需要拡大が見込まれる一方;pdf

Research Focus
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2015年3月27日
No.2014-060
わが国のインバウンド需要の先行きと課題
― 需要拡大が見込まれる一方、継続的な政策面の後押しが不可欠 ―
調査部 研究員 長井翔吾
《要 点》
◆ わが国を訪れる外国人(訪日外客)数は、一時的な落ち込みがみられたものの、総
じて増加基調にあり、2014年は1,341万人に。2014年の訪日客による消費総額は2
兆円を突破するなどインバウンド消費がわが国経済へ与える影響も拡大。そこで、
訪日外客数が増加した背景を探るとともに、訪日外客数や消費動向の先行きを展望
し、課題と今後求められる取り組みについて考察。
◆ 足許で訪日外客数が大幅に増加している背景として、①アベノミクス始動を受け進
んだ円安、②中国や東南アジア諸国における所得水準上昇、③ビザ発給要件緩和や
航空環境の整備など政策面の押し上げ、を指摘可能。
◆ こうした背景を踏まえ、先行きを試算したところ、2020年の訪日外客数は1,845万
人、訪日客による消費総額は、一人当たり消費額が政策効果で押し上げられ、およ
そ3兆円まで増加する結果。今後も政策面での下支えを継続することで、政府が掲
げる「訪日外客数2,000万人、消費総額3兆円」の目標達成が視野に。
◆ もっとも、今後訪日需要の拡大が見込まれる一方で、①インバウンド消費の恩恵に
おける都市部と地方の間でのバラツキ、②宿泊施設や航空機操縦士の不足など供給
面での制約が生じる懸念、といった課題も存在。
◆ こうした課題克服に向けて、訪日客は、訪日回数を重ねるにつれて地方を訪れる傾
向が高いことに加えて、わが国の料理や自然を好む傾向もあることから、出入国手
続きの簡素化などや地域の特性を活かした観光資源の整備によってリピーター、地
方への外国人客の増加につなげることが重要。また、供給面での制約回避に向け
て、東京圏・関西圏での外国人向け宿泊施設の規制緩和、外国人操縦士の雇用拡大
や海外航空会社による就航便数の増加といった施策を講じることが不可欠。
◆ わが国における観光産業は、航空機の首都圏から海外への就航都市数が世界主要都
市に比べ少ないなど、国際的に遅れをとっている状況。政策による効果が足許で着
実に表れているなか、今後も海外向け広報活動や規制緩和などに持続的に取り組
み、観光立国に向けた歩みを進めることが重要。
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<
目 次
>
1.現状:訪日客数の大幅増でわが国経済への影響が拡大
・・・・・・・1
2.背景:円安や所得増のほか政策効果も訪日客増加に寄与
・・・・・・・2
3.先行き:政策面でのサポート継続で政府目標の達成へ
・・・・・・・3
4.課題:都市部と地方のバラツキや供給面での制約が懸念
・・・・・・・4
5.総括:観光立国に向けた課題の解消と持続的な取り組みが不可欠・・・・・5
1
本件に関するご照会は、調査部・研究員・長井翔吾宛にお願いいたします。
Tel:03-6833-6332、03-6833-0914
Mail:[email protected]
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現状 訪日外客数の大幅増でわが国経済への影響が拡大
(1)わが国を訪れる外国人(訪日外客)数は、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大
震災の影響を受けて一時的に大きく落ち込んだものの、総じて増加基調(図表1-1)。とり
わけ、2012年以降は観光客を中心に、増勢が加速。2013年に初めて1,000万人を上回り、20
14年には1,341万人まで増加。訪日外国人を地域別にみると、中国や韓国をはじめアジアか
らの比率が大きく、およそ8割に達する状況(図表1-2)。
(2)訪日外客数の増加により、外国人による消費活動、いわゆる「インバウンド消費」は、近年
盛り上がりをみせる状況。訪日客による消費総額をみると、2012年以降増勢が持続し、2014
年には2兆円を突破(図表1-3)。GDP統計においても、訪日外国人による消費が計上さ
れる「非居住者家計の国内での直接購入(輸出)」は足許で大きく増加しており、2014年の
GDPを約0.1%ポイント押し上げ(図表1-4)。
(3)以下では、インバウンド消費がわが国経済へ与える影響が拡大するなか、訪日外客数が増加
した背景を探るとともに、訪日外客数や消費動向の先行きを展望し、わが国のインバウンド
需要における課題と、今後求められる取り組みについて考察。
(図表1-1)訪日外客数
前年比(右目盛)
2,000
1,800
(万人)
1,600
1,400
1,200
1,000
