シリーズ:財政健全化の論点整理⑨ (最終回)

EY Institute
16 March 2015
シリーズ:財政健全化の論点整理⑨ (最終回)
~2020年より先を見据えた財政健全化計画を
財政健全化の取り組み
執筆者
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
事実上の国際公約である2020年度までの基礎的財政収支(Primary Balance:PB)の黒字
化は、財政健全化に向けた通過点にすぎない。その後、長期債務残高GDP比を安定的に引き
下げることを目指している。それが財政健全化の本題である。ただし、その達成は容易ではない
上、これから人口・社会構造が大きく変化していくことを織り込む必要がある。そのため、財政健
全化を進める上では、長期的な視点が欠かせない。
2020年以降が山場
長期的にみたとき、日本の人口・社会構造は現在から大きく変わっていくと予想されている。特
に、高齢化がさらに進んでいるため、その分社会保障関係の支出が増えていくと見込まれる。国
立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』によると、20年代に団塊の世代が75歳を
迎えはじめる。それによって、介護費が増大するとみられる。
また、30年代には団塊ジュニア世代が65歳を、40年代には75歳を迎える。団塊ジュニア世代
は、団塊の世代に次ぐ人口規模であるため、その時にも社会の担い手の減少、社会保障費の増
加という現象が起きる。
そして、さらに長期的にみたとき、出生率は将来的に下げ止まることが想定されていることか
ら、60年代には65歳以上人口比率は約40%に落ち着くと見込まれている。
つまり、20年以降に高齢化による社会保障費の増加が本格化して、人口減少の中で、どのよ
うに経済・社会のバランスをとるのかが大きな課題になる。
ただし、こうした人口の変化は着実にやってくるものの、それまで時間があることも確かだ。そ
のため、20年以降を見据えた財政健全化計画を練ることが重要だと考えられる。
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高齢化が落ち着く2060年代を見据えた財政健全化を
そこで、財政健全化に必要になる財政状況を概観してみよう。20、30、40年代の変化への対
応は、60年代までの中間的な取り組みであるので、人口構成が落ち着くと予想されている60年
代をターゲットにしてみる。
まず、厚生労働省によると、社会保障給付費(GDP比)は12年度の22.8%から25年度の
24.4%へと増える見込みだ(厚生労働省『社会保障に係る費用の将来推計の改定について(平
成24年3月)』)。その間、65歳以上人口比率は約6%(24.2%→30.3%)上昇する見通しなので、
同 じ 伸 び 率 を 仮定 す る と 60 年 代 の 社 会保 障 給 付費は 25 年 度 か ら 2.6%ポ イ ン ト ( 25 年
24.4%→60年27.0%)増える計算だ。
その一方で、内閣府は23年度の基礎的財政収支の赤字(GDP比)を3.3%と試算している(内
閣府『中長期の経済財政に関する試算』(平成27年2月12日経済財政諮問会議提出)ベースラ
インケース)。このケースでは、17年4月の消費税率10%への引き上げを織り込んでおり、それ
でも基礎的財政収支の赤字がGDP比で3%以上残るといえる。
この想定の下で、60年代にPBの黒字を保つならば、GDP比で5.9%分(=2.6%+3.3%)、消費
税率換算で12%分の税収が必要になる計算だ(消費税1%分税収をGDP比0.5%と仮定)。この前
提には、10%への消費税率引き上げが織り込まれているので、仮にこの負担を消費税率の引き
上げで対応するならば、長期的な消費税率は欧州諸国並みの20%超(=10%+12%)となる。も
ちろん、社会保障・税一体改革の一部は、上記の改革には織り込まれておらず、これから拡充が
求められる少子化対策などを含めれば、さらなる追加財源が必要となり、その費用負担が発生
することになる。
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財政健全化のために、バランスのとれた給付と負担を
この概算では、イメージしやすいように消費税率換算を行ったものの、実際には、所得税や社
会保険料などと組み合わせて、政策目標とのバランスを調整することになる。また、現役世代だ
けに頼った負担増では、現役世代の生活が崩れてしまうので、負担できる高齢者には負担して
もらうという、世代内の助け合いを現在よりも増やすことが必要だ。健康で、勤労意欲も高い高
齢者が活躍できる社会をつくっていくことが、高齢化先進国の日本の役割だろう。
もちろん、財政健全化一辺倒では経済自体が成り立たないことに加えて、財政健全化を進める
上で重要な役割を果たす、経済成長率を高めることが必要だ。そのため、経済成長を促す社会
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しくは複数のメンバーファームを指
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保障制度への転換という視点が制度を見直す上で欠かせないだろう。
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ざまな業界で実務経験を積んだプ
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変化する社会・ビジネス環境に応
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図 65歳以上人口比率の推移
こうしたことを踏まえれば、財政健全化のためには、経済成長と財政健全化のバランスや、社
会保障の給付と負担のバランスをとりながら、長期的な視点から取り組んでいくことが重要だと
考えられる。
(本稿がシリーズ最終回)
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出典:総務省『人口推計』、国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』
よりEY総合研究所作成
(注)2013年までは実績値、2014年以降は推計値
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