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連載● 認知症ケアへの新しい風
社会福祉法人浴風会 認知症介護研究・研修東京センター 名誉センター長
長谷川 和夫
2015
特
レビー小体型認知症を知る
集
症状の特徴 その治療とケア 横浜市立大学名誉教授 小阪憲司
医療・介護 本人に合った治療とケアがQOLを高めていく
連携対談
砂川市立病院認知症疾患医療センター センター長
内海久美子・ ライフアート代表取締役 武田純子
私の描く Dementia Support
早期診断に注力! 脳からのサインを見逃さない
医療法人千清會 鈴木脳神経外科(埼玉県川越市)
認知症ケアの今日、明日
一人ひとりが「主役」になれる認知症予防のプログラムを実践
医療法人社団 川瀬神経内科クリニック 通所リハビリテーション「樫の森」(新潟県三条市)
地域で暮らし続けられるケア
医療・介護・リハビリテーションの総合力で“より良い在宅での生活”
を支える
医療法人社団もりもと 森本外科・脳神経外科医院(鳥取県東伯郡琴浦町)
1st
連載
1st
長谷川 和夫
─ 新しい研修プロジェクトが進行中 ─
C O N T E N T S
3
4
私が認知症医療に関わり始めた1970年当時の
介護を担う人には専門性と豊かな人間性を
─新しい研修プロジェクトが進行中─
長谷川和夫◎社会福祉法人浴風会 認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長
[特集 ]レビー小体型認知症を知る
症状の特徴 その治療とケア
●トップインタビュー●
● 治療 ●
疾患別ケアの重要性
内海久美子
福田 智子
聖マリアンナ医科大学特別顧問
小阪憲司
◎横浜市立大学名誉教授
◎砂川市立病院認知症疾患医療センター センター長
◎砂川市立病院認知症疾患医療センター 認知症看護認定看護師
「疾患を知ること」は「その人を知ること」
● ケア ●
武田純子
◎ライフアート代表取締役
本人に合った治療とケアがQOLを高めていく
● 医療・介護連携対談 ●
■私の描く Dementia Support
12
16
内海久美子・武田純子
20
31
37
仙台センターが検討会に必要とされる基本的な
ます。これに伴って認知症の人の数も右肩上が
資料や進行方法などを作成しています。研修内
りに増加傾向をたどっています。まさに超高齢
容の格差を解消することや、地域で活動を続け
化時代に入って、認知症は国としても、また市
ている少人数の事業所などに従事する介護職が
民の一人としても決してひとごとではなくなっ
対象です。週末に限定する研修参加を可能にし
てきており、自分自身の課題としてもしっかり
て、およそ1~2年間にわたる受講システムの開
向き合って対応するときが来たといえるのです。
発や、研修生や教師に共通するシラバスの作成
ところで、現在の介護専門職を担う人は、お
などを課題として、検討に取り組んでいます。
■認知症ケアの今日、明日
技術を身に付けた専門性と豊かな人間性をもつ
療-介護職にとっては新しいテーマですので、
医療法人社団 川瀬神経内科クリニック 通所リハビリテーション
「樫の森」
(新潟県三条市)
質が問われています。厚生労働省は介護保険の
現場での目に見えない工夫と努力が大切になり
施行された00年4月に、認知症介護研究・研修
ます。さらに、地域の市民同士の助け合いや、
センターを全国に三つ(仙台、東京、愛知県大
ご近所力の育成が求められています。この領域
府市 )設置し、その担当地域も全国を 3 地域に分
でこそ認知症介護専門職に、それぞれの地域に
けました。仙台センターは東北、北海道および
おいて指導的にサービスを構築していくことが
四国を、東京センターは新潟県を含む関東およ
期待されます。特にトム・キットウッドの提唱し
び九州、沖縄を、大府センターは東海、北陸お
たパーソンセンタードケアを生かしていくこと
よび近畿地区を担当しています。
が大切です。パーソンセンタードケアとは認知症
一人ひとりが「主役」になれる認知症予防のプログラムを実践
医療・介護・リハビリテーションの総合力で
“より良い在宅での生活 ” を支える
■世界の中の認知症ケア
第 29 回 ADI 国際会議を開催─当事者から “ 新たな風 ” を吹き込む─
認知症高齢者を “ ホームホスピス ” で看取る
事例提供◎ 中野千恵子 居宅介護事業所天寿園在宅サービスセンター ケアマネジャー
松本恵美 老いと病いの文化研究所ホームホスピスわれもこう ヘルパーステーションわれもこう管理者
竹熊千晶 ホームホスピスわれもこう代表
事例解説◎ 白澤政和 桜美林大学大学院教授 センターの業務の中には認知症介護に特化し
のご本人を第一に考え、ユニークなその人らし
た専門職の育成があります。その視点に立って
さを大切にしていくケアです(原著『Dementia
研修などを実施するのが認知症介護指導者です。
Reconsidered』1997 年 )。
■表紙のココロ
認知症介護指導者は原則として約5年以上にわた
ケア職の方々は自分の年齢の2~4倍も長く生
川上アイ子さん
るケアの職歴をもち、地方自治体の推薦を受け
き抜いている高齢者の暮らしを支えることにな
ていることが必要です。14年3月末現在、全国
ります。その人しかもっていないその人らしさ
で1,864名の認知症介護指導者が活躍していま
をもつ尊い存在として、ご本人と向き合うこと
す。指導者の業務は、認知症介護実務者やリー
です。ご本人の視点に自分の視点を置いて、何
ダーを育成すること、そして各事業所を中心と
を望んでおられるのかを、自分の感性を総動員
して地域の認知症介護職の育成および関連する
して考えてみましょう。そうすれば、私たちの
事業に携わることなどです。
認知症ケアはより豊かになることでしょう。
趣味を楽しみながら、いつまでも自分らしく
手帳をアレンジし入院病棟の看護力がアップ
事例提供◎ 医療法人社団東山会 調布東山病院
アドバイザー◎永田久美子 認知症介護研究・研修東京センター 研究部部長 ■ Dementia Today
34
2014年現在では24.1%と、実に3.5倍に達してい
種にわたる連携が必要です。いずれも私たち医
■本人の思いをつづり伝える「わたしの手帳」連載 第 4 回
32
を立ち上げ、専門職育成の検討を続けています。
年推計値)。そして、人数だけではなく、知識と
医療法人千清會 鈴木脳神経外科(埼玉県川越市 )
■認知症の人を支援するケアマネジメント
26
高齢化率は、約7%とされていました。それが
これからの認知症ケアには、地域ケアと多職
医療法人社団もりもと 森本外科・脳神経外科医院(鳥取県東伯郡琴浦町 )
24
現在3センターでは、特別の研修プロジェクト
よそ150万人と推定されます(厚生労働省の2012
早期診断に注力! 脳からのサインを見逃さない
■地域で暮らし続けられるケア
本誌についてのお問合せは(株)メディア・ケアプラス
『Dementia Support』編集部(TEL:03-6404-6087、
FAX:03-6404-6097)までお願いいたします。
© エーザイ(株)
社会福祉法人浴風会 認知症介護研究 ・ 研修東京センター 名誉センター長
聖マリアンナ医科大学 特別顧問
介護を担う人には専門性と豊かな人間性を
■認知症ケアへの新しい風 ㉞
Dementia Support 2015 年1 月5 日発行
監修:長谷川和夫
社会福祉法人浴風会 認知症介護研究・
研修東京センター 名誉センター長
聖マリアンナ医科大学 特別顧問
発行:エーザイ(株)
編集・制作:
(株)メディア・ケアプラス
編集協力:
(株)友文社
(有)オーエムツー
デザイン:アクセント
印刷:凸版印刷(株)
新しい風
認知症ケアへの
2015
作者の川上アイ子さんは若いころから刺繍が
大の得意。グループ ホームでもたくさんの作
品を作ってきた。その中の一つ「なかよし」は、
夫婦がこちらをにこにこして見つめている。ア
イ子さんの心情を表しているような作品だ。
(p.31 に記事 )
34
第 15 回認知症ケア学会大会
「後世への認知症ケア」のテーマのもとに全国からケアスタッフが集合
第 29 回日本老年精神医学会 テーマは「超高齢社会を支える精神医学」
■認知症ケアに役立つ本
認知症ケアの新しい風/知っておきたい認知症ケア最前線
長谷川和夫■ 1969年 東京慈恵会医科大学助教授、73年 聖マリアンナ医科大学神経精神科教授、93年 同大学長、2002年 同大学理事長、05 年 同
大学名誉教授、現在、同大学特別顧問。2000年 高齢者痴呆介護研究・研修東京センター長、05年 認知症介護研究・研修東京センター長を経て、
現在、同名誉センター長。医学博士。
『認知症を正しく理解するために』
(マイライフ社)
『認知症ケアの新しい風』
(ぱーそん書房)
など著書・論文多数。
3
特集
Dementia with Lewy Bodies
トップ
インタビュー
レビー小体型認知症を知る
症状の特徴 その治療とケア
横浜市立大学名誉教授 Dementia with Lewy Bodies
小阪憲司 氏
レビー小体型認知症の症状とケア
レビー小体型認知症(以下、レビー小体型 )とは大
認知症というと、アルツハイマー型認知症の症状を頭に思い浮かべる人が多い。
しかし、レビー小体型認知症の発見者の小阪憲司氏がある病院で病理解剖を行っ
たところ、実際にはアルツハイマー型認知症に次いで多いのがレビー小体型認知
症であった。この病名は徐々に知られてきたが、その症状やケアについて知る人
はまだ多くない。
脳皮質の広範囲にレビー小体という特異な封入体が出
現する病気で、認知症患者の中ではアルツハイマー型
認知症(以下、アルツハイマー型 )に次ぐ割合を占め
る。脳血管性認知症を含めた 3 大認知症のうちの一つ
である。1970 年代に横浜市立大学名誉教授・小阪憲
司氏によって発見された。
認知症といってもその症状は、初期には記憶障害が
本特集でレビー小体型認知症の治療とケアのこれからについて紹介する。
ないことをはじめとしてほかの認知症とは全く異な
り、介護職などの間では接することが非常に難しい病
気だとして敬遠されがちのようだ。それを小阪氏は
「レビー小体型への理解が不足しているためだ」と指
摘する。
「認知症といえば記憶障害があるものと思われがち
トップインタビュー
ですが、レビー小体型にはアルツハイマー型などに現
れる記憶障害は初期には見られません。レビー小体型
症状の特徴 その治療とケア
小阪憲司 氏
横浜市立大学名誉教授 の中核的特徴として挙げられるのは、認知機能の変
治療
動、幻視、パーキンソン症状であり、そのほかに示唆
疾患別ケアの重要性
砂川市立病院認知症疾患医療センター センター長
内海久美子 氏
砂川市立病院認知症疾患医療センター 認知症看護認定看護師
福田 智子 氏
ケア
「疾患を知ること」は
「その人を知ること」
的特徴としてレム期睡眠行動異常症があります。中核
ハイマー型の患者としてケアをすると、大きな混乱が
能性を考えます」
(小阪氏 )。
起こってしまうのです」
(小阪氏 )
レビー小体型の人をケアするにあたり、もう一つ留
レビー小体型の人に対する姿勢の基本は、その人の
意しなくてはならない点があると小阪氏は言う。「レ
訴えを否定せずにじっくり時間をかけて聴くこと。ケ
ビー小体型には通常型と純粋型があります。発症がレ
ア職だけでなく医師にも同様に、診断や治療に際して
ビー小体型のみの純粋型に対し、通常型はアルツハイ
は患者の話をよく聴き、その人を知り、総合的に診断
マー型と重なって発症するものです。この症例は高齢
することが求められている。
と診断されることが少なくありません。そこでアルツ
武田純子 氏
金沢大学医学部卒業。横浜市立大学医学部教授、福祉村病院院長、
聖マリアンナ医学研究所所長、横浜ほうゆう病院院長などを歴任。
横浜市立大学名誉教授。1976 年以降の一連の研究の中で、世界で
初めてレビー小体型認知症の症例を報告。レビー小体型認知症研究
会代表世話人、レビー小体型認知症家族を支える会顧問
的特徴のうち二つが現れていたら、レビー小体型の可
者に多く、記憶障害が出やすいためアルツハイマー型
ライフアート代表取締役 小阪憲司(こさか・けんじ)
日本で発見された病気を日本で開発された薬で治療する
レビー小体型の
表 認知症を起こす病気の症状などの比較
レビー小体型認知症
男
医療・介護連携対談
本人に合った治療とケアが
QOL を高めていく
内海久美子 氏・武田純子 氏
女
比
男性に多い
初 期 の 症 状 幻視、妄想、うつ
アルツハイマー型認知症
脳血管性認知症
男性に多い
は な か っ た。 も っ
もの忘れ
もの忘れ
とも専門医の間で
特徴的な症状
記 憶 障 害、 も の 盗 られ妄想、 認知障害、手足のしびれ、麻痺、
徘徊、まとまりのない話、意味 せん妄、感情の制御困難
のない作業
経
緩やかに進行する(経過が速い
場合もあり)
緩やかに進行する
段階的に進行する
海馬の萎縮が見られる
梗塞などが見られる
脳 の 変 化 海馬の萎縮が少ない
(小阪憲司氏作成)
4
まで認可された薬
女性に多い
パーキンソン症状、幻視、認知
機能の変動、睡眠時の異常言
動、認知障害
過
治療薬としてこれ
は、 ア セ チ ル コ リ
ン系の障害はアル
ツハイマー型より
レビー小体型のほ
う が 強 い た め、 ア
セチルコリンエス
5
特集
Dementia with Lewy Bodies
治療
テラーゼ阻害剤がレビー小体型の治療にも効力を発揮
認知症の原因疾患を正しく診断できる医師は増えつ
するだろうということが共通に認識されていたとい
つあるが、アリセプトが承認されたことが一層啓発に
う。そして、2014 年 9 月にはアリセプトがレビー小体
つながることも期待できよう。さらに福祉・介護職、
型の治療薬として承認されるに至った。レビー小体型
家族をはじめ社会のすべての人がレビー小体型への理
と診断された場合のその先の治療に道ができたこと
解を深めることで、決して対応の難しい特別な病気で
で、患者や家族にとっては一筋の光が見えてきたとい
はなくなるはずだ。
えよう。
「これでようやくレビー小体型にファーストチョイ
スの薬ができました。日本で見つけたレビー小体型を
疾患別ケアの重要性
砂川市立病院認知症疾患医療センター センター長 内海久美子
氏
砂川市立病院認知症疾患医療センター 認知症看護認定看護師 福田 智子
氏
北海道の中央部、中空知地区における認知症治療の中核的な役割を担う砂川市立
病院。同病院認知症疾患医療センター センター長の内海久美子医師は、これま
で認知症の早期受診・早期発見に力を入れ、疾患別ケアの重要性を説いてきた。
全国でレビー小体型認知症の患者数が増えているが、2014年9月から治療薬
が承認されたことで同疾病に対する医療も変化していくのではないだろうか。
認知症で入院する人の約 3 割が DLB
日本で開発したアリセプトで治療していきたい。アリ
セプトによる治療は 10㎎まで使用でき、用量依存的
レビー小体型認知症を知る
砂川市立病院は認知症疾患医療センターとして、中
砂川市立病院認知症疾患医療センター
センター長 内海久美子氏
砂川市立病院認知症疾患医療センター
認知症看護認定看護師 福田智子氏
も特徴です」と内海氏。DLB に適したケアを行うこと
で、症状は落ち着いていく。疾病の障害に合わせたケ
アを行うことが重要になる。
な効果が確認されています。レビー小体型には低用量
空知地区の中核病院の機能をもつ。認知症の中でレ
という考えもありますが、まずしっかりとした用量に
ビー小体型認知症(以下、DLB)の人の割合について、
トライすべきといえます」と、小阪氏は意欲を見せる。
センター長の内海久美子医師は、
「2012 年度のデータ
同院に入院した人を看てきた認知症看護認定看護師
しかし、まだ医師の間でレビー小体型についての認
では、当院での新患者数は約 600 名ですが、そのうち
福田智子氏は、
「認知症で入院してきた人は、メインの
DLB は 7%ぐらいになります」と語る。
症状のケアをしながら、それ以外の症状がないかという
識は浅いのが実情だ。アルツハイマー型、あるいは単
に老年性認知症と診断されることや、パーキンソン病
DLB の診断は、画像所見、神経学的所見など細かく
と診断される場合も多い。問題は、幻覚、妄想、うつ、
診て、DLB 診断基準を使って行っている。それでも、
レム期睡眠行動異常症などの症状から向精神薬を処方
初診時から 1 年後あるいは 2 年後の経過を見ていくう
される場合があることだ。この薬物に対する過敏症状
ちに、パーキンソン症状や幻視が出てくる場合もあり、
が出ると、さらにその症状に対する薬物が追加処方さ
「やはりDLB だった」と診断が変わることもある。
れ、病状の悪化を招くことが多い。
レビー小体型認知症の中核的特徴
一方、入院する認知症高齢者の 3 割が DLB だという。
見えるものの存在を否定せずに、どこにどんなものが見え
るのかをじっくりと聴くことが大切である。
1.認知機能の変動
頭がはっきりしているときとぼんやりしているときの変動
パーキンソン病はレビー小体型と同じように、脳にレ
が目立つという症状である。その変動周期は人により時間単
ビー小体が出現する病気である。「動きが鈍くなる」
「小また
位、日単位や、さらに長い場合もあるが、ぼんやりしている
歩行」などの特徴的な症状があるが、この症状がレビー小体
ときには「認知機能が落ちている時期だ」という認識をもっ
型認知症にも認められる。パーキンソン症状が最初に出た
て、あせらず認知機能が戻る時期を待つことが大切である。
場合にパーキンソン病と診断し、あとで幻視などの症状が
2.幻視
出てくるとパーキンソン病治療薬の副作用と誤認してしま
文字どおり幻が見える症状である。普通は幻聴や体感幻
うことがある。レビー小体型の治療とは掛け離れた方向へ
覚はなく、人が黙って立っているというように具体的にはっ
進んでしまうので、この点で医師には十分な注意が必要に
きりと見えるのが、レビー小体型の人の幻視である(上のイ
なる。
ラスト参照 )。アルツハイマー型でも同じような症状が出
4.示唆的特徴としてのレム期睡眠行動異常症
ることがあるが、アルツハイマー型の場合はせん妄が多く、
夜間などの意識レベルが低いときに現れる。
レム睡眠時に大きな声で寝言を言ったり、布団の上で暴
れたり動き回ったりする症状をいう。中核的特徴が出る前
周りはつい「見間違いだ。ここにはだれもいない」と納得
のごく初期から現れることが多いので、患者との話の中か
させようとしがちだが、それは逆効果である。なぜなら本
らそれまでにレム期睡眠行動異常があったかどうかを聞き
人には本当に見えているからだ。ケアをする人も医師も、
6
3.パーキンソン症状
出すことができれば、診断の際の参考になる。
薬物治療とリハビリテーションを両輪に
ことも常に観察します。あれば医師に伝えて、それにど
う対応していくのかを決めていきます」と語る。
DLB の進行に伴い、身体が硬直する人がいる。動作
が緩慢になって前傾姿勢になる人もいる。
「薬物治療と
同時に日常生活を意識したリハビリテーションが必要
だと思っています。とにかく絶対に寝たきりにさせな
7%の有病率であるのに、なぜ DLB の入院の割合が高
いように動かします。まだこの人には回復の可能性が
いのだろうか。
「精神症状、運動症状、自律神経症状
