足であり、国民生活に直接かかわるも
のです。しかし、自動車取得税は消費税導入時には整理されず、26年間にわたって二重課
税の問題が放置され続けてきました。同様に、自動車重量税において、今から41年前、昭
和49年に2年間の約束で導入された暫定税率は、その後、情勢変化などの時代背景を理由
に35年間、増税と延長の歴史を繰り返してきました。そして、平成21年、道路特定財源
の廃止時にも整理されることなく、いまも自動車ユーザーに過度の負担をかけ続けています。
そのため、民主党は、自動車取得税の廃止、自動車重量税の当分の間の特例税率の廃止な
ど車体課税の抜本見直しを求めてきました。しかし、今回の改正案は、抜本見直しを先送り
2
し、軽自動車については26年度税制改正の際に講じた措置のまま増税、また二輪車につい
ては新車購入時だけで無く、保有車にも増税する極めて不公平な税制の見直しを行わず、1
年の延長を実施するだけというものになっております。とても自動車ユーザーに理解を得ら
れる内容ではありません。
また、ユーザー負担の重課は個人消費に対してマイナス要因となり、経済政策とも矛盾し
ます。
第五に、格差是正に対する視点に欠けていることです。
大きな格差は、不利な状況に置かれている個人の教育機会を奪い、技能開発を妨げるため、
労働生産性の足を引っ張り、中長期的な成長に悪影響を及ぼすとOECDも指摘しています。
格差是正と経済成長は二律背反ではありません。そうした観点から税制を検討していくとい
う姿勢に欠けていることは問題です。
第六に、医療・介護等の控除対象外消費税の問題についても、国民に良質な医療を提供す
る観点などから、早急に解決策の提示を求めてきましたが、未だ案が示されていないことで
す。
以上、政府の税制改正案は、経済の観点からも、国民生活を守る観点からも、国民に理解
を求める観点からも落第点と言わざるを得ません。
最後に、民主党は、
「生活者」
「納税者」
「消費者」
「働く者」の立場に立ち、生活の場であ
る地域の再生を出発点として日本の再生に取り組むことを国民の皆様にお約束し、私の討論
といたします。
3