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衝撃音と衝撃超低周波音*
中野有朋(中野環境クリニック)
衝撃音とは、例えば、バーンと聞こえる衝撃波である。衝撃超低周波音とは、無音で窓
や戸をゆらす、聞こえない衝撃波である。いずれも急激な大気の圧力変化によって発生す
る。以下は、衝撃音低減対策に関し、その発生条件についての、ある大手メーカからの、
依頼により、検討した結果である
1.単発衝撃波の周波数スペクトル
衝撃波、すなわち大気が単発波形の圧力変化を起こした場合、その周波数スペクトルは、
波形のフーリエ変換から、連続スペクトルになることが知られている。
幾つかの単純な単発波形について、フーリエスペクトルレベル A f  を求めた結果を図 1
に示す。  s は衝撃波の継続時間、 Pm Pa は音圧である。
図の横軸から、いずれの衝撃波においても、その継続時間の長さによって、周波数成分
は変わる。継続時間が長くなると低周波成分、短くなると高周波成分が主となる。
例えば、(a)の矩形波の場合、   0.2 sとすると、
4


4
 20 となるので、横軸の周
0.2
波数範囲は 0~20Hz となり、この衝撃波の周波数成分は、ほぼ 20Hz 以下の超低周波音とな
り、聞こえない衝撃波、すなわち衝撃超低周波音となる。これに対して、   0.01 sとな
ると、横軸の周波数範囲は 0~400Hz となり、100Hz より低い低周波成分が強く聞こえる衝
撃波、すなわち衝撃音になる。 が小さくなるにつれてさらに、高周波成分の強い衝撃音に
なる。衝撃波の 1Hz あたりのピーク音圧レベル、すなわちスペクトルレベルは次式で求め
られる。
Lp  20 log
A( f )
2  105
㏈
(a)の矩形波で、   0.2 s の場合、2Hz の音圧レベルは、 A f   2 Pm 
  0.2 s、f  2 Hz とおいて、Lp  20 log
sin f
f
に、
Pm 
㏈となる。Pm  1 Pa とすれば、Lp  84
2  105
㏈となる。
2.実際に近い衝撃波の周波数スペクトル
実際に観測される衝撃波は、上記と異なり、図 2 中に示した波形に近い形状になる。
これらにつても同様に、波形のフーリエ変換から周波数スペクトルを求めると、図中の
*Impact sound and impact infra-sound
Aritomo NAKANO(NAKANO Environmental Clinic)
1
(a)
、
(b)
、
(c)式及びこれらを図示した各曲線が得られる。
図の縦軸の
Pf
Pm
は、波形の音圧振幅 Pm Pa と周波数 f Hz の周波数成分の音圧振幅 Pf Pa
との比、横軸は 2f ( :波形の継続時間 s)である。
 が決まると、横軸は周波数を表す。たとえば   0.1 s とすると、横軸の周波数範囲は
0~20Hz となる。そして、例えば(a)の衝撃波の場合は、およそ 6.1Hz の成分を主成分と
する衝撃超低周波音となる。聞こえない衝撃波である。
その音圧レベルは、 Lp  20 log
Pf
Pm
Pf
2  105
㏈
となり、 Pm  1 Pa とすると、縦軸から
 3.2 であるから、 Pf  3.2  1  3.2 Pa となり、 Lp  20 log
3.2
 104 ㏈となる。
2  105
また、   0.01 s とすると、横軸の周波数範囲は 0~200Hz となる。そして、この場合は
およそ 51Hz の成分を主成分とする衝撃音となる。聞こえる衝撃波である。その音圧レベル
は、上記と同じく、 Pm  1 Pa とすると、104 ㏈となる。周波数が異なるだけである.
今までの、測定、調査結果によると、新幹線のトンネル出口付近の、無音の窓や戸の揺
れ、爆音のしない爆発などは、継続時間の長い衝撃波による衝撃超低周波音によるもの、
工事現場の発破による衝撃音やジェット戦闘機のいわゆるソニックブーム、また身近の各
種衝撃音は継続時間の短い衝撃波による、聞こえる衝撃音である。
3.結言
衝撃波が聞こえる衝撃音になるか、聞こえない衝撃超低周波音になるかは、衝撃波の継
続時間によってきまる。衝撃波の形状によるが、継続時間がおおよそ 0.2 秒より長い場合
は、超低周波成分が主となり聞こえない衝撃超低周波音となる。0.2 秒より短い場合は、可
聴周波数成分が主となり、聞こえる衝撃音となる。
継続時間が制御できれば、聞こえる衝撃音を、聞こえない超低周波音に変えることがで
きる。また衝撃音の周波数成分を変えることができる。いくつか試みられてはいるが、衝
撃音の防止、低減対策の一つの方法である。
なお、振動低減対策においても、これと同じような、加振力を、その作用時間を変える
ことによって低減する方法(緩衝)がよく行われている。
質量 m の物体が速度 v で直接、剛壁にあたったときの力 F は、作用時間を  とすると、
運動量保存の法則から F 
mv

となる。しかし、ゴム板などを介してあたった時には、
が大きくなるので、 F は小さくなり、発生音も小さくなり、周波数も低音に変わる。
参考資料:1)中野;入門 超低周波音工学、㈱技術書院、1981/9
2)同上;超低周波音-基礎・測定・評価・低減対策-、㈱技術書院、2002/8
2
A f   2 Pm 
(a)矩形波
sin f
f
(b)三角波
f

 sin
2
A f   Pm  

f

 2
(c)半余弦波
A f  
(d)自乗余弦波
A f   Pm 
4Pm







2
cos f
1 (
4 f ) 2
sin f
1  (f )2 f
図 1 単発衝撃波の周波数スペクトル
3
(a)
(b)
(c)
 1 / f

 2 sin f 
 cos f  2
Pm
 1/(f )  1

P
 4
f 
 f  2 sin f 
 sin 2
Pm
2 
 f
Pf
 1

 2
 sin 2f  cos 2f  Pm
 2f

  0.1 s 0
  0.01 s 0
Pf
5
10
15
50
100
150
20
200 Hz
図 2 実際に近い衝撃波の周波数スペクトル
4
5