ある、その思いを捨てないことですね」
。福田氏はこう
などあらゆる症状が出てしまうので、入院せざるをえ
語り、DLB の人にはリハビリテーションが欠かせない
ない状況になってしまうからです。認知症重症度はま
と強調する。
だ軽度なのに、幻覚あるいは妄想が強い、しょっちゅ
薬物治療では、アリセプトが第一選択になると内海
う失神してしまうといったことが起こります。アルツ
氏は言う。
「ボーッとしているときがすっかりなくなる
ハイマー型認知症(以下、AD)の人は徘徊や怒りっぽ
というところまではいきませんが、
“かなり少なくなった
くてケアを拒否するなどの理由で入院しますが、DLB
よ”と言う方はいます。それだけでも家族は喜びます」
。
の人は上記のように幻覚・妄想、失神といったことで
このように服薬でうまくいく人は外来で通院し続けら
入院となります。ケアの仕方が全然違いますから、鑑
れる。過敏性があるから少量でとよくいわれるが、内海
別診断を行ったうえでの疾患別ケアが重要になります」
氏の経験でいえば、200 例の中でパーキンソン症状が悪
と内海氏は話す。
化してしまった人は2例のみ。
「今後、10mg まで使っ
内海氏が担当する DLB の人は在宅で暮らす人が多
い。診ていく中で ADと大きく違う点は、状態の変化
が激しいことである。
「DLB の人は、スイッチでいえば、
ていきたい」と話す。
内海氏は服薬についてもう一つのポイントがあると
いう。
「診断時にレビー小体型認知症と伝えると、本人
“ON”と“OFF”の差が大きいです。それが 1日の中で
も家族も
“認知症”
という言葉に反応します。私はレビー
出る人もいれば、1ヵ月の中で出る人もいます。突然ス
小体病という言い方で、この病気の特徴と予後につい
イッチが ON になって、幻覚や妄想がひどくなってし
て説明しています。アリセプトが DLB の治療薬になっ
まう場合や、逆にスイッチが OFF になって、口から食
たことで、本人にも納得して服薬してもらえるのでは
べられない、水も飲めない、薬も飲めないという場合
ないでしょうか」と話す。薬物治療とリハビリテーショ
もあります。症状が個人によって画一的ではないこと
ンは、DLB治療における車の両輪といえよう。
7
特集
Dementia with Lewy Bodies
ケア「疾患を知ること」
は「その人を知ること」
ライフアート代表取締役 武田純子
氏
札幌市白石区にあるグループホーム「福寿荘」では、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症
など , さまざまな認知症の人たちが共に生活している。ここの責任者の武田純子氏は「皆さんが普通
に暮らせるのは、私たちが病気の特徴をわかっているから」と話す。スタッフはきちんとした疾患の
知識をベースに、ここで暮らす人を支援している。
医療・介護
連携対談
本人に合った治療とケアが
QOLを高めていく
レビー小体型認知症の症状は一人ひとり異なる。内海氏が述べた DLB の症状に合わせた専門医療からの支援、
武田氏が述べたケアの現場での DLB への支援、そのどちらが欠けても DLB の人は暮らしていくことができない。
「医療とケアが架け橋をつくり、DLB の人が安心して生活できる地域にしたい」と両者は語る。
疾患の特徴を理解する意味
「本人が楽になるケアは、私たち
も楽になります」と武田純子氏
認 知 症 というとア ル ツ ハ イマ ー 型 認 知 症( 以 下、
内海久美子氏・武田純子氏
AD)を考えてしまう人が多い。そのため画一的に AD
の記憶障害を考え、誤った対応をしてしまうこともあ
る。レビー小体型認知症(以下、DLB)の人に、もの忘
「福寿荘Ⅲ」外観。グループホーム「福寿荘」は
現在、札幌市内に 3 施設ある
の働きが止まったかと思うほどです。それが ON に切
複雑なジグソーパズルに
向かうレビー小体型認知
症の人と話す武田氏
れのある人へのケアと同じように明日の予定を繰り返
して伝えると、
「どうして何度も同じことを言うのか」
と怒り出す。あるいは直前までやることを伝えなかっ
と考えた。この人が専門病院を再度受診すると、やは
たりすると、
「そういうことは、なぜ予定を立てるとき
りDLBという診断が付いた。
に教えてくれないのか」と、やはり不快感を表す。
レビー小体型認知症を知る
り換わると、OFF 状態がウソだったかのように活発
な状態に戻ります。OFF は意識が低下した状態です
が、幻覚や妄想はそうしたときだけでなく、意識が
はっきりしている ON のときにも出てきます。
武田氏は「今一番大きな問題は、DLBと診断されて
「DLB の人は、私たちが言っていることや私たちか
もケアできていない現場があることです」と訴える。
ら聞いたことを理解していて記憶に残っているのに、
ケアをする人がきちんと疾患を理解していかなければ
自分にまともな対応をしてくれないから怒るのです。
ならない。
ON と OFF の症状の差が大きい
●●●●●●●●
武田:OFF のときに無理やり動かそうとすると怒る
などといった BPSD につながることがありますし、意
識がはっきりしているときに現れる幻覚は、本人もよ
──レビー小体型認知症(以下、DLB)の特徴的な症状の一つに
幻覚や妄想がありますが、それを具体的に教えていただけますか。
く覚えています。以前、「壁に人の目がたくさんあっ
待につながるようなグレーゾーンのケアについて、疾
内海:アルツハイマー型認知症(以下、AD)でよく見
私たちは DLB についての知識がなく、どのように対
田純子氏。2000 年にグループホーム福寿荘を開設し、
患別に分けて考える。
「スタッフは、病気の特徴から
られるもの盗られ妄想は、DLB では少ないように思
応してよいのかわからず、翌日はそのことについて触
さまざまな認知症の人たちと暮らしてきた。
考えて、やってはいけないことや、それをやったとき
います。それよりも、配偶者の布団の中に見知らぬ男
れないようにしていました。AD の人に「あなたは昨
「DLB の人には記憶力の衰えていない人が多い。私
に本人たちはどんなふうに思っているのかということ
(女 )が寝ていると思って浮気をしていると配偶者を
日の夜中、こんなふうに言っていたわよ」と言っても、
たちがきちんと“わかっているのだ ”と理解することが
について話し合っていきます。私たちは認知症の人を
責め立てる“不倫妄想 ”、他人が自分の妻(夫 )になり
その方は覚えていませんので、DLB の人にも AD の人
必要なのです。スタッフがそれぞれの疾患を理解した
介護しますが、介護っていったい何なのだろうかとい
すましているという“替え玉妄想 ”、自分の家に知ら
と同じように対応したほうがよいと思ったからです。
うえでケアをしていくことで、DLB の人とAD の人、
う話から、介護する中で一番大事なことは何なのか、
ない人が住んでいるという“幻の同居人妄想 ”などが
ところが、DLB の人は昨晩大騒ぎしたことをスタッ
前頭側頭型認知症(FTLD)の人が一緒に暮らせるよう
それはその人を知るということだ、というように深め
しばしば見られます。“重複記憶錯誤 ”もあります。
フに謝りたくって仕方がなかったのです。それなのに、
になる。一緒で普通に生活できます。それは、私たち
ていきます。また、認知症というのは病気の総称だが、
私の患者さんは自分の家と全く同じ間取りの家が隣に
私たちはその話題について何も言わないので、DLB の
が病気の特徴をわかっているからです」と、武田氏は
どういう病気があるのか、病気の特徴を知らないでど
あると主張していました。また、奥さんが仕事でよく
人は「スタッフは自分の話を少しも聞こうとしてくれ
病態の特徴を理解したケアの重要性を強調する。
うしてケアができるのか、というように話します。きち
家を空けていたことを覚えていて、そばに奥さんがい
ない」と思い、私たちとの信頼関係を崩してしまいま
んとケアができなかったら本人はもちろんつらいです
るにもかかわらず、奥さんの携帯電話に 1 時間くらい
した。
が、私たちもつらい。私たちがしっかりケアをすること
電話をかけていた方がいます。これは視覚認知機能障
で、本人が落ち着いて、私たちも楽になる。楽に介護
害、あるいは意識の低下が起きているのではないかと
たのですが、もしあのとき、私たちが「昨日は何が見
気の特徴に気付くようになっていく。あるとき、AD で
ができれば、ゆとりをもって生活支援ができるように
推測されます。
えたの?」
「気持ちが悪かったのね」などと話せていた
入居してきた人の家族にスタッフが在宅での生活を聞
なるのではないかと話します」と武田氏は説明する。
──内海先生は、DLB の症状で AD と大きく違うものとして、
日内変化などが激しいこと、つまりスイッチでいうとONとOFF
の差が大きいこと(P.7参照)を挙げていらっしゃいますね。
ら、信頼関係が崩れることはなかったと思います。今
私は、DLB の人には『ほかの人は忘れるから繰り返し
福寿荘では月に1回スタッフの学習会を開くが、そ
て言うけれど、よろしくね』とあらかじめ伝えるように
の中で疾患別のケアについても話し合う。例えば、虐
します」
。こう話すのは、ライフアート代表取締役の武
知るためには、まず学ぶことを
原因疾患への理解が深まると、スタッフは次第に病
いていた。話の中で「留守番ができる」と家族が話した
こうした学習が現場に活かされていく。
「足の裏か
て気持ちが悪い」と言って暴れた人がいます。当時、
そのあと、時間をかけて信頼関係を再構築していっ
では、私たちは DLB のことをかなり勉強したので、幻
覚症状が出たときには、
「どこら辺に目があるの? こ
ことから、
「もしかしたら AD ではないのかもしれない」
ら釘みたいなものが出てきて痛い」とスタッフに訴え
とスタッフは考えた。近時記憶障害がある AD の人は
る DLB の人に、実際にはそのようなものは出てきてい
内 海 : そ れ ま で 普 通 に お し ゃ べ り し て い た 人 が、
のあたり?」
「少し部屋を明るくしましょうか」などと、
留守番ができないが、DLB の人であれば留守番をでき
ない体感幻覚だと理解したスタッフが、
「そっか、つ
OFF のスイッチが入った途端に全くしゃべられなく
その人の気持ちに沿って対応しています。
るからだ。
「そういえば『家に変な人がいる』と本人が
らいね」と言いながら足のマッサージをしている。疾
なったり、話し掛けてもきちんと答えられなくなった
内海:幻覚や妄想に対する治療として、一般に向精神
言っていたが、DLB の症状である幻視かもしれない」
患を理解したケアをする現場が福寿荘にある。
り、ボーッとした顔つきになったりします。まるで脳
薬が用いられますが、私自身は幻覚や妄想を必ずしも
8
9
特集
Dementia with Lewy Bodies
するためには、むしろ日中はできるだけ起こしておく
の症状が出る前に、嗅覚障害が起こることがあるから
ことが大切です。ただし、何時間もいすに座らせたま
です。DLB が疑われると、MIBG 心筋シンチグラフィ
まもよくありません。時々、横になって休んでもらう
という検査やダットスキャン検査で鑑別診断を行いま
こともポイントです。
す。
武田:朝、目が覚めたときに血圧が高い方がいるので
──グループホーム福寿荘に入居されてくる方の中で、「AD と
診断されているけれど、ひょっとしたら DLB では」と思う方は
いらっしゃいませんか。
すが、これも自律神経症状でしょうか。
内海:臥位高血圧といいます。横になると頭が低くな
内海久美子(うつみ・くみこ)
1988 年札幌医科大学卒業後、同大学精神科および砂川市立病院に勤務。
2007 年より砂川市立病院精神科部長、08 年より札幌医科大学大学院医学
研究科臨床教授、砂川市立病院認知症疾患医療センターセンター長。13 年
より NPO 法人「中空知・地域で認知症を支える会」理事長。日本老年精神医
学会指導医・認定医、日本精神神経学会専門医・指導医
消し去る必要はないと思っています。例えば、幼い子
レビー小体型認知症を知る
るので心臓は頑張って血液を押し出す必要があまりな
武田:私たちは、入居されてきた方の生活のどこに不
いため、通常は血圧が下がります。ところが DLB の
便や不都合が起きているのかをアセスメントし、それ
人は自律神経の調節がうまくいかないために、寝てい
を少しでも減らすケアをしていきます。するとある時、
ても血圧が下がらない状況が起きていると考えられて
この方は診断のとおりに AD だな、いや DLB のよう
います。少し時間が経てば血圧は下がるので、降圧剤
だなと気付きます。認知症のケアで、本人を主体にし
を服用する必要はありません。循環器科や内科の先生
たパーソンセンタードケアが大切とよくいわれます
にも、DLB にこういった症状があることを知ってい
が、本人の何を主体にするかというと、今困っている
ただくとよいですね。
こと、生きづらくしていることをサポートすることだ
武田純子(たけだ・じゅんこ)
と思います。認知症の人にごまかしはききません。こ
1970 年釧路赤十字看護学院卒業後、複数の病院などで看護業務と看護管理
に従事。96 年よりグループホーム運営に携わり、2000 年に有限会社ライ
フアートを設立し、代表取締役社長に就任。同年、グループホーム福寿荘
を設立。09 年認知症ケア学会読売ケア賞奨励賞を受賞
疾患に応じたケアで本人の困っていることをサポート
●●●●●●●●
──これまでのお話から DLB の人には AD の人とは異なる対応
が必要であることがわかりました。
どもが妻の布団に入って一緒に寝ているといった“微
内海:例えば、私の病院では、DLB の方が入院して
笑ましい幻視 ”、つまり“怖くない幻視 ”の場合です。
きたらすぐに歩行のアセスメントをし、翌日から歩行
その幻視が QOL や精神面にマイナスの影響を与えな
ければ、武田さんたちがされているように話を聞い
れまでの経験から、認知症の人にきちんと向き合い、
病気の特徴に合ったケアに薬剤などの治療を加えなが
ら支援すれば、DLB になったとしても QOL を高く保
つことができると思っています。
服薬により覚醒度が上がり、活動が積極的に
る患者さんがたくさんいます。
武田:私の施設の入居者が先日、抗パーキンソン病薬
を処方されました。そのときは、「服薬前後の生活状
リハビリテーションを行って拘縮予防に努めています。
●●●●●●●●
況データを取って、QOL が改善されていたら続ける
──その人に合ったケアをするためには、鑑別診断が重要に
なってきますね。
──今、薬の話が出ましたが、内海先生は DLB の人に対するア
リセプトの服薬についてどのような感想をおもちですか。
し、悪くなっていたらやめさせてほしい」とかかりつ
などと言って、幻覚や妄想が病気で起きている症状
内海:そのとおりです。しかし、DLB の疾患概念が
内海:薬の過敏性がよくいわれますが、私自身は、そ
いて、服用して 2 日目には「さて、どこかに行こうか」
であることを自覚してもらう対応のほうがよいと思い
新しいので、認知症に関係する精神科や神経内科、神
のような経験はあまりありません。薬の効果として、
と言って、動き始められました。
ます。
経外科などの診療科の中でも、DLB についてまだ詳
幻覚が消えるだけでなく、覚醒度が上がるような印象
内海:抗パーキンソン病薬はせん妄の副作用を起こす
武田:それが自覚できた人は、私たちが「最近、何も
しく知らない先生方がいらっしゃいます。これは医療
を受けています。「頭の中がスッキリして霞が晴れた
といわれてきましたが、薬の副作用ではなく、パーキ
言わないけど、どう?」と聞くと、「時々見えるけど、
者側の大きな課題です。
ようだ。病気になる前の自分に戻ったようだ」といっ
ンソン病から DLB になってせん妄が出たのかもしれ
そんなに怖くないし、我慢できる状態だから大丈夫
武田:DLB の家族会を開いているのですが、
「DLB の
た表現をされる方がいます。また、傾眠だったが、起
ません。以前、小阪先生にお会いしたとき、そういう
よ」などと言います。
診断は付いていないのですが、症状を見ると DLB に
きている時間が長くなって活動性が上がったという方
発想の転換も必要ではないかとお話ししたことがあり
幻覚や妄想についてはケアや薬でかなり対応できる
違いないと思うので来ました」とおっしゃるご家族が
もいます。
ます。
ようになったのですが、私たちが今一番悩んでいるの
います。皆さん、インターネットやテレビなどで情報
武田:私の施設では、DLB と診断された方は全員ア
が自律神経症状です。何か良い対応策はありませんか。
を得ておられるようです。もちろん、何か変なことを
リセプトを服用されていますが、気分の変動がとても
──お二人のお話を伺っていると、本人一人ひとりの症状に
合ったケアと治療が大切だということを強く感じます。
内海:自律神経症状の中でもケアスタッフの方たちが
言っているぐらいにしか思わない家族も多くいます。
少なくなったように思っています。また、内海先生が
武田:良いケアをして QOL が上がれば、本人が喜ば
心配するのは、歩いているときや食後に突然に倒れた
本人に起きている症状を、家族がドクターにきちんと
おっしゃったように、頭がスッキリして、やりたいこ
れ、その姿を見た家族もまた喜ばれます。それは私た
りする失神だと思います。失神を起こしたときは体を
伝えることが大切ではないでしょうか。
とがたくさん出てきた方もいます。認知症になって何
ちの喜びになるし、ケアがとても楽になります。そう
横にしてください。しばらくすれば、意識は戻ってき
内海:一般の方は、どうしてももの忘れに関心が集ま
年も経っている方が編み物を始められたんですよ。そ
なるためには、私たちは DLB についてもっと学ばな
ます。そのあとは普通どおりでよいでしょう。失神を
ります。ですので、医療者側から聞き出す必要があり
の方を見て周囲の人が刺激を受けて、「自分も何かや
くてはいけないと思っています。
心配して寝かせてばかりいるのは逆効果です。私たち
ます。私の病院ではチェックシートを用いて、「家族
りたい」と言い始めるなど、思いがけない相乗効果が
内海:私たち医療者も全く同じです。介護と医療が連
でも入院してずっと横になっていると、起き上がった
には見えていないけれど、何か見えるといったことは
生まれています。
携して、DLB や AD など認知症の人を支えていく、こ
途端に立ちくらみがすることがありますよね。DLB
ありませんか」
「立ちくらみはないですか」
「寝言はな
内海:パーキンソン症状がある方にも、積極的に抗
れが何よりも大切だと思います。
の方は血管運動神経の反射が私たち以上に弱くなって
いですか」などの質問に加え、「以前から臭いを感じ
パーキンソン病薬を用いるべきだと私は思っていま
いるので、寝かせきりはよくありません。失神を予防
なくなったと言っていないですか」も尋ねます。DLB
す。実際、症状がかなり改善し、覚醒度も上がってい
──本日は、両先生より DLB の方の QOL を高めるうえで参考
となるお話をたくさん伺えました。ありがとうございました。
たり、「見えるものをちょっと触ってみましょうか」
10
けの医師にお願いしました。その方の場合、見事に効
11
私の描く Dementia Support
脳内に現れるが、MEG はその兆候を捉えて分析する
早期診断に注力!
