ワンポットケモエンザイマティック(化学-酵素)プロセス Enzymatic ワンポットケモエンザイマティックプロセスとは化学触媒と酵素触媒をワンポットで使用することにより、 複数ステップの反応を途中精製の必要なく行う合成法のことです。このとき、化学触媒と酵素はあたか も一つの触媒のように機能し、これまで達成されていない化合物変換反応を行うこともできます。 光学活性1-フェニルエタノールの合成と触媒リサイクル アブストラクト ワッカー酸化 (a) Methanol, styrene (b) Styrene ADH酵素還元 Interior Exterior O2 05%(PDMS膜無) 85%(PDMS膜有) O2 PdCl2 PdCl2 CuCl 光学活性な1-フェニルエタノールは医薬品等の原料となることから、安価な原料から 効率良く得るためのプロセス開発が求められています。しかしながら、クラッキングで 得られるような安価な原料(スチレン等)から直接合成する化学触媒はなく、スチレン から光学活性な1-フェニルエタノールを得る反応は有機化学における「夢の反応」の 一つでした。本研究では互いに反応を阻害するワッカー触媒とアルコールデヒドロゲ ナーゼをポリジメチルシロキサン(PDMS)膜を用いて隔離することにより、あたかも一 つの触媒として働くようなケモエンザイマティック触媒系を開発しました。このケモエ ンザイマティック触媒を用いてさまざまなスチレン誘導体から高光学純度の1-フェニ ルエタノール誘導体を合成することができます。また、ワッカー触媒部は長時間、複 数回のリサイクルが可能です。研究のキーとなったPDMS膜は疎水性の機能膜で金 属塩や(補)酵素などの親水性化合物は通さず、疎水性の高い有機化合物のみを透 過させる特徴があります。 Pd CuCl Interior: MeOH/H2O (88/12) IPA LK-ADH NADP+ PdCl2 CuCl Exterior: added IPA/PBS (1/3) Exterior: Empty リサイクル 基質適用性 85% 79% 70% 84% 99% ee 98% ee 99% ee 98% ee 87% 98% ee 91% 98% ee 94% 98% ee 93% 98% ee Cu O2 ワッカー酸化: ワッカー酸化はパラジウムと銅 を触媒とする酸化反応です。酸素のみが消費 されるためエコな酸化反応です。 ADH還元: アルコールデヒドロゲナーゼはアルコールの酸化還元 反応を触媒する酵素です。ADHの活性は銅イオンによって失活 するため、銅イオンと共存して用いることはできません。 ポリジメチルシロキサン(PDMS)ティンブルと研究例 ワッカー触媒リサイクル PDMS thimble Miller A. L. J. Org. Chem. 2009, 74, 4834-40. 内相 Mwangi, M. T. Chem. Eur. J. 2008, 14, 6780–88. 16回平均収率 > 85% 触媒リサイクル回数 > 16 触媒リサイクル時間 > 60日 触媒効率 < 0.31 mol% (工業化の目安 < 1 mol%) 安価なスチレン(1.7 円/g)から1-フェニルエタノール(28200円/g)を合成 高価なパラジウムソース(9100円/g)を完全リサイクル 外相 親水性化合物 親水性00化合物 疎水性(有機)化合物 疎水性(有機)化合物 PDMS膜 Runge, M. B. Angew. Chem.Int. Ed.. 2008, 47, 935-9. 本研究は、BMBFの支援のもとドイツ・ビーレフェルト大学Harald Gröger研究室で行われたものです。 H. Sato, W. Hummel, H. Gröger, Angew. Chem. Int. Ed. 2014. DOI: 10.1002/anie.201409590
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