第15回配布プリント

15.1 フーリエ変換
応用数学総合
15.1
83
フーリエ変換とその
偏微分方程式への応用
(第 15 回)
フーリエ変換
1.フーリエ変換の定義
f (t) が −∞ < x < ∞ で絶対積分可能で,なめらかな関数ならば,フーリエ積分公式
1
f (x) =
2π
∫
{∫
∞
∞
f (y)e
−∞
−iwy
}
dy eiwx dw
(15.1)
−∞
が成り立った.このフーリエ積分公式は,
1
fb(w) = √
2π
とおくと,
1
f (x) = √
2π
∫
∞
f (x) e−iwx dx
(15.2)
fb(w) eiwx dw
(15.3)
−∞
∫
∞
−∞
と分解される.
[
]
一般に,−∞ < x < ∞ で定義された任意の関数 f (x) に対して第 2 の関数 F f (x) (w) を
1
F [f (x)] (w) = √
2π
∫
∞
f (x) e−iwx dx
(15.4)
−∞
で定義する.この関数から関数への変換
F : f (x) 7→ F [f ] (w)
をフーリエ変換という.
第 14 回の §1 で述べたように,f (x) が絶対積分可能ならば,F [f ] (w) は w の関数として全区間で定義された連
続関数となる.容易にわかるように,フーリエ変換は線形変換である.
[
]
さらに, (15.3) に対応して,−∞ < w < ∞ で定義された任意の関数 g(w) に対して第 2 の関数 F −1 g(w) (x)
を
∫ ∞
[
]
1
F −1 g(w) (x) = √
g(w) eiwx dw
(15.5)
2π −∞
[ ]
で定義し,変換 F −1 g(w) 7→ F −1 g (w) を g(w) のフーリエ逆変換という.フーリエ変換とフーリエ逆変換は,e
の指数部の符号の違いにすぎず,ほとんど類似した性質をもつ.
f (x) が絶対積分可能でなめらかな関数ならば,フーリエ積分の公式 (15.1) より F −1 は F は,真の意味での逆
変換となり,
[ [ ]]
f (x) = F −1 F f (x)
(15.6)
が成り立つ.しかし,f (x) が不連続点を持ったりすれば,F −1 は必ずしも F の逆変換にならないことに注意する.
2.フーリエ変換の性質
関数 f (x) は N + 1 回連続微分可能で,N + 1 までの各導関数はすべて絶対可積分
であるとする.このとき k 回導関数のフーリエ変換は,
F
[ dk f ]
dxk
(w) = (iw)k F [f ] (w)
である. ( k 回微分が (iw)k の積に替わる.)
( k = 1, 2, . . . , N )
(15.7)
84
証明は,k = 1 のとき, 部分積分して,絶対積分可能なことから
[
F
lim f (x) = 0 なることを使う.
|x|→∞
]
∫ ∞
df
1
df
(w) = √
(x) e−iwx dx
dx
2π −∞ dx
√
∫ ∞
]∞
2 [
1
f (x) (−iw)e−iwx dx
=
f (x) e−iwx −∞ − √
π
2π −∞
∫ ∞
iw
= √
f (x) e−iwx dx = (iw) F [f ] (w)
2π −∞
一般の k については数学帰納法により
]
[
]
[
[
]
[
]
F f (k+1) (w) = (iw)F f (k) = (iw)(iw)k F f (x) = (iw)k+1 F f (x)
3. 例
(例 1) a > のとき,
]
[
F e−a|x| =
√
2
a
· 2
π w + a2
である.
[
2]
(例 2) a > 0 として F e−ax を計算する.
∫ ∞
∫ ∞
[ −ax2 ]
2
1
1
−ax2 −iwx
e
e
dx = √
e−ax −iwx dx
F e
= √
2π −∞
2π −∞
∫ ∞
∫ ∞
2
2
2
2
1
1
e−a(x−iw/(2a)) −w /(4a) dx = √
e−w /(4a)
e−a(x−iw/(2a)) dx
= √
2π −∞
2π
−∞
√
2
1 −w2 /(4a)
π
1
= √
e
· √ = √
e−w /(4a)
a
2π
2a
よって,
[
2
2]
1
e−w /(4a)
F e−ax = √
2a
である.この (15.8) で a =
(15.8)
[
とすると, F e−x
1
2
2
/2
]
= e−w
2
/2
となり,フーリエ変換後も関数形が変わらない珍
しい例になる.
