疾患別ケアの重要性

特集
Dementia with Lewy Bodies
治療
テラーゼ阻害剤がレビー小体型の治療にも効力を発揮
認知症の原因疾患を正しく診断できる医師は増えつ
するだろうということが共通に認識されていたとい
つあるが、アリセプトが承認されたことが一層啓発に
う。そして、2014 年 9 月にはアリセプトがレビー小体
つながることも期待できよう。さらに福祉・介護職、
型の治療薬として承認されるに至った。レビー小体型
家族をはじめ社会のすべての人がレビー小体型への理
と診断された場合のその先の治療に道ができたこと
解を深めることで、決して対応の難しい特別な病気で
で、患者や家族にとっては一筋の光が見えてきたとい
はなくなるはずだ。
えよう。
「これでようやくレビー小体型にファーストチョイ
スの薬ができました。日本で見つけたレビー小体型を
疾患別ケアの重要性
砂川市立病院認知症疾患医療センター センター長 内海久美子
氏
砂川市立病院認知症疾患医療センター 認知症看護認定看護師 福田 智子
氏
北海道の中央部、中空知地区における認知症治療の中核的な役割を担う砂川市立
病院。同病院認知症疾患医療センター センター長の内海久美子医師は、これま
で認知症の早期受診・早期発見に力を入れ、疾患別ケアの重要性を説いてきた。
全国でレビー小体型認知症の患者数が増えているが、2014年9月から治療薬
が承認されたことで同疾病に対する医療も変化していくのではないだろうか。
認知症で入院する人の約 3 割が DLB
日本で開発したアリセプトで治療していきたい。アリ
セプトによる治療は 10㎎まで使用でき、用量依存的
レビー小体型認知症を知る
砂川市立病院は認知症疾患医療センターとして、中
砂川市立病院認知症疾患医療センター
センター長 内海久美子氏
砂川市立病院認知症疾患医療センター
認知症看護認定看護師 福田智子氏
も特徴です」と内海氏。DLB に適したケアを行うこと
で、症状は落ち着いていく。疾病の障害に合わせたケ
アを行うことが重要になる。
な効果が確認されています。レビー小体型には低用量
空知地区の中核病院の機能をもつ。認知症の中でレ
という考えもありますが、まずしっかりとした用量に
ビー小体型認知症(以下、DLB)の人の割合について、
トライすべきといえます」と、小阪氏は意欲を見せる。
センター長の内海久美子医師は、
「2012 年度のデータ
同院に入院した人を看てきた認知症看護認定看護師
しかし、まだ医師の間でレビー小体型についての認
では、当院での新患者数は約 600 名ですが、そのうち
福田智子氏は、
「認知症で入院してきた人は、メインの
DLB は 7%ぐらいになります」と語る。
症状のケアをしながら、それ以外の症状がないかという
識は浅いのが実情だ。アルツハイマー型、あるいは単
に老年性認知症と診断されることや、パーキンソン病
DLB の診断は、画像所見、神経学的所見など細かく
と診断される場合も多い。問題は、幻覚、妄想、うつ、
診て、DLB 診断基準を使って行っている。それでも、
レム期睡眠行動異常症などの症状から向精神薬を処方
初診時から 1 年後あるいは 2 年後の経過を見ていくう
される場合があることだ。この薬物に対する過敏症状
ちに、パーキンソン症状や幻視が出てくる場合もあり、
が出ると、さらにその症状に対する薬物が追加処方さ
「やはりDLB だった」と診断が変わることもある。
れ、病状の悪化を招くことが多い。
レビー小体型認知症の中核的特徴
一方、入院する認知症高齢者の 3 割が DLB だという。
見えるものの存在を否定せずに、どこにどんなものが見え
るのかをじっくりと聴くことが大切である。
1.認知機能の変動
頭がはっきりしているときとぼんやりしているときの変動
パーキンソン病はレビー小体型と同じように、脳にレ
が目立つという症状である。その変動周期は人により時間単
ビー小体が出現する病気である。「動きが鈍くなる」
「小また
位、日単位や、さらに長い場合もあるが、ぼんやりしている
歩行」などの特徴的な症状があるが、この症状がレビー小体
ときには「認知機能が落ちている時期だ」という認識をもっ
