4.1.7 超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製;pdf

第 4 章 募集対象となる研究領域
○ 戦略目標「選択的物質貯蔵・輸送・分離・変換等を実現する物質中の微細な空間空隙構造制御
技術による新機能材料の創製」(152 ページ)の下の研究領域
4.1.7 超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製
研究総括:瀬戸山 亨(三菱化学株式会社 フェロー・執行役員/株式会社三菱化学科学技術
研究センター 瀬戸山研究室
室長)
研究領域の概要
本研究領域は、21 世紀の人類社会が直面する環境・資源・エネルギー・医療・健康等の諸課題
を解決するために、空間空隙を有する物質の次元、形状、大きさ、組成、規則性、結晶性、およ
び界面を高度設計する超空間制御技術を構築し、既存材料・技術では到達困難な革新的機能素材
等の創製を目的とします。
具体的には、エネルギー(原料)や化学資源の貯蔵、輸送、分離、(触媒的)物質変換、エネルギ
ーの高効率利用、環境汚染物質の低減・除去、生活水の獲得、さらに医療・健康に関わる素材に
おいて、実現されていない“あらまほしき高度の機能・物性”の発現を目的として、物質を構成
する原子・分子の配置と結合によって生じる空間空隙構造を高度設計・制御すること、すなわち、
超空間制御により、十分に差異化された革新的機能素材等の創製を目指した研究開発を推進しま
す。
ポーラス材料、メソポーラス材料、層状構造物質、かご状構造物質、ナノチューブ、高分子、
超分子、生体分子、構造材料などの一般的な空間空隙材料に限らず、空間空隙が機能発現の場と
なりうる物質・材料を研究対象とします。化学、物理、生物学、工学、計算科学、計測技術等の
異分野間の知見を融合したチーム体制のもと、単なる基礎研究ではなく、世界でダントツの素材・
製品につながる機能・物性が発現し産業化の端緒となる研究課題を推奨します。
募集・選考・研究領域運営にあたっての研究総括の方針
21 世紀に入り、国際環境は大きな変動の渦中にあり、それに伴い日本も適切な戦略をもって対
応しないと世界から取り残されかねない状況にあります。特に経済、環境面での変化は著しく、
中国に代表される新興国の経済的台頭、地球規模での大規模な気候変動(いわゆる地球温暖化)、
福島第一原発事故以後の原子力政策、さらにシェールガスと呼ばれる非在来型化石資源の急速な
普及は、これからの人類社会にとって適格な方針・戦略をもってのぞまないと取り返しのつかな
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第 4 章 募集対象となる研究領域
い結果につながりかねません。しかしながらこのことは、科学立国を目指す日本にとっては最先
端科学の発展系として差異化された技術・製品を世界に発信する好機ととらえることができます。
こうした背景の下、空間空隙の高度な設計・制御、すなわち“超空間制御”は、特にエネルギ
ーの効率的利用、環境負荷の低減といった領域において、幅広い用途・応用展開が期待できます。
本研究領域においては、ポーラス材料、メソポーラス材料、層状構造物質、かご状構造物質、
ナノサイズ粒子、ナノチューブ、高分子、超分子、生体分子、構造材料などの一般的な空間空隙
材料ばかりでなく、空間空隙設計が高い機能や物性発現に主要因として寄与する様々な物質・材
料等を研究対象とします。本領域の日本の研究者による材料の構造設計・制御の先進性、自由度
は既にかなり高い水準にありますが、更に具体的な高い物性・機能の発現につながる材料等の設
計・制御を期待します。材料・素材が単独で機能を発現することは極めて希であり、多くの場合
には他との組み合わせや界面設計によって機能が発現します。本研究領域ではこうした視点にた
って、現状では達成しえない“あらまほしき物性・機能”を念頭において、それにかなう新材料
等を超空間制御技術によって提案すること、機能・物性発現のメカニズムを解明・予測すること
を期待します。また、ひとつの優れた物性やひとつの機能では差異化が不十分の場合が多く、他
の追随を許さないダントツの材料等を日本が発信するには空間構造の複合化という視点は不可欠
です。こうした観点で“複合化した超空間制御”の理論的裏づけ、設計は非常に重要です。こう
した分析・解析・理論構築の課題については具体的な材料とリンクした提案が望ましいと思いま
す。
新しい産業の創生には 10 年後、20 年後の社会の欲する大きな課題、すなわち狭義の needs では
なく wants を予見することが必要ですが、本研究領域での wants の参考例として以下のようなも
のがあります。
・エネルギー原料、化学原料等を高効率で分離・貯蔵・輸送する、さらにそれを有価な化学品
に(触媒的に)変換・効率的に分離するための材料等の創製
・環境汚染物質の低減・除去、生活水の確保に必要な材料等の創製