脳からのサインを見逃さない
医療法人千清會
鈴木脳神経外科
(埼玉県川越市)
小江戸と呼ばれ多くの観光客が訪れる埼玉県川越市から、狭山市に向け車で 30 分の、田畑に囲まれた
閑静な地に医療法人千清會 鈴木脳神経外科はある。同クリニック院長の鈴木千尋氏はなぜ、交通の便が
良いとはいいがたいこの地を選んだのか。鈴木氏はその理由を「開院時には無理だとしても、何年後かに
は必ずやMEG を導入しようと考えていたからです」と話す。診療環境の改善にも取り組む鈴木氏に認
知症への思いや考えを伺った。
ことができるため、それに合わせた投薬や生活習慣の
改善などの、認知症の進行を遅らせる対策を早く打つ
ことが可能になる。また、脳には感覚など重要な役割
を果たす場所に微妙な個人差があるため、各々の手術
計画を立てる際にも有効な検査だ。
鈴木氏は病院勤務を経て、2001 年に開業。救急治
療に長く携わった経験から、早期発見や予防に力を入
れた施設にしたいと考え、入院設備をもたないクリ
ニックを開設した。開設時には MEG を導入する余裕
はなかったが、導入を視野に入れてはいた。
「脳磁場は地球磁場の 10 億分の 1 と超微弱です。そ
れを捉えて測定する MEG は、自動車のエンジンやエ
レベーターなど、少しの環境ノイズにも影響を受けや
すいため、車の通行量が少ない、街中から離れた場所
でなくては設置できません。数年後の導入を目指し、
閑静な地域に広い敷地を確保して開院することにしま
脳内の小さなサインを捉える
MEG の導入を視野に開院
認知症の診断のために行われる画像検査には MRI
や CT、PET、SPECT などがあるが、さらに精度の
高い結果が得られるものとして注目されているのが
MEG
(Magnetoencephalography:脳磁場計測)
である。
海外に比べ日本には多く導入されている機器だが、そ
うはいっても現在わずか 20 数台で、しかも導入して
いるのは大学病院や研究機関が大半だ。その MEG を
クリニックとしてはいち早く取り入れ、認知症を早期に
発見し、その本人の望む今後の生活の実現に力を注い
でいるのが鈴木脳神経外科院長の鈴木千尋氏である。
とミリ単位で脳内のどの部位が活動しているかがわか
り、1,000 分の 1 秒単位で脳の中の詳細な情報の流れ、
つまり脳の機能や働きを知ることができる。この点が
豊かな環境空間が受診者にパワーを与える
脳の形や萎縮の様子などを診る MRI や CT と大きく異
なるところだ。
認知症にはアルツハイマー病や血管性認知症、レ
ビー小体型認知症(DLB)などさまざまな種類がある
が、それらが単独で現れることはまれで、むしろいく
つ か の 認 知 症 が 合 併 し て い る 場 合 が ほ と ん ど だ。
MEG で得た測定値に数学的分析を加えると、それら
が何パーセント関わっているかまで判明する。また、
MCI(軽度認知障害 )の準備状態、前臨床期、さらに
もっと早い時期のそれぞれで、特徴的な小さな変化が
脳の中には多くの神経細胞があり、この神経細胞の
鈴木千尋(すずき・ちひろ )
1981 年埼玉医科大学卒業。85 年同大学博士課程修了、医学博士。2001 年鈴木脳神経
外科開設。08 年ニューロサイエンスセンター開設。最新かつ最高ランクに属する高度
医療機器を駆使した人間ドックと外来保険診療を行う。埼玉医科大学非常勤講師、同大
学総合医療センター非常勤講師。日本脳神経外科学会専門医、日本認知症学会専門医
2008 年、鈴木氏はクリニックの建物に隣接して、
ニューロサイエンスセンターと継続診療棟を設けた。
「日本の医療施設内の環境はどこも似ています。こ
ニューロサイエンスセンターには念願であった
れまでと趣きの異なる施設が一つぐらいあってもいい
MEG を導入。さらに、MEG の結果を MRI の画像に
のではないかと思ったのです。当然ながら、重装備の
重ね合わせて分析するため、より鮮明な画像が得られ
医療施設にすればするほど、その維持は経営的に大変
る国内最高水準の 3 テスラ MRI を同時に導入した。こ
です。しかし、豊かな環境空間は『もし病気が見つかっ
れらの検査を人間ドックのメニューに入れて提供する
たら、どうしよう』という受診者の不安を和らげるだ
ことにした。
けでなく、受診者に検査に立ち向かうための大きなパ
検査を担当する臨床検査技師の細田政也氏は「MRI
では脳の萎縮が見られなかったけれど、MEG で認知
中を電気が流れることによって脳は活動している。昔
症の兆候が見つかったケースがあります」と語る。
ワーを与えます。ですから、あえて挑戦することにし
ました」と鈴木氏は明かす。
WHO は 1998 年に健康の定義として「(1)physical
health( 肉体的な健康 )、(2)mental health( 精神的な
から行われてきた脳波検査は、このときの電圧変化を
もう一つ鈴木氏がこだわったのが、患者を迎え入れ
調べるものだ。医学的侵襲性はないものの、脳波は伝
る環境だ。一般外来や検査を行うニューロサイエンス
健康 )、
(3)social health(社会的な健康 )の 3 つに加え、
導率の異なる髄液や骨、皮膚などを通して伝わるた
センターは、色彩や質感を大切にした空間をつくり上
spiritual health が必要で、中でも spiritual health が最
め、その過程で電気信号が複雑に変化するという欠点
げ、検査スペースや廊下には意匠を凝らした家具を配
も重要である」と示唆した。spiritual とは「生きる意
がある。一方、MEG は電気が流れるときに生じる脳
置するなど、しっとりと落ち着きのある雰囲気をもた
味や希望、安らぎなどを見出す心の概念」とされてい
磁場を測定する方法だ。磁場の通りやすさは髄液や骨、
せた。さらに、同クリニックが提供している人間ドッ
る。受診者の不安を和らげたり、受診者に大きなパ
皮膚などのどこでも一定のため、脳の神経細胞の活動
クの中でも最も検査メニューが多く、1 年間継続して
ワーを与えたりするのは、まさに spiritual health を育
をダイレクトに記録することができる。これが MEG
フォロー受診のできる「ロイヤルメディカルチェック
成するケアにほかならない。
の大きな特徴だ。しかも、MEG を使えば、脳波計に
比べ数十倍も多い情報が得られる。脳磁図を記録する
12
した」
アップ」の受診者の専用棟とした継続診療棟は、クラ
一般外来と人間ドックを行っているニューロサイエンスセンターの受付ロビー
シックな内装で統一した。
「spiritual health に基づいたケアがしっかりできて
いると、認知症になっても人生に生きがいを見出すこ
13
受診者の不安を取り除く
スタッフの笑顔
とができます。また、自分がやりたいこととできるこ
4週間後で、1 時間ほどの十分な時間をかけて、鈴木
ととの間にギャップが出てきても、それを平静に受け
氏から患者や家族に丁寧な説明が行われる。
MEG を応用した簡便な方法を見つけたい
止めることができます。平静に受け止められれば、今
認知症という診断が付いても、鈴木氏はすぐに抗認
問題になっている BPSD が起こることはほとんどあり
知症薬を処方することはしない。薬を処方する前提と
これまでに同クリニックの人間ドックを受診した人
ません」
して、「患者自身がどうしたいか」を明確にしておく
は1万 1,644 名。このうち 690 名が中程度以上の認知症
ことが重要だと鈴木氏は考えているからだ。
と診断された。かかりつけ医からの紹介で受診する人
継続診療棟とその後に造られた生活指導棟の一角に
は、茶室が設けられている。患者の精神を大切にした
ケアの一つだという。
本人が「飲みたい」という気持ちになってから処方
鈴木氏は患者に「何歳まで生きたいですか」と必ず
問う。
が多いが、インターネットで調べて他県から訪れる人
も少なくない。かつては海外から団体で来院したこと
「ひ孫が結婚するまでだから○歳」
もあったが、現在は受診後のフォローができないため
「東京オリンピックが開かれるまでだから○歳」
断っている。
などと答えた患者には、「そうですか。では、その
「今後は MEG の特徴を応用した別の簡便な方法が
同クリニックで行っている人間ドックには、四つの
時まで元気でいられるように一緒に頑張りましょう」
ないかを研究していきたいと思っています。多くの人
コースがある。問診や高次脳機能検査、心理テストな
と本人に自分の具体的な将来像が描けるように話す。
が気軽にこのような人間ドックを受け、認知症の予防
どの基本検査項目に、3 テスラ MRI 検査などが加わっ
そのうえで抗認知症薬を紹介し、作用や副作用などに
が広く行われるようになれば、国の医療費削減にも貢
た「脳ドック」
、それにマルチスライス CT スキャンや
ついても説明する。
献できます」と鈴木氏は期待している。
一般外来受付担当の関根 渚さん
人間ドック受付担当の齋藤嘉乃さん
受診者の不安を取り除くのはクリニックの内装だ
けではない。スタッフたちの明るい笑顔と丁寧な接
遇も、受診者たちの心に安心を与えている。
一般外来受付を担当する関根 渚さんは「一般外来
には幅広い年齢層の方が来院されます。患者さん一
人ひとりに合った言葉遣いをするように心掛けてい
呼気ガス分析検査などがプラスされ、全身のがん検索
「こういうプロセスを経ていけば、ご本人の口から
もう一つ、鈴木氏がぜひ行いたいと思っているの
が可能な「総合ドック A」
、さらに MEG を加えて脳疾
『薬を飲みたい』という言葉が自然に出てきます。こ
が、子どもたちへケアの心を伝える行動だ。「子ども
も多少お待たせすることがあります。そうした患者
患や認知症の早期発見が可能な「総合ドック B」
、そし
れがとても大切です。本人が飲みたくないのに家族が
たちに、『あなたのことをしっかり見ているよ』とい
さんが不満を言われるどころか、
『いい先生に診ても
て既述の「ロイヤルメディカルチェックアップ」だ。
無理強いすると、家族と本人の関係が悪くなってしま
うメッセージを発信して、常に生きがいを見出して生
らえてよかったわ』と満足して帰られます」
。また、
うことすらあります。これでは何のために薬を飲むの
きることができる人を育てていきたい。そのような人
人間ドック受付担当の齋藤嘉乃さんは、
「人間ドック
かわかりません」
間に成長すれば、彼らが将来、万一認知症になったと
を受診される方は自分よりも年上なので、子どもっ
しても、少しも悲観することなく、最後まで生き生き
ぽくならないように気を付けて対応をするようにし
どのコースも、検査結果の判断を下すのは鈴木氏一
人ではなく、同クリニックが連携している埼玉医科大
学国際医療センターなどの専門医が検査結果の検討に
インフォームドコンセントをしっかりと行うことで
参加する。そうすることで、診断の正確性はより高い
患者は薬の必要性を理解でき、理解すれば薬を継続し
ものになっている。人間ドックの結果が出るのは 2~
て飲むことができる。そして、「この薬のおかげで今
と生を全うできると思います」。
鈴木氏の認知症への取り組みに終わりはない。
年もトマトを栽培できました」などと嬉
ます」と話し、こう続ける。「予約制ですが、それで
ています。人間ドックで病気が見つかってもがっか
りせずに、むしろ『早く見つかってよかった』と言わ
れます。院長が常に言っている『早期発見・早期治療
の大切さ』を、皆さんがご理解してくださっている
しそうに話してもくれる。鈴木氏の患者
ことを嬉しく思います」と言う。
は、認知症と共生しながら生きがいを
もって暮らしているのだ。
1 本館。主に人間ドックの説明や各種の
案内を行う
2 生活指導棟。生活指導のほか、セミ
ナー会場などにも使用される
3 継 続 診 療 棟。 ロ イ ヤ ル メ デ ィ カ ル
チェックアップの診察や、その後の
健康指導などを行う
4 クラシックな雰囲気の継続診療棟内
部。診療後はここでゆったりと過ご
す受診者が多い
5 継続診療棟にある茶室。受診者のため
にお茶の専門家が点てることもある
脳の神経細胞の活動を記録する MEG。受診者はヘルメット型のキャッ
プを頭に被って 20 分ほど仰臥位になる。放射線を使わないので身体
への影響はほとんどない。機械は外部の磁気が入らないようにシール
ドされた部屋に置かれている。検査を担当する臨床検査技師の細田政
也氏は「人間ドックを受けられる方は緊張されているので、気持ちを
和らげて受けていただけるように努めています」と話す
1
3
2
14
4
5
15
認知症ケアの今日、明日
一人ひとりが「主役」になれる
認知症予防のプログラムを実践
うして、通所リハビリテーション「樫の森」を 1996 年
に立ち上げた。
「同事の心」
「三つの心」を
理念に掲げて患者と接する
「私は医者ですが、明日病気になれば、私も患者に
なる。そういう意味で、私たち医師や介護士は特別な
存在ではない。そんな思いから、当クリニックを立ち
上げたときに“同事の心 ”を、そして、『樫の森』を開
設した際には“三つの心 ”を理念に掲げました。今で
は毎朝スタッフ全員で、この理念(下段 )を唱和して
います」と川瀬氏。
デイケア施設の開設にあたっては環境整備も重視さ
医療法人社団 川瀬神経内科クリニック
通所リハビリテーション
「樫の森」
新潟県三条市
上越新幹線の燕三条駅から車で約 15 分のところにある医療法人社団 川瀬神
経内科クリニック。本院が運営する通所リハビリテーション「樫の森」では、
認知症予防のための脳活性化プログラムが個性的な方法で実践されている。
医療や介護に従事する側が
「面白い」
と感じることが一番
環境整備などにより包括的に診断・治療を行う「ホリ
スティック医療」にも力を注いでいる。
特筆すべきは、川瀬氏が神経内科でも「画像診断」
だ。しかし、「認知症と診断しても、当時はアリセプ
ある川瀬康裕医師がこの地に同院を開業し、認知症患
トなどの治療薬もなく、頭を悩ませる日々であった」
者の治療にあたるようになって 20 年余りが経つ。
と言う。解を求めて、他県で認知症の予防に力を入れ
「現在、月に 2,700 余名の方々が来院しますが、その
ているデイケアサービスなどを視察。また、川瀬氏自
うちの 893 名、約 33%が認知症の患者さんです。20 年
身がフォークソングを好み、
「楽器を演奏しながら歌っ
前の開院当時はもっと少なかったのですが、だんだん
たり踊ったりするのは楽しいな。これをリハビリにし
と増えてきていますね」
川瀬氏が勤務医だったころは、認知症がかなり進行
たら面白いな」と考え、自分が楽しいと思えるプログ
ラムを取り入れたデイケア施設を造ることにした。こ
した段階で受診する人が多かったが、開業してからは
もの忘れレベルでもご家族が心配して早めに相談に来
0
るケースが徐々に多くなってきた。川瀬氏は「そうし
-2
た患者さんもきちんと受けとめていくことが重要だと
本院の特徴は、画像検査、生理検査、心理検査、
認知機能スクリーニングの一つである MMSE(MiniMental State Examination)や「MoCA(モカ )*」といっ
た認知評価検査などを丁寧に行い、早期診断・早期治
療をデータ解析の活用と併せて実施していることだ。
また、2 年前に開設したメモリークリニックでのヒア
リングや漢方薬治療、呼吸法、脳活性化訓練、食事、
16
M
M
S
E
の低下得点
痛感している」と言う。
川瀬康裕(かわせ・やすひろ )
ビリテーション「樫の森」は、その名のとおり緑の木々
新潟大学医学部卒業、医療法人社団「川瀬神経内科クリニック」理事長。新潟大学脳研究
所神経内科、長岡赤十字病院第 2 神経内科部長、特定医療法人嵐陽会三之町病院神経内科
医長を経て、1993 年医療法人社団「川瀬神経内科クリニック」開院。96 年通所リハビリテー
ション「樫の森」開設。2003 年通所リハビリテーション「かわせみ」を開設し、パーキン
ソン病などの難病患者への音楽運動療法を実践。12 年「かわせメモリークリニック」開設。
13 年第 3 回日本認知症予防学会学術集会大会長を務める。日本認知症予防学会理事
や草花に囲まれている。
川瀬氏いわく、「私が知っている 20 年ほど前の施設
というのは、厨房のにおいと薬のにおい、おむつのに
おいなどが入り混じったようなところが多かった。そ
が必須であると考え、MRI を装備して開業したこと
医療法人社団 川瀬神経内科クリニックの理事長で