型認知症にも認められる。パーキンソン症状が最初に出た
て、あせらず認知機能が戻る時期を待つことが大切である。
場合にパーキンソン病と診断し、あとで幻視などの症状が
2.幻視
出てくるとパーキンソン病治療薬の副作用と誤認してしま
文字どおり幻が見える症状である。普通は幻聴や体感幻
うことがある。レビー小体型の治療とは掛け離れた方向へ
覚はなく、人が黙って立っているというように具体的にはっ
進んでしまうので、この点で医師には十分な注意が必要に
きりと見えるのが、レビー小体型の人の幻視である(上のイ
なる。
ラスト参照 )。アルツハイマー型でも同じような症状が出
4.示唆的特徴としてのレム期睡眠行動異常症
ることがあるが、アルツハイマー型の場合はせん妄が多く、
夜間などの意識レベルが低いときに現れる。
レム睡眠時に大きな声で寝言を言ったり、布団の上で暴
れたり動き回ったりする症状をいう。中核的特徴が出る前
周りはつい「見間違いだ。ここにはだれもいない」と納得
のごく初期から現れることが多いので、患者との話の中か
させようとしがちだが、それは逆効果である。なぜなら本
らそれまでにレム期睡眠行動異常があったかどうかを聞き
人には本当に見えているからだ。ケアをする人も医師も、
6
3.パーキンソン症状
出すことができれば、診断の際の参考になる。
薬物治療とリハビリテーションを両輪に
ことも常に観察します。あれば医師に伝えて、それにど
う対応していくのかを決めていきます」と語る。
DLB の進行に伴い、身体が硬直する人がいる。動作
が緩慢になって前傾姿勢になる人もいる。
「薬物治療と
同時に日常生活を意識したリハビリテーションが必要
だと思っています。とにかく絶対に寝たきりにさせな
7%の有病率であるのに、なぜ DLB の入院の割合が高
いように動かします。まだこの人には回復の可能性が
いのだろうか。
「精神症状、運動症状、自律神経症状
ある、その思いを捨てないことですね」
。福田氏はこう
などあらゆる症状が出てしまうので、入院せざるをえ
語り、DLB の人にはリハビリテーションが欠かせない
ない状況になってしまうからです。認知症重症度はま
と強調する。
だ軽度なのに、幻覚あるいは妄想が強い、しょっちゅ
薬物治療では、アリセプトが第一選択になると内海
う失神してしまうといったことが起こります。アルツ
氏は言う。
「ボーッとしているときがすっかりなくなる
ハイマー型認知症(以下、AD)の人は徘徊や怒りっぽ
というところまではいきませんが、
“かなり少なくなった
くてケアを拒否するなどの理由で入院しますが、DLB
よ”と言う方はいます。それだけでも家族は喜びます」
。
の人は上記のように幻覚・妄想、失神といったことで
このように服薬でうまくいく人は外来で通院し続けら
入院となります。ケアの仕方が全然違いますから、鑑
れる。過敏性があるから少量でとよくいわれるが、内海
別診断を行ったうえでの疾患別ケアが重要になります」
氏の経験でいえば、200 例の中でパーキンソン症状が悪
と内海氏は話す。
化してしまった人は2例のみ。
「今後、10mg まで使っ
内海氏が担当する DLB の人は在宅で暮らす人が多
い。診ていく中で ADと大きく違う点は、状態の変化
が激しいことである。
「DLB の人は、スイッチでいえば、
ていきたい」と話す。
内海氏は服薬についてもう一つのポイントがあると
いう。
「診断時にレビー小体型認知症と伝えると、本人
“ON”と“OFF”の差が大きいです。それが 1日の中で
も家族も
“認知症”
という言葉に反応します。私はレビー
出る人もいれば、1ヵ月の中で出る人もいます。突然ス
小体病という言い方で、この病気の特徴と予後につい
イッチが ON になって、幻覚や妄想がひどくなってし
て説明しています。アリセプトが DLB の治療薬になっ
まう場合や、逆にスイッチが OFF になって、口から食
たことで、本人にも納得して服薬してもらえるのでは
べられない、水も飲めない、薬も飲めないという場合
ないでしょうか」と話す。薬物治療とリハビリテーショ
もあります。症状が個人によって画一的ではないこと
ンは、DLB治療における車の両輪といえよう。
7