障害者虐待防止と権利擁護【PDFファイル3322KB】

平成27年2月10日(管理者、人権擁護推進員向け)
和歌山県相談支援体制整備事業アドバイザー
松岡
Ⅰ
障害者の権利擁護に関する動き
Ⅱ
障害者の権利擁護と虐待
Ⅲ
施設内虐待
Ⅳ
まとめ
歩
2
Ⅰ障害者の権利擁護に関する動き
3
国際連合の取り組み
・1971年「知的障害者の権利宣言」
「知的障害者の権利宣言」
・1975年「障害者の権利宣言」
「障害者の権利宣言」
・1981年「国際障害者年」
「国際障害者年」
・1982年「障害者に関する世界行動計画」
・2006年「障害者の権利に関する条約」
1983年から10年間
「国連・障害者の10年」
4
国際障害者年の内容とその後の取り組み①
国際障害者年とは、国際連合が指定した国際年の一つ。
1971年「精神薄弱者の権利宣言」(現在は知的障害者
へ名称変更)や、1975年「障害者の権利宣言」を採択
したことに次いで、これらを「単なる理念」としてではな
く、「社会において実現する」という意図により決議され
る。
5
国際障害者年の内容とその後の取り組み②
そのテーマは「完全参加と平等」。
1982年には「国際障害者年」の成果を基に検討されて
きた「障害者に関する世界行動計画」が総会で決議され、
この計画を実施するにあたって、
1983年から1992年までを
「国連障害者の10年」と宣言し、各国が計画的な課題解
決へ向けた取り組みをおこなう。
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「障害者の権利に関する条約」
2006年
2007年
2014年
2014年
国連総会において採択
日本政府の調印
批准書を寄託
同条約は我が国について効力発生
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「障害者の権利に関する条約」の特徴
英語:
英語 Nothing about us
without us !
「われわれのことを我々抜きで勝手に
決めるな」
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障害者の権利に関する条約
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
1
締約国は、家庭の内外におけるあらゆる形態
の搾取、暴力及び虐待(性別を理由とするもの
を含む。)から障害者を保護するためのすべて
の適当な立法上、行政上、社会上、教育上その
他の措置をとる。
9
2
また、締約国は、特に、障害者及びその家族並びに介護
者に対する適当な形態の性別及び年齢に配慮した援助及び
支援(搾取、暴力及び虐待の事案を防止し、認識し、及び
報告する方法に関する情報及び教育を提供することによる
ものを含む。)を確保することにより、あらゆる形態の搾
取、暴力及び虐待を防止するためのすべての適当な措置を
とる。締約国は、保護事業が年齢、性別及び障害に配慮し
たものであることを確保する。
3
締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待の発生を
防止するため、障害者に役立つことを意図したすべての施
設及び計画が独立した当局により効果的に監視されること
を確保する。
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4
締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待の被害者と
なる障害者の身体的、認知的及び心理的な回復及びリハビ
リテーション並びに社会復帰を促進するためのすべての適
当な措置(保護事業の提供によるものを含む。)をとる。
このような回復及び復帰は、障害者の健康、福祉、自尊心、
尊厳及び自律を育成する環境において行われるものとし、
性別及び年齢に応じたニーズを考慮に入れる。
5
締約国は、障害者に対する搾取、暴力及び虐待の事案が特
定され、捜査され、及び適当な場合には訴追されることを
確保するための効果的な法令及び政策(女子及び児童に重
点を置いた法令及び政策を含む。)を実施する。
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障害者関係法律の動き
・ 平成23年
・ 平成23年
・ 平成24年
6月
8月
6月
障害者虐待防止法成立
障害者基本法改正
障害者総合支援法成立
・ 平成24年
10月
障害者虐待防止法施行
・ 平成25年
6月
障害者差別解消法成立
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障害者差別解消法について①
この法律は、
2016年4月から施行。
また、
「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮をしないこと」
が差別となる。
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障害者差別解消法について②
「合理的配慮をしないこと」
・聴覚障害のあるひとに声だけで話す。
・視覚障害のあるひとに書類を渡すだけで読み上げない。
・知的障害のあるひとに、その方がわかりやすいように
表現しない。
など、
障害のあるひとが困っているのに、その障害特性に
あった必要な「工夫」や「説明」を行わないこと。
