障害者への虐待と権利擁護

障害者虐待と権利擁護
佐賀県
障害福祉課 野田幸一
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全体の構成
1.権利擁護の視点から見た障害者虐待
2. 調査から見る障害者の虐待の実態
3. 権利擁護とは
4. 施設内虐待
5.障害者虐待をめぐる今後の課題
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1.権利擁護の視点から
見た障害者虐待
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①権利擁護が必要と思われた事案、権利侵害
への対応が必要と思われた事案の有無について
• ありと答えた事業所59.4%
①経済的搾取の問題(42.1%)
②本人の意思決定に関する問題(37.3%)
③経済的困窮に関する問題(36.6%)
④世話の放棄、ネグレクト(36.3%)
⑤養育に関する問題(30.2%)
⑥福祉サービスに関する問題(29.3%)
⑦暴力(28.4%)
⑧悪徳商法、多重債務等の消費者問題(27.6%)
⑨住まいに関する問題(25.2%)
⑩就労に関する問題(24.7%)
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(1)国際連合の取り組み
・1971年「知的障害者の権利宣言」
・1975年「障害者の権利宣言」
・1981年「国際障害者年」
・1982年「障害者に関する世界行動計画」
1983年から10年間「国連・障害者の10年」
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「障害者の権利に関する条約」
①経過
2006年12月13日、国連総会において採択
2007年日本政府の調印
(批准国は119か国、日本国政府は批
准していない)
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②特徴
「われわれのことを我々抜きで勝手に決
めるな」(英語: Nothing about us
without us !)
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障害者の権利に関する条約
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
1 締約国は、家庭の内外におけるあらゆる形態の搾
取、暴力及び虐待(性別を理由とするものを含む。)
から障害者を保護するためのすべての適当な立法
上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。
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2 また、締約国は、特に、障害者及びその家族並び
に介護者に対する適当な形態の性別及び年齢に
配慮した援助及び支援(搾取、暴力及び虐待の事
案を防止し、認識し、及び報告する方法に関する
情報及び教育を提供することによるものを含む。)
を確保することにより、あらゆる形態の搾取、暴力
及び虐待を防止するためのすべての適当な措置
をとる。締約国は、保護事業が年齢、性別及び障
害に配慮したものであることを確保する。
3 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待
の発生を防止するため、障害者に役立つことを意
図したすべての施設及び計画が独立した当局によ
り効果的に監視されることを確保する。
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4 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待の
被害者となる障害者の身体的、認知的及び心理的
な回復及びリハビリテーション並びに社会復帰を促
進するためのすべての適当な措置(保護事業の提
供によるものを含む。)をとる。このような回復及び
復帰は、障害者の健康、福祉、自尊心、尊厳及び
自律を育成する環境において行われるものとし、性
別及び年齢に応じたニーズを考慮に入れる。
5 締約国は、障害者に対する搾取、暴力及び虐待の
事案が特定され、捜査され、及び適当な場合には
訴追されることを確保するための効果的な法令及
び政策(女子及び児童に重点を置いた法令及び政
策を含む。)を実施する。
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地域で自立した生活を営む基本的権利
(「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の
提言」、2011年8月)
1. 障害ゆえに命の危険にさらされない権利を有し、
そのための支援を受ける権利が保障される旨の
規定。
2. 障害者は、必要とする支援を受けながら、意思(自
己)決定を行う権利が保障される旨の規定。
3. 障害者は、自らの意思に基づきどこで誰と住むか
を決める権利、どのように暮らしていくかを決める
権利、特定の様式での生活を強制されない権利を
有し、そのための支援を受ける権利が保障される
旨の規定。
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4. 障害者は、自ら選択する言語(手話等の非音声
言語を含む)及び自ら選択するコミュニケーション
手段を使用して、市民として平等に生活を営む
権利を有し、そのための情報・コミュニケーション
支援を受ける権利が保障される旨の規定。
5. 障害者は、自らの意思で移動する権利を有し、
そのための外出介助、ガイドヘルパー等の支援
を受ける権利が保障される旨の規定。
6. 以上の支援を受ける権利は、障害者の個別の
事情に最も相応しい内容でなければならない旨
の規定。
7. 国及び地方公共団体は、これらの施策実施の
義務を負う旨の規定。
