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131
Chapter
スカラー場
6
相対性理論を量子力学に融合させる最初の試みは,単一粒子に対して適用さ
れると想像されるシュレディンガー方程式の相対論的一般化を含むものとし
て読者は考えるかもしれない.実際,シュレディンガー自身が後に続く彼の
有名な非相対論的波動方程式の前に相対論的方程式を導いていた.我々が 2
章で最初に学んだクライン-ゴルドン方程式である.彼は次の 3 つの主な理
由のために,量子力学のための正しいものとしてクライン-ゴルドン方程式
を捨てることになった.
• それは負エネルギー解を持っているように見えた.
• それは負の確率分布を導くように見えた.
• それは間違った水素原子のスペクトルを与えた.
これらの要因を調べて,彼は今日クライン-ゴルドン方程式として知られ
るものを捨てシュレディンガー方程式として知られるものの方を選んだ.し
かし,のちに見るように,クライン-ゴルドン方程式の主な問題は解釈の問
題である.
我々は 1 章で学んだことを考えることによって,相対論的波動方程式への
道を開く.相対論は時間と空間を同様の形式で扱う.波動方程式において,
これは時間と空間座標による偏微分が同じ階数であることを意味する.非相
132
第 6 章 スカラー場
対論的シュレディンガー方程式において,時間に関する 1 階微分が存在す
るが,空間座標に関する偏微分は 2 階である.このことがはっきりと分かる
ように,シュレディンガー方程式を 1 つの空間次元の場合について書き下
そう.
∂Ψ
ℏ2 ∂ 2 Ψ
=−
+VΨ
(6.1)
∂t
2m ∂x2
この方程式は時間に関する 1 階微分 ∂Ψ
∂t を左辺に持つにもかかわらず,空間
iℏ
座標に関する 2 階微分を右辺に持つから相対論的ではありえない.量子論に
特殊相対論を組み込むために我々は対称性を期待する.この状況は時間と空
間座標ともに 2 階微分をとることでクライン-ゴルドン方程式において修正
される.これとは対照的にディラックはスピン 1/2 粒子に適用される彼の
有名な方程式を導いたときに,空間と時間座標をともに 1 階微分を適用した
ことを強調した.のちに,何故ディラックが我々が捜している時間と空間の
対称性を得るために空間微分を 1 階微分に “降格” することを決定したのか
を,時間に関する 2 階微分がクライン-ゴルドン方程式においてどのように
問題を引き起こすのかを見るときに見るだろう.この章ではスカラー場に適
用されるクライン-ゴルドン方程式を議論する.
クライン-ゴルドン方程式に到達する
ここでは,相対論的波動方程式を 2 章で簡単に学んだ方程式,クラインゴルドン方程式に戻って調査を開始する.2 章において,それがどのように
して与えられたラグランジアンから導くことができるのかを見てきた.しか
し,この方程式の最終的な起源は不可解だったかもしれない.ここですぐに
見るのはクライン-ゴルドン方程式が 2 つの基本原理の適用に従うというこ
とだ. それは 1 つが特殊相対論からとられ,もう 1 つが量子力学からとられ
る.これらは,
• アインシュタインによって導かれたエネルギー,質量,運動量の間の
133
相対論的関係
• 量子力学における,測定可能な量(“可観測量”)の数学的演算子への
昇格
である.
さて,早速シュレディンガー,クライン,ゴルドン(私が無視しているこ
とを謝罪しなければならない,この方程式を導いた既に亡くなった他の全
ての人も)がどのようにしてその方程式を導いたのかを見ていこう.クライ
ン-ゴルドン方程式は非常に簡単に 2 ステップで導ける.我々は特殊相対論
で使われるエネルギー,運動量,質量の間の基礎的な関係式を書き出すこと
から始める.
E 2 = p2 c2 + m2 c4
(6.2)
さて,するとすぐに量子力学の番になる.量子力学において可観測量は,
読者が間違いなく良く知っている特定の処方箋を使って数学的演算子に変わ
る.我々はどのようにしてこれが行われるのかを非相対論的シュレディン
ガー方程式 (6.1) を確認することで見ることができる.読者は時間に依存し
ないシュレディンガー方程式が
EΨ = −
ℏ2 ∂ 2 Ψ
+VΨ
2m ∂x2
(6.3)
によって与えられることを思い出すだろう.したがって,読者はシュレディ
ンガー方程式が非相対論的エネルギーの定義の記述と考えることができると
思われるかもしれない.それ故我々は時間に関する偏微分をとる演算子にエ
ネルギーを昇格し,エネルギーに対して次のような置き換えを行う.
E → iℏ
∂
∂t
(6.4)
通常の量子力学において運動量 p は空間微分によって与えられることも思い
出そう.すなわち,
134
第 6 章 スカラー場
p → −iℏ
∂
∂x
(6.5)
である.3 次元に一般化すると,この関係は,
p⃗ → −iℏ∇
(6.6)
となる.クライン-ゴルドン方程式を導くために我々がするべき全てのこと
は,エネルギー,運動量,質量に関するアインシュタインの関係式 (6.2) に
置き換え (6.4) と (6.6) を代入して,それを波動関数 φ に作用させることで
ある.式 (6.4) を使うと,
E 2 → −ℏ2
∂2
∂t2
となることが分かる.さて,式 (6.6) を使うことにより,
p2 → −ℏ2 ∇2
を得る.したがって,演算子に対するエネルギー,運動量,質量に関するア
インシュタインの関係 (6.2) は
−ℏ2
∂2
= −ℏ2 c2 ∇2 + m2 c4
∂t2
のように書くことができる.これは,これに対して何かをしないと使い道が
ないか意味をなさない.よって,我々はこの演算子に対して空間と時間の関
数 φ = φ(⃗
x, t) を作用させる.これを行い,少し移項するとクライン-ゴルド
ン方程式が得られる.
ℏ2
∂2φ
− ℏ2 c2 ∇2 φ + m2 c4 φ = 0
∂t2
(6.7)
1 章で議論したように,素粒子物理学では決まって ℏ = c = 1(自然単位)
という単位系で議論する.したがって,この方程式は,
135
∂2φ
− ∇2 φ + m2 φ = 0
∂t2
(6.8)
となる.この方程式の見かけは異なる記号法を用いてさらに少し単純化でき
る.実際,2 つの異なる方法で書くことができる.まず最初は,ミンコフス
キー空間のダランベルシアン
□=
∂2
− ∇2
∂t2
を思い出すことである.これは式 (6.8) を次のような簡単な形で表すことを
許す:
(□ + m2 )φ = 0
これは以下の理由でクライン-ゴルドン方程式を書くための優れた方法であ
る.我々は □ が相対論的不変量であることを知っている.すなわち,□ は
スカラーとして変換するから全ての慣性系で同じである.質量 m はもちろ
んスカラーであるから,演算子
□ + m2
もまたスカラーである.これが教えてくれるのは,我々が後に場として解釈
する関数 φ もまたスカラーとして変換するならば,クライン-ゴルドン方程
式は共変になるということである.1 章では,座標 xµ がローレンツ変換の
下で
x′µ = Λµν xν
(6.9)
と変換することを学んだ.φ(x) がスカラー場であるとき,それは
φ′ (x′ ) = φ(x)
と変換する.
ここでクライン-ゴルドン方程式の最初の特徴付けに導かれた.
(6.10)
136
第 6 章 スカラー場
• それはスカラー粒子(実際上スカラー場)に適用される.
• これらの粒子はスピン 0 粒子である.
