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第6章
まとめ
漁船漁業は、化石燃料への依存を軽減し、二酸化炭素排出量を削減することが緊急の課題
となっている。このことから、既に他産業で導入が進められている有望な技術を導入、自然
環境に影響を及ぼさない技術を漁船漁業の現場への普及に資することを目的に、技術開発の
進展が目覚ましい水素燃料電池等を動力源として漁船に導入するための技術的検討を行った。
平成 22 年度においては、21 年度の調査において明らかになった水素燃料電池等の要素技
術の現状及び開発動向について、対象幅を広げて調査を継続するとともに、新たに就航した
電池推進船の調査を実施した。
燃料電池漁船及び電池推進漁船の試設計を行うため、平成 21 年度に調査した沿岸小型漁船
の中から候補を選定するとともに、稼働状況を実測した。これに、別途、新たに稼働状況の
実測データを入手した漁船を加えて検討を行い、燃料電池漁船及び電池推進漁船の試設計の
対象とする漁船を絞り込んだ。
燃料電池漁船及び電池推進漁船のそれぞれにつき、既存船をベースに搭載する機器類の詳
細検討を行い、新造船とする場合とディーゼル機関搭載の既存船から改造する場合のそれぞ
れについて、試設計を行った。
6-1.技術調査
燃料電池の開発動向や、燃料電池車両等に水素を供給する水素ステーションの取組み状況
について、関連の展示やセミナーから最新の情報を入手した。
より具体的な技術情報を得るため、三菱重工業(株)を訪問して同社が開発中の燃料電池とそ
の応用、燃料となる水素の自然エネルギーを有効に利用した製法、リチウムイオン電池とそ
の性能等について調査を行った。また、(財)鉄道総合技術研究所を訪問して、走行試験を実施
中の燃料電池鉄道車両について、搭載機器の詳細や燃料電池の制御、実用化に向けた課題や
漁船への応用について調査した。
東京海洋大学が開発した電池推進船が就航して、順調に稼働している。そこで訪船調査を
行い、担当教官より搭載機器やその制御、問題点や今後の展開方向について情報を入手した。
また、水産庁の省エネルギー技術効果実証事業を利用して、アイティーオー(株)が長崎県と愛
媛県で進めている電動船外機船の実証試験について調査した。
一方、ヨーロッパでは、既に燃料電池をエネルギー源とする小型の船舶が運航しており、
現在建造中の船もある。また、船内電源用に燃料電池を搭載した商船が就航した。これら、
海外の燃料電池船に関する最新情報を入手した。
6-2.漁船のエネルギー使用実態調査
燃料電池漁船及び電池推進漁船の試設計を行うため、昨年度に調査した沿岸小型漁船の中
から候補を選定し、漁業者の協力を得て当該漁船にGPSや燃料流量計、機関回転計を取り
付け、その稼働状況をデータレコーダに記録した。この他に 2 隻の漁船の稼働状況の実測デ
ータを入手し、船速や操業海域、機関の出力や燃料消費量等について詳細な解析を行った。
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6-3.燃料電池漁船の試設計
漁船のエネルギー使用実態調査結果と、昨年度の漁船の現地調査データを基に、上記の技
術調査結果から搭載可能な燃料電池や水素タンク、電動機等、現段階で入手可能な関連機器
類を勘案して対象とする漁船の絞り込みを行った。検討の結果、一本釣り漁船(大分県国東
漁港)を対象に燃料電池漁船の試設計をすることにした。
燃料電池漁船の試設計にあたっては、推進用には自動車用燃料電池スタックやコントローラ、
水素ボンベ等に、電気自動車用や汎用の電動機から適当な出力のものを選定して組み合わせた。
電動漁労機器等には、別途リチウムイオン電池を用意した。
また、既存の漁船をベースに搭載機器を配置して重量重心計算を行い、新造船の場合と既
存船を改造するそれぞれの場合について、一般配置図と改造要領図を作成した。
燃料電池漁船の稼働時には、水が出るだけで二酸化炭素や大気汚染物質を排出せず、クリーン
で振動や騒音のない静かな航走や操業が期待できる。
6-4.電池推進漁船の試設計
電池推進漁船の場合も燃料電池漁船と同様に絞り込みを行い、電池推進漁船は、採介藻漁
船(島根県宍道湖)を試設計の対象とすることにした。昨年度の漁船の現地調査による搭載機
器や使用状況のデータと、造船所から入手した線図等をもとに、採用する電動機や搭載する
リチウムイオン電池の容量を決定した。
試設計では、既存の漁船をベースに搭載機器を配置して重量重心計算を行って検討したと
ころ、新造船の場合も既存船を改造する場合のいずれも一般配置図は同一とした。
搭載した電池の容量から、帰港後は毎回充電が必要となるが、採介藻漁船(島根県宍道湖)
は資源管理のために稼働時間や操業日数が厳しく制限されているため、リチウムイオン電池
の充電には十分な時間を取ることができ、高価な急速充電装置の導入は不要と判断される。
電池推進漁船の稼働時には、二酸化炭素や大気汚染物質を排出せず、クリーンで振動や騒
音のない静かな航走や操業が期待できる。
6-5.今後の課題
燃料電池の搭載が可能と推定される沿岸漁船では、対象とする漁業種類により様々な漁法
が用いられ、漁船の設備や要求される性能、またその使用状況も大きく異なる。平成 22 年度
は、燃料電池漁船と電池推進漁船各 1 隻の試設計を行ったが、わが国には 30 万隻を超える漁
船があり、今後も全国の代表的な沿岸漁船の装備や稼働状況の調査を行って検討を加え、燃
料電池漁船に適した漁船を明確化する必要がある。
漁業種類の違う漁船を検討することで、燃料電池漁船を新規に建造する場合や、既存船を
改造する場合の課題とその解決法を明らかにする必要がある。
なお、燃料電池漁船や電池推進漁船において、燃料電池の出力調整やリチウムイオン電池
の容量に伴う電動機の出力をコントロールする制御装置の機能と諸元について、十分把握で
きてないところがあるため、電気関係の委員の参画を検討したい。
また、高圧水素タンクは、現状では自動車メーカー向けの特定のものしか製造されてない
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ところがあり、試設計での選択肢が狭かったので、高圧水素タンク製造メーカーオリジナル
の高圧水素タンクが紹介され、試設計での選択が容易になることが望まれる。
わが国では、2015 年の燃料電池自動車の一般ユーザーへの普及開始を目指している。これ
に向けた燃料電池や周辺技術の開発状況を注視していくとともに、海外も含めた船舶への導
入に関する情報収集を続ける必要がある。
最後に、2015 年の普及開始に向けて、商用の水素ステーションの設置が始まる。燃料電池
漁船においても、エネルギー源である水素の供給体制について検討を進める必要がある。
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