バブル経済の性格の変化とその防止策

西村幸一郎
バブル経済の性格の変化とその防止策
(副)プルーデンス政策の高度化が鍵
要旨
1980 年代後半、日本はかつてない経済の変動、いわゆる「バブル」を経験した。こ
の結果、失われた 20 年とも呼ばれる苦い歴史をたどった。また、2000 年代に入ると、
アメリカでもバブルが発生した。これは、リーマンショックとして世界的に大きな爪痕
を残した。今後もこのような危機に直面することもあるのかもしれない。本論文では、
「バブル」をいかにして防いでいくのかを「プルーデンス」という視点から考えた。
第 1 章ではバブルについて定義をした。端的に述べると、バブルとは「現実の資産価
格のうち、ファンダメンタルズから乖離する状況」と定義される。
第 2 章では、バブルを防ぐ鍵となるプルーデンス政策について述べた。プルーデンス
政策には、ミクロとマクロの視点がある。マクロの手法としてマネーストックの管理、
経済指標や金融指標の注視などが挙げられる。ミクロでは、財務状態を中心とする、個
別の金融機関の監視などがある。その次に、日本のプルーデンス体制について述べた。
現在の日本は、金融庁を中心とするシングルピークモデルの形態である。
第 3 章では、1980 年代の日本のバブルについて述べた。当時は一般物価の安定の中、
資産価格が上昇していた。その中で、金融緩和が長期にわたってなされ、リスクが蓄積
されてしまった。その結果、金融システムに大打撃を受けた。
第 4 章では、2000 年代のアメリカの住宅バブルについて述べた。
「大いなる安定」を
根拠に長期の金融緩和がなされ、リーマンショックと呼ばれる世界的危機となった。
第 5 章では、日米のバブルを踏まえて、一般物価と資産価格の変動にいかに対応すべ
きかを述べた。日米のバブルは双方、中央銀行が資産価格の急激な上昇を軽視したこと
に問題があった。一般物価の安定の中、資産価格が上昇する、いわゆるバブルの局面は
対応が難しい。しかし、中央銀行は一般物価の動向以外も注視していく必要がある。
また、バブルの発生過程を監督当局がいかにして把握するかが重要である。バブル発
生過程を適切に捉えるには、個々の金融機関の健全性を目的とするミクロプルーデンス
政策のみでは不十分である。金融システム全体の損傷の抑制を目的とする、マクロプル
ーデンスの視点に立った監督にも目を向けるべきある。つまり、両方の視点に立って、
総合的なプルーデンス政策の運営が求められる。それに加えて、金融市場全体の透明性
を高めつつ、マクロ経済指標の動きを注視し、金融危機が顕在化する前に適切なリスク
分析に基づく政策対応をとらねばならない。
現在、日本では、金融機関に関する規制・監督の権限を持つ金融庁と、金融政策運営
を行い、金融システム全体のリスク把握を行っている日本銀行とが密接に連携している。
今後はプルーデンス政策の運営に関して、関係機関は日々の政策運営や具体的な連携の
場を形としてつくるべきである。その先に、プルーデンス政策の高度化が見えてくるで
あろう。