途中の計算で複素数を含んだ変数変換
∫
∞
K=
−a(x2 −iw/(2a))2
e
∫
∞+iw/(2a)
dx =
−∞
e
−∞+iw/(2a)
−ay 2
√
π
dy = √
a
を使った.
[
[ ]]
[
]
(x) となるとする.このとき,g(w) = F f (x) (w) とおくと,
問 1 f (x) は f (x) = F −1 F f
[
]
f (x) = F g(−w) (x) となることを示せ,
問2
1
I(w) = √
2π
∫
√
∞
e
−ax2
e
−iwx
dx =
−∞
2
π
∫
∞
0
とおくと,I(w) は次の初期値問題の解となることを示せ..
∂I
w
+
I = 0,
∂w
2a
1
I(0) = √
2a
e−ax cos wx dx
2
15.2 変換法
15.2
85
変換法
1. 対数 (掛け算を足し算に)
16 世紀後半に大航海時代が始まり,天体観測から船の位置を定めるのに大きな桁数の掛け算が必要となった.その
簡便計算法としてジョン・ネイピア(1594 年)は対数計算法を発明した.その計算道具として対数計算尺が生まれた.
(例)
x = 4.5021928
y = 3.2867705
対数
X = log10 x
−−−−−−−−−→
(対数表による変換)
X = 0.653424
Y = 0.516769



y
x = 10X
←−−−−−−−−−
足し算
真数
x×y = 14.7977
X + Y = 1.17019
(対数表による変換)
2.演算子法 (常微分方程式を多項式に)
19 世紀後半に電気回路の過渡現象の研究から常微分方程式の演算子法と呼ばれる代数的な多項式操作による解法が
考え出された.最も発展させたのはオリヴァー・ヘヴィサイドである.20 世紀になってラプラス変換による演算子法
の数学的基礎付けがなされた.
(例) x(t) による初期値問題を考える. ai は定数で,f (t) は既知関数とする.
...
x + a2 x
¨ + a1 x˙ + a0 x = f (t),
(IC) x(0) = c0 , x(0)
˙
= c1 , x
¨(0) = c2
[
]
このとき X(s) = L [x(t)], F (s) = L f (t) とすると,
...
L [x]
˙ = s X − c0 , L [¨
x] = s2 X − c0 s − c1 , L [ x ] = s3 X − c0 s2 − c1 s − c2
であるから方程式の両辺をラプラス変化し X について解くと
F + c0 s2 + (c1 + a2 c0 )s + (c2 + a2 c1 + a1 c0 )
s3 + a2 s2 + a1 s + a0
−1
よって x(t) = L [X(s)] で計算される.
X=
(時間 t の関数の世界)
( s の演算子の世界)
L
−−−−−−−−−→
ラプラス変換
常微分方程式 + 初期条件
1次方程式


 1次方程式を解く
y
ラプラス逆変換 L −1
常微分方程式の解
←−−−−−−−−−
1次方程式の解
86
3. フーリエ変換
(偏微分方程式を常微分方程式に)
フーリエ変換による偏微分方程式の解法の例として,無限区間 −∞ < x < ∞ における1次元熱方程式 (拡散法
方程式)
∂u
∂2u
= c2
,
∂t
∂x2
( t > 0, −∞ < x < ∞ ) ( c は正の定数 ).
(15.9)
を初期条件
u(x, 0) = f (x)
(15.10)
と境界条件
lim u(x, t) = 0
(15.11)
|x|→∞
の下で解くことを考える.
変数 x の区間が全区間なることに着目して x に関するフーリエ変換を利用して解く.求める解は十分になめらか
でフーリエの積分定理が成り立つのものと仮定して考察する.
関数 u(x, t) に対して t はパラメターとみなし,x の関数としてのフーリエ変換を行う.それを
u
b(w, t) = F [u(x, t)] (w, t)
(15.12)
として,熱方程式の両辺にフーリエ変換をほどこす.
