研究内容 - 一般財団法人青葉工学振興会

青葉工学振興会賞等受賞者
第20回青葉工学研究奨励賞
Ga-Alフラックスを用いた単結晶窒化アルミニウム
液相成長法の開発
東北大学
多元物質科学研究所
助教 安 達 正 芳
紫外線、特にUV-Cと呼ばれる波長200-280 nmの深紫外
領域の中で260 nmの光は、DNAやRNAの最大吸収帯であ
くとも格子不整合の問題を克服することができる。
そこで筆者らは、深紫外LED用の基板の実用化を目指
り、細菌やウィルスに対する強い殺菌作用を示す。現在、
し、Ga-Alをフラックスとして用いた新しい液相エピタキ
深紫外光源として水銀ランプが広く用いられているが、動
シャル成長法[2]を開発し、AlNの厚膜化プロセスの研
作に高電圧が必要となり、デバイスサイズも大きい。また、
究を行っている。Gaは302.8 Kの低融点を示しながら2477
2013年10月に熊本で採択された水俣条約では、2020年ま
Kの高沸点を示す液体状態の安定した物質である。また、
でに水銀を使用した製品の製造・輸出を原則禁止しており、
Ga-Al二元系は典型的な共晶系であり、融点の高い金属間
紫外光源の水銀フリー化が緊急の課題である。
化合物を形成しない。また、Ga自身も窒素と結合しGaNを
一方、深紫外発光ダイオード(LED)は、低消費電力・
形成するが、GaNは1120 K以上の窒素雰囲気下において分
長寿命・コンパクト・水銀フリーという長所を有するため、
解するため、1120 K以上で保持することでAlNを選択的に
水銀ランプの代替として普及していくことが期待される。
成長せることが可能となる。
深 紫 外LEDはAlGaN系 窒 化 物 半 導 体 か ら 作 製 さ れ る。
筆者らのこれまでの研究により、 10 mm角の基板ながら、
AlGaN系LEDの基板の材料として、AlGaNとの格子整合
1573 K、
5
hのプロセスで厚さ1.2 µmのAlN膜の成長を実現
性が高く、且つAlGaNよりも広いバンドギャップを有する
している。図1に成長したAlNの断面TEM像を示す。結晶
ため紫外光透過性が高いAlNが最適である。しかしながら、
配向性の評価のために取得したAlNのX線ロッキングカーブ
AlNの持つ高温での解離圧の高さから、常圧下では融解せ
の半値幅は (0002)
、
(10-12)
に対しそれぞれ、 90、 392 arcsec
ずに解離が起こるため、シリコン単結晶のように自身の融
であり、サファイア基板上のAlN膜としては世界最高水準
液からバルクAlN単結晶を育成することは極めて困難であ
の配向性を有することがわかった [3]。
る。これまでハイドライド気相成長法や昇華法などの方法
最近では、供給窒素ガス中にppmオーダー含まれる酸素
で、バルクAlN単結晶の育成が試みられているが、結晶の
が結晶成長に及ぼす影響を調べ、成長したAlNの極性が反
サイズおよびコストの両方を同時に満足する製造プロセス
転するメカニズムを突き止めた[4]。現在、大型化・高
は確立していない。そのため、多くの研究者が深紫外波長
速成長化に関する研究とともに、結晶成長機構の解明を目
に対し透明なサファイア基板を用いたAlNのヘテロエピタ
指した研究を行っており、本手法の実用化を目指している。
キシャル成長法の開発を行なっている。サファイアをテン
プレートとして用いたAlNのヘテロエピタキシャル成長で
[1]H. Fukuyama et al. , J. Appl. Phys., 107 (2010) 043502.
は、格子不整合が問題となる。有機金属気相成長法では、
[2]M. Adachi et al. , Phys. Stat. Sol. A, 208 (2011) 1494.
この格子不整合を克服するため、表面をパターニングした
[3]M. Adachi et al. , Appl. Phys. Express, 6 (2013) 091001.
サファイア基板上にAlNを成長させ、ボイドを形成し、成
[4]M. Adachi et al. , Phys. Stat. Sol. B, in press.
長とともにボイドが埋まりコアレスする箇所で貫通転位密
度を低減させるLateral epitaxial overgrowth (LEO) 法が
桁程度の貫通
用いられている。この手法の導入により1 -2
転位密度の低減が実現されているが、実用化に向け今後さ
らなる高品質化が必要となる。
当研究室では、窒化反応の駆動力を制御しながらサファ
イア基板表面を窒化し、厚さ10 nmの高品質なAlN薄膜を
得る技術を確立している[1]。この基板を用いることで
サファイアをテンプレートとしながらAlNのホモエピタキ
シャル成長が実現し、LEO法のようなプロセスを導入しな
4
SUIRAN
図1、‌1573 K、5 hのプロセスで窒化サファイア基板上に成長した
AlNの断面TEM像[3]。