ナノマテリアルの安全性に関する政策

2009年4月2日 国会内学習会
ナノ物質の安全管理
何が問題か?
新たな「ナノ物質管理法」制定が必要
2009年4月2日
化学物質問題市民研究会
安間 武
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
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背景
ナノ物質とは
■1ナノメートル=10億分の1メートル
■ナノ物質の定義
少なくとも1次元は 100ナノメートル以下の物質
■新たな特性
物質がナノサイズになると、全く新たな特性を持つ 髪の毛の幅:5万nm
ナノワイヤー:50nm
 単位質量当たりの表面積が格段に大きくなる
(1,000分の1)
Image: EHP 2004
 表面活性度が高くなる
 化学的、電気的、磁気的、光学的特性等が著しく変化する
■新たな特性の功罪
 新たな物質・材料としての活用が期待されている
 ヒト健康と環境に重大な有害リスクをもたらす可能性がある
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背景
多くのナノテク製品が市場に出ている
■広範囲な製品群/応用分野
電気製品、バッテリー、冷暖房空調、厨房用品、
自動車用品、 電子機器、 食品・飲料、子ども用品、
衣料品、化粧品、身体手入れ用品、 日焼け止め、
スポーツ用品、家具、建材、装飾品、塗料、ペット用品、
医療、エネルギー、農業、環境浄化・・・
洗濯機
バッテリー
空気清浄機
冷蔵庫
ガラス曇り止め
抗菌食器
CPU
チョコレート 容器
補助食品
ナノ銀歯磨き
ソックス
化粧品
日焼け止め
■市場規模(ナノ導入製品)
2004年:1.4兆円
2007年:31兆円
2014年:約280兆円
全製品の15%
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背景
ナノ物質の有害性を示す多くの研究の例
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フラーレンが幼魚の脳とエラに酸化ストレスを引き起こす(2004 )
TiO2 ナノ粒子は脳細胞にダメージを与える(2006)
銅ナノ粒子はゼブラフィッシュに害を与える(2007)
カーボン・ナノチューブは血管系にダメージを与える(2007)
ナノチューブ 微生物を突き通し、環境中にDNAを撒き散らす(2007)
酸化銅ナノ(CuO)粒子は、細胞毒性とDNA損傷力が強力(2008)
ナノ銀の毒性はイオンとナノ粒子の両方(2008)
銀ナノ粒子サイズが小さいほど毒性は大きい (2008)
酸化アルミニウム ナノ粒子 ラットの血管細胞を殺し傷つける(2008)
フラーレンやカーボンナノチューブはラットのDNAを傷つける(2008)
「カーボン・ナノチューブ」 マウスに中皮腫 形状が誘発か(2008)
鉄含有ナノ物質は皮膚細胞を損傷する(2008)
有毒物質がナノ粒子に乗り(ヒッチハイク)細胞内に進入する(2008)
フラーレン
ナノチューブ
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背景
各国機関・NGO・労組による
ナノ安全管理に関する意見・提言の一例
■英国王立協会・王立工学アカデミー報告2004年7月29日
l ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性
■米国立労働安全衛生研究所(NIOSH) 2006年7月
安全なナノ技術へのアプローチ:潜在的な健康への懸念
■ウッドロー・ウィルソン国際学術センター(WWICS) 2007年1月)米議会証言
ナノテクの安全性 政府の特別リスク研究戦略と資金が必要
■国際NGO連合の声明 2007年7月 (世界の70団体/当研究会も賛同)
ナノ技術とナノ物質の監視のための原則
■米化学会 ES&T 2007年11月14日
ナノ物質規制のチャレンジ
■欧州労連執行委員会2008年6月25日採択
ナノ技術とナノ物質に関する欧州労連決議
■化学物質問題市民研究会意見表明(ピコ通信第90号)2006年2月
安全基準がないナノ技術の危険性
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背景
ナノ安全管理の問題点と論点
■問題点
 世界中どこの国にもナノの安全基準がない
 ナノの安全性に関してはほとんど分かっていない
 ナノ安全性研究への投資が十分ではない
■論点
 既存の法制度はナノ物質の規制に対して適切か?