れたとのことだが、クリニックの裏手に建つ通所リハ
大成功でした」と言う。ほとんどのスタッフは採用時
しました。木造にして、室内の空気を循環させるシス
には介護資格をもっていなかったが、その後、施設で
テムを取り入れ、ガラス窓を大きく配して開放感をも
働きながら介護福祉士などの資格を取得しており、結
たせました」。
果としてレベルの高い人材が確保できている。
「樫の森」にどんなスタッフを入れたらいいかと考え
「樫の森」では、通所する利用者を「会員さん」と呼ん
た川瀬氏は、
「人が好き」で、
「何か特技をもっている」
でいる。会員さん一人ひとりがやりたいこと、興味の
ことを第一とすることにした。開設以来、介護の資格
あること、あるいはスタッフが好きなことや得意なこ
や年齢は問わず、10歳代後半から60歳代まで幅広い年
とを、認知症予防のための新たなプログラムにして実
齢層のスタッフを採用してきた。
践している。その際には会員さんの認知機能のレベル
「看護や介護系の学校を出て介護の仕事だけをやっ
に考慮しつつ、プログラムの各工程に応じて会員さん
てきた人よりも、社会経験を積んできた人のほうがむ
がやれることをスタッフと一緒にやってもらう。ここ
しろ、現場に出ると場の雰囲気を素早く捉え、会員さ
で行っているプログラムが市内の他地域でも、新しい
んと親密なコミュニケーションがとれるのです。認知
認知症予防のケアとして今注目を集めている。
症の高齢者とそれまで接したことがなくても、人が好
きで、自分自身の好きなことや得意なことをプログラ
p<0.05
-4
ムとして具現化できる人材をスタッフに選んだ結果は
p<0.05
川瀬神経内科クリニックの理念 同事の心
-6
-8
私たちは、健康に働ける今日に感謝し、
-10
-12
病に悩む人々に、明るい笑顔と温かい心で
脳活性化訓練利用者
-14
奉仕いたします(同事の心 )
脳活性化訓練非利用者
-16
-18
れがイヤだったので、この施設は環境と造りに工夫を
0
2004年発表
1
2
3
4
図 1 脳活性化訓練の長期効果
5
6
経過年数
早期治療の一環として脳活性化訓練を継続するのとしないのとでは、将来、認知機能に
大きく差が出るというデータ結果がみられる。
(川瀬神経内科クリニックデータより)
樫の森の理念 三つの心で奉仕する
① とらわれない心
② つながりを求める心
③ 自分らしさを磨く心
「一人がやりたいこと」
から
新しいプログラムが生まれる
「樫の森で行っている脳活性化訓練のプログラムの良
さは、
“会員さん一人ひとりが主役になれる ”というと
ころです」と川瀬氏。
「会員さんの遊びたいもの、スタッフの得意なこと、
どちらでもいいんです。今の高齢者は遊びを知らない
(*)MoCA(モントリオール認知評価検査= Montreal Cognitive Assessment):
カナダ・モントリオールのジアド博士が 1996 年に考案した軽度認知機能のスク
リーニングツール。多領域の認知機能をおよそ 10 分で評価することが可能。
合計 30 点満点で、日本語版では 26 点以上が健常範囲とされる。
17
迷路状になった箱の上にピンポン玉を入れ、
中央の穴にうまく落とすゲーム。この箱は
介護科長高橋氏のお手製
木々と草花に囲まれた、通所リハビリテーション「樫の森」
この日は、プログラム「楽稲(たのしいね)」の中から、
「花の種まき」を実施。 「笹団子作り」プログラムの様子。昔から各家庭でこしらえて
土地柄、農業従事者が多いため、土をいじる手つきも慣れたもの
きた笹団子の作り方はどなたも忘れていない
今回「樫の森」を案内していただいた高橋芳雄
氏(右端 )とスタッフの皆さん。「樫の森」では
学びたい研修や資格試験があれば、大いにチャ
レンジすることを推奨している。ちなみに高橋
さんは介護福祉士の資格のほか、レクリエー
ションなどの任用資格も取得している
樫の森プログラムの効果
という方が多いですが、会員さんとのちょっとした会
ら情報を得ていなくてはできないのです。その情報から
話の中で、例えば『畑仕事をずっとしてきた』などと聞
プログラムを構築していくわけです」と川瀬氏。
けば、
『じゃあ、稲や野菜を植えて収穫体験をしよう』
食事室。管理栄養士が毎月の
献立を考え、地場の食材を用
いた手作りの食事を毎食提供
している。この日は会員さん
人気メニューのカレーライス
樫の森ではスタッフ各自がマイプログラムを提案し、
① 傷つけられた自尊心が癒され、人とのつながりを取り戻し
ストレスが減る
→ストレスによる海馬の抑制が減る
② 音楽や造形、ゲーム、料理、園芸、自然との交わりで
楽しく頭を使う
→神経再生、ニューロンネットワーク形成および維持
③ 園芸、野外活動、体操、踊りによる脳全体の活動
→小脳、大脳基底核、大脳運動感覚野など広範な活動によ
る脳血流改善と、心肺機能改善による脳血流改善
とか、あるいは、フキノトウが生えているのを見た会
季節感のある年間テーマやタイトルを毎回考えている。
員さんから『昔はフキノトウで天ぷらを作った』と聞け
参加する会員さんの顔ぶれも毎週異なるため、それぞ
感じている会員さんもいます。その方たちが少しでも
ば、
『じゃあ、今から天ぷらを作りましょう』と、こん
れの方々の認知機能レベルや性格、状態などを頭に描
夢中になれること、主役になれることを見つけ出すた
な感じで話が進み、会員さんが主役になれるのです」
きながらプログラムを作る。楽しいが簡単ではない。
めに、薬物療法ではないケアを提供しています」と語
ろを見せたい』という気持ちを遠慮なく発揮してもら
る高橋氏。ケアの際にも「要支援1から要介護4までの
えるようなプログラムをつくることが、脳活性化にも
方それぞれに応じて、常に『最高のコミュニケーショ
つながると思います」と高橋氏。
すると、それに興味をもった会員さんがほかにもどん
どん集まってきて、興味を拡大しながら展開していくと
工程が増える。それらの工程の中から、興味のある方々
「最高のコミュニケーション」が
会員さんとスタッフの信頼を築く
それぞれができることを選び、お願いしてやってもら
う。それが新たなプログラムに発展していくのだ。
どれくらい
「本気」
で遊べるか
それができる人材が求められる
ここ新潟は「笹団子」が名物。その伝統的な「笹団
子 作り」もプログラムの一つとして行われている。
買ってきた笹を団子に巻いて終わりではなく、団子を
巻く笹を採りにいくことから始めるというから本格的
だ。本気で笹団子作りの面白さに没頭してもらうため
だという。採ってきた笹の葉の汚れを拭き取る、団子
をこねて蒸す、あんこを練る、団子を笹の葉で包み上
げるなどの制作過程を、認知症の軽度、中度、重度に
応じて、しかもその人が好きなこと、やってみたいこ
とをやってもらう。最初は一人でやっていたことでも、
ほかの人が参加することでプログラムは拡大し変化して
いく。それが、この認知症予防プログラムの面白さとい
える。
「ただ、このようなプログラムを行うには常にスタッ
フが会員さん一人ひとりの細かい情報やアセスメントを
把握しておかなければなりません。通常の介護情報、職
歴、既往歴、家族間の情報だけではなく、送迎バスの中
での会員さんとの何気ない会話など、さまざまな場面か
18
では、どんなプログラムが行われているのか、介護
科長の高橋芳雄氏に「樫の森」を案内してもらった。
「ここには、自身が認知症であることに不安や悩みを
【樫の森「認知症予防プログラム」の進め方 】
1 スタッフはマイプログラムのタイトルと、その年の決意となる
年間テーマ、季節感を出す月間テーマ、参加者を意識した曜日
別のテーマを決める。
2「キング、ビショップ、ナイト」の三役を決める。
3「マイプログラムシート」をもとに、工程およびタイムスケジュー
ル、配置図を作成。
4 プログラムの実践。
5 終了後、多職種検討会を開き、意見交換を行う。プログラム会
議は次の実施の 2ヵ月前に行う。
6 実施記録を残すとともに、認知機能テストや画像認知機能テスト、
評価スケールとの関係も見ながら長期的にモニタリングする。
〈役割分担 〉
■キング:プログラムのリード役。自分の得意なことや関心の
あることを研究・工夫し、「マイプログラム」を作っていく。
■ビショップ:プログラムの盛り上げ役。会員さんが楽しめる
ように、一緒に作業をしたり支援したりする。
■ナイト:プログラムを実践している最中の会員さんのケア
役。水分補給やうろうろと歩く人への対応、全体の状況把握
など。
ほかの施設では、レクリエーションやアクティビティ担当のス
タッフが固定化しているところが多いが、
「樫の森」ではスタッフ
それぞれに役目をもたせることでモチベーションが上がるという
効果が得られている。
ン』を心掛けている」と言う。
それらのプログラムがいつも楽しく安全に行えて、
会員さんが 100 人いれば 100 通りの答えがあり、ま
また、会員さんのだれ一人にも孤立や孤独を感じさせ
た、その正解も日によって異なる。それゆえに、
「会員
ないようにするために、各プログラムには必ず「キン
さんの情報を十分に収集し、各々の性格や個性を肌で
グ」
「ビショップ」
「ナイト」という三役をスタッフが担
感じ取ることが重要だ」とも付け加える。高度なコミュ
うようにしている。
ニケーションを築けなければ会員さんからの信頼は得
「三役を明確に遂行することで、会員の皆さんがプロ
られず、介護も拒否されてしまうため、スタッフの姿
グラムに楽しく集中することができ、脳の活性化訓練
勢が試される。毎日が真剣勝負だ。
の効果も上がります。同時に、スタッフ同士のチーム
スタッフの接し方だけでなく、建物の雰囲気や食事
ワークも向上し、施設内の雰囲気がさらに良くなる。
など、施設に関わるすべてをコミュニケーションツー
その結果、会員さんとのコミュニケーション力もより
ルとして捉え、目を行き届かせている様子もうかがえ
増すといった相乗効果につながります。
『樫の森』がも
る。川瀬氏が「私たちが入りたくなる場を創る」と開設
つ“場の力や『樫の森』らしさ”が生まれているように
時のコンセプトに掲げているが、施設の玄関に入った
感じます」と、高橋氏はほおを緩ませる。
瞬間からさわやかな木の香りが漂い、廊下の両側の大
認知症の度合いはそれぞれ異なるが、各プログラム
きなガラス窓からは緑の庭が広がり、食事室の天井が
の中で会員さん一人ひとりに好きなことやできること
高くなっていることで開放感が感じられ、まさに「入り
を手伝ってもらうといった役割をもってもらうことで、
たくなる場」になっている。ちなみに、この日の昼食
認知症に悩んでいる人の自信回復につながり、活動意
はカレーライス。地産地消にこだわり、地域の有機や
欲を取り戻すという効果も見られるそうだ。
減農薬などの食材を用いた安全で栄養のある食事を、
施設内の厨房で毎食手作りしている。
役割をもつことが自信や
施設の雰囲気づくりにもプラスに
「『樫の森』のプログラムによって、会員さんの不穏
が減って穏やかになり、表情が明るくなった姿を目の
当たりにした」とご家族にも喜ばれている。
今後は、ここで行っている認知症予防のための脳活
性化プログラムを地域の同業者や行政にも情報提供し、
共に連携しながらプログラムを拡大していきたいと、
「会員さんの『楽しみたい』
『大笑いしたい』
『良いとこ
「樫の森」ではさらなる目標を見据えている。
19
医療・介護・リハビリテーションの総合力で
“より良い在宅での生活 ”
を支える
森本外科・脳神経外科医院では、脳卒中などの患者の在宅生活を
支えるため、30 年以上も前から訪問看護や訪問入浴サービスなど
森本益雄(もりもと・ますお )
の主要な在宅サービスを、次々と整備してきた。これは介護保険
制度の先取りといえる。森本益雄理事長は「『最期まで在宅で暮ら
し、本人・家族ともより良い生活を支援する』という当院の基本コ
ンセプトを追求していったら、自然とそうなりました」と語る。患
者や家族の悩みに一つひとつ応えながら、超高齢時代を迎えた琴
浦町を医療・介護・リハビリテーションの総合力で支える。
医療法人社団もりもと
森本外科・脳神経外科医院
グループホームでの看取りは入居者の 6 割。「看取りは私たちの最後の使命だと思っています」
(森本氏 )
ビリを継続させた。すると、その効果はてきめんに現
(つらい )思いをして」と抵抗する患者が多かった。座
れ、患者は再び動けるようになった。森本氏はリハビ
ることが目的では本人は納得しない。本人がその気に
リの奥深さと可能性に気付いた。
ならなければリハビリをしても意味がない。このよう
82 年からは手術日としている水曜の午後を訪問看護
(鳥取県東伯郡琴浦町 )
1966 年鳥取大学医学部卒業。鳥取大学医学部脳神経外科文部教官助手、
松江市立病院脳神経外科部長を経て、77 年森本外科・脳神経外科医院を
開業。現在、医療法人社団もりもと理事長。NPO法人「在宅ケアを支え
る全国診療所・市民ネットワーク」理事、一般法人パワーリハビリテー
ション研究会鳥取県支部長など多数の役職を務める。日本プライマリ・ケ
ア合同学会認定医
な思いが患者会立ち上げの動機になった。
にあて、手術がない日は森本氏も同行訪問した。訪問
「“座れれば外に出られるよ。歩けなくても外に出ら
看護が制度化されたのは 83 年からである。医療機関か
れるよ”と元気づけました。患者交流会をつくって、
らの訪問看護に「退院患者継続看護指導料」として診療
脳卒中の患者さんたちと外に出掛けるようになったの
報酬に新設された。
は、それからです」
麻痺があっても歩けなくても、患者を外に連れ出し、
1977 年、親戚の土地を借りて、東伯町(現、東伯郡
患者の自宅を訪問してみると、その生活についてさ
琴浦町 )に有床診療所を開業した。近隣には入院でき
まざまなことがみえてきた。まず、患者や家族が困っ
花見や紅葉狩り、海水浴、温泉旅行などに行った。旅
る医療機関がなかった。救急医療機関の指定を受けて
ていたのは入浴だった。思案の末、アメリカ航空宇宙
先で階段があれば、森本氏やスタッフが患者をおぶっ
からは、多い日には 5、6 台の救急車が飛び込んできた。
局(NASA)が開発した組立式の簡易浴槽を購入し、患
て昇った。砂の上を這いながら海につかる患者もいた。
ころ、家にあった聴診器や注射器の筒をオモチャ代わ
森本氏は外来、入院・当直、検査、手術をすべて一人
者の自宅に持ち込んだ。入浴希望者が増えると、ワゴ
外に出ると、皆生き生きとした表情になり、やがて患
りにして遊んでいたそうだ。旧日本陸軍時代に衛生兵
でこなし、多忙な毎日を送っていた。
ン車で患者を送迎して診療所の風呂に入れた。また、
者同士は励まし合う仲間になった。自宅から地域へと、
患者の生活空間が一気に広がった。
リハビリの奥深さと可能性に気付く
森本外科・脳神経外科医院の森本益雄理事長は幼い
だった父・肇氏が軍隊から持ち帰ったものらしい。戦
当時は脳卒中などの脳血管障害で入院してくる患者
トイレに手すりがないと聞けば、森本氏自ら手すりを
後、一家の暮らしは決して楽ではなかったという。森
が多かったため、リハビリテ―ション(以下、リハビリ)
取り付けにも行った。このような医師らしくない行動
本少年の目に何が映ったのだろう。物心がつくころに
にも力を入れた。といっても、リハビリ室はないし、
に、
「患者を確保したいからやっている」という中傷が
は「将来は医師になって、人々が安心して暮らしていけ
専門職もいなかった。看護師と共に診療所の廊下を利
流れたこともあった。
るようにお手伝いしたい」と思い始めていた。その思い
用してリハビリに取り組んだ。
は学生時代も、勤務医時代も変わることがなかった。
■沿革
1977. 7
1978. 4
1982. 6
1984. 4
1986.12
1988. 4
1989. 5
1992. 3
1994. 5
1995. 5
2000. 7
2001.10
2013.10
2014. 6
20
有床診療所開院
(15 床)
救急医療機関指定
訪問看護開始
第 1 回患者交流会
入浴サービス開始
ミニデイケア開始
山陰老人ケア研究会開催
在宅医療に専念のため救急指定返上
老人デイケア
(Ⅱ)
施設認定
リハビリ施設認定
グループホーム開設
パワーリハビリセンターもりもと開設
泌尿器科開設
(佐伯英明医師着任)
サービス付き高齢者向け住宅
「鈴ヶ野」
開設
(20 室)
一方、同院では患者会の立ち上げも早かった。森本
「病院勤務のころは、患者さんをずっと診続けるとい
