第29回日本認知症学会学術集会参加レポート

2010.11.7
第29回日本認知症学会学術集会参加レポート
Ⅰ
11 月 6 日
東北大
ワークショップ
4大認知症の BPSD と対応
西尾先生
Subcortical ischemic vascular dementia における行動異常
○無為、抑うつ、興奮、易刺激性が多い。脱抑制、躁状態は低頻度。幻覚妄想
は非常に稀である。
○無為 apathy は白質変性が強ければ強い程強くなる。どこの脳部位で起きる。
○無為と抑うつは共存率が高い。特に、AD と VaD では。
○VaD の無為には、①ドネペジル、②アマンタジンが有効。
愛媛大
谷向先生
前頭側頭葉変性症 FTLD の BPSD
○BPSD の宝庫
○周囲への気遣い・他者への共感の欠如→going my way
○常道行動(時刻表的生活)6 時起床、8 時 45 分無賃乗車、9 時 45 分開店とと
もにデパート入店、いつも決まった店で同じサンドイッチを食べる(無銭飲食)
○注意転導性亢進。食事中に立ち上がる、診察中に鼻歌、立ち去り行動
○模倣行動:禁止しても模倣してしまう。(被影響性亢進)
○使用行動:やってはいけないと支持しても、目の前に置かれた物を使用して
しまう。
○食行動異常:濃い味、甘辛いものを好む、過食・異食。
○脱抑制、反社会的行動
→FTLD に対して有効な薬物療法はない。FTLD の特徴を踏まえた非薬物療法
が第一選択。
※ レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:DLB)
レビー小体病(LBD)
1976 年に小阪憲司が世界最初の症例を報告する。
主に初老期・老年期、時には若年期にパーキンソン症状により発症し、認
知症が加わることもあるが、症例によっては進行性の認知症が先行すること
もある。神経病理学的には中枢神経系・交感神経系に多数のレビー小体とそ
の好発部位における神経細胞の脱落によって特徴づけられる。
脳幹型(パーキンソン病)、移行型、びまん型(びまん性レビー小体病)、大脳型に分
類される。
熊本大
レビー小体型認知症の BPSD
橋本先生
○DLB のマネジメントにおいて BPSD への対応は欠かせない。
○妄想(DLB62%、AD32%)、幻覚が DLB において AD よりも圧倒的に多く、
不安も DLB に多い。FTLD や PSP では妄想は皆無である。妄想は、DLB にお
いて、全ての認知症の中で突出して多い。
○DLB では体系付けられた妄想が多い。
→妄想性誤認症候群と言う。本当に苦労することが多い。
カプグラ症候群(妻と同じ顔をしているが別人・偽物である)
→T 氏あり(皆川 NS は二人居て、八軒に居るのが本物でしょ)
自己分身
→T 氏あり。(自分の後ろに 3 人自分がいる。)
幻の同居人
→T 氏あり。(和尚が居ると布団を開けて床に寝ている)
※鏡誤認:DLB では稀。かなり進行した AD、CBD で見られる。
○DLB の妄想
平均して 2 種類以上の妄想あり。
幻の同居人、物盗られ妄想、迫害妄想、我が家でない、替え玉妄想、TV 妄想、
嫉妬妄想など
誤認妄想症候群が 46 から 56%、
→この発表に対し、11 月 7 日の長濱先生は、カプグラ、自己分身、幻の同居人
などは妄想ではなく、誤認であるとしていた。
○DLB の物盗られ妄想
AD における物盗られ妄想は、記憶障害、判断力低下、猜疑的傾向から生じる
DLB の盗られ妄想は、上記に加え、誤認が影響している。(「箪笥の中の服は
自分の服に似ているが違う。」)
◎DLB の嫉妬妄想
DLB の 14%、AD の 2.5%に嫉妬妄想あり。DLB に多い。
DLB の幻視や誤認が嫉妬妄想を誘発しているのではないか
