地政学概論 ~introduction to geopolitics~ 法学部法律学科2年 下川真史 本勉強会の目的 弁論も国家戦略も本質的な差異はない (現状分析、問題点、原因分析、解決策) 分析ツール、モノサシはどうあるべきか →科学的、理論的であるべき、×直観・経験 本勉強会の目的 →国際政治を分析するための理論的枠組みの提供 →その手段としての地政学理論 目次 Ⅰ 地政学とは何か Ⅱ シーパワー理論 Ⅲ ランドパワー理論とハートランド Ⅳ リムランド理論 Ⅴ パン・リージョン理論 Ⅵ 参考文献 Ⅶ 終わりに Ⅰ 地政学とは何か 定義 地政学の明確な定義はない →「地理(空間)と政治における一般的な関係の考察」 →古来から試みられてきた(EX:『孫子』 地理に付随する軍事・歴史・経済・文化等も対象 マクロ的、大局的な視点 →地理は国際政治において不変の要素 →国家戦略策定のための簡略化されたパラダイム 学問領域 国際政治学/国際関係論の一部 →リアリズム論と密接な関係 →主題は戦争と武力行使、主体は主権国家 政策科学 →真理探究よりも実践、結論志向 →客観性に欠ける、悪魔の学問? Ⅱ シーパワー理論 マハン 米海軍少将・海軍史家 主著『海上権力史論』(1890) 米国、帝政ドイツ、日本(坂の 上の雲)等の海軍戦略に大きな 影響 Alfred Thayer Mahan(1840~1914) シーパワーと海上貿易 英国が世界の覇権(17~18世紀)を握れたのは何故 か? →強大な海軍による制海権の掌握(七つの海を支配) →海上貿易の拡大、商船隊の保護 →海外市場、植民地の獲得による富の拡大 シーパワー(海上権力) →軍事力だけではなく、その基盤となる海運業、拠点とな る海外基地等を包括する広い概念 シーパワーに影響を与える諸条件 地理的位置(シーレーンに接しているか) 地勢的形態(資源及び気候条件を含む) →湾口に富む海岸線の存在 領土の規模(資源と富を供給できる基盤) 人口(必要な船員を供給出来る基盤) 国民性(通商・海運への適性) 政府の性格 →一貫した戦略の存在 →優れた政治制度 シーパワーの構成要素 ☆3つの連鎖 生産 海運 植民地 ☆3つの要素 海軍力 根拠地 商船隊 マハン戦略Ⅰ シーパワーは国益と不可分である →平時戦時問わず海軍力を増強すべき →(EX:「オレンジ・プラン」、英独海軍競争 シーパワーの目的は海洋支配 →その手段としての艦隊決戦 →(EX:トラファルガー会戦、日本海海戦 大艦巨砲主義へ マハン戦略Ⅱ 海軍の支配力は根拠地と海上交通線に依存する 根拠地 →海軍を整備可能な軍港(EX:米軍横須賀基地 海上交通線(シーレーン) →自然に形成された重要な航路 根拠地と海上交通線を維持・保護する必要性 マハン理論の影響 米国(セオドア・ルーズベルト大統領) →ハワイ・フィリピン領有、オレンジ計画 帝政ドイツ(ヴィルヘルム2世) →海軍拡張・植民地獲得競争 大日本帝国(秋山真之・佐藤鉄太郎) →戦術面(艦隊決戦主義)での影響 ソ連(セルゲイ・ゴーシュコフ) →ソ連海軍の増強 中国(劉華清) →沿岸防衛から外洋海軍へ 両立出来ない? 如何なる大国もシーパワー大国とランドパワー大国である ことは出来ない? →ランドパワー大国でありながらシーパワー大国も目指した国 家(EX:フランス、ドイツ、ソ連)は皆失敗 →シーパワー大国でありながらランドパワー大国を目指した国 家(EX:大日本帝国)も失敗 ランドパワーは他のランドパワーとの競争に晒されている から 現代中国は? Ⅲ ランドパワーと ハートランド マッキンダー オックスフォード大学地理学 院長、ロンドンスクールオブ エコノミクス学長、下院議員 等を歴任 近代地政学の祖 主著『歴史の地理学的回転 軸』(1904)『デモクラシー の理想と現実』(1919) マッキンダーの目的意識 覇権国家英国の勢力の退潮 →日英同盟(1902)、第一次世界大戦(1914~18) 台頭するランドパワー(ナチス・ソ連)から如何にして 英国・民主主義を防衛するのか 覇権国家の交代(英→米)を如何に円滑に行うか マッキンダー史観Ⅰ ☆世界史はランドパワーとシーパワーの闘争の歴史である →ナポレオン戦争(1803~19) ランドパワー:仏 シーパワー:英 →世界大戦(1914~18・39~45)ランドパワー:ドイツ シーパワー:英・米 →冷戦(1945~1989) ランドパワー:ソ連 シーパワー:米 ランドパワーとは? ランドパワー →「平時戦時を通じて陸上交通を維持・保護出来る能力」 →基本的には大陸国家(露・中・独等) シーパワー →「平時戦時を通じて海上交通を維持・保護出来る能力」 →基本的には海洋国家(米・英・日本等) ランドパワーとシーパワー シーパワーだけではランドパワーに対抗できない? →ランドパワー・シーパワー間の勝敗は最終的には陸戦で 決定されている。(EX:ナポレオン戦争、第一次・二次大 戦) 橋頭堡の重要性(大陸における足がかり) →戦力の投射が容易になる(EX:両大戦におけるフランス、 冷戦下におけるNATO) マッキンダー史観Ⅱ ☆世界史はコミニケーション手段(交通手段)の発達段階 によって区別される コロンブス以前の時代(~16世紀)馬・ラクダ →ランドパワー優勢、ローマ帝国の滅亡・モンゴル帝国 コロンブスの時代(16~19世紀)船舶 →シーパワー優勢、植民地獲得競争、英国の覇権 コロンブス以後の時代(20世紀)超距離鉄道? →ランドパワー優勢?