氏は寝たきりや閉じこもりを防ぐためとして、まず座
うことはなく、退院していく患者さんを地域の先生に
ること(座位保持 )にこだわった。半ば強引に行う早期
紹介してすんでいました。でも、開業したら、最期ま
リハビリに対して「何のために座るのか、こんなエライ
「私の原点は、地域リハビリテーション*という思想
*地域リハビリテーション 障害者や高齢者等が住み慣れた地域(在宅)で
安心して生活できるよう、地域の住民や医療・保健・福祉などの機関・組織
が連携して支援するリハビリテーションシステムやそのサービスを指す。目
的は、障害者等の身体能力・生活能力の維持・向上を図りながら、社会参加
を促進させていくこと(大田仁史、三好春樹監修『実用介護辞典』より)
。
でお付き合いをするのは当然のことです。患者さんを
歩けるようにして、たとえ歩けなくても自立した生活
ができるようにして自宅にお帰ししました」と、森本
氏は開業当時を振り返る。
患者には退院したあとも外来を受診してもらい、そ
の後の経過を診るのだが、きちんと受診していなかっ
たり、受診回数がだんだん減っていったりする人も少
なくなかった。気になる患者の家々を看護師に訪ねて
もらったところ、なんと自宅で寝たきりになっている
人もいた。森本氏はなんとかして患者の予後を安定さ
せていきたいと考え、看護師を訪問させて自宅でリハ
「パワーリハビリセンターもりもと」では 2003 年から始まった琴浦町介護
予防事業パワーリハ教室(琴浦町委託事業 )を行う。6種類のパワーリハマ
シンを使用して介護予防に取り組む。週 2 回、3ヵ月間で 25 回が 1 サイクル。
この日も教室で、皆さんが元気よく楽しそうに身体を動かしていた
「重度化した人たちから外に連れ出そう」というのが森
本氏の方針。デイケア、デイサービスの利用者の 6 割
は、要介護度 4、5 の高齢者
21
では、認知症が重度化して食事がとれないという方は
「意欲から入っていくのは間違い。できる能力(まず
いらっしゃらない。これも驚きです」
。佐伯氏は地域に
は体力 )を上げていくと、意欲はおのずと付いてきま
出ていき、仲間と共に活動することや身体を動かすこ
す。そして、意欲が出れば QOL が上がり、元気になり
との有効性も説く。
ます」
。これが金田氏の目指すケアマネジメントである。
体調管理の基本は、水分・栄養・運動・排便
これからのケアの形を目指し、
サービス付き高齢者向け住宅を開設
体調管理の重要性を語るのは、同院副院長の金田弘
子氏。金田氏は看護師として長年、高齢者の在宅ケア
に関わってきた。同院の基本コンセプトである「自立」
佐伯英明(さえき・ひであき )
金田弘子(かねだ・ひろこ )
1997 年秋田大学医学部卒業。島根大学臨床教授、独立行政法人国立病院機構浜田医療
センター副院長、医療法人清生会谷口病院院長を経て、2014 年 6 月から森本外科・脳
神経外科医院院長に就任。日本泌尿器科学会指導医・専門医、日本がん治療暫定教育医
鳥取県立厚生病院看護師を経て、1994 年より森本外科・脳神経外科医院勤務。現
在、同医院副院長兼看護部長。介護支援専門員(認定ケアマネジャー)、日本ケア
マネジメント学会評議員、認知症介護指導者など
です。大田仁史先生、竹内孝仁先生、浜村明徳先生か
していると聞いたのです。うちではそんなことはない
らたくさんのことを教えていただきました」と森本氏
ですよ。認知症を発症して 10 数年になる方もいるけれ
は強調する。
ど、毎日散歩していて、あんまり変わりませんから」
なぜ短期間で重度化しているのか。森本氏は「基本
と「重度化予防」に重点を置いた支援を行っている。
2009 年から各地で認知症重度化予防実践塾を開催
同院では 3 人がそれぞれの専門性を生かしながら、
地域連携に取り組んでいる。
森本氏は地域の力を強めようと、早い時期から健康
教室、家族会、セミナーなどを開催してきた。最近では、
し、講師として年間二百数十例の事例検討を行ってい
鳥取大学医学部地域医療学講座の谷口晋一教授の協力
る。金田氏が関わった事例の経過を 5 年間追跡調査し
を得て、勉強会を立ち上げた。
「意識の高い人たちに
たところ、97%で身体機能や認知症状が改善していた。
勉強の機会を提供し、琴浦町を行政に影響を与えられ
キーワードの一つは“水分 ”
。
「アセスメントしてみ
るようなモデル的な町にしていきたい」と考えている。
ると、水分不足が解消されていたことがわかりまし
また、新院長に就任した佐伯氏の専門は泌尿器科。
た」
。高齢者の水分摂取量は在宅だと1日 300~700cc、
専門医から地域の医師になった佐伯氏は、栄養に着目
施設でも700~1,000cc 程度で、明らかに不足している
し、地域おこしの視点からアプローチしている。
「『乳
「基本は普段の体調管理、環境づくり、そして運動
という。そこで 1,500cc を目標に水分摂取量を増やした
製品と野菜をきちんと摂取された方は認知症になって
です。当院ではパワーリハビリを 2001 年から取り入れ
ところ、覚醒水準が上がり、活動性が向上した。また、
いない』という研究データが出されています。地元に
同院がある東伯郡琴浦町は、鳥取県のほぼ中央に位
ているのですが、これによって TDAS
(Touch Panel
それによって便秘も改善された。
は大山乳業がありますから、乳製品を上手にとってい
置する。現在は人口約 1.8 万人、高齢化率 33.0%
(2013
Type Dementia Assessment Scale:タッチパネル式
「基本は、森本理事長が提唱している“寝たきりを防
年 12 月1日現在 )だが、高齢化率は年々上がっている。
認知機能評価法 )の点数が、4~5 点は改善されていま
ぐ、閉じこもりを防ぐ ”ということなのです。寝たきり
脳卒中などの身体疾患がある高齢の患者に認知症の
す。統計的なデータも出しています。今のところ 70 数
になれば認知症の症状がセットで現れてきますし、閉
症状がみられるようになったのは、20 年ほど前からだ
例ですが、運動は(認知症の予防や改善のために )非常
じこもる人というのは覚醒水準が落ちていますので、
研修の人気講師として各地を飛び回り、情報発信や人
という。同院が救急指定を返上し、在宅医療に専念し
に重要な因子だと考えられます」
そうした方々をどうやって元気にするかです」
材育成に尽力している。
的なことを忘れているのではないか」と指摘する。
運動と認知症は密接に関係している
たころだ。以来、森本氏は地域のかかりつけ医として
14 年 6 月、同院の院長に就任した佐伯英明氏は、リ
ハビリや運動の効果をこう語る。
認知症医療にも取り組んできた。
2013 年 12 月に森本氏は認知症サポート医研修を受講
したが、そこで気になることがあった。
「講義で、認知症になってからあっという間に重度化
金田氏は高齢者の ADL の構成要素を、体力・活動
ただくことを勧めていきたいですね。地域企業の活性
化にもつながります」
。
副院長の金田氏は、認知症ケアやケアマネジメント
開業 37 年目。脳卒中の患者や家族とはすでに 10 年、
力、機能、意欲、環境から捉える(図1)
。1 階部分の
20 年という長いお付き合いになっている。患者や家族
「脳卒中になられた方、あるいは認知症の方も、
“蘇
体力・活動力を付けていくことを最優先し、さらに 2
の歴史、生活状況などを同院はすべて把握している。
る ”と形容したくなるほど回復されているのを私は目
階部分の機能、環境が整ってくれば意欲が出ると金田
の当たりにしています。自分がここで見聞きする範囲
氏は考える。
「(長い介護で )介護者は疲れきりますし、家族の介
護力も弱まってきて、最期はどうしても病院や施設に
行くことになりかねません。そこで良いケアをしてく
虚弱・寝たきりの「○○」さん、元気を取り戻すには・・・
生活意欲の向上
病状も安定、
普段の体調を整える、
脱水も注意!
意欲
機能
環境
体力・活動力
体力・活動力
の基本
人→看護師・デイケアスタッフ、
家族、知人等
物→電動ベッド、移動バー、
ナーセントトイレ、
段差解消→排泄の自立
えません。それなら、自分のところで患者さんを最期
まで診させていただこう。それが私たちの使命だろう
と思っています」
。
今年 6 月、念願だったサービス付き高齢者向け住宅
「鈴ヶ野」を開設した。
「生きていて良かったなあと思
える生活を支援できる住宅にしていきたい」と、意欲
寝たきりにしない、
日中の離床、
いすの生活へ
を語る森本氏。入居費用は県内同様施設の平均以下に
水分
栄養
排便
運動
1,500ml
1,500kcal
常食
規則的な排便
活動性↑
毎日運動会
参考資料:
『ケアマネジメントの職人』
(竹内孝仁著、年友企画)
図 1 高齢者の ADL の要素
22
ださるなら、それでよいのですが、なかなかそうは思
森本外科・脳神経外科医
院に併設するデイケア
センター(1 日平均利用
者 35 名 )。デイサービス
(同 50 名 )、リハビリセ
ンター、グループホーム
(入居者 18 名 )など、医
療だけでなく介護を含め
た地域包括ケアの役割を
同医院は果たしている
在宅の要介護者を送迎
し、リハビリテーショ
ンやレクリエーショ
ン、入浴、食事介助な
どの介護サービスを
行っているデイサービ
ス「鈴ヶ野」
抑えた。高齢化が進むとともに老老介護や独居高齢者
が増えてきている町の現状を見据え、訪問するだけで
は支援しきれない生活全般を看ることができる方法を
2014 年 6 月にオープンしたサービス付き高齢者向け住宅「鈴ヶ野」。医療機関が隣接し
ていることが入居者や家族の安心につながっている
模索し続けている。この鈴ヶ野には、地域住民と一緒
に歳を重ねてきた開業医の思いが込められている。
23
世界の中の認知症ケア
第 29回ADI国際会議を開催
─当事者から
“新たな風”
を吹き込む─
2014 年 5 月 1 日から 6 月 4 日まで、第 29 回国際アルツハイマー病協会(ADI)
国際会議が、プエルトリコの首都 サンフアンで開催された。認知症を世界の
重要な問題と位置付け、グローバルな視点から議論が行われた。一方、英語圏
の国では、当事者を中心にした新たな運動が展開を見せた。
世界問題としての認知症
今回の会議開催地のプエルトリコは、アメリカ合
衆国の自治連邦区というやや特殊な地域で、いわば
富める「北」のアメリカと貧しい「南」の南米諸国の間
の中南米カリブ海諸国である。キューバなどの独立
国の隣でありながらも、自治区としてアメリカの庇
護を受ける道をたどった島国だ。そして今大会のテー
マは「認知症:グローバルな解決のための共働」であ
り、認知症は先進国だけではなく発展途上国を含む
世界人類全体の問題であるという認識をもち、共働
に向けた具体的なアプローチを模索することが目的
であった。
近年、中国やインドでの高齢者の増加や、認知症
早期診断の実現などにより、世界の認知症人口は急
増すると予測されてきた。国際アルツハイマー病協
会(以下、ADI)は「2050 年までに今の 3 倍の人数にな
る」と予測している。ADI はその状況に対応すべく、
世界保健機関(WHO)との連携を強化し、認知症ケア
ケイト・スワファー氏。2008 年に 49 歳でアルツハイマー病と診断された。
認知症の人の ADI 参加を増やしたいと願い、活動を続けている
ADI 国際会議の開会式の様子
研究や啓発活動のための寄付を求める呼び掛けが会
たちは、お互いにつながり合うためのネットワークづ
議前から始まり、開催中はもちろん会議後もその呼
くりに乗り出した。
び掛けが積極的に行われた。
展途上国の開発への協力といった課題がある。
今回のプエルトリコ会議には、そのような視点か
氏(2008 年に 49 歳でアルツハイマー病と診断された
げる一方で、先進国の指導的役割を改めて明確に示す
元看護師 )である。彼女は認知症の人の参加を増やし
ものとなった。昨年 12 月にイギリスのロンドンで行
たいと、昨年から立ち上げ半ばの DAI を通して寄付
われた G8(注:現在はロシア不参加により G7)認知症
を募り、5 名の当事者参加を可能にした。DAI 創設者
サミットとの連携も顕著であった。「世界の『認知症
のアメリカ人、リチャード・テイラー博士(2013 年に
の“ハブ ”
(hub:中心に位置する集約装置 )機能』を
57 歳でアルツハイマー病と診断された元心理学者 )
目指す」と宣言したイギリスからは、ADI 参加者宛て
に共鳴し、ブログなどで活発に活動している。
にケア支援担当相らのビデオメッセージが寄せられ、
その後 DAI は、アメリカ、オーストラリア、カナ
保健省の認知症国際担当者が今回の会議に参加した。
ダの認知症の人たちが今年の夏に正式に NPO 法人と
ADI 本部はロンドンにあるため、イギリスには人的
して設立した。認知症と診断を受けた人のみに参加
その他の資源が交流しやすい環境が備わっているとは
資格があり、そうでない人は、アソシエートとして
いえ、G8 認知症サミットの位置付けの重要さと ADI
ボランティア協力を行うことができる。「認知症の人
への影響力の大きさを再認識させられた。
の支援、代表、教育を行い、その声を一つに束ね、
(参考:http://www.alz.co.uk/ADI-conference-2014)
個人の自律と QOL の向上を目指して、啓発と支援を
行っていく」ことを理念に掲げており、その活動内容
当事者運動の新たな展開
今回の会議で何よりも重要だったのは、認知症当事
者たちによる国際認知症連盟(DAI:Dementia Alliance
International、http://www.dementiaallianceinternational.org/)
ら「認知症の最新技術」、「ケアと QOL の向上」、「啓
設立への展開であろう。昨年の台北会議では、世界初
発」、「リスク低減」、「予防」などの項目について再び
の認知症当事者による啓発団体だった国際認知症啓発
議論しようという趣旨があった。ただ、開催場所へ
支援ネットワーク
(DASNI:Dementia Advocacy and Support
の交通アプローチが悪かったため参加者は前回より
Network International)が、団体の主要メンバーの認知症
少なく、加盟国 75ヵ国中 50ヵ国近くからの約 700 名
が進行したことにより、事実上自然消滅したことが確
にとどまった。現地では、南米・中南米での認知症
認された。そこで、会議に参加していた認知症当事者
24
その一人がオーストラリアのケイト・スワファー
今回の国際会議は発展途上国への協力支援体制を広
のグローバル化を図ってきた。そこには、従来の欧
米中心志向からの脱却と、健康保険分野における発
ジュリオ・ソリエル氏。プエルトリコ・アルツハイ
マー病協会の会長を務めている
はというと、ネット技術を駆使した先進的な取り組
みが満載である。認知症の人が執筆するオンライン・
ニューズレターとブログの発行、それに連動するツ
イート、スカイプを利用して月 1 回、リアルタイムで
世界各地の認知症の人たちが集うウェブ上のセミ
ナー“ウェビナー”、オンラインのサポートグループ、
オンラインのメモリーカフェ、認知症の人が自分の
ストーリーを語るプロジェクトなど、多岐にわたる。
スワファー氏によれば、「認知症の人が声を上げる
仕組みのインスピレーションは、スコットランド認
知症ワーキンググループ(SDWG)だった」という。
SDWG は 2002 年にスコットランドで創られた認知症
本人によるキャンペーン団体で、アルツハイマー協会
や国に提言を行い、スコットランド自治政府の認知症
戦略の作成と実施に関わってきた、会員 130 名以上か
らなる世界最大の認知症当事者グループである。こ
の SDWG と、新しくできたヨーロッパ認知症ワーキン
ググループ(EDWG)は DAI に団体として加盟した。
プエルトリコ会議から認知症当事者として参加し、
本会議で発表して拍手を浴びたジュリオ・ソリエル氏
(2003 年に 56 歳でアルツハイマー病と診断された )も
DAI 会員になり、現在はプエルトリコ・アルツハイ
マー病協会の会長を務めている。発信力のある世界
の認知症当事者が、今、DAI に集まってきている。
スワファー氏は DAI ニューズレター2 号で、今回
のプエルトリコ会議の感想を述べ、「興味深いテーマ
が並んだが、多くの発表者は“認知症にやさしくない”