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地域で自立した生活を営む基本的権利
(「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の
提言」、2011年8月)
1. 障害ゆえに命の危険にさらされない権利を有し、そ
のための支援を受ける権利が保障される旨の規定。
2. 障害者は、必要とする支援を受けながら、意思(自
己)決定を行う権利が保障される旨の規定。
3. 障害者は、自らの意思に基づきどこで誰と住むかを
決める権利、どのように暮らしていくかを決める権利、
特定の様式での生活を強制されない権利を有し、その
ための支援を受ける権利が保障される旨の規定。
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4. 障害者は、自ら選択する言語(手話等の非音
声言語を含む)及び自ら選択するコミュニケー
ション手段を使用して、市民として平等に生活
を営む権利を有し、そのための情報・コミュニ
ケーション支援を受ける権利が保障される旨の
規定。
5. 障害者は、自らの意思で移動する権利を有し、
そのための外出介助、ガイドヘルパー等の支援
を受ける権利が保障される旨の規定。
6. 以上の支援を受ける権利は、障害者の個別の
事情に最も相応しい内容でなければならない旨
の規定。
7. 国及び地方公共団体は、これらの施策実施の
義務を負う旨の規定。
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Ⅱ
障害者の権利擁護と虐待
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権利擁護とは
①権利擁護の意味
自己決定権の尊重という理念のもとに、
本人の法的諸権利につき、本人の意思あ
るいは意向に即して、過不足なく本人を
支援すること。
※出典:平田厚(2001)『これからの権利擁護』筒井書房、
p.37
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②権利擁護の4つの次元
自己決定のための条件整備
↓
自己決定過程の支援
↓
自己決定された権利の主張の支援(代弁)
↓
主張された権利の実現の支援
「たたかうアドボカシー」:権利回復支援
「ささえるアドボカシー」:権利獲得支援
※出典:平田厚(2012)『権利擁護と福祉実践活動』明石書店、p.58
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③専門職のもつ二面性
福祉専門職には、障害者の権利擁護者として
利用者とともに歩む役割が期待される。しか
し反面で、利用者の抱える“弱さ”(ハンディ
キャップ故に生じる情報、自己表現力、判断
能力等の課題)に最も近い立場にいるため、
権利侵害者となりうる危険性を有しているこ
とを認識する必要がある。
虐待は、個人の尊厳を侵害する人権侵害
個人の尊厳
憲法13条(個人の尊厳と幸福追求権)
「すべて国民は、個人として尊重される」
2. 「虐待防止法」を必要とする人たち
児童
配偶者(扶養を受けている家族)
高齢者
障害者
加害者の支援や扶養を受けており、加害者を
拒めない立場にある
1.
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障害者虐待防止法と権利擁護
法第3条には「何人も、障害者に対し、虐待を
してはならない。」と規定されている。
ここで言う「虐待」は第2条第2項の「障害者
虐待」より範囲が広く、養護者、障害者福祉
施設従事者等及び使用者以外の者による虐待
も含まれると考えられる。
※出典:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部(2012)
「市町村・都道府県における障害者虐待の防止と対応」
虐待防止法の範疇にとどまらず、障害者の権
利擁護を見る視点が必要。
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権利擁護と虐待
*虐待対応の基本的な考えかた
虐待は、非日常の状況であるという認識
非日常の状況を早く打開するためには早期の対
応による、終結が必要。
*障害者の「安全」を何よりも優先させながら、
障害者の自己決定の支援、虐待解消にむけた取
組を図る。
障害者虐待の有無の判断
*障害者本人の虐待されているという、
「自覚」は、問わない。
*養護者、従事者、使用者の虐待しているとい
う、「自覚」は、問わない。
どれだけ、一生懸命世話をしている家族でも
どれだけ、評判のよい事業所でも
行政は起こっている事実に着目し、判断する。
障害者本人への支援
1)自己決定への支援
2)本人保護の優先と危機介入
3)安全、安心、自立支援を目指す終結
発見、相談、通報等の時点から、対応、終
結、その後の日常的な支援に至る過程にお
いて、地域における自立した生活を目指す
という一貫した姿勢は、変わりない。
虐待かも?と感じるには
*同じものを見ても、聞いても、
知識がなければ、「気づくことはできない」
支援者;なにを見たら、聞いたら、どう動く
のか?
支援者;どのような支援が虐待、あるいは虐待
の可能性があるのか?
地域;「気になる」声、音、姿、家の状況から、
市町村等へどう伝えていくのか?
