: 水俣 から世界を見続けた 医 師 -- 原 田 正 純 書 名:よ か た い 先 生 文・絵:三枝三七子 出版社:学研教育出版 出 版 年 月 : 2013 年 8 月 総 ペ ー ジ 数 : 133 ペ ー ジ ISBN: 9784052038266 「 推薦者 井上奈穂 鳴門教育大学大学院准教授 社会系コース ある学生によると「本を読む」ことは,それなりの覚悟と勢いが必要らしい。本を読む ことが難しいと考えるならば,難易度をぐっと下げたらどうだろう。例えば,ミシェル・ ヌ ー ド ヤ ン 『 図 書 館 ら い お ん 』, ル イ ズ ・ ア ー ム ス ト ロ ン グ の 『 戦 争 を 平 和 に か え る 法 』・ 『 レ モ ン を お 金 に か え る 法 』 な ど が あ る 。「 小 学 生 」 向 け の 本 だ か ら と い っ て , 侮 っ て は い け な い 。 平 易 だ が ,「 き ま り 」 や 「 お 金 」,「 戦 争 」 に つ い て の 見 方 ・ 考 え 方 が 変 わ る き っかけを与えてくれる。今回は,そんな本の中から,三枝三七子『よかたい先生―水俣か ら世界を見続けた医師 原田正純―』という本を紹介したい。 この本のタイトルにある「よかたい先生」とは,水俣病の研究・治療を行っていた原田 正純氏のことである。この本では,氏の語りを通して,水俣病に関わってきたその人生が 語られている。氏は,患者の治療・原因の究明をする中で,差別を恐れ,患者を隠したい 家族の思いや,病院に行くことすら難しい家族の状況を見聞きした。それを「見てしまっ た責任」と語り,その責任を果たすために,病だけでなく,水俣病の背景にある貧困や差 別をも指摘し続けた。さらに,水俣病だけでなく,世界各地をまわり,様々な公害の原因 究明と治療を行い続けた。氏の語る「公害の被害者は仕事を選べない,生きる場所すら選 ぶことができない弱者なんだ」という言葉がとても印象に残っている。文字が少ない分, 情報量は少ない。よって,読みやすい。しかし,少ない分,他の様々な本へとつながる余 地 が 充 分 に あ る 。 15 分 も あ れ ば 読 め る ・・・と 思 う 。 是 非 , 読 ん で ほ し い 。 と こ ろ で , タ イ ト ル に あ る 「 よ か た い 」 と は 九 州 地 方 の 方 言 で ,「 そ の 場 の 状 況 を 柔 ら かく肯定する」ときに使われる言葉である。例えば,遊びに夢中で帰ってくるのが遅くな ってしまったとき,慌てて家に帰るも,お母さんの逆鱗に触れ,お説教が始まってしまっ た。そんなとき,おじいちゃんが「よかたい,よかたい」と声を掛ける。すると,お説教 は 高 い 確 率 で 終 了 す る 。 こ の お じ い ち ゃ ん の 「 よ か た い 」 に 言 葉 を 加 え る と す れ ば ,「 無 事に帰ってきたのだから,怒らなくてもいいでしょう」だろうか。子どもの頃,私もいろ いろな場面で,この「よかたい」という言葉に助けられた。 読 む に 当 た っ て , 是 非 , 氏 は な ぜ ,「 よ か た い 先 生 」 と 呼 ば れ て い た の か 。 こ の 「 よ か たい」という言葉が,いったい誰が,誰に,どんなときに,向けられた言葉なのかを考え ながら読んでほしい。そして,その感想を聞かせていただければ幸いである。
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