800
外客数(左目盛)
その他
商用客
観光客
600
400
200
0
2003 04
05
06
07
08
09
10
(資料)日本政府観光局「訪日外客数の動向」
(注)2014年は暫定値。
11
12
(%)
観光客 50
40
30
20
総数
10
0
▲ 10
▲ 20
▲ 30
▲ 40
▲ 50
▲ 60
▲ 70
▲ 80
▲ 90
▲ 100
13
(図表1-2)国・地域別訪日外客数の内訳(2014年)
オセアニア
その他
中国
(18.0%)
北米
欧州
7,000
6,000
5,000
4,000
宿泊費
買物代
飲食費
交通費
娯楽サービス費
その他(以上左目盛)
総額(右目盛)
香港(6.9%)
その他アジア
14
(年)
(資料)日本政府観光局「訪日外客数の動向」を基に日本総研作成
(図表1-4)GDP統計における外国人による消費
(兆円)
2.0
1.5
非居住者家計の国内での直接購入
(左目盛)
名目GDP比(右目盛)
0.35
0.30
1.0
0.25
0.8
0.5
0.6
0.20
0.4
1,000
0
1.4
1.2
1.0
(%)
0.40
(兆円)
1.8
1.6
3,000
2,000
台湾
(21.1%)
ASEAN(11.9%)
(図表1-3)訪日客による費目別消費総額
(億円)
8,000
アジア
(80.7%)
韓国
(20.5%)
0.15
0.0
2010
11
12
13
14
(年)
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、
日本政府観光局「訪日外客数の動向」を基に日本総研作成
(注)2014年は速報値。
0.2
0.0
0.10
2003 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(年)
(資料)内閣府を基に日本総研作成
(注)外国人による消費は、GDPの需要項目のうち、「輸出」に含まれる。
-1-
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背景 円安や所得増のほか、政策効果も訪日客増加に寄与
(1)足許で観光客を中心に訪日外客数が大幅に増加している背景として、以下3点を指摘可能。
第一に、大幅な円安(図表2-1)。アベノミクス始動を受けて、円は主要国・地域の通貨に
対し2012年前後を境に大幅に下落。円安・海外通貨高は、外国人にとってわが国への旅行費
の割安感や円ベースでの購買力上昇につながり、訪日需要の拡大に作用。
(2)第二に、中国や東南アジア諸国における所得水準の上昇(図表2-2)。これらの国々では、
経済成長に伴い一人当たりGDPが増加基調。こうした個人所得の増加に伴い、海外旅行を
志向する中高所得層が増加しており、地理的・文化的に近いわが国を訪れるアジアからの客
数は高い伸びに。
(3)第三に、政策面による押し上げ。2013年7月にビザ発給要件が緩和され、対象となった東南
アジア諸国からの訪日客数は、前年比+30~80%と大きく増加(図表2-3)。また、アジア
を中心にLCC(格安航空会社)国際線の就航便数が増加して安価で訪日できる環境が整備
されるとともに、国内空港の機能を強化したことも、訪日需要を下支え(図表2-4)。
(図表2-2)アジア諸国の一人当たりGDP
(図表2-1)為替相場と訪日外客数
(2010年=100)
150
(万人)
450
対円レート(左目盛)
人民元
140
円安
海外通貨高
ユーロ
130
(米ドル)
12,000
400
350
米ドル
中国
インドネシア
マレーシア
フィリピン
タイ
ベトナム
10,000
300
120
250
8,000
110
200
100
6,000
150
90
100
80
50
訪日外客数(右目盛)
70
4,000
2,000
0
2007
08
09
10
11
12
13
14
15
(年/期)
(資料)Bloomberg L.P.、日本政府観光局「訪日外客数の動向」
を基に日本総研作成
(注)2015年1~3月期は、1~2月の四半期換算値。
0
インドネシア
80
60
40
実施時期
08
09
10
11
12
13
(年)
概要
マレーシア
2007年
フィリピン
2008年
11月 ・セブ・パシフィック航空が関空~マニラ間の運航開始
タイ
2010年
12月 ・エアアジアXが羽田~クアラルンプール間の運航開始
ベトナム
2012年
8月 ・ジェットスター航空が関空~豪州間の運航開始
5月 ・ピーチ・アビエーションが関空~仁川間の運航開始
(国内LCCとして初の国際線就航)
10月 ・関西国際空港がLCC専用の第2ターミナル供用開始
20
・エアアジア・ジャパン(現バニラエア)が成田~ソウル間
の運航開始
0
12月 ・ジンエアーが那覇~仁川間の運航開始
▲ 20
2013年
▲ 40
07