不適切な言葉を使っていた」と指摘した(英語では、
認知症の人を“患者 ”呼ばわりすることや、“認知症
に苦しむ人 ”という表現を使うことがそれにあたる )。
会議後、DAI は ADI と話し合い、会議の発表者に
示す適正用語のガイドラインの作成について合意し
た。前述のスカイプによる“ウェビナー”でも、認知
症に関する適正用語の問題を取り上げており、スワ
ファー氏ら十数名の参加者が活発に意見交換した様
子をサイト上で見ることができる。インターネット
とスマートフォンの普及によって、認知症の人が声
を上げる環境はダイナミックに変化し続けている。
いまだ DAI が欧米の英語圏の教育の高い人々の集団
であることは否めないが、今後のさらなる展開に注
目していきたい。
取材・記事 馬籠久美子
25
認知症の人を支援する
ケアマネジメント
認知症高齢者を
“ホームホスピス”で看取る
● 事例提供 ●
居宅介護事業所天寿園在宅サービスセンター
ケアマネジャー
中野千恵子
老いと病いの文化研究所ホームホスピスわれもこう
ヘルパーステーションわれもこう管理者
ホームホスピスわれもこう代表
● 事例解説 ● 桜美林大学大学院教授 松本 恵美
竹熊 千晶
白澤 政和
を送っていたが、数年後に認知症を
居 者 に は、 そ れ ぞ れ に ケ ア マ ネ
Aさんの気配がわかる場所である。
発症した。子どもたちが相談し合い、
ジャーと訪問診療を行う医師が付い
入居すると、Aさんは活動的にな
本人が納得しないままに自宅の隣町
ている。デイケアなども、このホー
り、発語も多く、ベッドから降りよ
のグループホームに入居させたが、
ムホスピスから本人の必要に応じて、
うとする動作が見られるようになっ
入居直後は施設のガラス戸を破り国
その人に合ったさまざまな施設に
た。また、スタッフがベッドサイド
道に飛び出して車を止めて自宅に戻
通っている。入浴などに関しても、
を通るたびに目で追い、
「おーい、
ろうとしたり、暴言・暴力がひどかっ
ホームホスピスの風呂場で入浴がで
おーい」
「〇〇ちゃーん」と呼び掛け
たりしたため、1ヵ月で退去となった。
きない場合は、訪問入浴サービスな
るようになった。レビー小体型認知
Aさんは精神科病院に1ヵ月入院
どを利用する。Aさんの場合、二人
症の特徴といわれる幻視やパーキン
したあと、県中心部に住む次女宅に
掛かりで抱えて浴槽につかってもら
ソン症状は見られず、睡眠時の異常
同居したが、うつ症状が強くなり、
い、最後まで風呂場での入浴を楽し
行動もなかった。車いすで過ごすと
ひき続き精神科通院にて治療を実施
まれた。
きは、長時間座位がとれる場合と傾
3
有し、食事が提供され、介護保険の
齢者の場合も同様で、グループホー
していた。当時は診断が付いていな
サービスや医療保険のサービスを利
ムや認知症デイサービスなど、介護
かったが、レビー小体型認知症によ
現在、高齢者向けの介護施設や自
用して暮らす生活の場である。ここ
保険サービスが充実してきたが、認
るものと思われるBPSDがあり、夜
ホームホスピスに入居する前の退
宅で終末期を迎える高齢者が増加し
に入居した高齢者は、終末期を迎え
知症に加えて、ほかの医療依存度の
間徘徊や興奮、幻視などの症状が目
院前カンファレンスで、新たに在宅
ている。病院とも施設とも異なり、
ても入院などをせずに最期までホー
高い疾患があると、施設での対応が
立った。
((((((((((((( はじめに )))))))))))))
自宅では過ごせない人たち向けの民
ムホスピスで暮らす人が多い。
困難な場合も多い。
入居してからの本人の状態
訪問診療医を依頼することになった
眠が強くなかなか開眼しない場合が
あり、若干状態に波は見られたもの
の、おおむね安定して生活できるよ
うになった。
声 掛 け へ の 反 応は 非 常 に 良く、
同時期より小刻み歩行が見られる
ため、まずは家族と主治医とで、今
ホームホスピスへの見学者などのお
家を改修した居住型施設としてホー
今回は、ホームホスピスに暮らす
そこで、高度の認知症やがん末期
ようになり、嚥下障害も出現。レビー
後のAさんの医療の方向性について
客様への対応や、訪問診療の主治医
ムホスピスがあり、ここでも看取り
認知症の人に、どのような終末期の
や進行性難病のように、
「家で看たく
小体型認知症の診断が付き、次女と
しっかりと確認をしていただいた。
へのあいさつなどは、Aさんが一番
の支援が行われている。ホームホス
支援を行うかについて見ていく。一
ても看ることができない」
「医療依存
同居した 8ヵ月後に次女宅近くのグ
家族としては「積極的な治療は望ん
に的確に行ってくれた。
「いろはか
ピスは、高齢者が少人数で部屋を共
般に終末期ケアというと、がん患者
度が高くて家族だけでは不安」
「病院
ループホームに入居した。
でおらず、できるだけ最期までホー
るた」の下の句への応答などは入居
のターミナルケアを指すことが多い
では死にたくない」
「大きな施設には
入居して 3 年ほど経ったころ、義
ムホスピスで過ごしてほしい」
「本人
者一であった。おむつ交換など嫌な
Aさんのケース 90 歳代 女性
入りたくない」といった人たちが最期
の苦痛はできるだけ取り除いて、穏
ことには「なんすっか!」と怒ること
要介護5
ルケアをどのように展開していくの
まで安心して過ごせる居場所として、
なくなり、たびたび脱水を起こすよ
やかに過ごしてほしい」という意向
もあったが、きちんと説明すると納
認知症高齢者の日常生活自立度
Ⅲa
かを考えたい。
ホームホスピスが誕生した。
うになる。グループホームのかかり
であった。かかりつけ医には月2回
得された。熱めの風呂は嫌いで、
「ア
障害高齢者の日常生活自立度
B2
今回事例で取り上げる、認知症グ
つけ医が定期的な点滴を実施してい
の訪問診療を依頼し、服薬は認知症
ツかー」と言われることもあったが、
MMSE
不明
ループホームに入居されていたAさ
たが、脳梗塞を発症し、救急病院へ
があるので難しいと思われるので、
大きなおっぱいをぷかぷかと浮かべ
んは、脳梗塞のため救急病院に搬送
入院。生命の危機は脱したものの、
医師と相談のうえで最小限の3種類
て、スタッフが背中を流すと楽しそ
の処方にしてもらい、様子を見てい
うに入浴された。食事は粒があると
くこととなった(表1)
。
口内に残るためすべてミキサーにか
病 歴
が、ここでは認知症の人のターミナ
歯の不具合をきっかけに食事ができ
要 介 護 度
ADL
生活歴
家族状況
26
レビー小体型認知症、高血圧症、ラク
ナ梗塞
両上肢に拘縮あり、軽い右片麻痺あり
食事:ミキサー食、全介助
排泄:おむつ、全介助
排便:マグネシウム製剤と坐薬でコント
ロール
移乗、移動、更衣:全介助
入浴:浴槽内へはスタッフ2 名で抱え
て全介助
海のすぐそばの地域で生活。お世話好
きで夫の仕事(洋服の仕立て)を手伝い
ながら子ども5 人を育てた。夫は 7 年
前に他界
子どもたちはほとんどが県外など遠方
に在住。同じ県中心部に住む次女がキー
パーソンであるが、次女も関節リウマ
チがあり直接的な支援は困難
居宅介護事業所天寿園在宅サービスセンター ケアマネジャー 中野千恵子
老いと病いの文化研究所ホームホスピスわれもこう ヘルパーステーションわれもこう管理者 松本 恵美
ホームホスピスわれもこう代表 竹熊
千晶
認知症の人の看取りについて
医療の高度化・長寿化はおのずと
介護の長期化・重度化をもたらした。
され治療を受けた。退院後に最後の
「今後は本人の負担が、できるだけ
行き先として選択した“ホームホスピ
少ない環境で生活してほしい」とい
ス”での生活と看取りまでの状況を
う家族の思いから、退院後は当ホー
報告する。
ムホスピスへ入居となった。
((((((((((( 援助経過 )))))))))))
1
2
ホームホスピスのシステム
退院時は、
「ADLは全介助、おむ
け、Aさんが 疲 労しないようにス
つ使用、コミュニケーション不可、嚥
タッフが短時間で介助を行い、ほぼ
下障害がありミキサー食を1時間ほど
毎食全量摂取できるようになった。
かけて介助、右片麻痺がある」とい
本人が好きな饅頭などを手に握って
ホームホスピス入居までの
経緯
ホームホスピスは、空き家を改修
う申し送りがあった。そのため、常
もらうと自分で口に持っていくよう
した普通の家である。その家に要介
にスタッフの目の届きやすいところ
なことも見られるようになった。孫
帯の増加、家族の生活様式の多様化
Aさんは海が近い小さな町で暮ら
護の方たちが5~6人で生活し、看護
が良いと考え、台所の隣の畳の部屋
が送ってくれるプリンなどは右手で
によって、長期の自宅での療養や看
してきた。子どもたちが独立後は、
師や介護福祉士などの資格をもった
にベッドを置いた。Aさんにとって、
スプーンを持って食べられた。
取りは介護保険制度を利用しても、
夫婦二人暮らしだったが、夫が7年
ケアスタッフがそれぞれの入居者に
いつもだれかの話し声や台所の音や
排泄についてはパターンを見なが
困難な場合が少なくない。認知症高
前に他界。その後は自宅で独居生活
応じた生活の支援を行っている。入
においが 感じられ、スタッフにとっても
ら、なるべくポータブルトイレに移
一方で、独居高齢者や高齢者夫婦世
27
認知症の人を支援する
ケアマネジメント
居宅サービス計画書(2)
表1
利用者名 A さん 生活全般の解決すべき
課題(ニーズ)
安心して過ごしたい
目 標
援助内容
長期目標
短期目標
安心して穏やかに過ごす
ことができる
思いを汲み取ってケアし
てもらうことができる
サービス内容
サービス種別
頻度
本人が安心できる声掛け、コミュニケーションケア われもこうスタッフ
随時
本人が安心できる声掛け、面会や電話による家族交
流など
家族
随時
訪問介護
7/週
われもこうスタッフ
毎日
本人が安心できる声掛け、コミュニケーションケア
安全に起居動作ができる 起居動作の介助など
期間
6ヵ月
安全に寝起きの動作がで
きる
できるだけ口から食事を
したいが、嚥下障害があ
る。様子を見ながら食事
ができるよう手伝ってほ
しい
誤嚥の予防ができ、でき
るだけ口から食事をする
ことができる
定期的におむつ交換をし
てもらって気持ち良く過
ごしたい。排便のコント
ロールをしてほしい
定期的におむつ交換がで
き、排泄状況の確認がで
きる
おむつ交換ができ、気持ち おむつ交換、陰部洗浄、臀部の皮膚状態の観察な
おむつ
われもこうスタッフ
良く過ごすことができる
交換時
ど
6ヵ月
臀部などの皮膚状態の観
察ができる。排便コント おむつ交換、陰部洗浄、清拭、臀部の皮膚状態の
7/週
訪問介護
観察など
ロールができる
体調を見ながら入浴や清
拭をしてもらって、気持
ち良く過ごしたい
全身の清潔の保持ができ
る
定期的に入浴や清拭をし 入浴
(シャワー)
介助、
清拭の実施、
全身状態の把握、
訪問介護
7/週
て、気持ち良く過ごすこ 一連の動作介助、フットケアの実施など
とができる
6ヵ月
(シャワー)
介助、
清拭の実施、
全身状態の把握、
全身状態の観察、把握が 入浴
われもこうスタッフ 保清時
一連の動作介助、フットケアの実施など
できる
寝てばかりはきついの
で、体を起こして座りた
い。歩くことができない
ので、手伝ってほしい
安全に移動ができる
車いすに移乗し、安全に 車いす、移動用具などの貸与
移動ができる
移乗時の動作介助、移動介助など
家事や身の回りのことな
どが自分では難しいの
で、困らないように手
伝ってほしい
必要な生活支援を受ける
ことができる
移乗、起居動作の介助など
訪問介護
訪問時
本人に合った食事をする 本人に合った食事形態での食事の提供、
食事介助、
食事時
われもこうスタッフ
ことができる
など
本人の好きなものの提供など
誤嚥を予防することがで
きる
本人の嚥下状態を観察しながらの食事介助、補水、
食事摂取状況の把握、口腔ケアの実施など
車いす移乗時の動作介助、移動介助など
健康管理をしてほしい。 状態の把握ができ、継続
床ずれなどができないよ 的に医療管理ができる
うにして、元気に過ごし
たい
6ヵ月
福祉用具貸与
訪問介護
6ヵ月
7/週
福祉用具貸与
われもこうスタッフ 移乗時
訪問介護
6ヵ月
7/週
身の回りの支援を受ける 身の回りの介助のほか、家事などの生活支援
われもこうスタッフ 必要時
ことができる
買い物や生活用品の準備など
家族
必要時
必要な生活支援を受ける
ことができる
更衣やシーツ交換、ベッドメイキング、そのほか
7/週
訪問介護
本人に必要な支援など
定期的に診察してもら 訪問診療による医療管理など
訪問診療
訪問時
い、医療管理ができる
健康状態の把握、医療連携、服薬の管理や服薬介
われもこうスタッフ 毎日
処方された薬をきちんと 助、体位交換などの床ずれ予防など
服用できる
福祉用具貸与
床ずれ予防用具の貸与
床ずれなどが予防できる
薬剤の管理や服用方法の指導、副作用についての
調剤薬局
訪問時
説明など
主治医の指示による訪問看護の実施、
バイタル測定、
体調の管理、病状の観察や緊急時の対応、主治医と
の連携、ヘルパーや居住施設などとの連携など
訪問介護
7/週
健康状態の把握、全身状態の観察・把握、体位交
換の実施など
訪問介護
7/週
家族の意向としては「これ以上本人
いや、お風呂が沸くにおいがし、住
話で会話をしたりした。ホームホス
を頑張らせないでよい」
「食べられる
人の話し声や足音、雨音が聞こえ、
ピスのスタッフが支援して、仏事に
ときに本人の好きなものを食べられ
スタッフだけでなく家族や近隣の
参加するといったことも、2~3ヵ月
るだけ食べさせてあげてほしい」
「無
人々や郵便屋さんが出入りする空気
に1回程度は実施できていた。
理に動かさずにベッド上で過ごさせ
は、要介護の入居者に安心感として
てほしい」などを確認した。また、
伝わる。若いときは世話好きで、近
ホームホスピスへ入居して 2 年半
寝たり起きたりが自分で
は難しいので、安全に寝
起きができるように手
伝ってほしい
ベッド、寝具などの貸与
と、Aさんが覚醒しているときに電
6ヵ月
6ヵ月
ほど経過したころに誤嚥性肺炎を発
その話し合いの中で緊急時の連絡方
所の人や子どもたちのために海や山
症したが、スタッフと主治医とが早
法や、エンゼルケア(亡くなったあ
の産物を自分で採ってきて振る舞う
期に対応したことにより、1 週間程
とのケア)
、葬儀のことなども具体
ような働き者だった Aさんにとっ
度で病状は落ち着いた。肺炎回復か
的に話したところ、家族から「漠然
て、これらの環境はリロケーション
ら1ヵ月後の 95 歳の誕生日には、県
と考えていて不安であったことを確
ダメージが少なく、ほとんど混乱を
外に住む孫ら家族も駆け付けてき
認できて安心した」との言葉が聞か
来すことはなかったと思われる。認
て、スタッフや主治医と共に盛大な
れた。
知症があり、ベッドで療養すること
お祝いができた。
4
看取り
家族の意向確認後、その意向を踏
の多かった Aさんにとって、人の話
まえたうえでサービス内容を見直す
し声や頻回な声掛けがあるホームホ
ことをスタッフと打ち合わせた。話
スピスは安心できる環境だったのだ
95 歳の誕生日が過ぎたころより、
し合い以降は尿計測をやめ、体位交
ろう。家族の了解を得たうえで Aさ
なんとなく活気が見られなくなり、
換もAさんの苦痛の表情や声を確認
んのことを「ばあちゃん」と呼ぶと、
入浴後などの疲労感が強くなった
したときにのみ実施した。食事もしっ
いつも「はあい」と大きな声で返事し
り、発語が少なくなったりするよう
かり覚醒して口を開けて食べられる
てくれていた。
になり、状態に変化が現れ始めた。
ときだけ食べてもらうといったケア
認知症の中核症状が現れ始めて混
臥床時間が少しずつ長くなり、1日
に変更した。ケア変更から2週間後
乱していた時期は、Aさんだけでな
の多くをベッド上で過ごすという状
の、夕食に好きなお汁粉を食べて
く家族も非常につらかったであろう
態が半年以上続いた。徐々に体力が
ベッドに横になったあとに、状態が
ことが容易に推測できる。そのよう
低下し、食事の間の座位保持が難し
変化。呼気時に「あー」
「あー」という
な大変な時期を経たあとに入居した
いときもあったため、Aさんの状態
呻吟が数時間続いたあと、家族、ス
ホームホスピスでは、
「食べること」
を見ながら、車いす座位での摂取と
