医療経営論③ ~日本の医療制度と医療経営(2)~

20150428
医療経営論③
~日本の医療制度と医療経営(2)~
安川文朗(国際総合科学部)
①日本の医療制度の柱となっている「健康保険制
度」について、そのメカニズム、メリットとデメ
リットを理解する
講義のゴール
②日本の医療制度の特徴である「フリーアクセ
ス」の功罪について明らかにする
③医療資源(施設、医療従事者など)の実態をデー
タから理解する
医療保険制度と
医療費
日本の医療制度は、社会保障制度の一環であり、第
一義的には国家が国民の生活保障の責任をもつ。
しかし実際の運営については、国民相互が費用を負
担しあう「共助」を基盤として、そこに「公助」と
「自助」が補完的に関わるしくみとなっている。
社会保障の果たす機能
(1)所得再分配機能:所得の多いグループから少ないグループに、社会
保険の仕組みを通して富を再分配する
(2)リスク分散機能:あらかじめ財源をプールしておき、実際の社会的
リスクに備える
(3)ビルト・イン・スタビライザー機能:好況時に保険料の徴収の増加
により景気の過熱を抑え、不況時には、給付を増大することで有効
需要を生み出す
医療保険=将来の不確実な健康リスクに対する備え
医療保険の目的
人は自分がどの程度の備えが必要か事前には不明
潜在的な損失の大きさから、すべての人の厚生welfare
を改善できる
もし、誰かにとって保険に加入することがなんらかの
厚生損失welfare lossとなることが明らかな場合、その
ような保険に入ろうとする人はおらず、保険は成立し
ない
公的医療保険制度と患者の受診行動
医療保険の
メカニズム
 原則として全国民が加入し、どこでもほぼ同額で治療が受
けられ、しかも自己負担が少ない公的医療保険制度は、患
者の受診行動にどう影響しているだろうか
患者が直面するコスト
患者の受診行動
全額負担の場合
受診数
医療保険システム
の効果
1)患者が直面する医療費負担を軽減
2)そのことで、患者はより多くの医療サービスを
購入しても負担感を感じない
3)医療提供側も、医療費の額を気にせずに医療
サービスを患者に提供できる=医療機関にとって収
入の不確実性が小さい
4)結果として、医療費が「安く」なった状況では、
そうでない場合よりも「より多くの」医療サービス
が消費される
厚生労働省『国民医療費』平成24年度
Free accessの功罪
なぜフリーアクセスか
・即応性の原則:必要な時に必要な医療を受けられる
・自己決定の原則:自分の受けたい医療は自分で決定する
・患者確保の自由の原則:病院は自分の患者を自ら勝ち取るべし
医療機関のフリーアクセスは、地域医療の過度の競争を助長している可能性がある
医療の主体均衡価格=利便性/快適性
地域の医療供給総量
医療需要量
素朴な疑問:保険が
過剰な医療消費を生
むなら、いっそ税金
で医療を賄えないの
か?
財
源
平成24年度
推計額
構成割合
(億円)
国民医療費
公費
国庫
地方
保険料
事業主
被保険者
その他
患者負担(再掲)
392 117
151 459
101 138
50 321
191 203
79 427
111 776
49 455
46 619
(%)
100
38.6
25.8
12.8
48.8
20.3
28.5
12.6
11.9
厚生労働省『国民医療費』平成24年度
保険方式のメリット
保険料方式と
税方式の比較
①等価交換原理を基盤とした市場経済、自由経済を基本と
する我が国の経済システムに適合する
②保険料拠出の見返りとして給付の権利性が強く、給付を
受けることに対する屈辱感がない
③負担と給付の関係の明確性ゆえに、税方式と比較して、
賦課徴収に対して国民の同意が得やすい
④社会保険料は社会保険以外の目的に使用されることはな
い(税の場合は様々な施策と競合する)
⑤国民に自助努力を促し、国家への依存を防ぐ
保険料の最大の特徴はその対価性と自助性にある
社会保険
財源調達方式の
特徴比較(社会
保険 VS 税)
税
方法
・保険料率などのルールによりすべての国民から
徴収
・職場、組織、機関別徴収と地域別徴収のオプ
ション
特徴
・個人の実質リスクではなく所得をリスクの代理変 ・所得による徴収と一律の徴収の混在によって、
数として徴収額を決定
リスク自体の評価はできない
メリット
・医療のために徴収されているので、プールは確
実に医療にのみ使われる
・プールの配分に際して、比較的公平性は担保
される
・徴収率が高い
・管理が一元化されているため、管理コストが小
さく、財源上の格差が生じない
デメリット ・特に非被用者保険の場合、徴収率は不確実
・グループ別財源調達のため、保険者間で財源
格差が生じ、調整が必要
・政府が管理するために、このプールが確実に
医療にのみ使われる保障はない
・プールの配分に際して、必ず優先順位をつけ
ねばならず、完全な公平性は保障されない
採用国
英国、北欧、カナダ、オーストラリアなど
日本、ドイツ、フランス、韓国、メキシコ等
・国税、地方税の一部をプール
・累進的な徴税とフラットな徴税のオプション
医療資源の実態
医療を提供するための人、モノ、カネの実態
はどうなっているのか?
