第5章 電池推進漁船の基本仕様と試設計 次世代型漁船等として、リチウムイオン電池による電池推進漁船について試設計するに 当たり、対象調査漁船の中から試設計漁船を選定し、その漁船に搭載するリチウムイオン 電池及び電動機等について検討を行った。 5-1.電池推進漁船の選定 電池推進漁船の選定理由としては、次の内容を考慮して選択した。 (1)2 次電池容量分で航行・操業出来る沿岸漁船であること。 (2)出力や航続距離、操業時間が電池容量に適した漁船であること。 (3)CO2 削減効果が活かせる環境的に優位になる地域の漁船であること。 (4)一般配置図・線図等の既存技術資料が入手できる漁船であること。 電池推進船については、リチウムイオン電池の性能が活かされ、先に調査した東京海洋 大学の「らいちょうⅠ」や、アイティオー㈱による電動船外機船のように国内の舶用市場で 実証試験が実施されていることから実用化が具現化してきているが、実際に漁業で使用す るに当たっては、使用状態を十分検討した選定が必要である。 電池推進船の試設計については、前述の(1)~(4)の条件に鑑み、採介藻漁船(島 根県宍道湖)とした。 5-2.採介藻漁船(島根県宍道湖)での検討 5-2-1. 電動機の選定 電池推進船の電動機については、東京海洋大学の電池推進船「らいちょう」に搭載されて いる間接冷却電動モータークラスを選択する。定格出力は 25kW であるが、電動機の場合は 安全係数が比較的高く、最大出力 45kW を保有する。 ここでは以下の電動機についてサイズを仮決定する。 間接冷却電動モーターの寸法は、350mm×350mm×480mmとする。 350 350 48480 図 5-1 電動機(25kW) (㈱明電舎HPより) ・㈱明電舎製の水冷電動機(定格 25kW-max47kW)⇒三菱製 i-MiEV に搭載。 ・東京海洋大学の電池推進船の水冷電動機(定格 25kW-max45kW) - 58 - 5-2-2. リチウムイオン電池容量の決定 採介藻漁船(島根県宍道湖)の場合の搭載機関出力容量 34kW で、仮に1時間操業すると した場合のリチウムイオン電池の必要容量を計算する。ただし、原動機モーターの電圧を 330V(※三菱製 i-MiEV 搭載モーター)、リチウムイオン電池の電流を 20A(ENAX 製「L タ イプセル」 )を使用した場合とする。 5-2-2-1.リチウムイオン電池の必要個数(容量) ・使用電圧より、ENAX 製のリチウムイオン電池を 89 個(330V÷3.7V)直列接続して 330V の電圧を確保する。 ・モーター駆動の必要電流より、34kW÷(330V×20A)=34÷6.6≒5倍 よって、5並列にして、消費電力の確保を図る必要がある。 リチウムイオン電池(ENAX 製の L タイプセル)の必要数は、445 個(89 個×5)となる。 この場合のリチウムイオン電池の重量は、@550g×445 個にて、約 245kg となる。 単純に、3時間リチウムイオン電池のみで操業した場合、最低前述の3倍の数のリ チウムイオン電池が必要となるが、実際の操業では、そのような電池容量は必要ない。 よって、適正な電池容量としては、宍道湖内のシジミ採取場所への移動時間(漁港 からの往復およびポイント移動時間を1時間)アイドリング状態での操業時間が最大2時 間とした場合に負荷投入量が 1/5(20%)以下であるため、操業時間を2時間としても前 述の2割増しの容量で対応可と考えられる。この場合でのリチウムイオン電池の最低 必要個数は、445 個×120%≒535 個(約 295kg)となる。 5-2-2-2.漁労機器の電力消費量 漁労機器(ミニカールと選別機駆動モーター)を駆動する消費電力量は 100Wh であり、漁船全体の電力消費量に影響する電力量ではない。 ・ミニカールの駆動消費電力量 :140W×0.5h=70Wh ・選別機駆動モーターの消費電力量: 60W×0.5h=30Wh 5-2-2-3.