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2. 調査から見る
障害者虐待の実態
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(1)障害者虐待に関する実態調査
• 障害者虐待の実態は、いくつかの先行調査によっ
てその一面が明らかにされている。ここでは、「障
害者の権利擁護及び虐待防止に向けた相談支援
等のあり方に関する調査研究事業」(日本社会福
祉士会、2009年、以下「福祉士会調査」)からその
実情をみていく。
• 障害者虐待の実情については、各地域において
調査等を実施し、地域の状況に応じた虐待防止・
対応システムの構築に活かしていくことが重要で
ある。
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【参考】
障害者虐待等に関する調査・研究
• 日本社会福祉士会の調査・研究以外にも、下記
のとおり、各種の調査等がなされている。
• 「虐待は いま・・・」(全日本手をつなぐ育成会、
2002年)
• 「家庭内における障害者虐待に関する事例調査」
(滋賀県社会福祉協議会、2007年)
• 「成人期障害者の虐待または不適切な行為に関
する実態調査報告」(宗澤忠雄、2008年)
• 「障害者施設における支援のあり方と身体拘束
に関する調査」(NPO法人PandA-J、2011年)
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(2)福祉士会調査(2009年)の概要
•平成21年障害保健福祉推進事業
「障害者の権利擁護及び虐待防止に向けた
相談支援等のあり方に関する調査研究事業」
•対象:直営・委託相談支援事業所 2,341件
障害者就業・生活支援センター 246件
※有効回答数988件(回収率38.2%)
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②虐待または虐待が疑われる事案
件数 構成比
(回答 (%)
数)
虐待にあてはまる次案があった
虐待が疑われる次案があった
233
255
23.6
25.8
該当次案、疑われる次案はいずれ
もなかった
359
36.3
わからない、判断がつかない
無回答
合計
119
106
988
12.0
10.7
100.0
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②虐待または虐待が疑われる事案(966件)
全体(件数) 18歳未満
件
%
件
%
18~64歳
65歳以上
件
件
%
%
身体的虐待
345 35.7
95 37.0 201 33.0
32 56.1
介護・世話の放棄・放任
366 37.9 160 62.3 182 29.8
13 22.8
心理的虐待
282 29.2
20 35.1
性的虐待
経済的虐待
無回答
合計
66
65 25.3 183 30.0
6.8
12
4.7
320 33.1
13
5.1 272 44.6
10
1.0
2
0.8
49
3
8.0
0.5
966 100.0 257 100.0 610 100.0
2
3.5
21 36.8
0
0.0
57 100.0
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③虐待者の属性
【被虐待者が「18歳未満」の事案】
「親」94.9%を占めている。
【被虐待者が「18~64歳」の事案】
「親」44.1%、「きょうだい」25.4%、「配偶者」8.9%
「その他親族」7.5%、「知人友人等の第三者」5.9%
「企業・職場」(使用者、同僚等)や「障害福祉サー
ビス事業所・施設」等による事案の報告もある。
【「65歳以上」の事案】
「子ども」47.4%、「本人」「配偶者」「きょうだい」、
「その他親族」がそれぞれ約10%。
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相談経路
•
•
•
•
•
•
費虐待者本人 25.7%
障害福祉サービス事業所・施設 14.7%
行政福祉担当者 14.6%
費虐待者の家族・親族
13.1%
教育機関
11.1%
虐待者本人
7.6%
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④被虐待障害者の特徴
• 被虐待者が知的に、あるいは判断能力が著しく低
下している。
• 被害を受けていることを自覚できない、あるいは被
害に積極的に関与する。
• 被害を受けていることを否定する。
• 発信が少なくSOSが出せないため放置されやすい。
• 本人の意思がみえにくく表面化しにくい。
• 被虐待者の障害受容ができていない。
• 支援者との関係性が持ちにくい。
※出典:前出「福祉士会調査」p.38
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⑤虐待者(家族等)の特徴
• 虐待者自身も障害をもっていることが多い。
• 虐待や不適切な支援をしている意識が薄い。
• 育児や支援に専門性を要することがあるので、養
育能力が左右する。
• 虐待者に介護負担がかかっている。
• 障害特性に応じた対応(例:行動障害の強い子
の子育て)を取ることにより、虐待に結びつく。
• 虐待者の障害受容ができていない。
• 支援者との関係性が持ちにくい。
※出典:前出「福祉士会調査」p.38
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⑥「福祉士会調査」等をふまえて
• 障害者虐待は、どこでも起こりうる可能性を持っ
ている。
• 従来より、障害者虐待の防止および対応は必要
とされてきたが、障害者虐待防止法の制定は、
障害者虐待の防止・対応における「再スタート」
とも言える。これを機に、地域での防止・対応シ
ステムの構築が望まれるが、それには先ずなに
よりも地域での調査(実情把握)が欠かせない。
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3 権利擁護とは