Ⅲ 施設内虐待
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(1)施設内虐待の要因
専門的知識、技術の未熟さ
人権意識の希薄さ
組織的容認
自浄機能の欠落
※「障がいのある人の尊厳を守る虐待防止マニュアル」
(大阪府知的障害者福祉協会、2010年、pp.8-9)
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(2)虐待防止に向けた留意点
1 大きな虐待は職員の小さな不適切な支援(行
為)から始まる。
・「これくらいなら許される。」の積み重ねによ
る支援の質の低下、負の支援増加。
2 利用者が被害を認識できない・訴えられない
・虐待を受けた人がその繰り返しの中で無力感を
学習してしまい、ますます何も訴えなくなってい
く。(Learned helplessness:学習性無力感)
※出典:「障害児者の人権をまもる」神奈川県保健福祉局福祉・次世代育成
部障害サービス課(平成22年4月)
1 利用者の障害特性や状態を適切に把握でき
ていない。
2 利用者の要配慮行動に対する適切かつ有効
な支援方法が見出せないため、職員が安易に
力や物理的隔離(身体拘束等)で解決しよう
とする。
3 そうした不適切な支援の積み重ねが、結果
的に大きな虐待につながる。
1.一般に、虐待、ドメスティックバイオレンス
(DV)、パワーハラスメントやいじめ等は、一
方が優位性を誇示したり保持したりしようと、そ
の「力」を濫用することで発生するとされており、
それぞれの分野で対策(保護法の施行、研究、人
権意識の普及や啓発等)が行われている。
2.職員は利用者に対して「支援する側」という優
位な立場にある。
3.職員の人権意識が低下すれば、容易に虐待が発
生し得る。
(3)虐待の早期発見・早期対応
*虐待の可能性を感じた時点での
「相談」「通報」
早期の対応;
・虐待ではなかった。
・虐待ではなかったが、支援の必要性がある。
・虐待認定はしたが終結へむけたイメージは多
様で、チーム支援が必要である。
二次被害を防ぐ
「かもしれない」を認識したのに、
「通報」しない、ためらう
「これくらい、どこでもやっている・・・・・」
「今、言えば通報者が、わかってしまう」
「ようやく、仕事につけたのに・・・・・」
「本人はなかなか大変な人だから、家族も大
変・・・しかたがない」
【二次加害者に私達はなるのか】
自分自身は大丈夫だろうか
*自分自身が行っている支援は
大丈夫だろうか?
*周囲(同僚、先輩、後輩、上司・・・・)の
行っている支援は大丈夫だろうか?
「お互いに声をかけられる関係、環境をつくる」
ことが重要。
事前に環境を整備しておく必要がある。
・ひやりはっと、事故報告
・職員同士、サービス管理責任者などの管理者と職員の
ネットワークの構築
・地域ぐるみ(相談支援専門員や市町村担当者・民生委員など)
利用者を守ること、事業所を守ること
人権擁護に取り組む法人・事業所で起こる重大な虐待事件の構図
人権擁護に取り組む法人・事業所で起こる重大な虐待事件の構図
事業所を守ることが、利用者を守ることという錯覚に陥る
・9人の利用者の人権を守る事業所が、
人の利用者の人権を守る事業所が、1人の利用者へ虐待が起こる
人の利用者の人権を守る事業所が、 人の利用者へ虐待が起こる
・9人の利用者を守る名目で、
人の利用者を守る名目で、1人の利用者への虐待を見逃がしてしまう
人の利用者を守る名目で、 人の利用者への虐待を見逃がしてしまう
一人の利用者の人権を守れない「形式的権利擁護」
一人の利用者を守ることが、事業所を守るという現実を意
識
・1人利用者への虐待は、人権を守っていた
人利用者への虐待は、人権を守っていた9人の利用者への虐待の芽を
人利用者への虐待は、人権を守っていた 人の利用者への虐待の芽を
生んでいる
・1人の利用者への虐待の早期発見、早期対応は、
人の利用者への虐待の早期発見、早期対応は、1人の利用者を虐待か
人の利用者への虐待の早期発見、早期対応は、 人の利用者を虐待か
ら守り、9人の利用者への虐待を防止することにつながり、それが結
ら守り、 人の利用者への虐待を防止することにつながり、それが結
果的に事業所を人権侵害から守ることになる
一人の利用者を守る「実質的権利擁護」へ
自立支援協議会の活用
*地域の実情にあった
「啓発」「発見」のありかたを考える。
・虐待防止法に目を通したことがない支援者をなくす。
・一方的ではない、勉強会を開催する。
・警察、消防等の関係機関との連携体制を構築する。
・部会等を活用し、ネットワークの仕組みを具体化させる。
・協議会自らの手で虐待防止や対応についての共通ツールを作
成する。
検証する
*事業所で、地域で、行政主導で二度と同じことを
繰り返さないためには。
責めるのではなく、分析し、今後に活かす。
学識経験者、専門職等において、客観的に事実を
振り返り、なぜ起こったのか今後なにが必要か?
結果を、本来的な虐待防止に活かす。
例;支援の考え方、マニュアル見直しなど
Ⅳ
まとめ
40
立場としての人権
虐待は、必ず、終結する。
終結は、早期発見、早期対応が実現すれば、複雑
化・困難化してしまうケースでも、もっと容易にイ
メージできるようになる。
私たちは利用者の権利擁護者であることを忘れない
ことが必要である。
(○○者としての人権ではなく、○○さんの立場と
しての人権を考える)
最後に
虐待事件は、職員個々の問題でしょうか?
現場で働く職員は優しくて「志」を持っています。そ
の職員が虐待事件を起こすのは、事業所の体質にあり
ます。
障害者虐待防止法は、障害者を虐待から守る法律であ
るとともに、私たち職員を守る法律でもあります。そ
れは、事業所の姿勢しだいです。
虐待の芽を摘む体制が広がってい
くように頑張っていきましょう!