特集 Dementia with Lewy Bodies ケア「疾患を知ること」 は「その人を知ること」 ライフアート代表取締役 武田純子 氏 札幌市白石区にあるグループホーム「福寿荘」では、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症 など , さまざまな認知症の人たちが共に生活している。ここの責任者の武田純子氏は「皆さんが普通 に暮らせるのは、私たちが病気の特徴をわかっているから」と話す。スタッフはきちんとした疾患の 知識をベースに、ここで暮らす人を支援している。 医療・介護 連携対談 本人に合った治療とケアが QOLを高めていく レビー小体型認知症の症状は一人ひとり異なる。内海氏が述べた DLB の症状に合わせた専門医療からの支援、 武田氏が述べたケアの現場での DLB への支援、そのどちらが欠けても DLB の人は暮らしていくことができない。 「医療とケアが架け橋をつくり、DLB の人が安心して生活できる地域にしたい」と両者は語る。 疾患の特徴を理解する意味 「本人が楽になるケアは、私たち も楽になります」と武田純子氏 認 知 症 というとア ル ツ ハ イマ ー 型 認 知 症( 以 下、 内海久美子氏・武田純子氏 AD)を考えてしまう人が多い。そのため画一的に AD の記憶障害を考え、誤った対応をしてしまうこともあ る。レビー小体型認知症(以下、DLB)の人に、もの忘 「福寿荘Ⅲ」外観。グループホーム「福寿荘」は 現在、札幌市内に 3 施設ある の働きが止まったかと思うほどです。それが ON に切 複雑なジグソーパズルに 向かうレビー小体型認知 症の人と話す武田氏 れのある人へのケアと同じように明日の予定を繰り返 して伝えると、 「どうして何度も同じことを言うのか」 と怒り出す。あるいは直前までやることを伝えなかっ と考えた。この人が専門病院を再度受診すると、やは たりすると、 「そういうことは、なぜ予定を立てるとき りDLBという診断が付いた。 に教えてくれないのか」と、やはり不快感を表す。 レビー小体型認知症を知る り換わると、OFF 状態がウソだったかのように活発 な状態に戻ります。OFF は意識が低下した状態です が、幻覚や妄想はそうしたときだけでなく、意識が はっきりしている ON のときにも出てきます。 武田氏は「今一番大きな問題は、DLBと診断されて 「DLB の人は、私たちが言っていることや私たちか もケアできていない現場があることです」と訴える。 ら聞いたことを理解していて記憶に残っているのに、 ケアをする人がきちんと疾患を理解していかなければ 自分にまともな対応をしてくれないから怒るのです。 ならない。 ON と OFF の症状の差が大きい ●●●●●●●● 武田:OFF のときに無理やり動かそうとすると怒る などといった BPSD につながることがありますし、意 識がはっきりしているときに現れる幻覚は、本人もよ ──レビー小体型認知症(以下、DLB)の特徴的な症状の一つに 幻覚や妄想がありますが、それを具体的に教えていただけますか。 く覚えています。以前、「壁に人の目がたくさんあっ 待につながるようなグレーゾーンのケアについて、疾 内海:アルツハイマー型認知症(以下、AD)でよく見 私たちは DLB についての知識がなく、どのように対 田純子氏。2000 年にグループホーム福寿荘を開設し、 患別に分けて考える。 「スタッフは、病気の特徴から られるもの盗られ妄想は、DLB では少ないように思 応してよいのかわからず、翌日はそのことについて触 さまざまな認知症の人たちと暮らしてきた。 考えて、やってはいけないことや、それをやったとき います。それよりも、配偶者の布団の中に見知らぬ男 れないようにしていました。AD の人に「あなたは昨 「DLB の人には記憶力の衰えていない人が多い。私 に本人たちはどんなふうに思っているのかということ (女 )が寝ていると思って浮気をしていると配偶者を 日の夜中、こんなふうに言っていたわよ」と言っても、 たちがきちんと“わかっているのだ ”と理解することが について話し合っていきます。私たちは認知症の人を 責め立てる“不倫妄想 ”、他人が自分の妻(夫 )になり その方は覚えていませんので、DLB の人にも AD の人 必要なのです。