リチウムイオン電池の配列検討 上記からリチウムイオン電池の数は 535 個として、ENAX 製の L タイプセルの寸法 (324mm×136mm×7mm)を 107 個直列×5並列の組合せとする。 約 324mm×136mm×約 749mmの1セルを5個収納することとする。 + 107 107 セ ル 数 ・ 1 0 7 個 324 × ※バッテリーの大きさ 136 324mm×680mm×749mm × 749 - 図 5-2 直列で並列に接続する場合 - 59 - 実際には、制御の容易さと過充電を防止するために、図 5-3 に示す並列に接続した セルブロックを直列に接続し、各並列ブロックで過充電が起こりにくい設計とするこ とが望ましい。 このため、12V 位のバッテリーパックにして(36 個のセル直列で5並列)として、 3直列にて電圧を確保する組合せする方法とする方が良い。その際の3個の内の1個 のバッテリーパックのセル数は 180 個となり、寸法は、324mm×約 680mm×約 252mm となる。結果、リチウムイオン電池の重量は、@550g×540 個で、297kg となる。 + セ ル 数 36 個 ※ セル数 36 個の (324mm×136mm×252mm) バッテリーパックを 5並列に接続する。 ※ 324mm×680mm×252mm を3個直列に接続する。 - 図 5-3 並列で直列に接続する場合 5-2-3. 船尾装置とプロペラ 船尾装置については、漁船の係留場所の関係(各自が家の近くに係留しており、漁港に係 留してない)から、既存船にならい引揚式あるいはドライブ船とする。また、プロペラ寸法 は、引揚式の場合は、プロペラ直径は既存船と同一サイズとするが、ピッチについては排水 トン数を計算のうえ船速計算より求める。ドライブ船にした場合は、ドライブ装置の対応に 準じるとする。 5-2-4. 搭載漁労機器 既存船に搭載されている、ミニカール(12V-140W)と選別機と駆動モーター(100V-60W) を同様に搭載する。ミニカールと駆動モーターの駆動時間は比較的少なく、漁労用機器とし ての消費電力は少ない(前述のとおり合算で 100Wh)が、主機前駆動している海水ポンプは、 その出力を考慮し、独立した代替え電気ポンプを設ける必要がある。このことからシステム を単純化するため、推進用とは独立した2次電池(リチウムイオン電池)及びインバーター を利用するシステムとする。この場合の最低必要な電源容量を積算する。 ・ミニカール(チタンボロン合金) 型式:RN-2012(DC-12V 15A-140W)重量9kg ・選別機と駆動モーター:地元鉄工所製作品 (駆動モーター消費電力 100V-60W) - 60 - ・電気駆動式とした場合の同一容量の海水ポンプ(吸入・吐出口径1インチ): 型式 MF-2524(㈱工進製:DC24-250W) 3つの漁労機器類の消費電力合計 450W(140W+60W+250W)であり、従って1日の稼働時間 30 分間程度の消費電力は、225Wh である。よって、バッテリーについては、ENAX 製Gタイプセ ル(99mm×225mm×6.4mm-260g)を、7 個を直列のバッテリーパックとする。 (24V-10Ah/サイ ズ:99mm×225mm×44.8mm-1,820g)1時間程度の駆動余裕を考慮して2セットとする。 なお、 インバーターを活用して駆動することとする。図 5-4 に電池推進漁船の試設計の際の搭載 ENAX 製リチウムイオン電池及び搭載機器を示す。 G タイプセル 公称容量 10Ah 定格電圧 3.8V 動作電圧 2.7~4.2V サイズ 99×225×6.4mm 重 量 260g 重量あたり エネルギー密度 容積あたり エネルギー密度 146Wh/kg 370Wh/L 図 5-4 ENAX製リチウムイオン電池・Gタイプセル (ENAXの HP より) 図 5-5 ミニカール(㈱工進製) 図 5-6 海水ポンプ(㈱工進製) - 61 - 5-3.