(「家の中に人がいる」、「布団の中に人がいる」)
→妄想性誤認症候群への対応が課題となる。
◎DLB の BPSD の治療
ドネペジル 5mg、抑肝散、抗精神病薬など無効例でドネペジル 10mg 投与で
症状改善したとの話が多かった。
アリピプラゾールに関しては、有効例 2/10 例、EPS など副作用出現 8/10 例
で、有効ではない。
Ⅱ
11 月 7 日
シンポジウム
小阪憲司先生
○症例
68 歳
うつで発病。幻視と罪業妄想を認めた(T 氏あり。)69 歳で軽
度の認知症とパーキンソニズム。70 歳
パーキンソニズムで誤嚥性肺炎で死
亡。
○common form アルツハイマー病変を伴う→Pure form
伴わない
○アルツハイマー、うつ病、統合失調症、老年期精神病との誤診が多い。
○初期から BPSD が生じ易い。
○初期には認知症が目立たない。認知症の存在にこだわらず、MCI レベルで診
断することが大切。
○MIBG 心筋シンチが診断上有効。
○アセチルコリン系の障害は AD より DLB で強い。ドネペジルが有効。
滋賀県立成人病センター老年内科
長濱先生◎
○DLB の精神症状は幻覚、誤認、妄想に大別される。
○幻視
人の幻視(T 氏あり)、動物・虫の幻視(T 氏あり)、幻聴(T 氏あり)、
実態意識性など
○誤認
A
人物誤認(DLB では親しい人や場所に限られる)、幻の同居人(T
氏あり)、カプグラ症候群(T 氏あり)、場所の重複記憶錯誤。 B
死んだ人が
家にいる誤認(T 氏「自分が死んじゃった、死んじゃったのがついてきている」)、
人の重複記憶錯誤。
※カプグラ
顔の認知は生きているが、適切な感情反応が生じず、
「見かけは
一緒だが別人だ」となるのでは、と。
※妄想性誤認症候群は妄想か?→誤認である。
※幻の同居人は妄想か?→誤認である。
○妄想
迫害妄想、被害妄想、嫉妬妄想
○脳の血流低下部位と上記 3 症状の出現は関連する。
幻視:
頭頂葉、左後頭葉腹側背側
誤認:
辺縁系∼傍辺縁系
妄想:
前頭葉(右吻内側などの高血流(正常よりは低下))
金沢大
吉田先生
○MMSE
視覚野
DLB の検査と診断
視覚認知障害を反映して模写の障害が AD より目立つ。
○I−MIBG 集積低下。AD では低下なし。SPECT+MIBG で感度・特異度は
ほぼ 100%と。
→批判あり。
藤田保健衛生大
○DLB の治療
真鍋先生
対症療法、認知機能障害、BPSD、パーキンソンニズムのどれ
が一番優先順位が高いか?
○DLB の BPSD の治療
ドネペジル(1.5mg)から開始。(ドネペジルにも過敏性あり)
→ドネペジル増量。5mg で無効なら 10mg まで。
→抑肝散追加。
→非定型抗精神病薬(セロクエル推奨)
→mECT
○RBD(レム睡眠行動障害:DLB によく見られる)の治療
ドネペジル、抑肝散(結構有効例ありと)、クロナゼパム
○ドネペジル
既に 5mg 投与中の患者で症状ある者に 10mg まで増量したところ、全例で幻
覚・妄想とも大きく改善。NPI 改善。心伝導系副作用を含め副作用はほとんど
なし。現在実施中の治験でも好成績と。
○抗精神病薬ではガイドラインでセロクエルが推奨されているが、死亡リスク
が 1.6 倍に上がることの告知は必要である。最初から抗精神病薬は使用しない。
○パーキンソニズムに対する治療
70 歳未満:DA agonist →
70 歳以上:L-Dopa
→
○DLB の Somatotherapy
L-Dopa
COMT 阻害薬、MAO-B 阻害薬、ゾニサミド、
mECT
小阪ら幻視・精神病症状・パーキンソニズ
ムに有効と報告。発表者も 6 例に施行し有効。6 年間で再燃なし、投薬のみ。