44. 木質構造材における断面欠損が及ぼす力学的影響

平成 25 年度
44.
近畿大学工学部建築学科卒業研究概要
木質構造材における断面欠損が及ぼす力学的影響に関する研究
1010920044
木質木材 断面欠損 集成材
1.
指導教員
LVL
3.
はじめに
清水拓也
松本慎也 准教授
集製材と LVL
近年、大断面集成材が学校建築物などの大型公共施設
ひき板(ラミナ)を複数積層接着したものが集成材で
の梁などに用いられるようになってきている。また、木
ある。木材を機械でかつら剥きして単板(べニア)を作
質構造では従来困難とされていた曲線部材・大スパン架
り、それを軸と平行方向に何枚も積層接着したものを
構などが表現可能となり、木質ドームなどが作られるよ
LVL(単板積層材)という。
うになってきた。木材は異方性材料であるため、切欠き
ははりせいの 1/3 以下とし、有効断面係数は切欠きがは
りせいの 1/4 以下の場合には、切欠き部分を除く断面係
数の 60%に低減し、切欠きが 1/3 以下の場合には 45%に低
集成材
減することが木造の設計では行われる。
本研究では日本建築学会における木質構造設計基準に
LVL
図3
木質材料部材
示されている、切欠きの有無に応じた有効断面係数が木
材の種類や欠損の形状でどのような違いがあるのかを調
4.
数値解析
図 2 に示す単純ばりにおいて,はりの微分方程式を境
査することを目的とする。
界条件のもとに解くと,次式が導出される。
有効断面係数の算定
切欠きの有無に応じた有効断面係数は次の式により算定する
切欠きのない場合
Zb=全断面係数
圧縮側に切欠きがある場合
Zt=正味断面係数 Z
引張側に切欠きがある場合(切欠きは材せいの 1/3 以下に制限)
切欠きがせいの 1/4 以下の場合 Zt=0.60*正味断面係数 Z
切欠きがせいの 1/3 以下の場合 Zt=0.45*正味断面係数 Z
𝑦𝐴𝐴 =
𝑃𝑃×(3𝑎(𝐸𝐸1−𝐸𝐸2)×𝐿+𝐸𝐸2×(2𝐿2 −3𝑥2 ))
y𝐵𝐵 = −
𝑦𝑐𝑐` =
36𝐸𝐸1𝐸𝐸2
𝐿𝐿(−27𝑎𝑎𝑎1𝑥+𝐸𝐸2�𝐿2 −27𝐿𝐿+27𝑥(𝑎+𝑥)�)
324𝐸𝐸1𝐸𝐸2
𝐿𝐿(−27𝑎2 (𝐸𝐸1 − 𝐸𝐸2) + 54𝑎(𝐸𝐸1 − 𝐸𝐸2)𝐿 + 23𝐸𝐸2𝐿2 − 27𝐸𝐸1(𝐿 − 2𝑥)2)
1296𝐸𝐼1𝐸𝐸2
これらの式で求めた数値を図 3 に示す。ここに,試験
体 1 は切欠きなし、試験体 2 は切欠きが 75mm である。切
欠きのあるケースである試験体 2 は,切欠きのないケー
スである試験体 1 に比べ,たわみが大きくなることが示
図1
2.
下側切欠き(引張)
上側切欠き(圧縮)
されている。
実験概要
曲げ耐力特性に関する検討を行うために、図 2 のよう
に三等分二点載荷ではりの曲げ試験を行う。使用する材
料は構造用 LVL(E100-F320-V55-H47)を使用し、断面欠
損率 1/2、1/3、1/4 と円形断面欠損率 1/2、1/3、1/4 の
モデルに対する実験を行う。
図3
図 2 試験体
Study on Mechanical Behavior of Cross-sectional Notch for Wooden Beams
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はりのたわみ分布(左側半分)
SIMIZU Takuya
建築材料研究室
平成 25 年度
5.
実験結果と考察
5.2
5.4
近畿大学工学部建築学科卒業研究概要
荷重結果のまとめ
下側切欠き 断面欠損 1/2
写真 5.1
実験前
図 5.1
写真 5.2
実験後
図 5.3
荷重とたわみの関係
図 5.4
荷重とたわみの関係
試験体 2 のたわみ
最大荷重は 28.83kN であり、昨年の集成材の記録より
も 5kN ぐらい耐力が上であった。試験体は曲げ破壊で壊
れ切欠き部分から徐々に亀裂が入って破壊していった。
荷重は欠損が 1/3 の約半分程度までしか耐えることはで
きなかった。
5.3
円形開口部
断面欠損 1/2
図
5.5
荷重低減率
図 5.3 と図 5.4 は各試験体の最大荷重を表したグラフ
です。図 5.5 は試験体1を 100%として各試験体を%で
表したグラフで試験体2は 72%減で試験体 3 は 52%減で
試験体 4 は 42%減と下側切欠けの方が減少している。
写真 5.3
実験前
写真 5.4
実験後
6.
まとめ
実験の結果断面欠損が 0 である試験体 1 の最終破壊は
部材のせん断破壊であった。
切欠き試験体と円形開口試験体を比べると同じ断面欠
損率あっても荷重に約 2~3 倍も差があり、切欠きによっ
て耐力が急激に低下することが分かった。また、日本建
築学会の木質構造設計基準で示されている有効断面係数
は実験結果を安全側に評価でき、特に問題がないことが
確認された。
図 5.2
試験体 5 のたわみ
最大荷重は 98.3kN で昨年の集成材より 10kN 程耐力が
上がっていた。試験体は曲げ破壊で壊れ、切欠き部分か
ら徐々に亀裂が広がって破壊した。同じ欠損率の試験体
2 の約 3 倍の荷重まで耐えることができた。
7.参考文献
1) 林知行:ウッドエンジニアリング入門 木の強
さを活かす,学芸出版社,p150,2004 年 3 月
2) 日本建築学会:木質構造設計基準・同解説,丸
善株式会社,P188,1973 年 4 月
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