(図表2-4)これまで実施された航空面での
主な取り組み
2013年7月
ビザ発給要件緩和
中国
06
(資料)IMF「World Economic Outlook Database」
(図表2-3)アジア諸国からの訪日客数(前年比)
(%)
100
2005
2006
07
08
09
10
11
12
13
14
(年)
(資料)日本政府観光局「訪日外客数の動向」を基に日本総研作成
(注)中国は2013年7月のビザ発給要件緩和の対象外。
7月 ・チェジュ航空が成田~仁川間の運航開始
11月 ・香港エクスプレスが羽田・関空~香港間の運航開始
2014年
3月 ・羽田空港の国際線発着枠が3万回増加し、9万回に
(資料)国土交通省、各社HPなどを基に日本総研作成
-2-
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先行き 政策面でのサポート継続で訪日客数・消費額の政府目標達成へ
(1)前頁の背景を踏まえ、訪日外客数および訪日客による消費総額の先行きを展望。まず、訪日
外客数について、世界の一人当たりGDP(1年先行)との相関から得られる弾性値をもと
に、IMFのGDP予測値を用いて試算したところ、2020年には1,845万人まで増加する見
込み(図表3-1)。今後は、わが国での利便性を高める通信環境整備、成田・関西国際両空
港での新ターミナル供用開始や新規路線就航、など政策面の後押しが、訪日外客数のさらな
る押し上げにつながる公算(図表3-2)。
(2)次に、消費総額については、①2014年10月に実施された免税品目の対象拡大、②一人当たり
消費額が多い中国人向けに2015年1月に実施されたビザ発給要件の緩和、③円安基調の持
続、などを踏まえれば、先行き一人当たり消費額の伸びとともに、消費総額も拡大が期待。
実際、2010年以降の一人当たり消費額と為替相場の推移をみると、2014年の一人当たり消費
額は、円安進行に加えてこれまで実行された政策効果が顕在化し、大幅増(図表3-3)。ち
なみに、(1)の訪日外客数の試算のもとでシミュレーションすると、一人当たり消費額が
2014年から横ばいで推移した場合(ケース①)、2020年の消費総額はおよそ2兆8,000億円
まで増加(図表3-4)。一方、①・②などの政策による一人当たり消費額の押し上げ効果が
先行き強まるとみられることから、足許の為替水準や政策効果の上振れを加味した水準を20
20年まで維持したと想定すれば(ケース②)、総額で1,000億円程度増加する結果。今後も
政策面での下支えを継続することで、政府が掲げる「訪日外客数2,000万人、消費総額3兆
円」の目標達成が視野に。
(図表3-2)今後予定されている主な取り組み
(図表3-1)訪日外客数(試算)
(万人)
2,000
試算
25,000
通信関連
・訪日旅行者向け無料Wi-Fiの整備・広報の強化
20,000 (利用スポットに共通シンボルマーク導入、海外向けウェブサイト作成)
1,500
訪日外客数(左目盛)
1,000
航空関連
(ドル/人)
15,000
IMF予測値
500
世界の一人当たりGDP
(右目盛)
0
2015年4月 ・成田空港がLCC専用の第3ターミナル供用開始
・成田空港が新規就航する航空会社に対して
着陸料を2年間割引する制度を開始(~2018年3月)
10,000
2015年度中 ・成田空港、関西国際空港がファーストレーン設置
500
2016年度中 ・関西国際空港がLCC国際線専用の第3ターミナル供用
開始、既存の第2ターミナルはLCC国内線専用に
5,000
1,000
0
1,500
2017年夏まで ・ピーチ・アビエーションが仙台から国際線を就航
2000
05
10
15
20
2020年まで ・春秋航空が関空を拠点に中国20都市へ国際線を拡充
(年)
(資料)日本政府観光局「訪日外客数の動向」、国連「世界の人口推計」、
(資料)国土交通省、観光庁、各社HPなどを基に日本総研作成
IMF「World Economic Outlook Database」を基に日本総研作成
(図表3-3)一人当たり消費額と為替相場(試算)
(図表3-4)訪日外国人による消費総額(試算)
(兆円)
3.0
16.0
一人当たり消費額(
万円/人)
15.5
シミュレーション
2014年
2010~14年の推移
15.0
14.5
2010~13年のトレンド
2.5
政策効果に
よる押し上げ
2.0
14.0
13.5
ケース①
(一人当たり消費額が
2014年から横ばい)
1.5
13.0
円安
12.5
ケース②
(一人当たり消費額が
図表3‐3の試算値で推移)
1.0
12.0
110
100
90
80
70
名目実効為替レート(2010年=100、逆目盛)
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、Bloomberg L.P.
