日本銀行政策委員会審議委員の同意人事に関する反対討論

日本銀行政策委員会審議委員の同意人事に関する反対討論
平成27年2月25日
民主党・新緑風会
大久保 勉
民主党・新緑風会の大久保勉です。私は、会派を代表しまして、ただいま
議題となりました日本銀行政策委員会審議委員の同意人事に対して反対の立場
で討論を行うものです。
その理由を申し上げる前に、今回の同意人事に関連して政府に一言、苦言
を申し上げたいと思います。
今回の日銀審議委員の同意人事は、政府より2月4日の議運理事会に提示
される予定でした。ところが日経新聞朝刊が、
「日銀審議委員に原田氏を起用へ」
とすでに報道していました。
世耕内閣官房副長官は、
「一部マスコミに報道されたことは遺憾であり、今
後関係者に対して情報漏洩がなかったか、否かを調査する。」と釈明し、13日
の議運理事会で「事前に情報を知り得た政府内の関係者16名及び候補者本人
に対して行った聞き取り調査では、報道関係者や第三者への情報提供や情報漏
洩の事実は確認できなかった。」と報告しました。
一部マスコミにすっぱ抜かれて遺憾と言いつつ、聴き取り調査では原因が
分からないとすれば、政府の情報管理に大きな疑問符が付くといわざるを得ま
せん。そもそも政府の情報管理の不徹底は今回に限ったことではなく、過去に
も日銀同意人事の事前報道がなされています。
「安倍政権は、自分たちに都合の
悪い情報は、特定秘密保護法を盾にとり秘匿する。」との批判を耳にしますが、
先ずは政府内の関係者の情報管理を徹底することが「美しい国」の政府のあり
ようではないのでしょうか。
更に同意人事の根幹に関わる問題が発生しています。これは2年前の3月
15日に参議院本会議で行われた岩田日銀副総裁の同意人事の採決に関連する
ものです。岩田氏は、10日前の衆議院議運委員会の場で、
「2年後の春、消費
者物価の上昇率が2%にならなかったら辞任する。」という決意を表明されまし
た。最も公式な場といえる国会に出席して、同意人事の判断に関わる決意を述
べられたのですから、相当の覚悟がお有りになったのでしょう。
同意人事の結果は、投票総数220、賛成124、反対96の賛成多数で
同意されました。賛成会派には、自民党、公明党の与党のみならず、みんなの
党や日本維新の会等野党の一部も加わりました。
その岩田日銀副総裁は、本年2月4日の仙台市内での記者会見の席上、
「2%の物価目標の達成時期は、2015年4月には間に合わない。しかし説
明責任を果たせば辞任は不要である。」との趣旨の発言をされました。
アベノミクス一本目の矢の目標達成に期待していた人にとって、岩田日銀
副総裁の変節は、落胆に値する事柄と思われます。しかし今回の問題はそこに
留まるものではありません。国会での決意表明が簡単に撤回されるのであれば
何を信じて同意人事の判断を行うべきか、説明責任を果たせば辞任は不要とい
う本人の判断は妥当なものであるか、以上の二点に関しては、今日は問題提起
にとどめて、今後の国会での議論に委ねたいと思います。
それでは、今回の同意人事に反対する理由を述べたいと思います。原田氏
は日銀による積極的な金融緩和の必要性を主張してきた所謂「リフレ派」で、
前述した岩田副総裁との共編著もある方です。
第一の反対の理由は、
「日銀が国債を買えば政府債務を減らすことができる」
と主張されている点です。これは財政ファイナンスの容認ともとれる主張です。
確かに、政府と日銀の統合バランスシートでみれば、日銀が国債を全部買えば、
政府債務は日銀の資産ですから、連結すれば相殺されます。しかし、日銀の負
債、すなわち日銀券と準備預金という民間資産は相殺されません。
仮に新円切り替えで今の日銀券を無効にしたり、準備預金を封鎖したりす
れば、日銀の負債は消せますが、それは民間銀行をはじめとする民間資産の全
額毀損を意味します。そのことは「物価の安定を図ることを通じて国民経済の
健全な発展に資する」という日銀の基本理念に反することは言うまでもありま
せん。
第二に、原田氏は、本年1月の朝日新聞のインタビューで、
「仮に日銀が物
価目標を達成して、国債を買う量を減らせば、日銀が持っている国債価格も理
論的には含み損を抱えます。財務の健全性は大丈夫ですか。」との質問に対して、
「日銀は国債を、コストをかけずにただで買っている。10兆円分の国債を購
入して、仮に2割損しても、もうけは8兆円ある。」との回答をしています。
複式簿記で日銀の会計処理を行えば、そのような打ち出の小槌的手法が不
可能ことは、明白です。日銀法第23条では、
「審議委員は、経済または金融に
関して高い識見を有する者、その他の学識経験のある者のうちから、任命され
ること」とされておりますが、安倍政権はどのような基準で候補者の選定を行
っているかはなはだ疑問です。ただ単に「リフレ派」で、
「総裁、副総裁等執行
部に楯突かない人」ということであれば、安倍総理のお友達人事ではないでし
ょうか。
第三に、原田氏は、著書『「大停滞」脱却の経済学』の中で、国債価格の下
落に関連して、
「貸出をせず国債ばかりもっている銀行は、日本経済のためには
役に立っていない銀行である。そのような銀行が破綻しても日本経済になんの
マイナスにもならない。むしろ、このような銀行が破綻することこそが最大の
構造改革である。」と述べられています。
日銀法第1条では、
「日銀は、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決
済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする」こ
とが規定されています。すなわち、日銀は物価の安定だけでなく、金融システ
ムの安定にも同等の責任を有するのです。そのため金融機関の考査等を担う金
融機構局は総勢300名以上の大所帯となっています。更に日銀法第21条で
は、審議委員は日銀の役員であると規定しており、中央銀行業務について運営
の責任の一端を担うとしています。その審議委員が、
「国債ばかり持っている銀
行の破綻こそが、最大の構造改革」という持論では、金融機構局の運営や金融
システム安定に大きな障害をもたらすことになるでしょう。
最後になりますが、今回の同意人事の採決に当たり、
「日銀の信認」並びに「円
の価値」が暴落することにならないように願うとともに、与党の皆さんにおか
れましては今回の同意人事を無批判かつ自動的に同意するだけでことが足りる
か、再考をお願いして、私の反対討論を終わります。
ありがとうございました。
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