・エネルギーの効率利用、省エネに関わるエネルギー変換材料、構造材料等の創製
・ライフサイエンス分野における新しい場の創生
これらに限らずさまざまな wants が存在するはずです。予見していない wants とそれに対応す
る課題や解答案を“超空間制御”という切り口で提案することを歓迎します。また研究課題への
取り組み方として産業化に必要な要件についての協議が十分に尽くされるように、原則として各
課題について企業との協働が望ましいと考えています。本研究領域の研究開発は大きな新産業創
生の足がかりを作るための incubation 期間と位置づける時間感覚で望みたいと思います。
“超空
間制御”は新しい概念であり、異分野間交流による融合の促進やシナジー効果が不可欠であると
考えています。したがって、化学、物理、生物学、工学などの多数の学問的視点を持ち、かつ、
日本が誇る最先端の計算科学や計測技術を活用した研究提案を望みます。
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第 4 章 募集対象となる研究領域
また、並行して走っている“さきがけ超空間制御”に限らず、本 CREST 領域と関連のある“さ
きがけ”等の研究者との連携を強く意識し、それらにおいて大きく進展した課題については本領
域との更なる連携も視野にいれていきたいと思います。
本領域は、有機化学、触媒化学の分野に近いと思われているかもしれませんが、昨年度は、広
い意味での化学の分野以外、物理、数学、ライフサイエンス等からの応募も多数あり、物理分野
からの提案が採択に至っています。本質的に本研究領域の目指すところに合致する良い内容であ
れば、応募にあたって何の躊躇もいりません。特に、未来の日本社会の貢献という意味では、ラ
イフサイエンス・ヘルスケア領域を重視しています。しかしながら、一昨年、昨年の募集では、
“超
空間制御”による場の設計が十分に説明しきれていないこと、特定の疾患の予病、検知といった
one input に対する one output 的な内容のものがほとんどで、research というよりは development
という色彩・匂いが強かったことなどから、相対的に高い評価が得られず、採択に至りませんで
した。当該領域の研究の一般的な進め方としてはそれが当たり前なのかもしれませんが、即物的
な印象で、普遍性や波及効果という意味での魅力がいま一つという印象を受けました。日本の民
間企業の立場からすると魅力的な将来市場であるこの領域に焦点をあて、
“超空間制御”の設計を
上手に使った提案をぜひ期待しています。
物質変換、エネルギー変換分野は、毎年非常にレベルの高い提案をいただいていますが、その
なかで、採択にいたったテーマとの違いは、21 世紀の科学が解決すべき課題、日本の産業競争力
の維持の為の課題という視点での impact の大きさではないかと思います。これまでの科学で成し
えなかったことが可能になっていくことは素晴らしいことではありますが、その研究が進めば進
むほど、社会にどのように貢献するかについて、自身および関連する産業界の方達と深く考える
ことも必要だと思います。
ところで過去 2 年間に採択したテーマの領域としては
分離 : 松方チーム(無機材料)、加藤チーム(有機材料)
高分子空間設計 : 野崎チーム(錯体の配位子設計+α)、植村チーム(MOF 等)
無機新素材設計 : 陰山チーム(無機合成手法の新展開)
革新的二次電池設計 : 手嶋チーム(無機合成手法の高度展開)
特殊反応場の設計 : 関根チーム(コアシェル+電場)
革新的液晶素子 : 山本チーム(文字通り)
となっております。採択された先生方の研究の大きな成果を期待するのはもちろんですが、先行
課題の科学のより大きな発展という視点で、自分の研究をその上にかぶせるあるいは補完しあう
構造を作る、基盤技術としてのすそ野をひろげ同時に強化するという視点もあってよいかもしれ
ません。重複は避けていただきたいですが、これまでに採択された先生方の研究領域等について
確認の上、自身の研究の位置取りを考慮されて提案をするのも良いと思います。
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第 4 章 募集対象となる研究領域
【留意事項】
○ 本研究領域は、今回が最終の提案募集となります。
○ 本研究領域では、研究費総額の上限を 1 課題あたり原則 3.5 億円として提案を募集します。3.5
億円を超える場合には、CREST-様式 12 その他特記事項に理由を記述してください。
※ 本研究領域の募集説明会は開催いたしません。本年度の採択方針についての参考資料、過年度
の募集説明会の資料・動画を研究提案募集ウェブサイトに掲載しておりますので、そちらもご
覧ください。
http://www.senryaku.jst.go.jp/teian.html
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