質がたくさんあることを知った。 たてもの建材探偵団 長所は,何といってもすぐれた耐火性である。特にセメ ントが高価で,気楽にコンクリートを作ることができな かった時代には,うってつけの耐火建築材料であったに違 札幌軟石と建築 いない。さらに加工が容易という点も見逃せない。大した 手間をかけることもなく,適当なサイズの部材にすること ができた。また吸放湿性があるため室内環境を安定化させ ることにも役立った。これは倉庫建築などには好都合で あった。ということで札幌軟石の利用は大いに進んだのだ ぎょうかいがん 私の生まれ育った札幌には札幌軟石と呼ばれる凝灰岩の と思う。 石材がある。近郊にはこの石がふんだんにあったので,明 一方,弱点もある。強度が低いのである。軟らかいとい 治後半から大正にかけてこれを使った建物が沢山作られ ことはそういうことでもある。だからこれだけで純粋な組 た。私の育った家の近くにも何棟かあったが,今はほとん 積造とすることは避けられた。内側にはしっかりとした木 ど取り壊されてしまった。 構造が控えているのである。写真 2 は倉庫として利用され 写真 1 は 1904 年に札幌軟石で作られた日本基督教団札 た建物内部である。倉庫なので余計な内装材がないので構 幌教会(設計:間山千代勝)である。これは市内にまだ現存 造が良く見える。木造の柱があり,それに長尺の板が筋交 している。昔は幼稚園が併設されていて,実は私はそこに 2 いのように斜めに打ち付けられている。そしてその隙間か 年間通わされていた。ただ祖母の家が農家をしており,ま ら積まれた札幌軟石が見える。木材と石材との協業により わりは自然が豊富で,しかも馬,羊,鶏,犬と遊び相手に事 建物は作られている。だからこれは木骨石造と呼ばれる。 欠くことがなく,当時の私はそこでの生活がよっぽど気に さらに凝灰岩は吸放湿性に富むことの裏腹の関係とし 入っていて,幼稚園はサボリにつぐサボリであった。今もっ て,吸水率が高い。これは北海道のような寒冷地では心配 て時々再発するサボリ癖はその頃の名残かもしれない。 事となる。水分の凍結による凍害が懸念されるからである。 ところで凝灰岩とは火山灰が堆積して石材と化したもの その確認のため昨年の秋,亡父墓参の折,100 年以上を経 である。これも 30 年以上も前の話であるが,1977 年夏た ている前述の教会を訪ねてきたが,全体としては意外と良 またま帰省で札幌にいた時,有珠山噴火(噴火予知に成功 好な状態にあった。水処理をうまくしてやれば劣化はそう した 2000 年の前の噴火)があり,70km 以上も離れている札 心配しなくてもよいのかもしれない。 幌市内にも多量の火山灰が降った。ずいぶん遠くまで火山 写真 3 は札幌軟石の切り出されたところが保存されてい 灰は飛んでくるものだと驚かされたが,札幌軟石はこうし る採石場跡である。そんなに丈夫な材料ではないので,切 て出来上がったのだろうということも納得できた。 り出し面が滑らかになっている。まさしく石切り場の跡で さて札幌軟石であるが,率直にいってあまり高級感のあ ある。場所は市内から車で 20,30 分のところにある藻南公 る石材ではない。特に子供心には,冬のどんよりした雪空 園内。札幌に出かける機会があれば立ち寄るとよいと思う。 と 2 重写しになり,ひたすら暗いイメージしかない。長じ (文責:東京工業大学 名誉教授 田中 享二) て建築材料学を専攻することになり,これにはすぐれた性 写真1 日本基督教団札幌教会 建材試験センター 建材試験情報 3 ’ 15 写真 2 木骨石造の倉庫内部 写真 3 採石場跡( 藻南公園内) 41
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