JAMSTEC での地震津波海域調査研究: - 過去を知り、今を観て、未来を予測するために ○小平秀一・高橋成実・川口勝義・三浦誠一・金松敏也・荒木英一郎・中村恭之・藤江剛・ 尾鼻浩一郎・笠谷貴史・堀高峰・金田義行(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター) はじめに:JAMSTEC では海域で発生する地震の過去を知り、現在を観て、未来を予測するために、大型 観測機器、大規模観測による地震津波の実態解明と、減災・防災に貢献するためのシステム構築、及 びその社会実装試験、を柱に研究開発を推進している。本講演では、JAMSTEC の地震津波研究の目指す べきもの、最新の成果、今後の展望を今年度実施した調査観測を中心に全体像をまとめる。 地震津波発生の過去を知る:2011 年東北沖地震の発生は、様々な規模の地震発生を理解するためには 人類が記録・計測してきた地震津波の発生様式のみでは十分でないことを示した。一方で、地震直後 の調査から、海溝軸近傍の堆積物サンプルや詳細構造からは、海溝軸まで達した断層運動の時空間分 布が明らかにできる可能性が示された。これらの成果に基づいて、JAMSTEC では日本海溝海溝軸近傍の おける断層運動の時空間分布解明に向けて、高分解能反射法地震探査、ピストンコアによる採泥から なるプロジェクトを開始し、今年度は日本海溝中部・北部での観測を実施した。更に、南海トラフで も、内閣府によって示された想定震源域のトラフ軸側への拡大を受けて、同種の観測に着手した。 地震津波発生の現在を観る:地震発生場の現在の活動と構造を明らかにすることは、将来の地震津波 発生やそれらによる被害予測を行なう上で最も基本的なデータとなる。そのために JAMSTEC では過去 15 年以上にわたり南海トラフや日本海溝域において地下構造や地震活動の研究を進めてきた。一方で、 近年は地震津波発生予測・被害予測に必要不可欠な海底広域高密度観測網による連続リアルタイム地 震津波観測に向けた技術開発・観測網構築も進められ、DONET1 の完成により東南海地震想定震源域に おけるリアルタイム地震津波観測網の本格運用が開始された。更に、南海地震想定震源域東部を監視 するために DONET2 の展開が四国東部から紀伊半島西部にかけて進められており、今年度は基幹ケーブ ルの敷設、一部観測点の設置が行われた。 DONET の観測データは南海トラフにおける過去 15 年以上にわたる地震発生帯構造・活動の成果と統合 されることによって地震津波発生予測に貢献できる。しかしながら、過去に巨大な地震が発生してい ながら、それら基本的データがほとんどない領域が日本近海においても広範囲に存在している。その ため、JAMSTEC ではこれまでに地震発生場の実態に関する情報が皆無に近い、日本海溝アウターライズ、 南西諸島海溝域、日本海東縁において、広域的な構造と活動を明らかにするプロジェクトを推進し、 今年度も三陸沖、能登半島沖などでの大規模調査が実施した。 地震発生の予測とグローバル展開:上記大規模調査観測によるデータは最終的には被害予測、地震津 波発生予測につなげられる。現状では DONET のリアルタイムデータ等や現実的な想定断層情報に基づ く、津波浸水リアルタイム予測システムが開発され、一部自治体等と共同で社会実装試験に着手して いる。一方で、中長期的な地震発生予測に向けては、現実的な地震発生帯モデルに加え、海底での連 続地殻変動観測が鍵となる。しかしながら、連続地殻変動観測実施に向けては様々な技術的課題の克 服が必要であり、今年度もそれら課題解決のため、海底水圧計での地殻変動観測、掘削孔での地殻変 動観測実施に向けた試験的観測を実施してきた。さらに、JAMSTEC が進めている海域での地震津波研究 のアプローチを世界展開すべく、海外研究機関と連携して海外での研究プロジェクトに着手するとと もに、将来の環太平洋域地震発生帯研究の枠組みの構築を進めている。
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