我々はまた,式 (6.8) を 1 章で発展させた簡潔で良い形式で書くこともで
きる.∂µ ∂ µ =
∂2
∂t2
− ∇2 を使うとそれは
(∂µ ∂ µ + m2 )φ = 0
(6.11)
と表される.式 (6.11) に書かれている通り,これは自由粒子を記述する.自
由粒子解は
φ(⃗x, t) = e−ip·x
によって与えられる.ここで,我々は特殊相対論を適用しているから,p と
⃗x はそれぞれ p = (E, p⃗) 及び x = (⃗x, t) なる 4 元ベクトルであることを思い
出そう.よって,指数部のスカラー積は
p · x = pµ xµ = Et − p⃗ · ⃗x
(6.12)
となる.
自由粒子解はエネルギー,質量,運動量の間の相対論的関係を意味する.
これはとても簡単に示せるので早速示してみよう.簡単のため我々は空間次
元を 1 次元のみとする.
∂φ
∂
= e−i(Et−px) = −iEe−i(Et−px) − iEφ
∂t
∂t
及び
∂φ
∂ −i(Et−px)
=
e
= ipe−i(Et−px) = ipφ
∂x
∂x
より,
∂2φ ∂2φ
−
= −E 2 φ + p2 φ
∂t2
∂x2
137
を得る.それ故完全なクライン-ゴルドン方程式 (6.8) を作用させると
(E 2 − p2 )φ = m2 φ
が得られる.波動関数を消去して移項をすると E 2 = p2 + m2 を与え,これ
は望む結果である.エネルギーについて解くために,ここは慎重に正の平方
根と負の平方根をとる.
√
E = ± p2 + m2
(6.13)
これはシュレディンガーがクライン-ゴルドン方程式を棄却した一つの理由
である劇的な結果である.この粒子のエネルギーの解は,それが正と負のエ
ネルギー状態(=非物理的結果)のどちらも持つことができることを教えて
くれる.どうすればよいのだろうか?
負エネルギー状態を見つけたことは,クライン-ゴルドン方程式を単一粒
子の波動方程式と解釈することが間違っていることを最初に示していた.次
のようにして,我々は負エネルギー状態に対処することが判明する.負のエ
ネルギーを持つ粒子の解は実は粒子と同じ質量を持ち,逆の電荷を持ち,正
のエネルギーを持つ反粒子の解を記述する.
それでも,導入部で述べたとおり,クライン-ゴルドン方程式にはそれ以
外の問題点もある.第 2 の問題点は時間の 2 階微分が負の確率密度を導き,
それは(確率の)意味をなさないということである.少なくとも,非相対論
的量子力学の考えに制約されているなら. これを回避する方法は、方程式が
単一粒子波動関数を非相対論的シュレーディンガー方程式が行う方法のよう
には説明していないと決めることである.負の確率がどのようにして自由粒
子解から起こるのかを次の例 6.1 で見てみよう.
例 6.1
自由粒子の場合にクライン-ゴルドン方程式が負の確率密度を導くことを
示せ.単純のため 1 次元空間を考えよ.
138
第 6 章 スカラー場
解
通常の量子力学と同じ形式の確率カレントを仮定することから始める.
ℏ = 1 の下で,確率カレントは
J = −iφ∗
∂φ
∂φ∗
+φ
∂x
∂x
(6.14)
と定義する.さて,いま
∂J
∂φ∗ ∂φ
∂2φ
∂2
∂φ ∂φ∗
=−i
− iφ∗ 2 + i
+ iφ 2
∂x
∂x ∂x
∂x
∂x ∂x
∂x
2
2
∂
φ
∂
= − iφ∗ 2 + iφ 2
∂x
∂x
である.ここで,クライン-ゴルドン方程式 (6.8) を使って空間微分を時間微
分に変換できる.1 つの空間次元に着目して,項を少し移項すると,
∂2φ
∂2φ
=
+ m2 φ
∂x2
∂t2
(6.15)
が得られる.したがって
∂J
∂2φ
∂2
= − iφ∗ 2 + iφ 2
∂x
∂x
∂x )
( 2
( 2 ∗
)
∂
φ
∂ φ
∗
2
2 ∗
= − iφ
+ m φ + iφ
+m φ
∂t2
∂t2
(
)
∂J
∂2φ
∂ 2 φ∗
⇒
= − i φ∗ 2 − φ 2
∂x
∂t
∂t
となることが分かる.
さてここで,通常の量子力学から別の基礎的な結果を思いだそう.確率カ
レントと確率密度は確率の保存と呼ばれる保存則を満たす.それは 1 次元空
間では
∂ρ ∂J
+
=0
∂t
∂x
(6.16)
139
となる.それ故,
(
)
∂ρ
∂2φ
∂ 2 φ∗
= i φ∗ 2 − φ 2
∂t
∂t
∂t
となる.この方程式は
(
)
∂φ∗
∗ ∂φ
ρ=i φ
−φ
∂t
∂t
(6.17)
であるとき満たされる.
これまでで何が分かったかまとめよう.クライン-ゴルドン方程式が時間
に関する 2 階微分を含むことより,確率密度 (6.17) が導かれ,それは通常
の量子力学での確率密度と全く異なる形をしている.実際,読者は恐らく確
率密度が波動関数 Ψ を使って
ρ = |Ψ |2 = Ψ ∗ Ψ
と定義されることを思い出すだろう.これは、我々が確率カレントのために
求めた表現,すなわち,クライン-ゴードン方程式と
(
)
∂J
∂2φ
∂ 2 φ∗
= −i φ∗ 2 − φ 2
∂x
∂t
∂t
(6.18)
の直接的な結果だ.さて,自由粒子解を考えた時に何が起こるか見てみよ
う.確率密度 (6.17) に 1 階時間微分が存在することと,エネルギーの解
(6.13) を一緒にすると問題が発生する.自由粒子解が
φ(⃗x, t) = e−ip·x = e−i(Et−px)
であることを思い出すと,時間微分は
∂φ
= −iEe−i(Et−px)
∂t
となる.したがって,
∂φ∗
= iEei(Et−px)
∂t
140
第 6 章 スカラー場
∂φ
= ei(Et−px) [−iEe−i(Et−px) ] = −iE
∂t
∂φ∗
φ
= e−i(Et−px) [iEei(Et−px) ] = iE
∂t
φ∗
を得る.したがって,確率密度 (6.17) は
(
∂φ∗
ρ=i φ
−φ
∂t
∂t
∗ ∂φ
)
= i(−iE − iE) = 2E
となる.やっかいな負エネルギー解を除けばここまでは上手くいっているよ
うに見える.しかし,
√
E = ± p2 + m2
を思いだせば,この負エネルギー解の場合,
√
ρ = 2E = −2 p2 + m2 < 0
となり,これは負の確率密度であり,何かが単純に間違っている.何故これ
が間違っているといえるのか?確率 1 とはそこに粒子が存在するという意
味である.確率 1/2 は多分そこに見つかるという意味である.確率 0 とは
そこに粒子を見つけることができないという意味である.負の確率,例えば
−1 はどのような無矛盾な解釈も持たない.
場を再解釈する
クライン-ゴルドン方程式の負の確率密度の問題に対する解決策は方程式
が何を表現しているのかを再解釈することに係わる.クライン-ゴルドン方
程式がスカラー粒子の波動関数を支配すると考える代わりに φ が場である
と考える.我々は φ を場の量子を生成したり破壊したりする生成及び消滅
演算子を含む演算子に昇格する(φ → φ
ˆ).そして,φ を通常の尊重すべき
正準交換関係に従うものとして制限する.
141
スカラー場の場の量子化
ここでは与えられた場 φ(x) の量子化という仕事に取り掛かる.古典的な
ものから量子論を構成することを基本的に意味する量子化の手続きは交換関
係を課すことに基づいている.正準量子化は位置と運動量演算子に対して基
礎的な交換関係を課す手続きを指す.
