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脳と心肺機能
1.研究最前線「脳の脆弱性(ぜいじゃくせい)と可塑性(かそせい )」
脆弱性とは、傷つき易いという意味です。脳は、考えられていたよりも、傷つき易
いのです。また、可塑性とは、傷つける外的な力が止んでも一旦受けた傷はなかなか
もとに戻らないという意味です 。「鉄は熱いうちに打て」とは、脳の可塑性を言って
いるのです。
では、脳を傷つけるものにはどんなものがあるのでしょうか。まず、上げられる
のは薬物です。麻薬、水銀、シンナーなどです。もっとも有名な薬物は、アルコール
です。アルコールは脳を酔わせるだけでなく、二日酔いではアセトアルデヒドによる
酸素不足と脱水症状を起こさせます。脳を傷つけるものに、酸素不足があります。脳
は、酸素の供給が5分間途絶えると死滅します。1回死んだ脳細胞は、再生されませ
ん。次に、脳を傷つけるものに外傷があります。交通事故だけでなく、転倒や打撲も
あります。乳幼児への頭部の虐待が後に深刻な問題を引き起こすこともあります。そ
して、栄養です。脳は、酸素とブドウ糖だけがエネルギー源です。食事が偏っている
と脳へ十分な栄養素が届かないのです。また、保存料や着色料の問題も取り沙汰され
ています。欧米型の食生活が大腸癌を増加させていると言われています。身体だけで
なく食生活の変化は脳にも影響を与えているはずです。いつもイライラしている人、
すぐ興奮する人、集中力や持続力がない人、疲れやすい人、なかなかすぐ寝付けない
人たちは、食生活を見直すことで症状が改善することがあります。具体的なことにつ
いては、時間があれば、後で話したいと考えます。
最後に脳を傷つけるものに「言葉」があります。心の傷のことをトラウマと言い
ます。いつまでもトラウマで苦しんでいる状態をPTSDと言います。トラウマは事
件や事故によって、そして虐待によっても起きます。虐待は身体的虐待、性的虐待と
共に心理的虐待(言葉による虐待)があります。しかしポジティブに考えるならば、
言葉によって脳を回復させたり成長させたり、活性化することだって出来るのです。
2.心肺機能とことば
言葉は、吐く息(呼気)によって成り立っています。大きく口を開いて、息を吐く
と 、“あー”になります。吸いながらの発音はできなくはありませんが、そんな人は
あまりいないと思います。上手に話すためには、短く吸って長く吐くことができなく
てはいけません。短く吸って短く吐いてばかりでうまく話せない例が、激しい運動を
した直後のお話です。酸欠を補うために、呼吸を繰り返しいつまでも話すことが出来
ません。吸ってばかりでうまく吐けないのは、脳性麻痺の人たちのおしゃべりです。
胸を広げるだけ広げても息をフッと吐けないのです。これは、緊張のために吃音して
しまうのと似ています。
3.心肺機能と痙攣発作
てんかんと呼ぶ脳の嵐のメカニズムは、つり上げられた魚と似ていると神経構成理
論では説明しています。魚は水の中でえら呼吸をして脳に酸素を取り入れています。
だから、つり上げられて水から引き上げられると、えら呼吸できないので酸欠状態に
なります。魚の脳は酸欠から逃れるために、身体をビクビク動かします。動かすこと
で脳に酸素を送り込んでいるのです。時代劇で切られた人が亡くなる直前に、身体を
七転八倒させるシーンをよく見ます。身体を動かして脳に酸素を送り込んでいるので
す。冬の寒い日、トイレでおしっこすると身体をブルブルッと震わせてしまいます。
暖かいエネルギーを放出し体温が低下したので、身体を震わせることで体温の上昇を
しようとするねらいです。脳の嵐が酸素と関連があると考えると、呼吸が切り替わる
入眠前後や起床前後、また運動直後や発熱時なども引き金になることが多いのです。
脳の中にブレーカーのような場所があり、酸欠の程度によって血管を広げたり、血圧
を上昇させたりするだけで脳の酸欠が解決できればブレーカーは作動しません。だか
ら、ブレーカーを作動させずに済むためには、心肺機能を高め、脳への酸素の供給を
増やす必要があります。
4.心肺機能と多動性
痙攣こそ起こしませんが、酸欠が多動を引き起こすことがあります。最新の脳科学
では発達障害のひとつでADHDの多動性と脳の酸素が取り沙汰されています。先ほ
どの痙攣と同じ例で説明しますと、十分な防寒具がなく寒いところに身をさらされる
