C-magazine 2015年 春号(vol.76)

Italian Republic
イタリア、サンタ・クローチェ教会のフレスコ壁画修復の様子 写真:ロイター /アフロ
レンブラント御用達!? その魅力に世界が注目
「和紙」
文化財修復の素材として、和紙が世界中で活躍していることをご存じだろうか。
17世紀オランダの巨匠もほれ込んだという卓越した特性は、
それ自体芸術といえるかもしれない。
2014年、ユネスコの無形文化遺産にまた日
だが、破損部分の裏側から注意深く和紙を貼
本の伝統文化が登録された。2013年の和食に
り付けることで、往事の姿をよみがえらせること
和紙が文化財修復の素材として世界的に注
続くそれは、和紙(日本の手漉和紙技術)だ。
ができる。
目されたきっかけは、ルネサンス期の絵画や書
背景には、文化財の修復に欠かせない素材
和紙の産地は全国にある。中でも名高い岐
物が泥水に汚れた1966年のフィレンツェ大洪
として、和紙が世界的に認知されている事実が
阜県産の美濃紙でいえば、文化財修復に使わ
水だった。しかし、和紙が海を越えたのはもっと
ある。近年イタリア・フィレンツェにあるサンタ・
れるのはもっぱら「薄美濃」だ。漉 器を縦横に
前のことだ。ヨーロッパの博物館や美術館では
クローチェ教会のフレスコ壁画修復が話題を呼
揺り動かす流し漉きという手法により、透けて
すでに19世紀から、和紙を美術品の修復に
んだが、そこでも和紙は大活躍した。壁画の表
見えるほど薄く、強度に優れた紙ができる。コウ
使っていた。さらにびっくりすることに、17世紀
面に和紙を貼り付け、洗浄のための薬品を染
ゾの靭皮繊維で作ることも、パルプを原料とす
オランダの巨匠レン
み込ませるとそれが繊維を伝って均等に拡散
る洋紙よりも強くしなやかになる理由という。
ブラントは、江戸期
する。結果、あたかも
「パック」をしたかのような
「薄美濃はその強度が上下左右均等なのも大
の日本からわざわざ
「美肌効果」が発揮されるのである。
濃紙保存会事務局の清山 健さん)
きな強みです。漂白剤や表面を滑らかにするた
取り寄 せた和 紙で
より需要が多いのは、絵画や書物のような紙
めの填料といった添加物を使わないため、貴重
版画を刷っていた!
の文化財の修復だ。年月を経るほど虫や湿気
な文化財を傷める心配がないことも、世界的な
本物の良さは時空
にむしばまれる宿命を背負うのが紙という素材
信頼を獲得している大きな理由でしょう」
(本美
を超えるのである。
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