[ˆ
x, pˆ] = i
(6.19)
全体として,量子化の手続きは
• 位置と運動量の関数を演算子に昇格する
• 交換関係 (6.19) を課す
ここでは古典場の量子化と似た手続きに従う.この手続きを第 2 量子化と
呼ぶ.
第 2 量子化
場の量子論において,位置のような力学変数ではなくて場それ自体を量子
化する.再び,ここで空間と時間を同格に扱う問題に直面する.非相対論的
量子力学において,位置と運動量は演算子である.位置演算子は波動関数に
対して
ˆ (x) = xΨ (x)
XΨ
に従って働く.運動量演算子は
pˆΨ (x) = −iℏ
∂Ψ
∂x
のように働く.その一方で,時間 t は非相対論的量子力学において,パラ
メータ以外の何物でもない.明らかに時間は
142
第 6 章 スカラー場
TˆΨ (x, t) = tΨ (x, t)
なる演算子が存在しないから,位置とは異なる扱いになる.
多分読者は時間をそのような演算子に昇格することを基礎とする理論を構
築することを試みるだろう.しかし,それは場の量子論で行われていること
ではない.場の量子論で何が起きているのかというと,そこでは実際逆のア
プローチがとられ,位置と運動量を演算子としての非常に高い地位から降格
する.場の量子論では,時間 t と位置 x は次に示すように時空上の位置を示
すただのパラメータである.
φ(x, t)
この理論を量子化するために,我々は全く異なるアプローチをとり,場それ
自体を演算子として扱う.第 2 量子化の手続きはそれより,
• 場を演算子に昇格する.そして,
• 同時刻交換関係を場とそれらの共役運動量に課す.
となる.我々が位置と運動量の代わりに場を量子化したことより,この手続
きを第 2 量子化と呼ぶ.なお,通常の量子力学で使われている量子化は第 1
量子化である.これは重要なのでまとめておこう.場の量子論では,
• 位置 x と運動量 p は演算子ではない.それは古典物理学と同様,ただ
の数である.
• 場 φ(x, t) 及びその共役運動量場 π(x, t) は演算子である.
• 場には正準交換関係を課す.
が成り立つ.
場は次の意味で演算子である.量子力学の場合と同様に場の量子論でも量
子状態が存在する.しかし,それは場の状態である.場の演算子はこれらの
状態に作用して粒子を破壊するか生成する.これは,重要である.何故な
ら,特殊相対論において,
143
• 粒子数は一定ではない.粒子は生成または破壊される.
• 粒子を生成するには少なくともその 2 倍の静止質量 E = mc2 が必要
である.
であるからである.粒子数が変化する量子論を記述する数学は単調和振動子
に起源を持ち,それは厳密解を持つごくわずかなものの一つである.ここで
は,これを簡単に復習する.
単調和振動子
非相対論的量子力学における単調和振動子のハミルトニアンは
2
2
ˆ = pˆ + mω x
ˆ2
H
2m
2
(6.20)
である.さて,消滅及び生成演算子として知られる,2 つの非エルミート演
算子を定義する.それぞれ,
√
(
)
mω
i
x
ˆ+
pˆ
2
mω
√
(
)
mω
i
a
ˆ† =
x
ˆ−
pˆ
2
mω
a
ˆ=
(6.21)
(6.22)
である.次の結果は [ˆ
x, pˆ] = i から直接示せる.
[ˆ
a, a
ˆ† ] = 1
(6.23)
ハミルトニアンはこれらの演算子によって書くことができる.それは
(
)
1
ˆ =ω a
H
ˆ† a
ˆ+
2
(6.24)
によって与えられる.ここで粒子数演算子を
ˆ =a
N
ˆ† a
ˆ
によって定義すると,このハミルトニアンは素晴らしく単純な形
(6.25)
144
第 6 章 スカラー場
(
)
ˆ =ω N
ˆ+1
H
2
(6.26)
で表せる.このハミルトニアンの固有状態 |n⟩ は
(
)
1
ˆ
H|n⟩
=ω n+
|n⟩
2
(6.27)
を満足する.これは |n⟩ のエネルギー状態が
(
)
1
En = ω n +
2
(6.28)
であることを教えてくれる.|n⟩ を粒子数状態と呼ぶ.これらは,粒子数演
算子の固有状態である.
ˆ |n⟩ = n|n⟩
N
(6.29)
ここで数 n は自然に非負整数になる.粒子数演算子は次の消滅演算子と生
成演算子を伴う交換関係に従う.
ˆ a
[N,
ˆ] = −ˆ
a
†
†
ˆ a
[N,
ˆ ]=a
ˆ
(6.30)
(6.31)
消滅演算子は n を 1 単位下げる.
√
n|n − 1⟩
(6.32)
√
n + 1|n + 1⟩
(6.33)
a
ˆ|n⟩ =
生成演算子は n を 1 単位上げる
a
ˆ† |n⟩ =
この系は最低のエネルギー状態を持つ.そうでなければ系は負のエネルギー
状態に落ち込んでしまう.この最低エネルギー状態を基底状態と呼び |0⟩ で
表す.場の量子論では,この状態はしばしば,真空状態と呼ばれる.真空状
145
態は消滅演算子によって消滅する,むしろ真空状態は消滅演算子によって破
壊されるといった方が良いかもしれない.
a
ˆ|0⟩ = 0
(6.34)
一方,a
ˆ† は系のエネルギーを上げる.そのため |n⟩ → |n + 1⟩ に上限はな
い.これより,状態 |n⟩ は基底状態に繰り返し a
ˆ† を作用させることによっ
て得られる.
(ˆ
a† ) n
|n⟩ = √ |0⟩
n!
(6.35)
これらの考えは場の量子論に引き継がれるが解釈が異なる.量子力学に
おいては,状態 |n⟩ を持つ単一粒子を考えており,そのエネルギー準位は
En = ω(n + 12 ) であった.生成及び消滅演算子はその粒子の状態をエネル
ギーに関して基底状態から上げたり下げたりする.
一方,場の量子論では,“粒子数演算子” の概念を文字通りにとる.状態
|n⟩ は単一粒子の状態ではなく,n 個の粒子が存在する場の状態である.基
底状態はここでも最低エネルギー状態であり,粒子が 0 個の場の状態(ただ
し,場は依然として存在する)である.生成演算子 a
ˆ† は 1 つの量子(=粒
子)を場に追加する.一方,消滅演算子 a
ˆ は 1 つの量子を場から破壊する
(1 つの粒子を取り除く).のちに見るように,一般には粒子と同様に反粒子
にも生成・消滅演算子が存在する.これらの演算子は運動量の関数になる.
場は消滅演算子と生成演算子に関する和によって書かれる演算子になる.
スカラー場の量子化
場の量子化を学ぶ最も良い方法は,もっとも単純な場合である,次に示す
クライン-ゴルドン方程式を満たす実スカラー場を最初に考えることである.
∂µ ∂ µ φ + m 2 φ =
∂2φ
− ∇ 2 φ + m2 φ = 0
∂t2
146
第 6 章 スカラー場
我々はクライン-ゴルドン方程式の自由場解が
φ(x, t) ∼ e−i(Et−⃗p·⃗x)
の形をしていることを見てきた.これを波数 k を使って書き,E → k0 =
ωk ,p⃗ → ⃗k と置こう.
φ(x, t) ∼ e−i(ωk x
0
−⃗
k·⃗
x)
ここで位置に関する相対論的記号法も使った.これを行う理由はこうするこ
とによってフーリエ展開の形でクライン-ゴルドン方程式の一般解を書き下
すことができるからである*1 .
