6.再生医療:脂肪幹細胞を使用~乳癌術後の再建からけがや病気

6.再生医療:脂肪幹細胞を使用~乳癌術後の再建からけがや病気による欠損の治療
<脂肪幹細胞を使った再生医療とは?>
そもそも幹細胞と言われているものには、ご存じの iPS 細胞(人工多能性幹細胞)や ES
細胞(胚性幹細胞)があります。これらは細胞を人工的に作ったり、加工したりし、培養後に
活用します。一方、当科で使用する脂肪幹細胞は組織幹細胞といい、外部からの細胞を
加工・培養するのではなく、自然に存在する自己の細胞を利用します。そのため、細胞その
ものによる副作用がほとんど認められず、幹細胞の本来の機能である自己複製能(コピー機
能)や細胞を作り出す分化能が期待され、その安全性が評価され、有効性についての検証
が進んでいます。
<当科で行われている脂肪幹細胞による乳房再建について>
乳癌による乳房切除では、手術痕と陥凹部により、日常生活の不都合や精神的苦痛
を感じるなど心も身体にも様々な問題やストレスが生じてしまいます。その様な患者の心身
の QOL を向上させることが期待される治療に乳房再建があります
現在行われている乳癌手術後の乳房再建術には、大きく 2 つあり、シリコンなどの人工物
を使用するもの、背中やお腹の自己組織の筋皮弁を使用するものであります。
当科で行われている脂肪幹細胞による乳房再建は新しい再建の方法として、大腿部や
腹部に存在する脂肪幹細胞を取り、手術で陥没した部分に注入していき、乳房の膨らみ
をより自然な形に仕上げていきます。
<再生医療を提供するチーム>
当科では乳房再建の幹細胞移植を行うために、治療の予定に合わせて、医師、看護師、
臨床検査技師、臨床工学士、薬剤師、総務関係などが再生医療委員会として参集し、
症例の検討と指示の確認、摺合せを行い、個々の患者様に合わせた治療とケアを提供し
ています。
2011 年にはアンチエイジング再生医療の専門チームを発足させました。その中では看護
師 2 名が再生医療コンシェルジュとして業務に従事し、医師の診察前の無料相談、術前中
後のケア、退院後のフォローアップなど一貫して行っております。また臨床検査技師は再生医
療学会認定 臨床培養士の資格を有しています。
<治療の流れ>
初診:乳癌の既往や治療履歴などをお聞きします。全身の状態を確認させていただきま
す。
診察:山下医師により、乳癌の治療部位の診察を行います。
検査:一般的な手術前の検査のほか、3D 撮影装置(Vectra)や MRI,CT などの画像検
査を行います。
手術:麻酔科医のもと全身麻酔でコントロールされ、手術室内で 3-4 時間程度で終了
します。手術翌日の夕方には食事をすることができます。
退院後:定期的に外来にて診察を行い、経過を確認させていただきます。
<再生医療の取り組みの経過>
2011 年:「形成外科再生医療チーム」の発足
徳洲会再生医療研究会参加
2012 年 7 月:厚生労働省から ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針:
「臨床研究 再生医療幹細胞を用いた乳房再建」承認取得
新聞・雑誌記者会見
2013 年 10 月:「臨床研究 再生医療幹細胞を用いた乳房再建」の開始
12 月:再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療新法)制定
2014 年 9 月:再生医療新法の省令公布
11 月:再生医療新法の施行
12 月「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に基づく臨床研究の終了
<臨床研究について>
2013 年 10 月に開始しました「再生医療幹細胞を用いた乳房再建」ですが、半年が経過し
た時点での安全性や有効性を評価しております。
5 症例の部分切除が行われた患者様のケースに対し、乳房陥没部への幹細胞の注入が行
われました。注入部の再建の状態はもちろん、脂肪の吸引を行った大腿部や腹部の状態を
評価しております。吸引を行ったそれぞれの部位も脂肪が減少したままで痩身の効果も期
待され、副作用としての有害事象の発生もなく安全性の評価も高いといえます。注入部位
の評価には3D 撮影装置や超音波診断装置を使い、術前から1・3・6か月評価を行い、そ
れぞれの症例で 3 から 6 か月では幹細胞の減少は見られておりません。12 か月後評価で最
終の評価となります。
<臨床研究→再生医療の新しい法律>
2014 年 11 月に新しい法律が施行されたため、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指
針」はなくなり、12 月には厚労省への「再生医療幹細胞を用いた乳房再建」終了し報告書
の提出により終了しました。この臨床研究に基づく安全性や有効性については、次の患者
様の治療に大きく役立ちます。
2015 年 1 月には「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」
に基づく臨床研究の終了報告
新法に基づく認定再生医療等委員会審議
「幹細胞治療」「多血小板血漿治療」
<再生医療の安全性確保法 新法の状況>
2014 年 11 月に施行された新法により、再生医療を提供しようとする医療機関は、その治
療の内容を厚生労働省に報告する義務が発生します。この法律の目的は様々な医療機
関、クリニック等で再生医療と謳われる治療が提供されておりますが、実態が把握されてい
ないことから、各医療機関に法律によって報告義務を課したものであります。当科ではすでに
臨床研究が行われていますので、この実績をもとに法律に準拠した再生医療を提供してい
きたいと考えております。また認定再生医療等委員会を設置し、幹細胞治療を実施する前
に専門家により治療計画、病院の体制や施設などのチェックを行い、適正な治療の提供を
行っていきます。
治療の範囲は、乳癌による陥凹部のみでなく、けがや病気により欠損または萎縮した皮下
組織に対して治療を行うことができます。