を基に日本総研作成
(注)◇印は、足許の為替水準において、2014年実績のトレンドから
の上振れを加味した試算値。
0.5
2010 11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
(年)
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、
日本政府観光局「訪日外客数の動向」を基に日本総研作成
-3-
日本総研
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課題 都市部と地方のバラツキや供給面での制約が懸念
(1)このように、訪日需要は今後拡大が見込まれる一方、課題も存在。第一に、インバウンド消
費の恩恵における都市部と地方の間でのバラツキ。訪日客の消費総額を訪れた地域別にみる
と、関東や近畿など都市部に集中(図表4-1)。さらに、消費総額を一人当たり消費額、宿
泊者数に分けてみると、一人当たり消費額と比べて宿泊者数の関東・近畿への集中が大きい
ことから、地方を訪れる外国人客の少なさが消費総額の伸び悩みをもたらしている状況
(図表4-2)。
(2)第二に、期待されるインバウンド需要の高まりに対して、供給面での制約が生じる懸念。ま
ず、宿泊施設について、各都道府県の客室稼働率をみると、東京や大阪など都市部で高水準
となっているほか、地方においても足許で総じて上昇(図表4-3)。今後も訪日客の増加に
伴い、客室稼働率の上昇が続けば、ひっ迫感の強い都市部を中心に宿泊客の受け入れが困難
となる可能性も。次に、輸送面について、前述の通り渡航費用が安価なLCCの需要が高ま
る状況下、LCCを含む大手2社以外の航空会社では、60歳以上の操縦士比率が足許で約20
%と相対的に高い状況(図表4-4)。先行き航空需要の高まりが見込まれる一方、現在60歳
以上の操縦士が徐々に退職していくとみられることから、人材面で供給不足が顕在化する可
能性。実際、2014年には国内LCC各社で操縦士不足に起因する欠航や就航日延期などが発
生しており、こうした事態が深刻化する恐れも。
(図表4-1)地域別の訪日客による消費総額
(億円)
5,000
(図表4-2)地域別の外国人宿泊者数、
一人当たり消費額(2014年)
(億円)
10,000
2010年
4,500
2011年
4,000
8,000
2012年
3,500
7,000
2013年
3,000
(関東=100)
9,000
6,000
2014年
外国人宿泊者数
(図表4-4)60歳以上の航空機操縦士数
60歳以上の操縦士比率 (%)
(その他航空会社、右目盛)
25
2010年
2014年
500
80
20
60歳以上の操縦士比率
(ANA・JAL、右目盛)
75
400
70
(人)
65
300
60
15
10
5
60歳以上の操縦士数(左目盛)
ANA・JAL
その他航空会社
0
-5
55
200
50
-10
-15
45
(資料)観光庁「宿泊旅行統計」を基に日本総研作成
(注)2014年の客室稼働率の上位6都道府県、全国平均および
2010~14年の上昇が顕著な都道府県をプロット。
長野
山形
鹿児島
山梨
茨城
山口
全国
・・・
沖縄
・・・
京都
千葉
神奈川
東京
大阪
40
四国
東北
中国
北陸信越
沖縄
(図表4-3)都道府県別宿泊施設の客室稼働率
85
中部
九州
北海道
近畿
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「宿泊旅行統計」を基に
日本総研作成
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「宿泊旅行統計」、
日本政府観光局「訪日外客数の動向」を基に日本総研作成
(%)
90
一人当たり消費額
関東
関東
沖縄
0
九州
1,000
0
四国
500
中国
2,000
近畿
3,000
1,000
中部
1,500
北陸信越
4,000
東北
5,000
2,000
北海道
2,500
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
100
-20
-25
0
-30
2010
2011
2012
(資料)国土交通省を基に日本総研作成
-4-
日本総研
2013
(年)
Research Focus
総括 観光立国に向けた課題の解消と持続的な取り組みが不可欠