∫
φ(x) =
[
]
d3 k
⃗k)e−i(ωk x0 −⃗k·⃗x) + φ∗ (⃗k)ei(ωk x0 −⃗k·⃗x) (6.36)
√
φ(
(2π)3/2 2ωk
さて,量子化の手続きの第一ステップ,場 φ(x) の演算子への昇格を適用し
よう.これは,フーリエ変換の中の場 φ(⃗k) と φ∗ (⃗k) をそれそれの様式に関
連した消滅及び生成演算子に置き換えることによって行われる.すなわち,
φ(⃗k) → a
ˆ(⃗k)
φ∗ (⃗k) → a
ˆ† (⃗k)
である.いま,場は演算子だから,この事実がそれと分かるように φ(x)
ˆ
と
ハット『 ˆ 』を付けて表そう.生成,消滅演算子に関して場は,
∫
φ(x)
ˆ
=
d3 k
√
(2π)3/2
2ωk
[
]
0 ⃗
0 ⃗
a
ˆ(⃗k)e−i(ωk x −k·⃗x) + a
ˆ† (⃗k)ei(ωk x −k·⃗x) (6.37)
と書かれる.量子論を得るために,交換関係を課すための場の共役運動量を
得る必要がある.それが何であるかを思い出すために,その定義を次のラグ
ランジアンから始めて繰り返してみよう*2 .
*1
訳注:φ(x) が実スカラーになるために複素共役項がある.なお,分母に現れるルートの
中身の 2ω は計算を簡単にするための定数と思っておけばとりあえず良い.
*2 2 章例 2.3 で見たようにこれがクライン-ゴルドン方程式を導くラグランジアンである.
147
L =
1
1
∂µ φ∂ µ φ − m2 φ2
2
2
この場の共役運動量が
π(x) =
∂L
= ∂0 φ
∂(∂0 φ)
であることは示した.いま,
∂0 φ(x)
ˆ
∫
= ∂0
[
]
d3 k
† ⃗ i(ωk x0 −⃗
k·⃗
x)
⃗k)e−i(ωk x0 −⃗k·⃗x) + a
√
a
ˆ
(
ˆ
(
k)e
(2π)3/2 2ωk
∫
[
]
d3 k
† ⃗
i(ωk x0 −⃗
k·⃗
x)
⃗k)∂0 (e−i(ωk x0 −⃗k·⃗x) ) + a
√
=
a
ˆ
(
ˆ
(
k)∂
(e
)
0
(2π)3/2 2ωk
∫
[
]
d3 k
† ⃗
i(ωk x0 −⃗
k·⃗
x)
⃗k)(−iωk )e−i(ωk x0 −⃗k·⃗x) + a
√
=
a
ˆ
(
ˆ
(
k)(+iω
)e
k
(2π)3/2 2ωk
√
∫
]
d3 k
ωk [ ⃗ −i(ωk x0 −⃗k·⃗x)
† ⃗ i(ωk x0 −⃗
k·⃗
x)
= −i
a
ˆ
(
k)e
−
a
ˆ
(
k)e
2
(2π)3/2
だから,式 (6.37) の場の共役運動量は,
∫
π
ˆ (x) = −i
d3 k
(2π)3/2
√
]
0 ⃗
ωk [ ⃗ −i(ωk x0 −⃗k·⃗x)
a
ˆ(k)e
−a
ˆ† (⃗k)ei(ωk x −k·⃗x)
2
(6.38)
となる.ここで課す交換関係は通常の量子力学における正準交換関係に従
う.デカルト座標 xi に対して
[xi , pj ] = iδij
[xi , xj ] = [pi , pj ] = 0
である.ここで δij はクロネッカーのデルタである.空間座標 ⃗
x と ⃗y を持つ
連続な場合に移行すると,
δij → δ(⃗x − ⃗y )
148
第 6 章 スカラー場
と置く.
さて,ここでは同時刻に評価される場の交換子を考える.これを場は同時
刻交換関係に従う,という.場は異なる空間的位置 ⃗
x と ⃗y で評価されるが,
このとき x0 = y 0 でなければならない.すると,
[φ(x),
ˆ
π
ˆ (y)] = iδ(⃗x − ⃗y )
[φ(x),
ˆ
φ(y)]
ˆ
=0
(6.39)
(6.40)
[ˆ
π (x), π
ˆ (y)] = 0
(6.41)
が得られる.
例 6.2
実スカラー場が
∫
φ(x)
ˆ
=
]
[
d3 p
√
a
ˆ(⃗
p)eipx + a
ˆ† (⃗
p)e−ipx
3
0
(2π) 2p
によって与えられるものとせよ.x0 = y 0 での同時刻交換子
[φ(x),
ˆ
π
ˆ (y)]
を計算せよ.
解
運動量は,
∂ φˆ
∂x0
∫
[
]
∂
d3 p
√
a
ˆ(⃗
p)eipx + a
ˆ† (⃗
p)e−ipx
= 0
3
0
∂x
(2π) 2p
√
∫
3
]
d p
p0 [
=i √
a
ˆ(⃗
p)eipx − a
ˆ† (⃗
p)e−ipx
3
2
(2π)
π
ˆ (x) =
となる.いま,交換子は x0 = y 0 の下で(同時刻交換関係),
149
[φ(x),
ˆ
π
ˆ (y)] = φ(x)ˆ
ˆ π (y) − π
ˆ (y)φ(x)
ˆ
である.最初の項を見ると,
(∫
d3 p
)
[
]
ipx
†
−ipx
a
ˆ(⃗
p)e + a
ˆ (⃗
p)e
√
(2π)3 2p0
( ∫
)
√
]
d3 p′
p′0 [
′ ip′ y
†
′ −ip′ y
× i √
a
ˆ(⃗
p )e
−a
ˆ (⃗
p )e
2
(2π)3
√
∫
d3 p
d3 p′ 1 p′0
√
=i √
(2π)3 (2π)3 2 p0
|
{z
}
φ(x)ˆ
ˆ π (y) =
位相空間因子
[
][
]
′
′
a
ˆ(⃗
p)eipx + a
ˆ† (⃗
p)e−ipx a
ˆ(⃗
p ′ )eip y − a
ˆ† (⃗
p ′ )e−ip y
{z
}|
{z
}
|
x に関する項
y に関する項
を得る.期待に反してこの場合,この計算を完成させるために適切な方法
は一つしかなく,それは力ずくでやることである.項ごとに掛けて取り出
すと,
∫
φ(x)ˆ
ˆ π (y) =i
d3 p
d3 p′ 1
√
√
(2π)3 (2π)3 2
√
p′0
p0
{
′
′
a
ˆ(⃗
p)ˆ
a(⃗
p ′ )eipx eip y − a
ˆ(⃗
p)ˆ
a† (⃗
p ′ )eipx e−ip y
′
′
}
′
}
+a
ˆ† (⃗
p)ˆ
a(⃗
p ′ )e−ipx eip y − a
ˆ† (⃗
p)ˆ
a† (⃗
p ′ )e−ipx e−ip y
を得る.さて,今度はもう片方の計算をしてみよう.それは
∫
π
ˆ (y)φ(x)
ˆ
=i
d3 p
d3 p′ 1
√
√
(2π)3 (2π)3 2
√
p′0
p0
{
′
′
a
ˆ(⃗
p ′ )ˆ
a(⃗
p)eipx eip y − a
ˆ† (⃗
p ′ )ˆ
a(⃗
p)eipx e−ip y
′
+a
ˆ(⃗
p ′ )ˆ
a† (⃗
p)e−ipx eip y − a
ˆ† (⃗
p ′ )ˆ
a† (⃗
p)e−ipx e−ip y
150
第 6 章 スカラー場