F
[ ∂u ]
∂t
[ ∂2u ]
= F c2
∂x2
この (15.13) の左辺は,
F
[ ∂u ]
∂t
1
= √
2π
=
一方,右辺は
∫
∞
−∞
(15.13)
∂u
∂
(x, t) e− iwx dx =
∂t
∂t
(
1
√
2π
∫
∞
u(x, t) e− iwx dx
)
−∞
∂b
u
∂t
[ ∂2u ]
F c2
= c2 (iw)2 u
b(w, t) = −c2 w2 u
b(w, t)
∂x2
であるから,変換された熱方程式の形は,
∂
u
b(w, t) = −c2 w2 u
b(w, t)
∂t
になる.この式では,t に関する (偏) 微分しか現れないから,常微分方程式として扱うことができる.
(15.14)
初期条件は,
u
b(w, 0) = F [u(x, 0)] (w) = F [f (x)] (w) = F (w)
(15.15)
微分方程式 (15.14) の一般解は
u
b(w, t) = C e−c
2
w2 t
である. 初期条件より C = u
b(0, w) = F (w) であるから (15.14) の解は,
u
b(w, t) = F (w) e−c
2
w2 t
(15.16)
よって,u
b(w, t) をフーリエ逆変換で x 座標に戻すことにより熱方程式の解
]
[
2 2
u(x, t) = F −1 F (w) e−c w t
が求められる.
(15.17)
15.2 変換法
∂u
∂2u
= c2 2
∂t
∂x
(IC)
F
−−−−−−−−−→
フーリエ変換
u(x, 0) = f (x)
87
∂b
u
= −c2 w2 u
b
∂t
(IC)
u
b(w, 0) = F (w)


 常微分方程式を解く
y
F −1
←−−−−−−−−−
フーリエ逆変換
u(x, t)
u
b(w, t) = F (w) e−c
2
w2 t
逆変換 (15.17) を具体的に求める.
[
2 2 ]
u(x, t) = F −1 F (w)e−c w t
∫
1
= √
2π
∞
F (w)e−c
2
w2 t iwx
e
dw
−∞
}
∫ ∞{
∫ ∞
2 2
1
1
√
f (y) e− iwy dy e−c w t e iwx dw
= √
2π −∞
2π −∞
{∫ ∞
}
∫ ∞
1
−c2 w2 t+ i(x−y)w
=
f (y)
e
dw dy
( 積分順序を交換した )
2π −∞
−∞
この形から熱方程式の初期値問題の解を
∫
∞
u(x, t) =
−∞
f (y) U (x − y, t) dy
(15.18)
と表すことができる.ここで U (x, t) は熱方程式の基本解と呼ばれる関数で,
U (x, t) =
1
2π
∫
∞
e−c
2
w2 t+ ixw
dw
(15.19)
−∞
である.
√
2
π
U (x, t) を具体的に計算する.§1 の例 2 で
e
dx = √ e−w /(4a) を導いた.この式で x と w の
a
−∞
√
∫ ∞
2
2
π
−aw +ixw
変数記号を取り替え,さらに −w を w と変数変換すれば,
e
dw = √ e−x /(4a) を得る.最後に,
a
−∞
a = c2 t と定数を置き換え,2π で割ることにより,
{ x2 }
1
√ exp − 2
U (x, t) =
(15.20)
4c t
2c πt
∫
∞
−ax2 −iwx
基本解 U (x, t) の性質
(1) t > 0 において U (x, t) それ自体が熱方程式の解である.
∂2U
∂U
− c2 2 = 0
∂t
∂x
(2) 単位熱量である.
∫ ∞
U (x, t) dx = 1
−∞
(t > 0)
(t > 0)
88
(3) U (x, t) は t → +0 のときデルタ関数になる.
∫ ∞
lim
f (x) U (x, t) dx = f (0)
t→+0
−∞
(4) U (x, t) は
∂U
∂2U
= c2 2 + δ(t)δ(x)
∂t
∂x
の解であると見なすことができる.