要旨 [PDFファイル/149KB]

国際観光学科卒業論文 要旨(2013 年 12 月提出)
指導教員:垣本せつ子教授
宮古島方言の記述方法
―方言を「言語」として残すために―
1820100146 浅 川 勝 之
<論文構成>
Ⅰ.問題意識の所在―――序論に代えて
Ⅱ.言語を書くということ――共通語の書記システム
Ⅲ.先行研究の批判・検討
1. アイヌ語の正書法
2. ケセン語の正書法
*琉球諸語とは
3. 奄美語の正書法
4. 沖縄語の正書法
Ⅳ.宮古語概要
Ⅴ.現在の宮古語の表記
Ⅵ.宮古語表記に対する―提案
Ⅶ.参考文献
<目的>
方言の価値が見直され始めてから久しいが、相変わらず方言が直面している現実は厳しい。
方言は本来母語として親から子へ受け継がれていくものである。母語としての継承が正常に行われないなら、
外的な方法で獲得するしかない。外的な方法とはつまり学んで身に付けるということだ。
一方自分たちの方言を後世に残そうと、本(例文集や辞書など)を書き表す人は多い。残念ながらそういった
出版物のほとんどは、そのままでは自己満足に終わってしまうことが多い。音声・文法についての考察が不十分
なまま出版されているから、同じ方言を話す人々にしか正しく理解されないのだ。
国語学・方言学は明治時代以来盛んに研究されており、その知識の蓄積は膨大である。惜しむらくはその成果
が専門書の中に眠っていて、民間に還元されていない。研究成果として刊行された書物の内容は難解で、読んで
知識を得てすぐに会話ができるというものではない。知識を専門家以外にも使える形に整理する必要がある。
研究者の数は限られ予算も限られており、こうしている間にも話者の高齢化が進んでいる。そこで重要になっ
てくるのが、母語話者自身が正確に書き記す記録である。話者が自発的に正確な記録を残していれば、後世の研
究で大いに役に立つ。本稿では日本各地の方言を記述するための先行研究を紹介・批判検討し、その上で宮古語
を例にとって記述例を提示する。
<内容>
日本列島で共通語以外に文字を持っている言語の例として、まずアイヌ語がある。アイヌ語はカタカナ、ロー
マ字の 2 通りの正書法が普及しており、古老たちは記憶している伝承文学を文字にしてきた。カタカナ、ロー
マ字ともに手書きはもちろんのこと一般的なパソコンの環境で扱える文字体系であるため、現在刊行されている
アイヌ語の教科書もこれらに倣っている。
「少数言語を残す」という目的をかなり高いレベルでクリアしてい
る。
次に、方言話者自身が正書法を企画している例として、ケセン語、奄美語、沖縄語の正書法がある。各方言は
母音の数も違えば子音の数も違う。それぞれの考案者がどんな工夫を凝らしているのか、どんなウィークポイン
トがあるのかを考察した。
その上で、現在行われている宮古語の表記を検討した。宮古語には共通語に現れない子音や、子音の連続、そ
れに加えて扱いの難しい特別な母音がひとつある。
<結論・考察>
現在宮古語を書き表すのに使われているのは、もっぱら漢字かな混じり文だが、宮古語の音韻体系に照らすと
合わないところがある。そこで著者は先行研究を元に宮古語方言をローマ字表記で著すための方法を考案した。
その実践例として、宮古語で歌う歌手・下地勇の曲からひとつ選び、その歌詞をローマ字で書き直した。