となる.次のステップはこの 2 つの差をとり,生成及び消滅演算子を使って
項を集めることである.驚くにあたらないが,それらは単調和振動子で使わ
れる生成,消滅演算子と似た交換関係に従う.これは単純に連続な場合に一
般化するだけである.適切な関係は,
[ˆ
a(⃗
p), a
ˆ† (⃗
p ′ )] = δ(⃗
p − p⃗ ′ )
[ˆ
a(⃗
p), a
ˆ(⃗
p ′ )] = 0
(6.42)
(6.43)
[ˆ
a† (⃗
p), a
ˆ† (⃗
p ′ )] = 0
(6.44)
である.φ(x)ˆ
ˆ π (y) と π
ˆ (y)φ(x)
ˆ
の計算結果の最初の項同士の差をとると,式
(6.43) を使って,
′
′
′
a
ˆ(⃗
p)ˆ
a(⃗
p ′ )eipx eip y − a
ˆ(⃗
p ′ )ˆ
a(⃗
p)eipx eip y =[ˆ
a(⃗
p), a
ˆ(⃗
p ′ )]eipx eip y
=0
を得る.似たような流れで,各々の表式の最後の項同士の差をとると,
[ˆ
a† (⃗
p), a
ˆ† (⃗
p ′ )] = 0 より,これもまた 0 になる.さて,各々の表式の第 2 項
を見てみよう.φ(x)ˆ
ˆ π (y) と π
ˆ (y)φ(x)
ˆ
の第 2 項同士の差をとると
′
′
−a
ˆ(⃗
p)ˆ
a† (⃗
p ′ )eipx e−ip y + a
ˆ† (⃗
p ′ )ˆ
a(⃗
p)eipx e−ip y
(
)
′
=− a
ˆ(⃗
p)ˆ
a† (⃗
p ′) − a
ˆ† (⃗
p ′ )ˆ
a(⃗
p) eipx e−ip y
[
]
′
=− a
ˆ(⃗
p), a
ˆ† (⃗
p ′ ) eipx e−ip y
′
= − δ(⃗
p − p⃗ ′ )eipx e−ip y
= − δ(⃗
p − p⃗ ′ )e−i⃗p·(⃗x−⃗y)
を得る.最後のステップを得るためには
δ(p − p′ )f (p) = δ(p − p′ )f (p′ )
という事実と,x0 = y 0 という事実を使って時間成分を取り除く.同様の手
続きを各々の表式の第 3 項の差に適用する.結果は,
151
−δ(⃗
p − p⃗ ′ )ei⃗p(⃗x−⃗y)
である.全てを一緒にして,
∫
[φ(x)ˆ
ˆ π (y), π
ˆ (y)φ(x)]
ˆ
=i
[
d3 p
d3 p′
√
√
(2π)3 (2π)3
√
p′0 1
p0 2
− δ(⃗
p − p⃗ ′ )e−i⃗p·(⃗x−⃗y) − δ(⃗
p − p⃗ ′ )ei⃗p·(⃗x−⃗y)
∫
]
d3 p 1 −i⃗p·(⃗x−⃗y)
i⃗
p·(⃗
x−⃗
y)
=−i
[e
+
e
(2π)3 2
]
が得られる*3 .しかし,ディラックのデルタ関数の一つの定義が,
∫
δ(⃗x − ⃗y ) =
d3 p i(⃗x−⃗y)·⃗p
e
(2π)3
(6.45)
であり,デルタ関数の対称性より δ(⃗
x − ⃗y ) = δ(⃗y − ⃗x) であるから,
[φ(x),
ˆ
π
ˆ (y)] = φ(x)ˆ
ˆ π (y) − π
ˆ (y)φ(x)
ˆ
∫
]
3
d p 1 −i⃗p·(⃗x−⃗y)
i⃗
p·(⃗
x−⃗
y)
[e
+
e
=−i
(2π)3 2
1
= − i [δ(⃗x − ⃗y ) − δ(⃗y − ⃗x)]
2
= − iδ(⃗x − ⃗y )
を得る.
場の量子論における状態
生成及び消滅演算子に関してスカラー場を書きとめる方法を知っている
今,我々は演算子がどのように場の状態に作用するかについて見る準備がで
きている.我々は既に単調和振動子において,それらがどのように作用する
*3
訳注:p0 =
√
p
⃗2 j + m2 に注意せよ.
152
第 6 章 スカラー場
のかといういくつかの考えを得ている.いつものようにもっとも単純な場合
である最低エネルギー状態あるいは基底状態から始めよう.それは,場の量
子論では一般に真空(あるいは真空状態)と呼ばれる.真空は |0⟩ で表され,
消滅演算子で破壊される.
a
ˆ(⃗k)|0⟩ = 0
(6.46)
さて,生成及び消滅演算子はフーリエ展開を介して場に入ってゆく.それ
故,それらは運動量 p
⃗ または波数 ⃗k によって指し示される.状態は運動量で
表すことができる,したがって生成演算子を作用させることによって真空か
ら状態 |⃗k⟩ への底上げを行うことができる.
|⃗k⟩ = a
ˆ† (⃗k)|0⟩
(6.47)
これは 1 粒子状態を記述する.我々は異なる波数の状態 ⃗k1 , ⃗k2 , . . . などの生
成演算子の積を作用させることができる.たとえば,2 粒子状態 |⃗k1 , ⃗k2 ⟩ は
|⃗k1 , ⃗k2 ⟩ = a
ˆ† (⃗k1 )ˆ
a† (⃗k2 )|0⟩
によって生成される.拡張すると,n 粒子状態は
|⃗k1 , ⃗k2 , . . . , ⃗kn ⟩ = a
ˆ† (⃗k1 )ˆ
a† (⃗k2 ) . . . a
ˆ† (⃗kn )|0⟩
(6.48)
⃗ i ) は運動量 ℏ⃗ki ,エネルギー
を使って生成できる.各々の生成演算子 a
ˆ† (K
ℏωk の単一粒子を生成する(はっきりと分かるように,ℏ ここでは復元して
おく). ここで,
ωki =
√
⃗k 2 + m2
i
である.消滅演算子 a
ˆ(⃗ki ) は指定された運動量とエネルギーの粒子を破壊
する.
153
正及び負振動数分解
場は正振動数の部分と負振動数の部分の 2 つの部分に分解できる.正振動
数部分は消滅演算子からなり,それは
∫
+
φˆ (x) =
0 ⃗
d3 k
√
a
ˆ(⃗k)e−i(ωk x −k·⃗x)
3/2
(2π)
2ωk
(6.49)
と書かれる.この場の負振動数部分は生成演算子からなる.
∫
−
φˆ (x) =
0 ⃗
d3 k
√
a
ˆ† (⃗k)ei(ωk x −k·⃗x)
(2π)3/2 2ωk
(6.50)
したがって,a
ˆ(⃗k)|0⟩ = 0 より,この場の正振動数部分は真空を消滅させる.
φˆ+ (x)|0⟩ = 0
(6.51)
そして,負振動数部分は粒子を生成する.
−
∫
0 ⃗
d3 k
√
ei(ωk x −k·⃗x) a
ˆ† (⃗k)|0⟩
3/2
(2π)
2ωk
∫
0 ⃗
d3 k
√
=
ei(ωk x −k·⃗x) |⃗k⟩
3/2
(2π)
2ωk
φˆ (x)|0⟩ =
(6.52)
粒子数演算子
粒子数演算子は生成及び消滅演算子によって次のように構成できる.
ˆ (⃗k) = a
N
ˆ† (⃗k)ˆ
a(⃗k)
(6.53)
粒子数演算子の固有状態は占有数と呼ばれる.これらは与えられた状態
が,運動量 ⃗k の粒子が何個あるかを教えてくれる整数である.