タッフ、主治医に見守られながら他
「排泄すること」を中心に普通の暮ら
ベッド上での摂取の両方を取り入れ
界。準備していた夫の手作りのワン
しを整えることがケアの目標であっ
て対応した。さらに 1ヵ月ほどする
ピースを着て家族と共に自宅に帰り、
たのだが、たとえ認知症があったと
と排尿の減少が見られ、また、座位
自宅で子ども、孫、ひ孫などの親族を
しても、できるだけ自然の経過の中
時に大腿部の痛みを訴えるように
中心とした温かい通夜、葬儀が行わ
で迎えようとした看取りに対し、家
なったため、エアマットを導入した。
れた。ホームホスピスに入居して3年
族もスタッフも共に介護する期間に
乗しての排泄を行うようにしたとこ
ごすことができる」とし、具体的な
が強くなり、Aさんにとって効果的
このような状態の変化はその都度ご
5ヵ月であった。
ろ、おむつを使用してはいても汚さ
ケアプランを立てスタッフ間で共有
なリハビリテーションにはつながら
家族に話した。大腿部の痛みには骨
ずにすむことも多くなった。また、
し、実施していった。
なかったことから、3ヵ月で利用を中
折の疑いもあったが、最終的に家族
((((((((((( 考 察 )))))))))))
は精密検査などを望まず、入浴など
ふすまや障子で仕切られた民家
する看取りは、入居前の大変だった
声掛けしながらゆっくり移乗を行う
入居して2ヵ月ほど経ったころ、A
止した。その後もまれに原因のはっ
“死”を迎える準備と覚悟ができて
いった。
本人の暮らしを整え、家族が家族
としての役割を果たせるように支援
と、協力動作を行うことができた。
さんは夜間スタッフに「歩けんごと
きりしない発熱は見られたものの、
移乗が必要な場合には痛み止めを服
は、人の気配が感じられる“ほど良
入居後、ケアマネジャーと相談しな
なった」と訴えた。このことをきっか
状態は変わりなく安定した生活がで
用しながら実施するようにした。
い空間 ”である。ホームホスピスに
時期のことも含め、家族みんながこ
がら、ホームホスピスでのケアの目
けに、週1回デイサービスを利用す
きていた。餅つきや近所への花見な
このころに、ホームホスピスのス
は前の家主がそれまで生活していた
れまでのことを受容する時間となっ
標を「人生の終焉の時期を、ホーム
ることになる。しかし、デイサービ
どに参加したり、関節リウマチのた
タッフ、家族、ケアマネジャーとで
台所や仏壇、縁側、庭もそのまま
たのではないだろうか。ホームホスピ
ホスピスで穏やかにかつ安心して過
スを利用中やその帰宅後には疲労感
めになかなか面会に来られない次女
今後についての意向確認を行った。
残っており、ご飯の支度をするにお
スのスタッフだけでなく、Aさんに関
28
29
認知症の人を支援する
ケアマネジメント
趣味を楽しみながら、いつまでも自分らしく
ここは神奈川県横浜市にある高齢者グループホーム「横浜はつらつ」の 1 ユニット
わったすべての事業所のスタッフもま
ホームな関係の中で生活するため、
面が弱っていき、同時に食欲も衰え
た、認知症高齢者への対応とその家
Aさんのような認知症の人に生じや
ていくという状況であった。95 歳の
族への支援を看取りの中からを学ば
すいリロケーションダメージが起こ
誕生日以降は、ベッドでの時間が車
せていただいた。
りにくいというメリットもある。こ
いすでの生活時間より多くなってい
ういう環境の中で Aさんに支援が行
る。このように、徐々に終末期を迎
われ、約 3 年半の入居生活ののちに
えていくのが認知症の人のターミナ
終末期を迎えた。
ルケアの一般的な特徴であるとされ
桜美林大学大学院教授 白澤
政和
2
認知症の人の意思確認を
どう行うか
ている。
さらに、本事例を見る限りでは、
本事例は一人暮らしでグループ
Aさんは認知症高齢者の自立度は
がん患者の終末期に出現するような
ホームに入居していたが、脳梗塞の
Ⅲaで、十分な意思表示ができない
心身の痛みが、Aさんには見られな
ため緊急で病院に搬送され、退院時
状態にある。そのため、家族とホー
いという特徴がある。このように認
にホームホスピスに入居した事例で
ムホスピススタッフとでAさんの入
知症の人へのターミナルケアにおい
ある。Aさんは、入居後約3年半で
居後の暮らしをどうしていくかとい
ては、疼痛管理などよりも、しだい
終末期を迎え、ターミナルケアが
うことを話し合っている。さらに、
に体力的に弱っていく中で本人の意
ホームホスピスで実践された。
Aさんの看取りについても家族とス
欲をどう支え、同時に本人の死の受
タッフ、ケアマネジャーが話し合っ
け入れをどう支えるのかという両面
ている。
を捉えて、その重点を徐々に移行し
1
ホームホスピスでのケア
ホームホスピスは、自宅と同じよ
認知症の人のターミナルケアを行
うな環境で終末期を迎えられる施設
う場合には、どのように最期を迎え
本事例でもAさんの意欲を高める
である。ここには、通常は 5~6 人の
たいのかという意向を本人から聞く
ための支援から、死を受け入れてい
入居者がおり、家をシェアする形で、
ことが大変難しい。本来の望ましい
く支援に重点を移行している。認知
馴染みの関係の中で暮らしている。
方法は、意思表示ができる時期に本
症の人のターミナルケアを考えた場
介護職が常駐しており、食事などの
人の意思確認をとっておくことであ
合、言語的および非言語的なコミュ
サービスが提供されるが、入浴など
る。同時に、意思確認が難しいとし
ニケーションを用いながら、例えば
は介護保険のサービスを利用し、時
ても、できる限り本人の意向を、本
「食事を頑張ってとる」
というように、
には通常のデイサービスなどを利用
人の表情や言葉から汲み取っていく
本人が生きる力を支えることを目標
する場合もある。同時に、医療系の
作業を行うことが求められる。また、
にしているが、死に直面していく過
サービスについては介護保険あるい
本人の生活史から気付いていくこと
程では、
「無理なく食事がとれる」と
は医療保険を利用し、医師や看護師
も必要である。
いうように支援が移行していく様子
ていくことが重要なテーマになる。
が対応することになっている。以上
ターミナルケアを行っていくに
が記されている。また、徐々にさま
のようなさまざまなサービスを利用
は、どのような死を迎えたいかとい
ざまなアクティビティを減らしてい
し、ホームホスピス入居者は自宅と
う本人の意向が極めて重要である。
くことで、疲労感を取り除いていき、
ほぼ同じ生活をすることができる。
そういう意味で、認知症の人への
Aさんが安らかな死を迎えることが
ホームホスピスのメリットは馴染
ターミナルケアでは、どうケアをす
できるように支援していくことが求
みの関係でケアが受けられ、必要で
るのかということに加えて、どのよ
められる。
あれば家族などに行き来してもらい
うにして本人の意思を確認していく
ながら終末期を迎えられるという点
のかが大変重要なテーマになる。
にある。実際、自宅に近い環境であ
るホームホスピスには、家族や友人
が頻繁に訪れることができ、アット
3
認知症の人のターミナル
ケアの特徴
認知症をもつAさんは徐々に身体
「つづき」。リビングの壁面に日めくりカレンダーが掛かっている。布製で、日付
を刺繍したものだ。これを作成したのは入居者の川上アイ子さん(83 歳)だ。認
知症になった今も、若いころからの趣味を楽しみながら、
アイ子さんらしい暮らしを継続させている。
川上アイ子さんは 2007 年に、老人保健施設「都筑
ハートフルステーション」から「横浜はつらつ」に越
してきた。両施設とも医療法人活人会の運営であり、
理事長の水野恭一氏は入居者の体調管理も担う。
グループホームという家庭的な環境の中で、若い
ころからの趣味だった刺繍を再開。これまでにアイ
子さんが刺繍した作品は 100 枚以上にもなる。モチー
フはアイ子さんが選んだもので、絵心のあるスタッ
フが描いた絵や人気キャラクターなどさまざまだ。
作品を少し離れて見ると、まるでしっかり塗り込ん
だ絵画に見えるほど隙間もなくびっしりと、カラフ
ルな色で布を埋め尽くしている。アイ子さんはこの
ような作品をあっという間に仕上げてしまう。
「今
は少しペースが落ちてきましたが、最初のころは材
料を用意するのが追い付かないくらいでした」と、
所長の田中香南江さんは笑う。
刺繍の材料を持ってきてくれるのは長女。長男夫
やったという。
そんな積極的な性格は今でも健在だ。外出が大好
きで、散歩に行きたいときには「オゾンを吸いたい」
と独特の言い回しで願いを伝える。ある時、散歩に
刺繍を始めたのは子どもたちが幼稚園のころのこと
長男が付き添って隣接する保育園に立ち寄ると、園
で、子どもの持ち物などに自己流で刺繍を施したの
児たちが「アイコバアだ!」と言いながら駆け寄って
が始まりだそうだ。それ以来、刺繍のおもしろさに
きて長男を驚かせた。どうやら自室の窓から園児た
魅せられ、飼っていた犬の洋服を手作りしたり、枕
ちに声掛けをして友達になっていたらしい。
「アイコ
カバーに花やキャラクターなどを刺繍しては近所の
バア」とは、アイ子さんが保育園児に自己紹介した呼
人にあげたりするようになった。
び名で、
「アイコバア」の頭文字 AB が刺繍された作
そのかたわら、夫が営んでいた自営業を手伝い、
品もある。またある時は、窓からアイ子さんが校外
夫が亡くなったあとは会社を長男と共に切り盛りす
学習で散策中の小学生たちに「ねえ、歌を歌ってよ!」
るようになった。自ら自動車を運転するなど何でも
と声を掛けたことがきっかけで小学校との交流が始
まり、クラスの子どもたちがグループホームを訪れ
て、歌や手遊び、読み聞かせなどを行うようになっ
た。こんな社交性もユーモアのセンスも、これまで
の人生で培われたものなのだろう。
アイ子さんは、その人らしさを引き出す「横浜はつ
らつ」の質の高いケアと家族の愛を受けながら、それ
に、認知症の人のターミナルケアに
まで自宅で過ごしてきたままの暮らしを今も送って
あんねい
は、安寧な状況となるよう、介護側
が必要である。
左上は日めくりカレンダー。左下はアイ子さんの自画像。右下はパターンを精
緻に刺繍した作品。これらを周囲の人が驚くような手早さで仕上げる
婦も頻繁にグループホームを訪れる。アイ子さんが
Aさんの過 程からもわかるよう
が徐々にウエイトを移していく支援
川上アイ子さん。この日はグループ
ホームの庭の鉢植えの手入れ
いる。これからもアイ子さんらしい作品を創作し続
入居者の体調管理も担う医療法人活人
会理事長の水野恭一氏
高齢者グループホーム「横浜はつらつ」
所長の田中香南江さん
けてほしい。
※本文中の事例は、本人のプライバシー保護を考慮し、内容の一部を変更しています。
30
31
連載 第 4 回
本人の思いをつづり伝える「わたしの手帳」
手帳をアレンジし
入院病棟の看護力がアップ
事例提供
アドバイザー
【外科病棟での工夫】
「わたしの手帳」の p.6 と p.7
医療法人社団東山会 調布東山病院
永田久美子 (認知症介護研究・研修東京センター 研究部部長)
自分たちに有用な項目をピック
アップして作り直したシート
東京都調布市にある医療法人社団東山会 調布東山病院(一般病床83床、透析病床66
床)は1982年開設の急性期病院。高齢社会の進展とともに、認知症の人や認知機能
の低下がみられる人の入院が増えてきた。こうした人たちが少しでも気持ち良く入
院生活を続けられる方法を探るために、内科と外科の病棟看護部の認知症チームで
「患者さんのご
は、「わたしの手帳」を自分たちの看護に役立つようにアレンジして活用している。
家族からのメモ
急性期の病院でこそ
活かされる
「私の手帳」
o@o@o@
認知症の人や認知機能の低下が
こと』メモ」
(手帳の p.6・7)を拡
大コピーし、入院患者に記入して
もらうようにした。ところが、入
院患者にそこに載っている 20 項
目をすべて記入してもらうのは難
みられる人の入院が増加してい
しかった。そこで看護師が患者に
る。医療法人社団東山会 調布東
質問し、回答を記入する方法を
山病院の看護師たちはその対応に
とったが、多忙な看護業務の中で
戸惑っていた。そんな矢先、妄想
それを行うことは負担が大きかっ
が強く暴力を振るう高齢者が入院
た。そこで、安藤氏らはもうひと
してきた。同病院看護部長の福地
工夫することにした。
洋子氏は入院中の認知症の人のケ
「急性期病院なので入院期間は
アにあたる看護師たちが疲弊して
13~16 日です。オリジナルの 20
いくのを目の当たりにし、認知症
項目の中から、その短い入院期間
に、
『体を触られ
異なる工夫をしている。項目を
「大
書かれていまし
切なもの」
「楽しみ・喜び」
「イラ
た。 そ の 情 報 が
イラすること」
「リラックスできる
あ っ た の で、
『触
もの」の四つに絞り込み、電子カ
られるのは嫌だろ
ルテに入れて活用することにし
うけど、少し我慢してください
のような話を安藤氏が語ってくれ
現 れ た。
「 大 切 メ モ」の 導 入 は、
た。研修会の参加者の一人、同内
ね』などと声掛けができました。
た。
「しきりに『帰りたい』と言う
病院全体に良い効果をもたらして
科病棟看護師の小笠原光子氏は
もし、その情報を知らずに体を
患者さんがいました。末っ子で寂
いるようだ。
「電子カルテを開けると第 1 画面
触って、患者さんから嫌がられて
しがり屋のその方のご主人が一人
に4項目が出てくるようにし、ほ
いたら、自分の看護が悪かったの
で家にいるから、自分が早く帰ら
かの職種の人にも情報が伝わるよ
だろうかと気落ちしていたと思い
ないと、と思っていたらしいので
うにしました」と語る。
ます」
(安藤氏 )
す。
『帰りたい』という 4 文字の中
o@o@o@
「帰りたい」という4 文字に
込められた思いに寄り添う看護
るのを嫌がる』と
外科病棟では用紙を患者に記入してもらいベッドサイドに貼っている
患者の家族に記入してもらう「大切メモ」
o@o@o@
退院後に情報を
いかに活かすかが課題
o@o@o@
o@o@o@
後列左より山田かおり氏、福地洋子看護部長、安藤夏
子氏、前列左より小笠原光子氏、山口未祐氏
こうした彼女らの患者への接し
に、そういう思いが込められてい
今後の検討課題が明らかになっ
方をみていて、福地氏は「大切メ
ることがわかったので、
『ご主人
て き た。 一 つ は「 大 切 メ モ」の
モ」を導入してからは内科・外科
が寂しがっているから頑張ってリ
項目の見直しだ。また、退院後の
病棟ともに認知症に対してだけで
ハビリをして、早く良くなって帰
使い方も検討したいと認知症チー
なく、看護力全体が上がってきた
りましょうね』と共感する励まし
ムは考えている。
「転院先に渡す
と感じている。
方ができました。また、その方が
サマリーに添付しようかという話
「以前は大変だと思っていた認
1 日も早く帰られるように一生懸
が出ています」
(安藤氏 )。また、
看護についての知識を増やす必要
中に役立ちそうな 13 項目を選ん
性を強く感じた。そこで福地氏は
で、 文 言 も 一 部 変 え て A4 版 の
認知症介護研究・研修東京セン
ペーパー1 枚に作り直しました。
ターの永田久美子氏に相談。認知
また、ご家族からも情報を得たい
この「大切メモ」を取り入れて
症チームをつくって 2013 年 12 月
と思い、
『ご本人の<大切なこと>
から、看護現場ではさまざまな変
から毎月 1 回、研修会をスタート
メモ』を併せて作りました。どち
化が現れた。
させた。すぐに永田氏より、本人
らにも、花のイラストをカラーで
「細かい作業が好きな患者さん
知症や認知機能が低下した患者さ
命サポートしようという気持ちを
患者からカフェ設定の要望が多
を深く理解するために使ったら
あしらって、親しみやすくしまし
のために、家族にお願いして手を
んの看護が楽しいという言葉が最
強くもちました」
。
いことから、内科病棟ではデイ
どうかと勧められたのが「わた
た」と安藤氏は話す。この外科病
動かせる材料を持ってきていただ
近、聞こえてきています。患者さ
看護師たちの試みはほかの職種
ルームの一角にカフェのような場
棟版「わたしの『大切なこと』メモ」
きました。患者さんは日中に取り
んの背景や心の声を知り、その方
にも影響を与えている。例えば 5
が設けられないかと、これから職
o@o@o@
しの手帳」である。研修会に参加
した認知症チームの看護師たち
(以下、
「大切メモ」
