所長からのたよりを

別れの季節
嵐に雨にはた雪に 鍛え鍛えしこの身体・・・
これは、私が通った小学校校歌の最初の歌詞です。私たちが最後の卒業生と
なり、廃校となりました。登ってよく遊んだ校庭の柳の木や小石投げに興じた
講堂横の大きな池は既にありません。幼い頃の学舎の記憶は、今でも色あせる
ことはありません。
さて、卒業式を迎える季節となりました。巣立ちゆく若人を見送り、来月は
新入生を迎える準備で学校は忙しさを増す時期です。一方で、長い歴史に幕を
下ろし地域から母校がなくなる瞬間に立ち会う子どもたちもいます。閉校式の
季節でもあるわけです。
平成の大合併は一段落しました。けれども、小中学校の廃校は絶えません。
県のまとめた資料によれば、この10年間で小学校は54校、中学校は8校減
少しました。毎年小学校は5校、中学校は1校ずつなくなっていることになり
ます。今年度末で閉校となる学校もあります。何とも寂しい限りです。
もともと学校は、地域にあって子どもの教育の拠点として誕生しました。親
は子どもを就学させる義務を果たし、子どもは地域の中で教育を受け、地域の
人たちに見守られてもきました。人間関係を築く土台は、地域にありました。
換言すれば、地域と学校は密接不可分な関係でした。
しかし、学校の統廃合が進めば地域の生活と密着した教育の効果が減る心配
があります。この状況に拍車をかけるかのように、1月に文科省は小中学校の
統廃合の手引を示しました。適正基準として、通学距離だけでなく通学時間1
時間以内を加えました。従来の「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関
する法律施行令」第4条第1項には、
『通学距離を小学校は概ね4キロ以内、中
学校は概ね6キロ以内であること』とあります。通学時間も追加されれば、ス
クールバスなどに乗り、地元を離れて遠距離通学する子どもたちが増えること
が予想されます。統廃合を加速したい国の意図が見え隠れしているようにも感
じます。現場にいた時は、学校の統廃合の協議の場に出席して何ともいたたま
れない思いをしました。廃校の記事を見るたびに、当該地域の人たちが結論に
至るまでに要した莫大な時間と苦悩を幾ばくかは想像することができます。地
元住民と行政が折り合いをつけるには、多くのエネルギーを要します。
「地域に住む子どもたちのためになるか否か」が、学校が存在する大前提で
はないでしょうか。学校の統廃合を判断する指針です。春を心待ちにするこの
時期は、こうした思い出が蘇る頃でもあります。来月からいよいよ新学期が始
まります。母校の思い出を深く胸に刻み、旅立ちを祝福する花はやはり桜が似
合います。新天地で花開け、巣立ちゆく若人よ。