154
第 6 章 スカラー場
n(⃗k) = 0, 1, 2, . . .
(6.54)
状態,
|⃗k1 , ⃗k2 , . . . , ⃗kn ⟩ = a
ˆ† (⃗k1 )ˆ
a† (⃗k2 ) . . . a
ˆ† (⃗kn )|0⟩
は運動量 ⃗k1 の 1 粒子,運動量 ⃗k2 の 1 粒子,運動量 ⃗k3 の 1 粒子などの n 個
の粒子からなる.しかし,複数の粒子が同じ運動量を持つ状態を考えること
もできる.仮に,運動量 ⃗k1 を持つ 2 つの粒子と運動量 ⃗k2 を持つ 1 つの量
子が存在するとしよう.この状態は,
a
ˆ† (⃗k1 )ˆ
a† (⃗k1 ) † ⃗
√
|⃗k1 , ⃗k1 , ⃗k2 ⟩ =
a
ˆ (k2 )|0⟩
2
と書くことができる.この状態はまた,
|⃗k1 , ⃗k1 , ⃗k2 ⟩ = |n(⃗k1 )n(⃗k2 )⟩
と書くこともできる.ここで n(⃗k1 ) = 2,n(⃗k2 ) = 1 である.真空状態から,
⃗
⃗
a
ˆ† (⃗k1 )n(k1 ) a
ˆ† (⃗k2 )n(k2 )
⃗
⃗
√
√
|0⟩
|n(k1 )n(k2 )⟩ =
n(⃗k1 )!
n(⃗k2 )!
を得る.一般に
|n(⃗k1 )n(⃗k2 ) . . . n(⃗km )⟩ =
⃗
∏a
ˆ† (⃗kj )n(kj )
√
|0⟩
j
n(⃗kj )!
が成り立つ.ここに書かれているように,粒子数演算子 (6.53) は実は密度
である.それは与えられた状態における粒子数密度は,それを全ての運動量
空間に渡る状態で積分すると全粒子数を与えるということを教えてくれる.
例 6.3
ˆ |⃗k ′ ⟩ を求めよ.
N
155
解
|⃗k ′ ⟩ = a
ˆ† (⃗k ′ )|0⟩
及び
[ˆ
a(⃗k), a
ˆ† (⃗k ′ )] = a
ˆ(⃗k)ˆ
a† (⃗k ′ ) − a
ˆ† (⃗k ′ )ˆ
a(⃗k) = δ(⃗k − ⃗k ′ )
より,
a
ˆ† (⃗k ′ )ˆ
a(⃗k)|0⟩ =ˆ
a† (⃗k ′ )ˆ
a(⃗k)ˆ
a† (⃗k ′ )|0⟩
=ˆ
a† (⃗k ′ )[ˆ
a† (⃗k ′ )ˆ
a(⃗k) + δ(⃗k − ⃗k ′ )]|0⟩
=ˆ
a† (⃗k ′ )δ(⃗k − ⃗k ′ )|0⟩
=δ(⃗k − ⃗k ′ )ˆ
a† (⃗k ′ )|0⟩ = δ(⃗k − ⃗k ′ )|⃗k ′ ⟩
が得られる.ただし,上の 2 行目から 3 行目に移るところで,a
ˆ(⃗k)|0⟩ を使っ
た.これより,
ˆ |⃗k ′ ⟩ =
N
∫
d3 kˆ
a† (⃗k)ˆ
a(⃗k)|⃗k ′ ⟩
{∫
}
3
′
⃗
⃗
=
d kδ(k − k ) |⃗k ′ ⟩
=|⃗k ′ ⟩
と求まる.これより,単一粒子状態 |⃗k ′ ⟩ は n(⃗k ′ ) = 1 を持つことが分かった.
状態の正規化
量子論で常に起こる問題が,与えられた状態の正規化である.この問題に
どう取り組めば良いか?まず最初に,真空は統一的に正規化されているとい
う前提から始める.
156
第 6 章 スカラー場
⟨0|0⟩ = 1
(6.55)
すると,任意の状態 |⃗k⟩ の正規化を計算するために,交換関係 (6.42) 使って
進めることができる.これは例 6.4 で示す.
例 6.4
内積 ⟨⃗k|⃗k ′ ⟩ を考えることによって,状態 |⃗k⟩ の正規化を計算せよ.
解
a
ˆ† (⃗k)|0⟩ = |⃗k⟩ 及びこの表式の随伴が ⟨⃗k| = ⟨0|ˆ
a(⃗k) であるという事実を
使って,計算を進める.すると,
⟨⃗k|⃗k ′ ⟩ =⟨0|ˆ
a(⃗k)ˆ
a† (⃗k ′ )|0⟩
=⟨0|ˆ
a† (⃗k ′ )ˆ
a(⃗k) + δ(⃗k − ⃗k ′ )|0⟩
=⟨0|ˆ
a† (⃗k ′ )ˆ
a(⃗k)|0⟩ + ⟨0|δ(⃗k − ⃗k ′ )|0⟩
=δ(⃗k − ⃗k ′ )⟨0|0⟩
=δ(⃗k − ⃗k ′ )
⇒ ⟨⃗k|⃗k ′ ⟩ =δ(⃗k − ⃗k ′ )
が得られる.
ボース-アインシュタイン統計
この章で発展させた理論はボゾンに応用される.それらは整数スピン(ま
たはこの場合スピン 0)を持つ区別ができない粒子である.このことを見る
ために,状態に適用される生成演算子の順序を入れ替えることができること
に注意しよう.そこでまず,
|⃗k1 , ⃗k2 ⟩ = a
ˆ† (⃗k1 )ˆ
a† (⃗k2 )|0⟩
と書こう.しかし,
157
|⃗k1 , ⃗k2 ⟩ =ˆ
a† (⃗k1 )ˆ
a† (⃗k2 )|0⟩
=ˆ
a† (⃗k2 )ˆ
a† (⃗k1 )|0⟩
=|⃗k2 , ⃗k1 ⟩
⇒ |⃗k1 , ⃗k2 ⟩ =|⃗k2 , ⃗k1 ⟩
である.
この結果はボゾンを記述する理論を扱っていることを教えてくれる.フェ
ルミオンなら,この計算の中の符号が変化するだろう.
エネルギーと運動量
次に,場のエネルギーと運動量を計算する問題に目を向けてみよう.場の
演算子展開
∫
φ(x)
ˆ
=
[
]
d3 k
† ⃗ i(ωk x0 −⃗
k·⃗
x)
⃗k)e−i(ωk x0 −⃗k·⃗x) + a
√
a
ˆ
(
ˆ
(
k)e
(2π)3/2 2ωk
ˆ =a
から始める.粒子数演算子 N
ˆ† (⃗k)ˆ
a(⃗k) を使うと,ハミルトニアンが
[
∫
ˆ =
H
3
d kωk
]
1 3
⃗
ˆ
N (k) + δ (0)
2
(6.56)
となることが示せる.また場の運動量は
∫
Pˆ =
[
]
1 3
⃗
⃗
ˆ
d k k N (k) + δ (0)
2
3
(6.57)
となる*4 .
*4
∫
d4 xH (x),H (x) = π(x)φ(x)
˙
− L (x) だから,クラインゴルドン方程式を導くラグランジアン L = 21 ∂µ φ∂ µ φ − 12 φ2 を使って,生成,消滅演
算子で表した φ(x)
ˆ
の微分などを用いて計算する.なお,計算はやや複雑で手こずるか
∫
もしれない.Pˆ についても P i = d3 xπ(x)∂ i φ(x) を使えばよい.
2 章で見たように,H =
158
第 6 章 スカラー場
例 6.5
実スカラー場に対して,真空のエネルギーを求めよ.