化審法(日本)、TSCA(米)、REACH(EU)
 ナノ物質は新規化学物質か?既存化学物質か?
(粒子径が小さいことをもって新たな物質とみなすか?)
新規ならテスト要、既存ならテスト不要
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背景
各国行政・機関の対応
■米環境保護庁(米EPA)
現行TSCAの枠組みの中でナノ物質を管理する
新規・既存の区分 に粒子サイズを考慮しない
■欧州委員会
REACHで基本的には対応可。ナノに合わせた修正が必要
ナノの粒子サイズに対応
■日本
ナノ物質については、”今後の科学的な知見の蓄積や国際的な
動向を踏まえ、対応策について引き続き検討していく (『化審法見
直し報告書』2008年11月)
新規・既存の区分 に粒子サイズを考慮しない
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背景
ナノの安全管理に対する日本の行政の対応
(2008年2月「マウスに中皮腫」までは、ほとんど具体的対応なし)
■厚労省
2008年2月7日 「ナノマテリアル製造・取り扱い作業現場における当面のばく露
防止のための予防的対応について」 (基発第0207004号) 労働基準局
2008年3月~ 「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者
ばく露の予防的対策に関する検討会(第1~9回) 報告書発表 労働基準局
2008年3月~ナノマテリアルの安全対策に関する検討会(第1~7回)」
検討会報告書(案) 医薬食品局
■環境省
2008年6月~ 「平成20年度第ナノ材料環境影響基礎調査検討会(第1~5
回) 」 2009年3月 「工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン」
環境保健部
■経産省
2008年11月より 「ナノマテリアル製造事業者等における安全対策のあり方研
究会第1~3回」 「報告書案」 製造産業局
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背景
ナノ安全管理
日本では何が問題か?
 総合的ナノ安全管理の展望が示されていない
 ナノ安全管理行政が縦割り
 ナノ推進に比べて、ナノ安全管理への比重が小さい
 安全規準なしにナノ製品が市場に出ている
 国はナノの安全性の問題を市民に十分に伝えていない
 メディアはナノの安全性問題を報道しない
 市民はナノ安全性に関する情報を入手できない
 政策決定への市民参加がない
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提案
化学物質政策基本法案
化学物質政策基本法制定ネットワーク(ケミネット)
第二条
この法律において「化学物質」とは、元素、鉱物ならびに化合物、(それぞれ
医薬品と放射性物質を除く。)をいい、「ナノ物質」を含む。
6 この法律において、「ナノ物質」とは、少なくとも1次元が100ナノメートル以下
の工業的化学物質をいう。この定義については必要に応じて見直しを行う。
第二十二条
ナノ物質は同一の化学的組成からなる大きなサイズの物質とは異なる特性に
よって人の健康又は生態系に悪影響を及ぼすおそれがあるので、ナノ物質
は新規物化学質とみなし、国はナノ物質による人の健康及び生態系への悪
影響を未然に防止するために必要な規制の措置を講じなければならない。
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提案
総合的な
ナノ物質管理の枠組み」の構築
「ナノ物質管理法」 案
基本的管理
1. ナノ技術標準化管理
2. ナノ物質管理
(主にハザードに基づく管理)
3. ナノ技術応用・ナノ製品管理
(主にリスクに基づく管理)
4. ナノ物質影響監視管理
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提案
「ナノ物質管理法」制定までの過渡期対応
例えば、化審法で対応
■既に市場に出ているナノ物質
 製造・輸入者に試験データを含む所定のデータを提出させる。
 国は提出されたデータに基づき、暫定的に安全性を評価し、
暫定的管理グレード(許可、制限、禁止)を決定する。
■新規に市場に出すナノ物質
 製造・輸入者に試験データを含む所定のデータを提出させる。
 国は提出されたデータに基づき、暫定的に安全性を評価し、
暫定的管理グレード(許可、制限、禁止)を決定する。
 製造・輸入者は暫定的管理グレードが決定されるまで当該ナ
ノ物質を市場に出すことはできない。
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