スタッフがそれぞれの疾患を理解した 介護しますが、介護っていったい何なのだろうかとい すましているという“替え玉妄想 ”、自分の家に知ら と同じように対応したほうがよいと思ったからです。 うえでケアをしていくことで、DLB の人とAD の人、 う話から、介護する中で一番大事なことは何なのか、 ない人が住んでいるという“幻の同居人妄想 ”などが ところが、DLB の人は昨晩大騒ぎしたことをスタッ 前頭側頭型認知症(FTLD)の人が一緒に暮らせるよう それはその人を知るということだ、というように深め しばしば見られます。“重複記憶錯誤 ”もあります。 フに謝りたくって仕方がなかったのです。それなのに、 になる。一緒で普通に生活できます。それは、私たち ていきます。また、認知症というのは病気の総称だが、 私の患者さんは自分の家と全く同じ間取りの家が隣に 私たちはその話題について何も言わないので、DLB の が病気の特徴をわかっているからです」と、武田氏は どういう病気があるのか、病気の特徴を知らないでど あると主張していました。また、奥さんが仕事でよく 人は「スタッフは自分の話を少しも聞こうとしてくれ 病態の特徴を理解したケアの重要性を強調する。 うしてケアができるのか、というように話します。きち 家を空けていたことを覚えていて、そばに奥さんがい ない」と思い、私たちとの信頼関係を崩してしまいま んとケアができなかったら本人はもちろんつらいです るにもかかわらず、奥さんの携帯電話に 1 時間くらい した。 が、私たちもつらい。私たちがしっかりケアをすること 電話をかけていた方がいます。これは視覚認知機能障 で、本人が落ち着いて、私たちも楽になる。楽に介護 害、あるいは意識の低下が起きているのではないかと たのですが、もしあのとき、私たちが「昨日は何が見 気の特徴に気付くようになっていく。あるとき、AD で ができれば、ゆとりをもって生活支援ができるように 推測されます。 えたの?」 「気持ちが悪かったのね」などと話せていた 入居してきた人の家族にスタッフが在宅での生活を聞 なるのではないかと話します」と武田氏は説明する。 ──内海先生は、DLB の症状で AD と大きく違うものとして、 日内変化などが激しいこと、つまりスイッチでいうとONとOFF の差が大きいこと(P.7参照)を挙げていらっしゃいますね。 ら、信頼関係が崩れることはなかったと思います。今 私は、DLB の人には『ほかの人は忘れるから繰り返し 福寿荘では月に1回スタッフの学習会を開くが、そ て言うけれど、よろしくね』とあらかじめ伝えるように の中で疾患別のケアについても話し合う。例えば、虐 します」 。こう話すのは、ライフアート代表取締役の武 知るためには、まず学ぶことを 原因疾患への理解が深まると、スタッフは次第に病 いていた。話の中で「留守番ができる」と家族が話した こうした学習が現場に活かされていく。 「足の裏か て気持ちが悪い」と言って暴れた人がいます。当時、 そのあと、時間をかけて信頼関係を再構築していっ では、私たちは DLB のことをかなり勉強したので、幻 覚症状が出たときには、 「どこら辺に目があるの? こ ことから、 「もしかしたら AD ではないのかもしれない」 ら釘みたいなものが出てきて痛い」とスタッフに訴え とスタッフは考えた。近時記憶障害がある AD の人は る DLB の人に、実際にはそのようなものは出てきてい 内 海 : そ れ ま で 普 通 に お し ゃ べ り し て い た 人 が、 のあたり?」 「少し部屋を明るくしましょうか」などと、 留守番ができないが、DLB の人であれば留守番をでき ない体感幻覚だと理解したスタッフが、 「そっか、つ OFF のスイッチが入った途端に全くしゃべられなく その人の気持ちに沿って対応しています。 るからだ。 「そういえば『家に変な人がいる』と本人が らいね」と言いながら足のマッサージをしている。疾 なったり、話し掛けてもきちんと答えられなくなった 内海:幻覚や妄想に対する治療として、一般に向精神 言っていたが、DLB の症状である幻視かもしれない」 患を理解したケアをする現場が福寿荘にある。 り、ボーッとした顔つきになったりします。まるで脳 薬が用いられますが、私自身は幻覚や妄想を必ずしも 8 9
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