EY Institute 05 March 2015 執筆者 シリーズ:財政健全化の論点整理③ ~望ましい社会保障とそのための負担 一般会計の最大支出項目 国の予算(一般会計)の歳出のうち、主な債務拡大要因となった社会保障費に注目してみよ 鈴木 将之 EY総合研究所株式会社 経済研究部 エコノミスト <専門分野> ► 日本経済の実証分析・予測 ► 産業関連分析 う。 社会保障費が30兆円超まで増えていることや、高齢化の影響から毎年1兆円増えていること などを踏まえて、社会保障費の削減を求める意見は多い。確かに、財政健全化を進める上で は、聖域なき歳出削減はもちろん重要である。その一方で、高齢化によって社会保障サービスへ の需要が高まっていることも事実である。そのため、社会保障制度を考える上で、少子・高齢化 などの現状を認識して、望ましい経済・社会システムとその実現のための負担を踏まえた社会保 障改革が求められる。 OECD諸国の社会保障支出全体(2012年)をGDP比で比べてみると、日本は比較可能な29カ 国中支出の多い方から16位とほぼ中央に位置していたことがわかる。高齢化が最も進んでいる にもかかわらず、社会保障支出は抑えられていたことになる。そのため、日本の社会保障給付 は高齢者向けが中心になり、子育て支援などは手薄になっている。 社会保障支出総額を増やさずに、少子化対策や子育て支援を拡充しようとすれば、その分だ け高齢者向け支出を減らす必要がある。その一方で、高齢化が進んでいることから、社会保障 支出総額が増えなければ、確実に高齢者一人あたりの社会保障費は減ることになる。 こうした状況を踏まえると、限られた財源を有効活用する効率化・重点化は欠かせないもの の、大胆な社会保障費の削減による財政健全化は現実的ではないだろう。 社会保障サービス需要の拡大 Contact EY総合研究所株式会社 03 3503 2512 [email protected] 今後、さらに介護サービスへの需要が高まると考えられる。20年代に団塊の世代が75歳を迎 え始めることに加えて、介護者の負担も増えているためだ。 13年時点で20万人が介護理由に就業や職探しをしていなかった(総務省『労働力調査』)。こ の人数は、出産・育児の場合(105万人)に比べれば少ないものの、今後の高齢化率の上昇を 踏まえれば、介護を理由にした非労働力化はさらに増えるとみられる。 介護を理由とした退職は、一時的な労働市場からの退出ではない恐れがある。出産・育児で いったん離職した場合には職場復帰の可能性が高い一方で、介護の場合では介護者自身の年 齢も高くなっていることから、職場復帰は難しいだろう。人口減少が進む中で労働力の確保が課 題となる中で、この問題は大きいといえる。 また、少子化対策はいまだ不十分といえるだろう。出生率が反転したフランスなどと比べると、 日本の少子化対策は見劣りしている。社会保障給付のうち「家族」給付(GDP比)を比べると、フ ランス(2.94%)、イギリス(3.97%)に対して、日本は1.32%にすぎない(国立社会保障・人口問 題研究所『社会保障費用統計』2011年値)。 さらに、雇用の多様化や流動性を高めるためには、職業訓練などを含めた積極的労働市場政 策も欠かせないものだ。 こうしたことを踏まえると、これまでの小さな政府志向を転換することも検討に値するだろう。た だし、その場合、社会保障の拡充以上に負担が増えることに注意が必要だ。なぜなら、財政健 全化を進めるための負担増があるからだ。 そのときの課題は、やはり財源の確保だ。08年の社会保障国民会議以降の議論のように、必 要となる社会保障サービスを想定して、その負担を計算することが重要だ。もちろん、負担の調 整は、世代間だけではなく世代内でも行うことや、税や社会保険料などを含んだ包括的なもので EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory なければならない。 EYについて EYは、アシュアランス、税務、トラ ンザクションおよびアドバイザリー などの分野における世界的なリー ダーです。私たちの深い洞察と高 品質なサービスは、世界中の資本 市場や経済活動に信頼をもたらし ます。私たちはさまざまなステーク ホルダーの期待に応えるチームを 率いるリーダーを生み出していき ます。そうすることで、構成員、クラ イアント、そして地域社会のために、 より良い社会の構築に貢献します。 は、社会保障制度が手厚いとされる北欧諸国で、女性の労働参加を促し、企業競争を重視する るために、社会保障制度を活用するという視点も必要だと考えられる。 図 政府支出の比較(2012年) (GDP比%) 60 支出計 社会保障支出 社会保障以外の政府支出 50 40 30 20 10 オーストラリア スイス 韓国 アイルランド スイス 韓国 米国 エストニア スロバキア ニュージーランド 日本 イスラエル ポーランド アイルランド ノルウェー チェコ ルクセンブルグ 英国 ドイツ スペイン オランダ スロベニア ポルトガル イタリア ハンガリー オーストリア ギリシャ スウェーデン ベルギー フランス 0 フィンランド EY総合研究所株式会社について EY総合研究所株式会社は、EYグ ローバルネットワークを通じ、さま ざまな業界で実務経験を積んだプ ロフェッショナルが、多様な視点か ら先進的なナレッジの発信と経済・ 産業・ビジネス・パブリックに関する 調査及び提言をしています。常に 変化する社会・ビジネス環境に応 じ、時代の要請するテー マを取り 上げ、イノベーションを促す社会の 実現に貢献します。詳しくは、 eyi.eyjapan.jp をご覧ください。 ことで、経済成長を目指している姿に表れている。日本でも、人口減少の中で経済成長率を高め デンマーク EYとは 、ア ーン スト・ アンド ・ ヤン グ・グローバル・リミテッドのグロー バル・ネットワークであり、単体、も しくは複数のメンバーファームを指 し、各メンバーファームは法的に独 立した組織です。アーンスト・アン ド・ヤング・グローバル・リミテッドは、 英国の保証有限責任会社であり、 顧客サービスは提供していません。 詳しくは、ey.com をご覧ください。 また、重要なことは、社会保障拡充の目的が、経済成長のための環境づくりであることだ。それ 出典:OECD, Annual National AccountsよりEY総合研究所作成 (注) 社会保障以外の政府支出は利払費を除く 図 社会保険料・租税負担(2012年) (GDP比%) 50 社会保険料雇用者負担 社会保険料雇用主負担 租税 合計 45 40 35 © 2015 Ernst & Young Institute Co., Ltd. All Rights Reserved. 30 本書は一般的な参考情報の提供のみを 目的に作成されており、会計、税務及び その他の専門的なアドバイスを行うもの ではありません。意見にわたる部分は個 人的見解です。EY総合研究所株式会社 及び他のEYメンバーファームは、皆様が 本書を利用したことにより被ったいかな る損害についても、一切の責任を負いま せん。具体的なアドバイスが必要な場合 は、個別に専門家にご相談ください。 15 25 20 10 5 米国 オーストラリア トルコ 日本 スロバキア カナダ イスラエル ポルトガル スペイン ポーランド エストニア ニュージーランド 英国 チェコ ギリシャ オランダ ドイツ スロベニア ハンガリー ルクセンブルグ スウェーデン オーストリア ノルウェー イタリア フィンランド フランス ベルギー デンマーク 0 出典:OECD, Revenue StatisticsよりEY総合研究所作成 EY Institute 02 シリーズ:財政健全化の論点整理③ ~望ましい社会保障とそのための負担
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