①権利擁護の意味
• 自己決定権の尊重という理念のもとに、本人
の法的諸権利につき、本人の意思あるいは
意向に即して、過不足なく本人を支援するこ
と。
※出典:平田厚(2001)『これからの権利擁護』筒井書房、p.37
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②権利擁護の4つの次元
• 自己決定のための条件整備
↓
• 自己決定過程の支援
↓
• 自己決定された権利の主張の支援(代弁)
↓
• 主張された権利の実現の支援
「たたかうアドボカシー」:権利回復支援
「ささえるアドボカシー」:権利獲得支援
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※出典:平田厚(2012)『権利擁護と福祉実践活動』明石書店、p.58
③専門職のもつ二面性
• 福祉専門職には、障害者の権利擁護者として利
用者とともに歩む役割が期待される。しかし反面
で、利用者の抱える“弱さ”(ハンディキャップ故
に生じる情報、自己表現力、判断能力等の課題
)に最も近い立場にいるため、権利侵害者となり
うる危険性を有していることを認識する必要があ
る。
(3)権利擁護の視点の必要性と
障害者虐待防止
• 法第3条には「何人も、障害者に対し、虐待をして
はならない。」と規定されており、ここで言う「虐待」
は第2条第2項の「障害者虐待」より範囲が広く、養
護者、障害者福祉施設従事者等及び使用者以外
の者による虐待も含まれると考えられます。
※出典:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部(2012)「市町
村・都道府県における障害者虐待の防止と対応」
→ 虐待防止法の範疇にとどまらず、障害者の権利
擁護を見る視点が必要
27
エンパワーメント
アドボカシー
28
虐待類型関係
NPO法人
PandA-J
29
4. 施設内虐待
30
(1)施設内虐待の要因
• 専門的知識、技術の未熟さ
• 人権意識の希薄さ
• 組織的容認
• 自浄機能の欠落
※「障がいのある人の尊厳を守る虐待防止マニュアル」(大阪府
知的障害者福祉協会、2010年、pp.8-9)
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(2)虐待防止に向けた留意点
①小さな不適切支援の積み重ね
1 大きな虐待は職員の小さな不適切な支援(行為)
から始まる
・「これくらいなら許される。」の積み重ねによる支
援の質の低下、負の支援増加。
2 利用者が被害を認識できない・訴えられない
・虐待を受けた人がその繰り返しの中で無力感を
学習してしまい、ますます何も訴えなくなっていく。
(Learned helplessness:学習性無力感)
※出典:「障害児者の人権をまもる」神奈川県保健福祉局福祉・次世代育成部
障害サービス課(平成22年4月)スライドno.41迄
②支援の知識や技術の不足
(行動障害への支援の例)
1 利用者の障害特性や状態を適切に把握できてい
ない。
2 利用者の要配慮行動に対する適切かつ有効な
支援方法が見出せないため、職員が安易に力や
物理的隔離(身体拘束等)で解決しようとする。
3 そうした不適切な支援の積み重ねが、結果的に
大きな虐待につながる。
③職員の優位性
1.一般に、虐待、ドメスティックバイオレンス(DV)、
パワーハラスメントやいじめ等は、一方が優位性
を誇示したり保持したりしようと、その「力」を濫用
することで発生するとされており、それぞれの分
野で対策(保護法の施行、研究、人権意識の普及
や啓発等)が行われている。
2.職員は利用者に対して「支援する側」という優位
な立場にある。
3.職員の人権意識が低下すれば、容易に虐待が発
生し得る。
④身体拘束は常に虐待と隣り合わせ
• 身体拘束については、ゼロに向けての様々な取り
組み・研究がされている。身体拘束を行わざるを
得ない時には必要な手続きを踏む必要があるが、
身体拘束は常に虐待と隣り合わせである。次のよ
うなときに身体拘束は容易に虐待に陥る可能性が
ある。
1.利用者の障害特性から身体拘束は絶対に必要
だ、という思い込み
2.身体拘束がなければ利用者の突発的な行為に
対応できない、利用者の安全は確保できない、と
いう思い込み
3.問題の解決策は身体拘束しかないという考え
4.この身体拘束は本当に必要なのか?という視点
の欠如
5.身体拘束をする手続きを踏んでいるから許される
、という思い込み
4.障害者虐待をめぐる
今後の課題
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(1)システムに関する課題
• 虐待防止・対応の基盤となる、地域における福祉
サービスの整備
• 虐待防止・対応のためのネットワークの整備
• 虐待対応を担う人材の育成
• 調査・研究に基づく啓発活動
• 虐待防止・対応のための研修(当事者を含む)
• 対応プロセス:地域での相談窓口の周知と専
門性の向上、迅速で正確な事実確認、被虐待
者の安全確保
• 障害者に対する差別・偏見の除去 等
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(2)施設及び専門職に関する課題
•
•
•
•
•
•
専門職団体を中心とした教育や啓発活動
職場における教育や啓発活動
虐待防止に関する仕組みづくり
職員間での相互点検
スーパービジョンの実施
法やシステムをつくるためのソーシャル・アクショ
ンへの参加 等
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(3)障害者自身に対する支援
• 本人のエンパワメントを促す支援
• 虐待への認識を促す支援(権利の周知)
• 自己選択・意志決定に対する支援
• 自らのことを主張する方法を獲得するための支
援
• 本人の行動を促す支援 等
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