ドイツ・ソ連の膨張? ハートランド理論 Who rules East Europe commands the Heartland: (東欧を支配するものはハートランドを制し、) Who rules the Heartland commands the WorldIsland: (ハートランドを支配するものは世界島を制し、) Who rules the World-Island commands the World. (世界島を支配するものは世界を制する。) APRIL 1904) 出展:The Geographical Pivot of History“, Geographical Journal 23, no. 4 (April 1904) ハートランドとは? 定義 →必要に応じてシーパワーの侵入を阻止できる地域(大体 旧ソ連領) →北極海の凍結・海洋から遠距離 →技術の発展に伴い変化 何故ハートランドが重要なのか →遊牧民の侵略の起点(文化的背景)、広大な土地・資源 →鉄道網の整備・人口増によって再び脅威に ハートランドと東欧 東欧との関係 →ハートランドへの進入路、膨大な人的資源 →歴史的経緯(第一次世界大戦→第二次→共産主義化 →NATO加盟・ウクライナ内戦) 東欧とハートランドが同一勢力によって支配されること の阻止(ドイツ・ソ連) →東欧諸国の集団的安全保障を画策 →冷戦後に実現(NATO加盟) NATOVSワルシャワ条約機構(1949~89) 出展:ウィキペデイア/北大西洋条約機構より引用 NATO(2015年現在) 出展:ウィキペディア/北大西洋条約機構 より引用 ハートランドと世界島 世界島 →ユーラシア大陸+アフリカ大陸、膨大な人口と資源 世界島を支配する勢力の登場 →世界の海の“内海”化 →シーパワーの危機 Ⅳ リムランド理論 N・スパイクマン( 1893~1943) エール大教授 マッキンダー・マハンの影響 目的意識:日・独から如何に して米国を防衛するか 主著『世界政治の中のアメリ カの戦略』(1942)『平和の 地政学』(1944) 孤立主義は通用するのか? 米国の孤立主義的伝統(モンロー主義) →大陸の情勢に関与することを好まない風潮 大陸において決着をつけるべき →南米諸国は米よりも欧州との関係が深い →防衛に必要な資源は南北アメリカ大陸だけでは確保不可 農 リムランドとは? リムランドを制するものは世界を制す →ユーラシア大陸沿岸周辺地帯 →ハートランドと比較して圧倒的に資源・人口・経済力が 豊か →ランドパワー論の一部修正 リムランド理論Ⅰ 1、勢力を抑止するためにリムランド諸国と同盟を結ぶこ と 2、リムランド諸国間のつながりを断つこと(分割統治) リムランド理論Ⅱ 3、「海洋は防波堤ではなく高速道路である。」 →船舶技術の発展 →中継基地の重要性 出典:SBオンライン:「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【3】 文・松本利秋 より引用 出展:NIPPON.COM 地球を俯瞰する安倍外交―谷内正太郎内閣官房参与インタビュー(1)[2013.07.05] 封じ込め理論 J・F・ケナン「ソビエトの行動の源泉」(1947) 封じ込めを主張 トルーマン・ドクトリンとマーシャル・プラン 冷戦の開始 NATOと日米安保 Ⅴ パン・リージョン理論 K・ハウスホーファー ドイツ軍少将・ミュンヘン大教授 パン・リージョン理論 ヒトラー『我が闘争』・「大東亜共栄圏」構想の理論的背景 日本地政学に大きな影響 科学的厳密性に大きく欠ける 思想的背景 フリードリヒ・ラッツェル『政治地理学』 →国家は生命体であり、その生命力に従って生存圏を拡大 する ルドルフ・チェーレン『有機体としての国家』 →アウタルキー(経済的自給自足)を主張 パン・リージョン理論 生存圏+アウタルキー →国家が発展していくためには、ある程度の生存圏と自給 自足に必要な資源と産業の支配が必要 パン・リージョン →世界を4つにブロック化 →ブロックの支配国同士の勢力均衡によって世界平和を実 現 →最終的にドイツが4ブロックの盟主に Ⅶ 参考文献 参考文献 H・J・マッキンダー『マッキンダーの地政学 シーの理想と現実』(原書房・2008) デモクラ A・T・マハン『マハン海上権力史論』(講談社・2010) N・スパイクマン『平和の地政学』(芙蓉書房・2008) 奥山真司『地政学』(五月書房・2004) 曾村保信『地政学入門』(中公新書・1984) 黒野耐『戦争学概論』(講談社・2005) 中川八洋『地政学の論理 拡大するハートランドと日本の 戦略』(徳間書店・2009) コリン・グレイ『核時代の地政学』(紀尾井書房・1982) コリン・グレイ、ジェフリー・スローン『胎動する地政 学』(五月書房・2010) Ⅶ 終わりに 地政学とは? 地政学は不変の要素(地理)と変化する要素(科学技 術・軍事)を扱っている。 →核兵器・インターネットの登場によってどう変わるか 地政学は国家戦略立案の手段の一つに過ぎない 企画を終えて 「武装せる預言者は、みな勝利を収め、非武装のままの 預言者は、みな滅びる」 →マキャベリの格言 雄弁部は「大衆の説得」を部是にしている →弁士の「理想社会」を実現するための“手段” →現実社会においては? 「武装せる預言者」たれ!! ご清聴有難うございました。
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