と、人はきっとじっとしていられなく身体をガタガタ震わせ、さらには動き回るに違
いありません。また、感覚統合訓練では、普段授業中にじっと席に座っていられない
児童を授業前に思い切り運動させると、授業中席に座っていられたという報告例があ
ります。これは、揺れや振動の前庭感覚とも関連がありますが、ここでは酸素との関
連とひとまず考えておきましょう。
さて、ADHDにはリタリンという薬が有名
です。リタリンは、神経の興奮剤です。興奮すると落ち着くのは、脳が動かないと多
動になるという意味に等しいです。私は、リタリンは飲んでいませんが大のコーヒー
好きです。飲むと落ち着きますし、デラカート博士は寝付きにくい子どもに少量のコ
ーヒーを勧めることもあります。寝る前にお風呂に入ると一旦目が覚めてもかえって
よく寝られるのと同じ理屈だと考えられます。
そもそも、幼児は大人に比べて多
動です。それは、じっとしなければいけないという認識が足らないのではなくて、大
人に比べて血液の量が極端に少ないため、動き回ることで脳に酸素を供給しているの
だと考えられています。ここでもまた 、「子どもは自分で治療する 。」という、デラ
カート博士の言葉を思い出したいと思います。
5.心肺機能を高めるために
心肺機能を高めるには、運動することが一番良いです。特に歩き走ることを勧めま
す。シドニーのオリンピックで金メダルを取った高橋尚子選手の平時の心拍数は60
を下回っていると聞きました。運動には、呼吸しながら運動する有酸素運動と息を止
めて運動する無酸素運動があります。無酸素運動は、運動を止めた後、ハーハーハー
と息をします 。この無酸素運動よりも有酸素運動( 英語ではエアロビクスと言います )
が大変良いのです。それは、心肺機能を高めるだけでなく、人は頭を働かせる時こそ
大量の酸素を消費しますので、その練習としても良いのです。サッカーなどのハーフ
タイムの時間が学校の授業時間とフルタイムの時間が大学の授業時間と同じなのは、
きっと大脳生理学上の理由があるのかもしれません。
また、最近発行されたペア
レント・トレーニングに関する本を読みますと、保護者の方にもそして子ども自身に
も深呼吸することを勧めています。混乱してしまった時、パニックになった時、ひど
いことを言われて落ち込んでしまった時、難しい問題を前にして頭が真っ白になって
しまった時、失敗してはいけないと緊張してしまった時、怒りに身体が震えてしまっ
た時、大きく深くそして長く深呼吸するのが良いのです。数を数えながら、そう10
までカウントすると良いのです 。「10まで数えられるか!」と、言う人こそタイム
アウトが必要です。
6.脳をつくるプログラム
少し古い本ですが、久保田競先生の「ランニングと脳」という本があります。当時
京都大学の霊長類研究所の所長であった先生が病気をなさり、健康のためにランニン
グを始められました。ランニングを続けていると、身体だけでないいろんな変化が起
こりました。その変化をランニング仲間に尋ねてみるとみんなも同じ体験をしていま
した。それをご自分の専門である脳の研究として科学的に分析し、まとめられた本で
す。1冊目は専門家向けに、2冊目は一般人向けに書かれたものです。その本の1節
に30代の女性のためのランニングメニューが載っていました。その内容は、私が神
経構成理論の実際編で勉強したものと同じであったのです。
歩ける人には、歩い
てもらいたいです。大きく手を振って、速めに歩くのが良いでしょう。走れれば、な
お良いです。しかし、無理をして走るのは危険です。血圧などの体調管理は万全にお
願いしたいものです。
歩けない方には、身体を少しでも動かすことです。歩くの
と同じリズムが良いです、そして手を振るのと同じような交互運動が良いです。身体
を動かすこともままならぬ人は、介助される方が動かして差し上げてください。顔色
と呼吸に気をつけながら、まずは下半身を暖めるます。脳に酸素を送り込むのだとい
うことを意識して、良質で基本的な刺激を与えるのが良いでしょう 。「触っても良い
ですか? 」「手を触りますよ 。」「気持良いでしょうか?」などと、声を掛けるのが良
いでしょう。見て聞いて触って、感じ、考え、そのすべての時に、脳は働き、何らか
のホルモンが出ているものなのです。ただ、感じるだけよりもその時にことばを聞く
ことが大切なのです。何故ながら、人は社会的動物で、脳はそのために働くことを目
的としているからなのです。