)は患者のベッ
組む作業ができ、結果として昼夜
をすべて受け入れる看護のすばら
分ごとにナースコールを押して今
員に案を募る予定という。こうし
は「わたしの手帳」を外来や透析
ドサイドに貼り、医師やリハビリ
逆転がなくなりました」
(内科病棟
しさを実感し、それがほかの患者
日の日課を聞いている患者の目に
たアイデアは地域連携にもつなが
センターに配って患者に渡すとと
スタッフ、管理栄養士などケアに
看護師、山口未祐氏 )
さんの看護にも活かされていま
つくところにホワイトボードを置
るだろう。
もに、病棟での活用を検討しはじ
関わるスタッフ全員が見られるよ
「その方の好きな歌手を話題に
す。看護という仕事へのやりがい
き、
「今日は何々検査をします」
めた。
うにした。
すると、とても会話がはずみ、笑
にもつながっているようです」と
と医師が書いたり、見舞いに来た
ラッシュアップさせ、その人の尊厳
顔も増えています」
(外科病棟看護
福地氏は喜ぶ。
家族と一緒の写真を撮ってボード
を大切にする看護を目指したい
に貼ったりしてくれるスタッフも
と、福地氏らは考えている。
外科病棟の安藤夏子氏らは、
「わ
一方、同じように研修会に参加
たしの手帳」の「わたしの『大切な
した内科病棟では、外科病棟とは
32
師、山田かおり氏 )
この福地氏の言葉を象徴するか
今後も、
「大切メモ」をよりブ
33
第15回認知症ケア学会大会
「後世への認知症ケア」のテーマのもとに
全国からケアスタッフが集合
日本認知症ケア学会(理事長:認知症介護研究・研修東京センター長本間 昭氏 )が 1 年に 1 回開催する大会には、
全国から大勢のケアスタッフが集い、認知症について学び、情報交換を行う。第 15 回大会(大会長:医療法人社
モーニングセミナー「認知症診断直後の様々な家族支援に
ついて」の講師を務めた医療法人藤本クリニック理事長・
院長の藤本直規氏
同モーニングセミナーに藤本氏とともに登壇した同クリニ
ック認知症専門デイサービスセンター所長の奥村典子氏
同モーニングセミナーの座長を務めた日本医科大学武蔵
小杉病院教授・認知症センター部長の北村 伸氏
団翠会 和光病院病院長今井幸充氏 )は2014年5月31日、6月1日の2日間、東京国際フォーラム(東京都千代
薬の効果の感じ方については、藤
きるようになったからではないかと
現在では、ほかの障害をもった人や
本氏らは家族にオリジナルの問診票
推測した。また、藤本氏は「問診票
老人会の人なども参加し、孤立しが
を用いて薬の効果を評価。初回の
は家族と医療者との会話を深める
ちな家族にとっても社会とつながる
チェックでは、例えば、
「何度でも
きっかけとして有効」と付け加えた。
場になっている。
田区 )で開かれ、3,000 名を超える参加者が講演やシンポジウムに熱心に耳を傾けた。
もう一度認知症ケアとは何か
を考える大会に
第 15 回の節目となる今回の日本認
知症ケア学会大会のテーマは「後世
への認知症ケア」
。同大会大会長の
今井幸充氏は「認知症ケアを地域あ
るいは社会で支える仕組みづくりが
軌道に乗りつつある現状を踏まえ
て、もう一度認知症ケアとは何かを
問う場にしたいと考えた」とテーマ
の意義を説明した。開会あいさつに
認知症介護研究・研修東京センター長で、日本認知症
ケア学会理事長の本間 昭氏
大会長を務めた医療法人社団翠会和光病院病院長の今井
幸充氏
続いて同じテーマで大会長講演を
たオレンジプランについても言及
行った今井氏は、1972 年に発表され
し、介護保険制度を改正して行われ
同クリニックでは 2000 年より、発
た有吉佐和子氏の『恍惚の人』や 82
る地域支援事業を拡充して認知症対
症初期の軽度の人に病気や症状の正
年に制定された老人保健法、89 年に
策を行うとした。
しい理解を促し、また仲間の存在を
策定されたゴールドプランなど高齢
ター部長の北村 伸氏が務めた。
そのほか 1日目には、認知症介護
知ってもらうことで孤立感を和らげ
者ケアの歴史を振り返ったあと、
「今
研究・研修仙台センター長加藤伸司
るために、本人・家族向けの心理教
は認知症の人の生活をどう支えるか
氏や首都大学東京教授繁田雅弘氏ら
育と、娘・嫁・妻・男性介護者など
の議論に発展している。支えていく
が登壇した特別企画「私たちが伝え
がそれぞれの立場で語り合える本
ためには、医療と介護がスクラムを
たい認知症ケア」と、パーソンセン
人・家族交流会を開いてきた。藤本
組むことが大切」と強調し、
「後世に
タードケアや回想法について取り上
氏は「認知症と診断された本人や家
継承していくべきケアは希望・歓喜
げたシンポジウム「次世代に向けた
族が、心理教育や交流会で、それぞ
を提供するケアである」と結んだ。
ケアメソッド」などが行われた。
れに仲間の存在を知り、お互いが病
1日目の午後に行われた特別講演
では、厚生労働省老健局前局長の原
勝則氏が「オレンジプランの推進と
認知症の人と家族に対する
取り組みを紹介
気のことを話し合うことで、これか
らの生活を諦めないでおこうと思え
るようになる。診断直後の軽度の時
介護保険制度改正」と題して講演し
2日目には医療法人藤本クリニッ
た。6 月25日に公布・施行された
「地
ク理事長藤本直規氏と同クリニック
を促すことは重要な支援」と述べた。
域における医療及び介護の総合的な
認知症専門デイサービスセンター所
奥村氏は「それぞれの会には目的
確保を推進するための関係法律の整
長奥村典子氏によるモーニングセミ
があり、本人や家族から生活の中で
備等に関する法律」について、地域
ナー
「認知症診断直後の様々な家族
困っていることを語ってもらい、そ
における介護サービス提供体制の整
支援について:正しい病気の理解・
れが病気とどう関係するのかを説明
備や持続可能な介護保険制度の構築
薬の効果の感じ方・仲間と出会える
している。それを繰り返し行うこと
などを行う法律であると解説した。
場所」が開かれた。座長は日本医科
で、病気への理解が少しずつ深ま
2013 年から5ヵ年計画がスタートし
大学武蔵小杉病院教授・認知症セン
る」と話した。
34
期から、こうした機会を設けて参加
同じことを話すことが増えた」とい
同クリニックで、藤本氏らは 2011
セミナーの最後に奥村氏は、
「介
うネガティブな評価の反面、
「口数
年から、発症初期の人を支えるため
護をする・されるといった関係をな
が増えた」というポジティブな評価
の新たな実践として、若年認知症の
くすことに、これからも取り組んで
も同時に書かれることがあった。し
人が社会とつながりながら仲間と出
いきたい」と抱負を語った。藤本氏
かし、チェックを継続していくうち
会えるようにと、若年認知症の人に
は「発症初期の本人が認知症ケアと
にポジティブな評価が多くなった。
仕事の場を提供している。これには
その支援者に出会うことによって、
その理由について奥村氏は、評価の
若年認知症の人だけでなく、現役の
限られた期間であっても普通のこと
視点を具体的に示すことで、
「『何度
介護家族も参加。認知症の人が家族
を普通にできるようになることは、
でも同じことを話すことが増えた』
に仕事のやり方を教えるといった、
家族にとって喜びであり、家族が喜
ことを『口数が増えた』というポジ
病気を意識しない会話のやり取りが
ぶことは本人にとっても生きていく
ティブな評価として捉えることもで
両者の間で行われている。そして、
支えになる」と参加者に訴えた。
平成 26 年度認知症ケア学会・読売認知症ケア賞の受賞者(前列)と審査委員
「平成 26 年度認知症ケア学会・読売認知症ケア賞」および
「未来をつくる子どもたちの作文コンクール」授賞式
未来をつくる子どもたちの作文コンクールの受賞者(前列)
同大会の 1 日目に平成 26 年度認知
症ケア学会・読売認知症ケア賞の授
賞式が行われた。受賞者は次のとお
り(敬称略 )
。
●功労賞 五島シズ(認知症ケアア
■3 名の子どもが受賞
あり方を模索するため、2013 年、全
国の小学生・中学生を対象に「未来
をつくる子どもたちの作文」を募集
した。同コンクール初となる授賞式
が 2 日目に行われた。また、受賞者
はそれぞれ自分の作文を読み上げ
た。受賞者は次のとおり(敬称略 )
。
●最優秀賞 「それが、ばぁちゃん
ドバイザー)
、三山吉夫(藤元メディ
カルシステム大悟病院認知症疾患医
療センター長 )
●奨励賞 旭 俊臣(旭神経内科リハ
ビリテーション病院長 )
、特定非営
利活動法人老いと病いの文化研究所
同学会では、未来をつくる子ども
たちが認知症をどのように捉えて関
わっているか、また認知症に対する
考え方がどのように変化していった
のかを作文を通して知り、認知症の
学校教育や認知症の人の家族支援の
なのだ」三國櫻子(北海道・中学1年
生)
●優秀賞 「おばあちゃんとぼく」中
村大祐(三重県・小学 3 年生 )
、
「しろ
ちゃんのおじんちゃとおばんちゃ」長
南穂実(山形県・小学 2 年生 )
われもこう、特定非営利法人中空
知・地域で認知症を支える会
●特別賞 相田 洋(ドキュメンタリー
ディレクター)
35
第29回日本老年精神医学会
テーマは「超高齢社会を支える精神医学」
認・ 知・ 症・ ケ・ ア・ に・ 役・ 立・ つ・ 本
認知症ケアの新しい風
支え合う温もりの絆を創る
長谷川和夫 著
ぱーそん書房 刊
A 5 判149 ページ
2,000 円+税
2014 年 6 月 12 日、13 日の両日、東京都千代田区の日本教育会館で、第 29 回
日本老年精神医学会(新井平伊理事長 )が開催された。大会長は東京都立松沢病
院院長の齋藤正彦氏が務めた。「超高齢社会を支える精神医学 ― ともに『生き
る』ために私たちができること」をテーマに、特別講演、10 のシンポジウム、
口頭発表などで「今日の認知症の捉え方」について話し合われた。本学会会員に
は精神科医師が多いが、テーマのとおり医師が認知症という病態と、そして認
知症の人とどのように関わるかについて、さまざまな意見が交わされた。
本誌上で連載している「認知症ケ
たものだということが本書からわか
アへの新しい風」の、既刊分を抜粋
る。
してまとめ、一部加筆も施したもの
長谷川氏は1968年に都内にある老
が本書である。人気の連載で著者が
人ホームを訪ね、健康調査を行い、
一貫して述べてきたことは「認知症
「そこで初めて認知症の人を診断し
の人が主役である」ということだ。
た」と本書に記している。調査を重
「本人を中心としたケア」
「本人の視
ねる中で、恩師新福尚武教授から
症(8 0 %)には多く
点に立ったケア」
「本人の内的体験
「認知症の人を診立てるとき、昨日
テーマを「超高齢社会を支える精神
見られる症状だが、
を理解するケア」
「その人らしさを大
と今日とでブレがあってはいけな
なぜ「認知症ケアは難しい」とい
医学 ― ともに『生きる』ために私た
アルツハイマー型認
切にするケア」
。これはトム・キッ
い。診断するために記憶力や判断力
われるのか。その問い掛けに、長谷
ちができること」と決めた理由につ
知 症 では 2 0 %くら
トウッドが提唱している認知症ケア
のスケールをつくるように」と指導
川氏は多くのエピソードを交えなが
いて、
「今や超高齢社会となったわ
い にし か 見 ら れ な
理念「パーソンセンタードケア」であ
された。それが「長谷川式簡易知能
らやさしく答えている。認知症ケア
が国で、老年医学のあり方は精神医
い。また、嚥下障害
るが、長谷川氏の考えはまさにこの
診査スケール(長谷川式スケール)
」
を始めたばかりの人に、また、ケア
学的にも社会的にも変わっていくと
はレビ ー 小 体 型 認
理念と一致していること、そしてそ
の誕生につながった。以来、約半世
の現場で確信をもてずに悩んでいる
きだ。この大会をその糸口をつかむ
知 症 には 高 頻 度 で
の考えは長谷川氏が長年にわたり認
紀に及ぶ多くの認知症の人たちとの
人に、本書は“最良の薬”として役立
場にしたい」と、開会あいさつで述
出現するといった特
知症の人と接してきた中から培われ
出会いが、
「認知症の人が主役」とい
つに違いない。
べた。
徴がある。
大会長の齋藤正彦氏は、今大会の
日本老年精神医学会理事長の新井平伊氏
(順天堂大学大学院医学研究科精神・行動
科学教授)
第 29 回大会長の齋藤正彦氏(東京都立松
沢病院院長)
ランチョンセミナー1では、熊本
さらに池田氏は「血管性疾患の中
どのようなことに気を付ければよい
大学大学院生命科学研究部精神神経
でラクナ梗塞など脳小血管病を合併
のかがある程度わかる。先手を打っ
医学分野教授の池田 学氏が、
「症候
したアルツハイマー型認知症は、せ
てケアをしていくことが可能になれ
学からみた認知症の理解」をテーマ
ん妄の出現率が高まる。レビー小体
ば、本人にとって暮らしやすい環境
に講演した。座長は横浜市立大学名
型認知症にも同疾病を合併すると、
をつくることにもつながる。ケアや
誉教授の小阪憲司氏。
せん妄出現率が高くなる。疾患に
心理社会的要因に症候学を加味した
講演で池田氏は、
「疾患に特徴的
よって出現しやすい症状を把握する
認知症ケアが、今後は介護の現場で
な症状を把握するとともに、ほとん
だけでも診断の確実性を高められ
必須になっていくのではないか。
ど出現しない症状を知ることで診断
る」と説明した。池田氏は、こうし
認知症ケアの現場で、医療と介護
をより確実なものにすることが重要
た症候学を基盤に、診断に有効な評
の連携が重要だといわれるように
だ」と述べた。例えば、常同的に甘
価尺度ができるとも述べ、研究者が
なって久しいが、地域によってはい
いものに執着する食行動異常は前頭
これらの尺度を開発中であることを
まだ連携が進まないところも少なく
側頭型認知症(90%)や意味性認知
紹介した。
ない。上記のような症候学的な見方
座長を務める小阪憲司氏(横浜市立大学名
誉教授)
36
講演する池田 学氏(熊本大学大学院生命
科学研究部精神神経医学分野教授)
症候学は診断分野
を医療側が、生活情報を介護保険の
だけのものと考えら
ケアマネジャーや介護職が、お互い
れ が ち だ が、 実 は
に提供し合えば、連携は大きく前進
「症候学に基づいた
するに違いない。それこそが、大会
ケア」は、科学的な
長の齋藤氏が考えたテーマである
「超
非薬物的療法を行う
高齢社会を支える精神医学」の実現
ために欠かせない情
に近づく方法でもあるといえよう。
報になる。ケアをす
2015 年の本学会は、神奈川県横浜
る人が次の症状の出
市のパシフィコ横浜で開催される予
現を予測できれば、
定である。
知っておきたい
長谷川和夫 監修
本間 昭/永田久美子 編集
ぱーそん書房 刊
B5 判 304 ページ
2,700 円+税
認知症ケア最前線
理解と実践
「認知症ケア(ここでは介護のみ
ではなく医療も含めた意味でケアを
う理念に結実している。
抜粋 )
。
本書では、こうした認知症の人の
用いる )の目標がそれまでの生活を
「生活の不自由さ」について、
「転倒 」
可能な限り維持できるように支援す
「食事 」
「排泄 」
「入浴 」などの場面か
ることであることに異論はないであ
ら具体的に解説している。また、認
ろう。認知症の代表的な疾患である
知症の人のケアマネジメントやアセ
アルツハイマー病を例にとれば、短
スメント、入居者同士のトラブルと
期的には一時的にいくつかの機能が
いった、現場で起きていることにつ
改善されることはあっても、数年と
いても多く触れ、その解決の糸口を
ケアスキルにとどまらず「若年性認
いう中長期的な経過をみればすべ
示している。認知症関連医療施設
知症のケア 」
「被災時のケア 」
「終末
ての機能が悪化方向に変化するこ
や、介護事業所、グループホーム、
期ケア 」など同ケアの今日的な課題
とは間違がいない。このような特徴
介護施設などで、本書を基に認知
とそのあり方についても述べてい
をもつ疾患であるからこそ、認知機
症ケアについて話し合うことをお勧
る。従来にない新しい内容も盛り込
能障害によってもたらされる生活の
めしたい。
まれており、同ケアの現場に携わる
不自由さをいかに支えていくかが目
本書では、上記の内容を述べた
医療職・福祉職・介護職が共通認
標となる」
(本書の「はじめに 」から
うえで、認知症ケアの理念、知識、
識をもつために役立つ本であろう。
37
ART1592AKE
2015 年 1 月作成