遺伝子診断と遺伝子治療 札幌医科大学医学部 6年生 総合講義 2001年4月16日 2015/9/30 1 再生医療・遺伝子治療入門: その1 遺伝子治療のテクノロジー • 札幌医科大学 – 分子医学研究部門 濱田洋文 • ホームページ http://homepage2.nifty.com/hmd3 – 札幌医科大学公式ホームページから入って、分子医 学研究部門のところからもリンクされています。 遺伝子治療のテクノロジー • 二つの最重要課題: – 疾患をよく反映した動物実験モデルの確立 – 疾患治療に使えるベクターの開発 遺伝子治療のテクノロジー: ベクター • 三拍子そろったベクターの開発が大切な課題 – 安全性 – 高効率の遺伝子導入と発現 – 選択的な遺伝子導入と発現 遺伝子導入と発現をめぐる安全性の問題 • 大量のアデノウイルスベクター投与による急性 の心肺肝不全 • 癌化? • 自己免疫反応? • 子孫への影響(生殖細胞への遺伝子導入)? 遺伝子治療は今、 • 成功したもの: – 先天性の免疫不全、血友病 • がん、エイズ、神経の難病などの治療法の 開発は、試験的な「臨床研究」の段階にある。 • 動脈硬化、虚血性心疾患、糖尿病、などに 関しても遺伝子治療の適用が広げられよう としている。 生体・細胞への遺伝子導入 • 大きく二つの方法に分かれる。 – In vivo 遺伝子導入 • 全身投与 • 局所投与 – Ex vivo 遺伝子導入 ウイルスベクター、 非ウイルスベクター • ウイルスベクターの特徴 – 染色体に組み込まれるものもある。 – 高い遺伝子導入効率が得られるものがある。 – 安全性は? ウィルスによって異なる。 • 非ウイルスベクターの特徴 – 遺伝子導入効率が低い。 – 安全性が高い。 非ウイルスベクター • オリゴヌクレオチド • プラスミド – 単独 (Naked DNA) – リポゾーム – タンパクとの複合体 (Molecular conjugates) • 人工染色体 Naked DNA or RNA • 臨床研究 6件。 • 方法: – 注射、遺伝子銃、エレクトロポレーション • 調製が容易。 • 導入効率は低い。 • 発現は一過性。 リポゾーム • 臨床研究 (1998年の時点で;以下同じ): 30件 • 導入効率は低い。 • 発現は一過性。 Molecular conjugates • 臨床研究 0件。 • 柔軟にデザインできる。 • 遺伝子導入効率は低い。 • 発現は一過性。 • 生体内への投与後は不安定。 ウイルスベクター • 染色体に組み込まれるもの – レトロウイルス – レンチウイルス – アデノ随伴ウィルス (AAV) • 染色体に組み込まれない episomal DNA – アデノウイルス – ヘルペスウイルス (HSV, EB, etc) レトロウイルス • 臨床研究 63件 • 分裂している細胞の染色体に組み込まれる。 • 生体内投与した場合には不安定。 レンチウィルス • 臨床研究 0件 • 細胞が分裂している・いないにかかわらず、 染色体に組み込まれる。 • 安全性などが十分に調べられたウィルスの 産生システムが完成していない。 アデノ随伴ウィルス(AAV) • 臨床研究 1件 • ヒトに対して病原性が知られていない。 • 染色体に組み込まれる。 • 短いDNAしか挿入できない。 • 大量のウィルス調製が難しい。 アデノウイルス • 臨床研究 34件 • 生体内での遺伝子導入効率が非常に高い。 • 大量のウィルスを容易に調製できる。 • 細胞や組織への標的化も可能。 • 強い炎症・免疫反応を引き起こす。 単純ヘルペスウイルス • 臨床研究 1件 • 生体内への投与で高い遺伝子導入効率が 得られる。 • 非常に大きなDNA断片の挿入が可能。 • 細胞毒性が高い。 ポックスウィルス(ヴァクシニア) • 臨床研究 15件 • 親ウィルスを用いて広範な臨床経験。 • 大きなDNAを挿入できる。 • 強い炎症・免疫反応を引き起こす。 キメラウィルスベクター • 臨床研究 0件。 • たとえばアデノ・レトロのキメラウイルス • それぞれのベクターの長所を併せ持つ。 • 少し複雑になる。 再生医療(組織工学、Tissue engineering)と 細胞・遺伝子治療を総合的にとらえよう • 培養細胞株を樹立して、細胞移植治療に利 用。 • 組織や臓器の再生技術によって、新しい組 織移植療法を。 • 遺伝子導入との複合によって、より高い治 療効果を目指そう。 遺伝子診断と 再生・遺伝子治療 • 遺伝子診断によって、効果の期待される患 者を見分けてエントリーしたい。 • 遺伝子診断によって、予期される副作用な どを先手で回避したい。 札幌医科大学での遺伝子治療臨床研究への取り 組み • 札幌医科大学の付属病院内に遺伝子治療室が設 置された。(2000年3月) • 血管新生遺伝子治療プロジェクト – 2000年3月より、札幌医科大学の5つの教室が集まって プロジェクトチーム、スタート。 – 対象は、まず、難治性の下肢閉塞性動脈硬化症、次に、 虚血性心疾患へ。 – アンギオポエチン、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)の 二つの遺伝子を併用すると、しっかりした新生血管。 – プラスミドDNAを筋肉内に直接投与、十分な発現が得ら れる。動物モデルで良好な治療効果。安全性高い。 – 今後、安全性を検討してプロトコール完成、学内審査申 請の予定。国の審査を経て、遺伝子治療臨床研究ス タート(予定)。さらに虚血性心疾患へ。 参考文献 • Cecil Textbook of Medicine, 21st ed. pp140-143. W.B.Saunders, 2000. • 遺伝子治療の新展開: ベクター開発と臨床 応用の最前線 (新臨床医のための分子医 学シリーズ 羊土社 2001) • 分子医学研究部門ホームページ http://homepage2.nifty.com/hmd3
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