(1)以上のように、訪日需要の高まりが見込まれる一方、都市部と地方のバラツキや供給制約が
懸念される状況下、今後これらを解消する施策を講じる必要。まず、都市部と地方のバラツ
キに関して、訪日回数別の宿泊地域をみると、訪日回数を重ねるとともに地方を訪れる訪日
客の割合は高まる傾向(図表5-1)。加えて、インバウンド消費をけん引するアジアからの
訪日客は、わが国の料理や自然を好む傾向(図表5-2)。これらは地方でもインバウンド需
要拡大の可能性を示唆しており、戦略的なビザ発給要件緩和や出入国手続き簡素化、地域の
特性を活かした観光資源の整備などリピーター増加につながる政策の実行とともに、海外か
ら地方空港へ直接就航する国際線の拡充を進め、地方を訪れる外国人客の増加を促すべき。
次に、宿泊施設については、国家戦略特区の東京圏・関西圏で実施が検討されている賃貸物
件などの空室を外国人向けの宿泊に利用可能とする規制緩和などを通じ、都市部での宿泊施
設不足を回避する必要。さらに、輸送面では、短期的な視点から、外国人操縦士の雇用拡大
などにより、弾力的に対応可能な措置が不可欠。同時に、中長期的な視点からは、官民を挙
げた操縦士養成の取り組みや、海外航空会社による就航便数の増加を通じてわが国における
操縦士不足の影響を緩和することも重要。
(2)わが国における観光産業は、足許で訪日客数が大きく増加しているものの、航空機の首都圏
から海外への就航都市数が世界主要都市に比べて少ないなど、国際的にみて遅れをとってい
る状況(図表5-3)。仮に、図表3-4で試算したように2020年にかけて訪日客の増加とともに
消費総額が拡大しても、フランス、米国をはじめとした観光大国に比べ規模は依然として限
定的(図表5-4)。政策による押し上げ効果が足許で着実に表れているなか、今後も海外向
け広報活動や規制緩和などに持続的に取り組み、観光立国に向けた歩みを進める必要。
(図表5-2)アジア諸国で人気の観光資源
(図表5-1)訪日回数別の外国人延べ宿泊者数
(%)
(2014年)
(万人泊)
1,800
(%)
80
40
訪日経験なし
60
1,400
50
1,200
35
延べ宿泊者数(左目盛)
1,000
40
30
関東・近畿
800
20
その他
10
30
600
(図表5-3)世界主要都市の航空関連統計(2013年)
総旅客数に占める国際線
利用者の割合(左目盛)
(都市)
400
就航都市数
(右目盛)
国内線
国際線
80
60
近代的/先端的な
建築物の見物
~
(資料)日本政策投資銀行「アジア8地域・訪日外国人旅行者の意向調査
(平成26年版)」を基に日本総研作成
(注)日本旅行希望者を対象に、日本旅行で体験したいことを複数回答。
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「宿泊旅行統計」
を基に日本総研作成
(%)
100
洋服やファッション
雑貨のショッピング
25
5
回
目
遊園地やテーマ
パークに行く
4
回
目
3
回
目
2
回
目
1
回
目
日本旅館での宿泊
0
温泉への入浴
200
自然や風景の見物
日本料理を食べる
0
400
40
(図表5-4)観光関連統計の国際比較(2013年)
(万人)
9,000
350
8,000
300
7,000
250
6,000
200
5,000
150
100
20
50
0
国際観光収入の名目GDP比
(右目盛)
5
4
3
4,000
2
3,000
2,000
1
1,000
日本
ロシア
イギリス
ドイツ
トルコ
イタリア
中国
スペイン
0
米国
(資料)Airports Council International「World Airport Traffic Report」
を基に日本総研作成
(注)各都市に位置する空港の計数を合計したもの。
(%)
受入外客数(左目盛)
フランス
北京
ニューヨーク
東京
ソウル
パリ
フランクフルト
ロンドン
シンガポール
香港
0
訪日経験あり
70
「その他」地域比率(右目盛)
1,600
0
(資料)IMF「World Economic Outlook Database」、
国連世界観光機関「Tourism Highlights」を基に日本総研作成
(注)日本の網掛けおよび◇印は、図表3-4の試算におけるケース②が
実現した場合の2020年の上振れ。
-5-
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