医療経営を考えるうえで不可欠の情報
国際比較からみた
日本の医療資源の
実態
資料:厚生労働省『医療保障制度に関する国際関係資料』より
医師や看護師は
どれくらい足り
ないのか
(人)
300.0
都道府県(従業地)別にみた医療施設(病院・診療所)に従事する
人口10万対医師数
250.0
全国
226.5人
200.0
150.0
男
182.1人
100.0
50.0
女
44.5人
0.0
北青岩宮秋山福茨栃群埼千東神新富石福山長岐静愛三滋京大兵奈和鳥島岡広山徳香愛高福佐長熊大宮鹿沖全
海
奈
歌
児
道森手城田形島城木馬玉葉京川潟山川井梨野阜岡知重賀都阪庫良山取根山島口島川媛知岡賀崎本分崎島縄国
平成24年度医師・歯科医師・薬剤師調査報告より
http://www.globalnote.jp/post-10286.html
総
医
療
費
比
較
順位
国名
1 アメリカ
2 日本
3 ドイツ
4 フランス
5 イギリス
6 イタリア
7 カナダ
8 スペイン
9 韓国
10 メキシコ
11 オランダ
12 オーストラリア
13 トルコ
14 ポーランド
15 ベルギー
16 スイス
17 オーストリア
18 スウェーデン
19 ノルウェー
20 ポルトガル
21 チリ
22 ギリシャ
23 デンマーク
24 チェコ
25 フィンランド
26 イスラエル
27 アイルランド
28 ハンガリー
29 ニュージーランド
30 スロバキア
31 スロベニア
32 ルクセンブルグ
33 エストニア
34 アイスランド
2011年
2,650,908
411,463
365,743
268,327
210,322
182,900
155,922
137,742
109,440
105,858
85,243
83,849
64,872
55,953
44,869
44,646
38,285
37,079
28,071
27,646
27,053
26,677
24,779
20,635
18,179
17,354
16,925
16,875
14,014
10,337
4,968
3,059
1,745
1,054
一
人
当
た
り
医
療
費
比
較
順位
国名
1 アメリカ
2 ノルウェー
3 スイス
4 オランダ
5 オーストリア
6 カナダ
7 ドイツ
8 デンマーク
9 ルクセンブルグ
10 フランス
11 ベルギー
12 スウェーデン
13 オーストラリア
14 アイルランド
15 イギリス
16 フィンランド
17 アイスランド
18 日本
19 ニュージーランド
20 スペイン
21 イタリア
22 ポルトガル
23 スロベニア
24 ギリシャ
25 イスラエル
26 韓国
27 チェコ
28 スロバキア
29 ハンガリー
30 チリ
31 ポーランド
32 エストニア
33 メキシコ
34 トルコ
2011年
8,507.63
5,668.57
5,642.57
5,098.91
4,546.37
4,521.56
4,494.65
4,448.23
4,246.25
4,117.88
4,061.41
3,924.79
3,800.08
3,699.53
3,405.47
3,373.84
3,304.86
3,213.10
3,182.17
3,072.17
3,012.01
2,618.77
2,420.57
2,360.81
2,239.38
2,198.49
1,965.96
1,914.90
1,688.69
1,568.42
1,452.36
1,302.74
976.58
905.72
医療経営を考える
ための医療制度
① 医療保険制度と診療報酬制度 ⇒ 患者には受診の
権利意識を、医療提供者には収入の安定化をもたらす
② フリーアクセス ⇒ 患者の自由な医療機関選択を
保障し、医療機関は選択されるための経営的工夫を行う
必要に迫られる
③ 医療の質を保証する多様な規制 ⇒ 一定の品質を
保証できない場合、大きなペナルティが課せられる
④ 過大な病床をかかえ、入院治療を中心にした医療提
供体制 ⇒ 病床を患者で埋めないと収入が得られない