解
この例の解は有名な無限の真空のエネルギーである.これは見方の問題と
いえるかもしれないし,違うかもしれない.真空のエネルギーを求めるた
めに,
ˆ
⟨0|H|0⟩
(6.58)
を計算する必要がある.計算すると,
(
)
ˆ (⃗k) + 1 δ 3 (0) |0⟩
d3 kωk N
2
)
(
∫
1
=⟨0| d3 kωk a
ˆ(⃗k)ˆ
a† (⃗k) + δ 3 (0) |0⟩
2
(
)
∫
∫
1 3
=⟨0| d3 kωk (ˆ
a(⃗k)ˆ
a† (⃗k))|0⟩ + ⟨0| d3 kωk
δ (0) |0⟩
2
∫
1 3
= δ (0) d3 kωk ⟨0|0⟩
2
∫
1 3
= δ (0) d3 kωk
2
∫
ˆ
⟨0|H|0⟩
=⟨0|
となる.この解は通常の量子力学における調和振動子のエネルギーを思い出
させる.その場合,基底状態のエネルギーは 12 ℏω である.我々は似たよう
な項を見つける,しかし,明らかに δ 3 (0) は無限大だし,次に示すように全
運動量空間で積分をとることより,この積分は発散する.
∫
ωk d3 k → ∞
この結果は見方によっては無視できるまたは覆い隠すことができる.通常の
説明は,我々はエネルギーの差だけしか測定できず,エネルギーは基底状態
との相対性が測定され,その結果個の項は落ちる.最終結果は,それをゴミ
159
箱に投げ捨て,エネルギーは 0 であるという.我々は単純に無限を引き,理
論を “くりこむ” という.このトリックは上手くいく.しかし,理論が上手
く機能するために数学的に巧妙なごまかしを行わなければならないという事
実について,読者は考えなければならない.これは恐らく,そのようなやり
方は完全には正しくないことを指し示している.
くりこまれたハミルトニアンは無限のエネルギーに上昇させる項を引き去
ることで構成される.したがって,
∫
1 3
ˆ
ˆ
HR =H − δ (0) d3 kωk
2
∫
∫
ˆ (⃗k) = d3 kωk a
= d3 kωk N
ˆ† (⃗k)ˆ
a(⃗k)
(6.59)
である.
例 6.6
くりこまれたハミルトニアンを使って,|⃗k⟩ のエネルギー状態を求めよ.
解
∫
ˆ R |⃗k⟩ =⟨⃗k|
⟨⃗k|H
∫
=⟨⃗k|
d3 k ′ ωk′ a
ˆ† (⃗k)ˆ
a(⃗k)|⃗k⟩
d3 k ′ ωk′ δ(⃗k − k⃗ ′ )|k⃗ ′ ⟩
=⟨⃗k|ωk |⃗k⟩
=ωk
正規積及び時間順序積
場の量子論ではしばしば全ての生成演算子を全ての消滅演算子の左側に
置いた表式を書くことが望ましいことがある.このように表式が書かれる場
160
第 6 章 スカラー場
合,正規順序が使われているという.ある表式に正規順序を適用するとき,
その表式を 2 つのコロンで囲む.したがって,Ψ の正規順序は : Ψ : と書か
れる.正規順序が全ての生成演算子を全ての消滅演算子の左側に移動するこ
とを意味することより,
:a
ˆ(⃗k)ˆ
a† (⃗k) := a
ˆ† (⃗k)ˆ
a(⃗k)
(6.60)
が成り立つ.スカラー場の正規順序は正及び負の振動数部分を使って書き下
すことができる.次を思いだそう:
∫
+
φˆ (x) =
0 ⃗
d3 k
√
a
ˆ(⃗k)e−i(ωk x −k·⃗x)
3/2
(2π)
2ωk
一方
−
φˆ (x) =
∫
0 ⃗
d3 k
√
a
ˆ† (⃗k)ei(ωk x −k·⃗x)
3/2
(2π)
2ωk
である.正規順序は生成演算子を左側に置く.したがって,正規順序された
場が負振動数部分を正振動数成分の左側に持つことが期待される.はっきり
と書くと,
: φ(x)
ˆ φ(y)
ˆ
:= φˆ+ (x)φˆ+ (y) + φˆ− (x)φˆ+ (y) + φˆ− (y)φˆ+ (x) + φˆ− (x)φˆ− (y)
となる.
時間順序積は粒子が破壊される前に生成されなければならないという物理
的事実の数学的表現である.時間順序は時間順序演算子によって成し遂げら
れる.それは積 φ(t
ˆ 1 )Ψˆ (t2 ) に対しては,
{
φ(t
ˆ 1 )Ψˆ (t2 )
T [φ(t
ˆ 1 )Ψˆ (t2 )] =
Ψˆ (t2 )φ(t
ˆ 1)
t1 > t2 のとき
t2 > t1 のとき
(6.61)
のように作用する.
場が演算子であることを思いだそう.演算子は右から左の順に作用する.
ˆB
ˆ は状態 |Ψ ⟩ に対して,まず B
ˆ が最初に状態に
したがって,演算子の積 A
161
ˆ が作用したものが結果となる.それ故,t1 > t2 ,つまり t1
作用し,次に A
が時間的に後なら,Ψˆ (t2 ) が最初に状態に作用し,続いて φ(t
ˆ 1 ) の作用が起
こる.順序は t2 > t1 のとき逆になる.
複素スカラー場
さて,複素スカラー場を量子化しよう.これは複素スカラー場が電荷 q を
持つ粒子と電荷 −q を持つ反粒子を表し,したがって我々は比較的単純な場
合に取り組み,反粒子が場の量子論でどのように表すことができるか知るこ
とできるからよい前進である.
反粒子を扱っているとき,場は粒子に対しては正振動数モード(消滅演算
子),反粒子に対しては負振動数モード(生成演算子)に拡張される.粒子
に対しては,今まで同様共通の生成,消滅演算子 a
ˆ † ,a
ˆ を使う.
a
ˆ† (⃗k)
a
ˆ(⃗k)
(粒子)
一方,反粒子に対しては,ˆ
b† ,ˆb で生成,消滅演算子を表す.
ˆb† (⃗k)
ˆb(⃗k)
(反粒子)
それ故 a
ˆ† は運動量 ℏ⃗k かつエネルギー ℏωk の粒子を生成するが,ˆb† (⃗k) は
運動量 ℏ⃗k かつエネルギー ℏωk の反粒子を生成する*5 .場の演算子を書くた
めに,粒子に対する正振動数部分と反粒子に対する負振動数部分を一緒にし
て,和をとることによって,
∫
φ(x)
ˆ
=
0 ⃗
0 ⃗
d3 k
√
a
ˆ(⃗k)e−i(ωk x −k·⃗x) + ˆb† (⃗k)ei(ωk x −k·⃗x)
(2π)3/2 2ωk
を得る.この場の随伴場(それが複素場だから驚くにあたらない)は
*5
訳注:ただし,もちろん我々が採用している単位系では ℏ = 1 である.