電池推進漁船の基本仕様と試設計 5-3-1.既存船(採介藻漁船(島根県宍道湖))の新・改造基本仕様 5-2.での検討内容を踏まえて、基本仕様を表 5-1 のとおり決定した。 なお、電池推進漁船においては、新造船の場合及び既存船の改造の場合も図面形態は、大 きな差が無いので、改造の場合の要領図は、新造船の詳細図と兼用とする。 表 5-1 電池推進漁船の主要機器の仕様及び寸法 既存船の要目内容と試設計の電池推進漁船の基本仕様比較は、表 5-2 のとおりである。 表 5-2 NO ① 既存船の要目内容と基本仕様の関係 項 目 船体寸法 ← 登録:L×B×D(m) 8.60×1.68×0.57 ← 33kW 電動機出力 34kW 以下 燃料タンク容量 バッテリー ④ 2次電池 ⑤ 制御装置 ⑥ 船尾装置 漁労機器 ー 25kW ← 50リットル 12V×120A×1個 リチウムイオン電池 ー 備 考 4JH3(ヤンマー㈱製) 間接冷却電動モーター定格 25kW(最大 45kW)を選定。 YX10(ヤンマー㈱製) ー ー 寸法324×680×252 電動機(推進)用 寸法 99×225× 45 機器用 寸法350×125×450 船尾 プロペラサイズ ミニカール ⑦ ー i=2.54 減速機 ③ 試設計の電池推進漁船 9.41×1.89×0.88 搭載機関 出力 ② 既存船の要目 全長:L×B×D(m) 選別機駆動モーター 海水ポンプ 引揚式 or 船内外機 引揚式 3翼×(600)×(460)×0.36 DC12V-140W AC100V-60W 主機前ベルト駆動 3翼×(600)×( 460) ×0.36 ← ← ー ー 電気駆動ポンプを設置 - 62 - ※じょれん引揚時の補助用。 操業時に約30分駆動。 ※操業後まとめて選別。 駆動時間は約30分。 ※KP-100(㈱樫山製) ※MF-2524(㈱工進製) 5-3-2.改造時の重量比較と船速推定 既存船からの改造に当たり、主な撤去機材は、主機関、バッテリー、燃料タンクとなる。 これら既存の漁船から電池推進漁船にする場合の搭載機材と撤去機材との重量を比較して表 5-3 に重量増減をまとめた。 表 5-3 改造時の搭載機材等の重量 既存の現状船との比較から改造時には、約 168kg 重量が増加することが判明した。 - 63 - 船速推定のための諸元を表 5-4にまとめる。 表 5-4 船速推定諸元 出航時の排水トン数に基づく、現状船と改造した場合の比較では、2ノットの船速低下と なる。重心位置の変化と船速の違い、並びにプロペラ寸法を、表 5-5 に示す。 表 5-5 重心位置とプロペラ寸法 5-3-3.一般配置図と機関室配置図(改造/新造) モーターは、概ね主機関のあった位置に据付し、減速逆転機との接続のため軸継手を設け る。モーター上部にインバーターを設置し、リチウムイオン電池は機関室内両舷と後部の三 箇所に分けて配置し左右のバランスを図る。バッテリーの換気のため、機関室前側にベンチ レーターを2個増設した。コントロールボックスは、機関室内に収まらないため、後部の物 入れ内に設置する。 次葉に、改造の場合の要領図を兼ねた採介藻漁船(島根県宍道湖)の電池推進漁船にした 場合の一般配置図と機関部改造図を図 5-7 と図 5-8 に示す。 - 64 - 漁業種類 しじみ採集船 電池推進漁船・一般配置図(改造/新造) 漁業種類 しじみ採集船 電池推進漁船・一般配置図(改造/新造) 図 5-7 一般配置図(電池推進漁船・改造/新船) - 65 - 図 5-8 機関室配置図(電池推進漁船・改造/新造) - 66 -
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