(6.62)
162
φˆ† (x) =
第 6 章 スカラー場
∫
0 ⃗
0 ⃗
d3 k
√
a
ˆ† (⃗k)ei(ωk x −k·⃗x) + ˆb(⃗k)e−i(ωk x −k·⃗x)
(2π)3/2 2ωk
(6.63)
によって与えられる.ここでも依然として,[ˆ
a(⃗k), a
ˆ† (k⃗ ′ )] = δ(⃗k − k⃗ ′ ) を
要請し,反粒子の生成,消滅演算子についても同様に
[ˆb(⃗k), ˆb† (k⃗ ′ )] = δ(⃗k − k⃗ ′ )
(6.64)
を課す.場とその随伴に対応して 2 つの共役運動量が存在する.例えば,
π
ˆ (x)
=∂0 φ(x)
ˆ
∫
[
]
d3 k
⃗k)e−i(ωk x0 −⃗k·⃗x) + (iωk )ˆb† (⃗k)ei(ωk x0 −⃗k·⃗x)
√
=
(−iω
)ˆ
a
(
k
(2π)3/2 2ωk
√
∫
d3 k
ωk [ ⃗ −i(ωk x0 −⃗k·⃗x) ˆ† ⃗ i(ωk x0 −⃗k·⃗x) ]
=−i
a
ˆ(k)e
− b (k)e
(6.65)
3/2
2
(2π)
電荷を帯びた複素場の場合,2 つの粒子数演算子が存在する.最初のは慣れ
親しんだ粒子数演算子で粒子の個数に対応する.
∫
ˆaˆ =
N
d3 kˆ
a† (⃗k)ˆ
a(⃗k)
(6.66)
2 番目は反粒子の個数を表す粒子数演算子である.
∫
ˆˆ =
N
b
d3 kˆb† (⃗k)ˆb(⃗k)
(6.67)
この場の全エネルギーは粒子のエネルギーに反粒子のエネルギーを加えたも
のとして表される.
∫
ˆ =
H
[
]
d3 kωk a
ˆ† (⃗k)ˆ
a(⃗k) + ˆb† (⃗k)ˆb(⃗k)
(6.68)
エネルギー密度は粒子の粒子数密度に反粒子の粒子数密度を加えたものにエ
ネルギー ωk を掛けたものになっていることに注意しよう.すると,全エネ
163
ルギーを得るためには,この場の全波数のモードに渡って積分すればよい.
次に,全運動量は粒子由来の運動量に反粒子由来の運動量を加えたものに
なる.
∫
Pˆ =
[
]
d3 k⃗k a
ˆ† (⃗k)ˆ
a(⃗k) + ˆb† (⃗k)ˆb(⃗k)
(6.69)
複素場は荷電場に対応する.粒子と反粒子は逆の電荷を持つ.全電荷は粒子
由来の電荷から反粒子由来の電荷を引いたものとして求められる.
∫
ˆ=
Q
[
]
d3 kq a
ˆ† (⃗k)ˆ
a(⃗k) − ˆb† (⃗k)ˆb(⃗k)
ˆaˆ − N
ˆˆ)
=q(N
b
(6.70)
最終的に場と共役運動量は一連の交換関係を満たす.再び,ここでも x0 =
y 0 なる同時刻交換関係を考える.すなわち,
[φ(x),
ˆ
π
ˆ (y)] = [φˆ† (x), π
ˆ † (y)] = iδ(⃗x − ⃗y )
(6.71)
である.全ての同時刻交換子は同時刻交換子ではない以下を残して消える.
[φ(x),
ˆ
φˆ† (y)] = i∆(x − y)
(6.72)
同時刻においては
[φ(x),
ˆ
φˆ† (y)] = [φ(x),
ˆ
φ(y)]
ˆ
= [φˆ† (x), φˆ† (y)] = 0
が成り立つ.交換子 [φ(x),
ˆ
π
ˆ (y)] = [φˆ† (x), π
ˆ † (y)] = iδ(⃗x − ⃗y ) はプロパゲー
ターと呼ばれる.これは次章で詳しく調べる.
まとめ
クライン-ゴルドン方程式は量子力学的演算子の特殊相対論におけるエネ
ルギー,運動量,質量に関するアインシュタインの関係への代入の直接の結
164
第 6 章 スカラー場
果として得られる.これは負の確率や負のエネルギー状態などの矛盾を導
く.この矛盾は方程式を再解釈することで回避できる.それを単一粒子の波
動方程式として描く代わりに,量子力学における調和振動子と同様に生成,
消滅演算子を含む場に適用する.ここには 1 つの違いがある.生成及び消滅
演算子は今,個々の粒子のエネルギー準位を変える代わりに粒子を生成した
り破壊したりする.
章末問題
ˆ (⃗k), N
ˆ † (k⃗ ′ )] を計算せよ.
1. 実スカラー場に対して [N
ˆa
2. N
ˆ† (⃗k)|n(⃗k)⟩ を求めよ.
ˆ |0⟩ を求めよ.
3. N
ˆ に対するハイゼンベルクの
4. 複素スカラー場を考えよ.電荷演算子 Q
運動方程式を考察することによって,電荷が保存されているかどうか
決定せよ.
Q˙ = [H, Q]
この計算は式 (6.68) と (6.70) 及び,交換関係 (6.64) を使って行え.
165
Chapter
7
ファイマン則
場の量子論の巧妙な数学はファイマン則と呼ばれる一連の操作に蒸留され
る.この規則は場の量子論の過程の全ての手法を説明する処方箋と考えら
れ,図形的な形で表される.有名なファイマンダイアグラムである.この章
ではファイマン則を発展させ,どのようにしてファイマンダイアグラムを構
成するのかを示す.最終目標は様々な粒子相互作用における物理パラメータ
を計算することである.ここではこれらを議論する.
量子論では起こる過程の確率振幅を計算することによって,実験予測をす
る.これは場の量子論においても正しく,崩壊や散乱事象などの粒子相互作
用の振幅を計算する.そのような計算を実行するために使われる基本的な
道具は S 行列として知られている.どんな与えられた物理過程も初期状態
|i⟩ = |α(t0 )⟩ から |f ⟩ = |α(t)⟩ で表される最終出力状態への遷移として考え
られる.すなわち,
|i⟩ → |f ⟩
である.この遷移はユニタリ演算子 S 行列の作用経由で起こる.
|f ⟩ = S|i⟩
ここで S は散乱(英語で Scattering )の略語である.S 行列がユニタリであ
166
第7章
ファイマン則
ることより,それは
S † S = SS † = I
を満たす.通常の量子力学より,我々は状態の時間発展はユニタリな時間発
展演算子 U (t, t0 ) を使って記述されることを知っている.すると,時刻 t0
のとき |αI (t0 )⟩ からより後の時刻 t の最終状態 |αF (t)⟩ に発展する振幅は
⟨αF (t)|U (t, kt0 )|αI (t0 )⟩
(7.1)
になる.初期及び最終状態は t = −∞ にやってきて,相互作用し,t = ∞
に異なる自由粒子として飛び去る自由粒子を含む.S 行列の要素は式 (7.1)
の極限
SF I =
lim ⟨αF (t)|U (t, kt0 )|αI (t0 )⟩
t0 →−∞
t→+∞
(7.2)
である.運動量空間では S 行列は次のように与えられた過程が起こるため
の振幅 MF I に比例する.
SF I ∝ −i(2π)4 δ(pF − pI )MF I
(7.3)
ここで pF は出力された状態の全 4 元運動量で,入力された運動量について
も同様である.ディラックのデルタ関数がこの過程における運動量の保存を
強制する.ファイマン則は各々の起こりうる物理過程のファイマンダイアグ
ラムとして知られる図形的表現を使って,この過程の振幅 MF I を計算する
のをより簡単にする.振幅 MF I は摂動的過程を使って計算される.ある過
程の確率振幅をとったものと想像し,級数展開をしよう.摂動展開の各々の
項に対し 1 つのファイマンダイアグラムが存在する.そして,それらを足し
合わせると全体の振幅が得られる.M を与えられた事象の振幅と仮定しよ
う.同じ初期及び最終粒子状態は各々の振幅が Mi の過程の集まりとなるだ
ろう.全振幅は
167
Mtotal =
n
∑
g ki Mi
i=0
となる.ここで g ki は各 Mi の結合定数である.
(7.4)